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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン80 学園英雄と邪魔の化身

 
前書き
万丈目回はタイトルつけるのが毎回すんごい悩みます。何書いてもなんかそれっぽくならない。正直今回もネーミングセンスいまいちですし。
……え、翔?サイコ流?ハテナンノコトカナー(目逸らし)。
いやまあ真面目な話私のミスといえばミスなんですが、カイザーにダークネスを使わせてノヴァ&インフィニティを世界観の問題から出せない以上、今更翔が何やったって前回の話の二番煎じになる予感しかしなかったんですよね。あとぶっちゃけ、最大攻撃力2600止まりのサイコ流にちゃんとした活躍をさせつつ表裏サイバーとロイド一式の混ぜ物デッキでそれぞれのパーツの持ち味を生かした上で翔が勝ち、でも圧勝にならず苦戦しつつワンチャン見つけて勝利する程度のデュエルを書く作業なんてハードル高すぎてできる気がしなかったでござる。

前回のあらすじ:サイバー流の究極進化。善戦こそできたけれど、結局清明に取ってカイザーは最後まで越えられない壁でした。 

 
「あ、ちょいとそこ行く兄さん姉さん、観戦のお供にポップコーンいかがですかー?YOU KNOW謹製サンドイッチ、今ならお安くしときますよー」
「あ、サンドイッチを頂くノーネ」
「クロノス先生、お買い上げありがとうございまーす」

 デュエルアカデミアはこの日、いつになく熱気に包まれていた。デュエル場には全校生徒や先生どころかテレビカメラまでもが詰めかけ、その中央で対峙する赤と黄の2人がデュエルを開始するその瞬間を今か今かと待ちわびている。ポップコーンのようなおやつ類やサンドイッチなど軽食を山積みにしたトレイを持ち歩いて売りまわりつつ、チラリと時計に目をやった。
 ……あと5分で、このデュエルが始まる。それまでにこの中身を全部売り切れれば……じゃなくて。そもそも、なぜこんなことになったのか。デュエル場にいるいつも通りの十代とその真向いの黄色い人影、それはラーイエローの生徒ではない。なぜか無駄によくできたおジャマ・イエローの着ぐるみという無駄にシュールな格好に身を包んで憮然とした顔になっているのは、情けないことに僕もよく知ってる顔だった。

「……なーにやってんだか、万丈目ったら」

 僕が最後に彼に会ったときは、まだいつも通りの万丈目だったのだが。ラストスパートでの売り抜けを目指して体は積極的に動きつつ、頭の中ではあの日のことを振り返っていた。





「ええい、なぜこの万丈目サンダーともあろう男が!」
「るっさい万丈目!」

 ぼろいレッド寮の壁を通じてガンガン伝わってくる大声に僕がキレたのは、太陽もすでに天頂を通り過ぎて西の空へと次第に落ちかかってくるような、だけどまだ夕方と呼ぶにはあまりに早すぎる、そんなけだるい時間だった。レッド寮は数年前に僕が仕組んだ大改造により、2階の部屋の壁をいくつかぶち抜いて部屋数を減らす代わりに1部屋当たりの広さを倍にしてある。何をやってるのかは知らないが最初はあまり邪魔するのも悪かろうと部屋の隅に移動してやり過ごそうとしてみたのだが、十代は朝から釣りばっかりだし翔はブルーに移籍したしで誰も止めないのをいいことに苛立ちの声はいつまでたっても収まりそうになかったので、ついに僕が重い腰を上げたのだ。

「む、清明。何の用だ、今の俺は機嫌が悪いぞ」
「はいイエロー、今の通訳して」
『ん~っとねぇ、万丈目のアニキったらここ最近ずっといろんな会社にプロデュエリスト契約の申し込みしてるんだけど、もう不採用通知だけでババ抜きできるぐらい集まっちゃったのよん。それでイライラしちゃってるわけ』
「ご苦労さん。で、何?申し込み?」
「ああ。聞けば天上院君や翔は、もう進路先を決定したそうではないか。ならばこの俺も兄者達との約束を果たしてカードゲーム界を制するため、プロデュエリストになる道をそろそろ確立させておこうと思ってな」
『そうなのよ!万丈目のアニキったら見た目通り結構頑固だから、実家の力なんか借りんって万丈目グループに頼らないでプロ入り目指してるのよ、偉いと思わない?』
「見た目通りは余計だ……ん、どうした?」
「いや……偉いね、万丈目」

 その時思わず口にした言葉は、僕の紛れもない本音だった。恐らくいつぞやのノース校四天王の将、鎧田の存在にも刺激されていたのだろうが、万丈目はこうして自分の将来を見据え、前に踏み出すべく胸を張って足掻いている。
 いや、万丈目だけではない。今の話にも出てきた、明日香や翔だってそうだ。それぞれ目指す場所は全く違えども、このアカデミアからさらに先の道へ飛び出していこうとしている。じゃあ僕は、どうなんだろう。覇王の世界で辺境の大賢者さんは僕に、目の前の道を進むかどうかは僕の自由だ、そんな言葉を残していった。僕の目の前に、道は何本あるんだろう。僕が選ぶことのできる道の中で、未来に繋がっているのはどれだろう。そう自問しているうちにすっかり毒気が抜けてしまった僕の顔を、心配そうに万丈目が覗きこんでいた。

「おいおい、なんだその腑抜けた顔は。お前もどうせ、狙いはプロ入りなんだろう?お前もこの俺のライバルの1人としての自覚を持って、もっとしゃっきりしろ」
「うん……」

 万丈目なりに心配して、励ましてくれているのだろう。それはわかっているしその心遣いが身に染みるけれど、そんな程度の軽口にも反応する気分にはなれずに万丈目の顔がますます険しくなる。だからその時クロノス先生がレッド寮を訪れ、有無を言わさず万丈目を引きずって行ったことに一番ほっとしていたのは、もしかしたら僕の方だったのかもしれない。
 それからたっぷり1週間、万丈目は島から姿を消した。





「んでクロノス先生、本当になんでこんなことになったんですか?」

 どうやら、あの恰好は見かけ以上に動きやすいらしい。両腕をぐるぐると回して着ぐるみの感覚を確かめる万丈目の様子を見下ろしながら、全ての原因らしいこの人に話を聞くことにする。

「私にもさっぱりナノーネ。私はただ、プロ志望の夢に燃えるシニョール万丈目にプロの世界を間近で見てもらおうという親心で、エド・フェニックスに土下座ーニャして付き人としてもらっただけナノーネ」
「付き人!?よく万丈目にそんなの務まり……あーいや、すいません先生。なんでもないです」

 あのプライドの高い万丈目に……と言おうとしたところで、改めてデュエル場を見た。360度どこからどう見ても色物デュエリストにしか見えない彼のよく言えば吹っ切れた、悪く言えば手段を選ばなくなった姿を見れば、この1週間のうちに彼に何かがあったことだけはわかる。僕の口からはそれがいいとも悪いともいえないけれど、あえて外野として思ったことを率直に言わせてもらえば、せっかく万丈目みたいに実力があるデュエリストがネタ要員みたいなことをするのはなんだか複雑な気分だ。

「まあ、シニョール万丈目もプロの世界を見て色々思うところがあったようですーシ、今は彼のデュエルを見守ってやるのが一番ナノーネ。それよりも私としてはシニョール清明、あなたが彼とのデュエルに立候補していないことが不思議なノーネ。鮫島校長にはシニョール十代と一緒に、あなたの名前も推薦しておいたのですが」
「あ、あはは……」

 言えない。いい小遣い稼ぎになりそうだったから辞退したなんて、この人の前では絶対に言えない。
 まあさすがに、理由がそれだけなんてことはないけれど。いくらペガサスさんから邪神アバター事件の時に新規カードテスターとしての証明書を貰ったとはいえ、壊獣といいグレイドルといい一般流通されていないカードだらけで構築されたこのデッキを全国放送で振りかざすのは流石にはばかられたのだ。特に今回は貴重な万丈目のプロ(?)初試合、僕が出ようものなら彼に申し訳が立たない。

「あ、お買い上げありがとうございます」

 トレイに載せた最後のサンドイッチが売れたちょうどそのとき放送開始を知らせるブザー代わりのチャイムが鳴り、僕もクロノス先生の横の空席に腰を下ろした。空のトレイを抱えてうろついたって邪魔なだけだし、僕もこのデュエルは見たい。ふとデュエル場を挟んで反対側の客席を見ると、たまたま座ってこちらを見ていた葵ちゃんと目が合った。僕が目で問いかけると、当然ですと言わんばかりに空になったトレイを持ち上げてこちらに見せつける。よしよし、彼女の方も売り子はきっちりやってくれたようだ。
 今回のデュエルはテレビ放送、しかも生中継ということでアカデミア側も演出に気合が入っているのか、客席の電気が消えると同時にその中央で向かい合う2人にスポットライトが当たる。マイクを持った女性レポーターがその姿をバックに、カメラに向かって営業スマイルを投げかけた。

「全国のデュエリストの皆さん、こんにちはー!今回のデュエルチャンネルはここ、海馬コーポレーションのお膝元ともいえるデュエリストの聖地、デュエルアカデミア本校におジャマしています!」

 ここでわざとらしくマイクを持ったまま耳に手を当てる。あざとい。少なくとも葵ちゃんは、僕がどう頼んでもあんなポーズとってくれないだろう。

「んん?おジャマ?そうです、今回のスペシャルマッチ。デュエルアカデミアにお邪魔したのは、私だけではありません!デュエルアカデミア代表として立ち上がった彼、遊城十代君の相手を務めるのはデュエリスト界に突如現れた期待の新生にしてあのエド・フェニックスの一番弟子!その名も……おじゃ万丈目!」

 その名を呼ばれると同時に、万丈目に一斉にスポットが当たる。さっきはボロカスに言っちゃったけど、そこで気後れせずに咄嗟にポーズが取れるあたりは流石万丈目、大したもんだと思う。ある程度そうやってポーズをとらせた後に再び照明が落ち着いたのを確認して、カメラが再びレポーターに向き直る。

「共にその実力は未知数の2人、一体どんなデュエルを見せてくれるのか!それでは……」

「「デュエル!」」

「行くぞ十代。姿を現せ、アサルトワイバーン!」

 先攻を取ったのは万丈目……ではなく、おじゃ万丈目。滑空するドラゴンを最初に繰り出したところを見ると、デッキ内容はこれまでと変わっていないらしい。

 アサルトワイバーン 攻1800

「さらにカードを3枚セットして、ターンエンドだ」
「あーっと、先攻はおじゃ万丈目!その使用デッキはドラゴン族でしょうか!」
「遠慮なくやらせてもらうぜ。まずはヒーローに相応しい、戦う舞台に場所を移さないとな!フィールド魔法、スカイスクレイパー!そしてバーストレディを召喚!」

 地面から無数のビルが伸び、周りの景色が眠らない町の満月の夜に様変わりする。ビルの間をやりにくそうに飛び回るアサルトワイバーンの前に立ちはだかるのは、炎の塊を片手でもてあそぶヒーロー。

 E・HERO(エレメンタルヒーロー) バーストレディ 攻1200

「一方の遊城十代君のデッキはヒーローデッキ!バーストレディの攻撃力ではアサルトワイバーンには敵いませんが……!」
「このままバトルだ。バーストレディで攻撃、バーストファイヤー!この瞬間スカイスクレイパーの効果により、自分より攻撃力が上の相手モンスターに攻撃するバーストレディの攻撃力はこのバトルの間1000アップするぜ」

 デュエル番組のレポーターをやってるだけのことはあり、あの人はスカイスクレイパーの効果を知っているらしい。バーストレディが十代の声に合わせて炎の塊を投げつけるとその火球が空中で巨大化し、アサルトワイバーンの体を捉えた。

 E・HERO バーストレディ 攻1200→2200→アサルトワイバーン 攻1800(破壊) 
 おじゃ万丈目 LP4000→3600

「……フン。この程度は必要経費だ」
「なら……カードを3枚伏せるぜ。さらに永続魔法、補充部隊を発動してターンエンドだ」
「エンドフェイズに速攻魔法、魔力の泉を発動!相手の場で表側表示の魔法・罠の数だけカードを引き、その後自分の場で表側の魔法・罠の枚数だけ手札を捨てる。補充部隊とスカイスクレイパーで2枚ドローし、魔力の泉自身で1枚を捨てさせてもらうぞ」
「十代君、果敢に攻め込むもおじゃ万丈目にはまるで効いていない!次は再びおじゃ万丈目のターン、一体どんなデュエルを魅せてくれるのでしょうかっ!」

 まだ序盤の小競り合いにもかかわらず、仕事ゆえかノリノリで実況を続けるレポーターのお姉さん。そのハイテンションぶりにつられてか、気づけば僕まで拳を固く握りしめていた。

 おじゃ万丈目 LP3600 手札:2
モンスター:なし
魔法・罠:2(伏せ)
 十代 LP4000 手札:0
モンスター:E・HERO バーストレディ(攻)
魔法・罠:補充部隊
     3(伏せ)
場:摩天楼-スカイスクレイパー-

「俺のターン、ドロー!よし、来たか……まずは魔法カード、死者蘇生でアサルトワイバーンを蘇生する。そのままバーストレディに攻撃!」

 アサルトワイバーン 攻1800→E・HERO バーストレディ 攻1200(破壊)
 十代 LP4000→3400

 先ほどやられた仕返しとばかりに、上空から再び飛来したアサルトワイバーンが滑空からの突撃でバーストレディを仕留める。十代はそれに対し1瞬伏せカードの方に目をやるも、結局何もせずにその攻撃を受けた。あえて攻撃を受けたとなると、あの伏せカードは恐らくあれ、だろう。その予想を裏付けるように、ビルの谷間を縫うようにして空にHの文字が照らし出される。

「トラップ発動、ヒーロー・シグナル!バーストレディがバトルで破壊されたことで、デッキからフェザーマンを特殊召喚するぜ」

 戦闘破壊をトリガーとしてレベル4以下の新たなヒーローを場に出すことができるカード、ヒーロー・シグナル。おジャマの姿に身を包んでも万丈目は万丈目、そのデュエルの腕前を警戒してか守備表示でフェザーマンが呼び出される。

 E・HERO フェザーマン 守1000

「ふっ……クックック、あーっはっはっは!」
「な、なんだ?」

 場にフェザーマンが出た瞬間いきなり笑い出した万丈目に、さすがの十代も困惑した表情を見せる。十代だけではなく会場中がざわめき百戦錬磨のお姉さんがつかの間言葉を失う中、ようやく笑いの発作が治まったらしい万丈目が着ぐるみから突き出た目の部分をびょんびょん揺らしながら十代を真っ直ぐ指差す。

「いいか、十代。今の万じ……おじゃ万丈目を、これまでの俺と同じだと思うな!貴様のここまでの行動は、何から何まで俺の想定の範囲内でしかない!」
「なんだって……?」

 またいつもの大言壮語か、とも思ったが、本人の様子はその恰好以外いたって大真面目なままだ。指さしたままの手をデュエルディスクに置き、ようやくいつもの見慣れたふてぶてしい笑みを浮かべる。

「その証拠を見せてやろう。まずはアサルトワイバーンの効果により、モンスターの戦闘破壊に成功したこのカードをリリースすることで手札から別のドラゴン族1体を特殊召喚できる。出でよ、アームド・ドラゴン LV5!」
「あ、あーっと、おじゃ万丈目、バトルフェイズ中にモンスターを特殊召喚したーっ!これならばあのアームド・ドラゴンはこのターンの間に、さらなる追加攻撃が可能となります!」

 デュエルが進んだことでようやく先ほどの奇行のショックから立ち直ったのか、再び声を張り上げるお姉さん。その解説に合わせるかのように、アームド・ドラゴンが摩天楼の夜空に咆哮した。

 アームド・ドラゴン LV5 攻2400

「そんなことしたって、フェザーマンは守備表示。俺にダメージは通らないぜ」

 そう、十代は今、フェザーマンを守備表示で特殊召喚した。ただ万丈目のあの自信たっぷりの目つきは、ただ単に追撃で壁モンスターをどかせるというだけでは説明がつかない気がする。まだ何か、ある。

「永続トラップ、最終突撃命令を発動!このカードが存在する限り、全てのモンスターは攻撃表示を強制されることになる」
「うっ!?」 

 E・HERO フェザーマン 守1000→攻1000

「まだまだぁ!追撃のダブルトラップ、おジャマデュオを発動!このカードの効果により十代、お前のフィールドにおジャマトークンを2体プレゼントしてやろう。無論、最終突撃命令の効果で攻撃表示となるがな。さあ行け、雑魚ども!」
『『ど~も~』』

 気の抜ける声とともに、これまで見たことのない赤と青の、でもどこからどう見てもおジャマ3兄弟の仲間であろう2体のモンスターが十代の場に飛び出してフェザーマンの両脇に座り込む。

 おジャマトークン(赤) 守1000→攻0
 おジャマトークン(青) 守1000→攻0

「うわっ、なんだお前ら?」
『レッドでーす』
『ブルーです』
『『2人合わせて……おジャマしまーす』』

 座ったまま十代の方に向き直り、申し訳程度に頭を下げる2体のおジャマ。そんな2体を尻目に、万丈目が残った最後の手札を叩きつけるようにして発動したのが見えた。

「そしてこれが、正真正銘最後の1枚だ。速攻魔法、竜の闘志!」
「あーっと、あのカードは!おじゃ万丈目、強烈なコンボを仕掛けてきました!たとえ立場はおジャマした側でも、デュエルには一切手を抜かない!それがプロデュエリスト、エド・フェニックスの教えなのか!?」
「竜の、闘志?」
『ワンターンキル……ではないが、なかなかのオーバーキル狙いだな』

 やや興味を引かれたらしいチャクチャルさんの呟き。それに疑問符を投げかけるより前に、万丈目自身が今発動したカードの効果を意気揚々と説明し始めた。

「このカードは俺の場に存在するこのターンの間に特殊召喚されたドラゴン族モンスター1体を対象とし、そのモンスターの攻撃回数を発動ターン中に特殊召喚された相手モンスターの数だけ増やすことができる。十代、この意味が分かるか?」
「フェザーマン、それにお前の出したおジャマトークンが2体……!」
「そういうことだ。合計4回の連続攻撃を受けて、このおじゃ万丈目の前に沈むがいい!アームド・ドラゴン LV5でまずそっち側のおジャマトークンに攻撃、アームド・バスター!」
『せっかくの出番なのにーっ!?』

 まずアームド・ドラゴンが攻撃の対象に選んだのは、赤い方のおジャマ。飛び上がらんばかりに驚き悲惨な叫びをあげるレッドの前に、その拳を防ぐように半透明の壁が張られた。

『あ、あれ?』
「トラップ発動、ドレインシールド!その最初の攻撃を無効にして、その攻撃力分だけ俺のライフを回復するぜ」
『た、助かったぁ~』

 十代 LP3400→5800

「見苦しいぞ、十代!アームド・ドラゴン、追撃のアームド・バスターだ!」
「ぐっ……!」
『結局こうなるのねーっ!?』

 今度こそアームド・ドラゴンの突撃を止めるものはなく、振り上げられた拳がレッドの脳天に叩き付けられる。これで残る攻撃は、あと3回。

 アームド・ドラゴン LV5 攻2400→おジャマトークン(赤) 攻0(破壊)
 十代 LP5800→3400

「この瞬間に補充部隊の効果で、俺が受けたダメージ1000ポイントにつき1枚カードをドローするぜ。今受けたダメージは2400、だから2枚だ」
「2400?それだけでは済まさんぞ、十代」
「なに?」

 含みのある言い方に十代が眉をひそめた瞬間、その足元で小規模な爆発が起こる。

 十代 LP3400→3100

「な、なんだ?」
「言い忘れていたが、そのトークンは破壊された時に相手に300のダメージを与える。いくらカードを引いたところで、このターンのうちにライフを0にしてしまえば問題はない!もう1体のおジャマトークンに攻撃しろ、アームド・ドラゴン!」

 その声を聞いたアームド・ドラゴンが間髪入れずに今度は反対側の腕を振り上げ、そのまま無造作に反対側にいる青い方のトークンに振り下ろす。

『いやーんっ!!』

 そんな断末魔が聞こえてきたが、お互いそれに構っている余裕はないらしい。十代も万丈目も互いの顔から目を逸らさず、次の行動への緊張感が否が応にも高まっていく。

 アームド・ドラゴン LV5 攻2400→おジャマトークン(青) 攻0(破壊)
 十代 LP3100→700→400

「補充部隊の効果を再び発動!カードを2枚ドローする!」
「だからどうした!さあ十代、泣こうがわめこうがこの一撃で全て終わりだ!アームド・ドラゴンでフェザーマンに最後の攻撃、アームド・バス……何!?」

 最後に残ったフェザーマンにも攻撃を食らわせるべく、アームド・ドラゴンが頭上で両腕を組む。おもむろにそれを振り下ろそうとしたところで、突然その動きが止まった。最後に残ったフェザーマンが、巨大な楯を両手で構えている。

「惜しかったな、万丈目。お前、すっげえ強くなったんだな。でも俺だって、そう簡単にはやられないぜ」
「どうした、アームド・ドラゴン!なぜ攻撃しない!」
「トラップ発動、ヒーロー・ヘイロー。このカードは攻撃力1500以下の戦士族モンスターに対する装備カードとなり、装備モンスターに対して攻撃力1900以上の相手モンスターは攻撃できないぜ」
「十代君、この1ターンで勝負がつくかというところを見事に耐えきったーっ!勝負は依然おじゃ万丈目が優勢とはいえ、これは目の離せない展開になってまいりました!」
「ふん、さすがは十代、と言っておこう。この俺のライバルの1人として、それぐらいのことはしてもらわないとな。アームド・ドラゴンがバトルで相手モンスターを破壊したことにより、このターンのエンドフェイズに更なる進化を遂げる!デッキより出でよ、LV7!」

 アームド・ドラゴン LV7 攻2800

 このターン好き放題に暴れまわったLV5の姿が光に包まれ、さらなる戦闘力を得た姿……LV7へと成長を遂げた。さっきまであれだけとどめを刺そうとしていたのが防がれたにもかかわらず、おじゃ万丈目の表情はどこか嬉しそうだ。悔しいという思いよりも、十代とのデュエルを楽しむ気持ちの方が大きいのだろう。そしてその気持ちは戦っている彼らだけではなく、この会場にいる観客にも伝染してその熱気を上げていく。

「頑張れーっ、おじゃ万丈目ー!」
「負けるな、十代!」

 そんな声援がちらほらと飛びかう中、反撃を誘うように万丈目がターンを終える。十代の手札はドローも合わせると5枚、まさにピンチの後にはチャンスあり、だ。

「俺のターン、融合を発動!手札のバブルマンとスパークマン、そして場のフェザーマンで3体融合するぜ。来い、E・HERO テンペスター!」

 3体融合という重い素材を可能としたのも、先ほどライフをギリギリまで減らした見返りに得たドローの賜物。フェザーマンの翼にスパークマンの戦闘スーツ、そしてバブルマンの銃と素材となった戦士たちの要素全てを併せ持つその姿は、まさに(テンペスター)の名が示すごとくこのデュエルにおける万丈目優位の流れに風穴を開けるべく現れた大型ヒーローだ。

 E・HERO テンペスター 攻2800

「攻撃力は互角、だがあのカードは……」
「バトルだ!テンペスターでアームド・ドラゴンに攻撃、カオス・テンペスト!」

 翼を広げてビルの間を縦横無尽に飛び回るテンペスターが、右腕の銃を狙い定めて嵐のエネルギー弾を打ち放つ。その素早い動きに翻弄されつつもアームド・ドラゴンの放つ反撃の剛腕がテンペスターの胴体に着弾したのと、テンペスターの一撃が正確にその巨体の中心を捉えたのはほぼ同時だった。

 E・HERO テンペスター 攻2800→アームド・ドラゴンLV7 攻2800(破壊)

「あーっと、これはどうしたことかーっ!2体のモンスターの攻撃力は互角、そしてスカイスクレイパーの効果は相打ちでは発動しない、にもかかわらず倒れたのはアームド・ドラゴンただ1体のみです!」
「……だそうだぞ。種明かしをしてやったらどうだ、十代。何をしたかはわかっているんだ」
「じゃあ、そうさせてもらうぜ。俺は今のターン、テンペスターの効果を発動していたのさ。俺のフィールドにある補充部隊のカードを墓地に送り、テンペスター自身をその対象とする。これでテンペスターはもう戦闘破壊されなくなったのさ。これでターンエンドするぜ」

 すでにライフが1000を切ったことにより実質置物と化していた補充部隊のカードを自分から墓地に送ることで、アームド・ドラゴンを一方的に撃破する。さすがに残りライフ400の状態で、それも最終突撃命令の効果で攻撃表示が強要されるこの局面で追撃用のモンスターを場に出すことは控えたらしくそのままターンを終えはしたが、今日も十代の天性のデュエルセンスはこんな表舞台のプレッシャーの下にさらされようと全く影響されていない。
 だが万丈目もまた、これまでのサンダーとは一味違う。先ほどまでの優勢を一瞬で覆されてなお、その自信はいささかも揺らいでいない。それだけなら割といつも通りだが、今日の万丈目はあの逆転劇を味わってなお、いささかも自身の敗北する可能性を感じずに戦っている。エドのところに行ったのがなんで着ぐるみを着て帰ってくる羽目になったのかは知らないが、少なくともメンタルに関してはぐっと強化されているようだ。

 おじゃ万丈目 LP3600 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:最終突撃命令
 十代 LP400 手札:2
モンスター:E・HERO テンペスター(攻)
魔法・罠:なし
場:摩天楼-スカイスクレイパー-

「俺のターン、ドロー!魔法カード、マジック・プランター。俺のフィールドから永続トラップの最終突撃命令を墓地に送り、カードをさらに2枚ドローする。さあ、おじゃ万丈目の底力を見せてやろう!墓地に存在するトラップ、おジャマデュオのさらなる効果を発動!このカードを除外し、デッキからカード名の異なるおジャマ2体を特殊召喚することができる。来い、雑魚兄弟!」
『『どーもどーもー』』

 おジャマ・ブラック 守1000
 おジャマ・グリーン 守1000

 デッキから現れたのは見慣れたおジャマ3兄弟のうちの2人、突き出た腹のブラックに無駄にマッシブな一つ目のグリーン。この2体が来たということは、まさかあの手札は。お姉さんもそれに気が付いたらしく、あえて何も言わずにマイク片手に次の動きを見守っている。

「おジャマ・イエローを守備表示で召喚し……さあお前ら、出番だ!」
『『『りょ~か~い!』』』

 万丈目の掛け声におジャマ3兄弟が宙に舞い、互いの尻をくっつけるようにして輪っかを作るとそこから高速回転を始める。もはやあまりの回転の速さに3体それぞれの顔すら識別できなくなったところで、輪っか自体が1つの生物のように動きだした。テンペスターを囲むように移動すると、その中のテンペスターどころか周りの摩天楼まで崩壊を始めていく。

『ついに全国デビューだー!』
『俺達兄弟の絆の力!』
『たっぷり見せてあげるわよ~ん!』
「魔法カード、おジャマ・デルタハリケーン!!おジャマ・イエロー、ブラック、グリーンの3体が場に存在するとき、相手フィールドのカード全てを破壊する!」
「おじゃ万丈目、これは凄い!逆転に次ぐ逆転、これにより十代君の場は一気にがら空きだーっ!」
 
 戦闘破壊耐性を得たテンペスターといえど、効果破壊に対しては全くの無力。3体揃ったおジャマ達の不思議な力に、十代の場のカードがすべて吹き飛ばされていった。やがて自分たちの仕事の結果に満足げなおジャマ達がようやく回転をやめて着地し、万丈目の元に戻っていく……だがその途中で、ふとイエローがあることに気がついた。

『ねえ万丈目のアニキ、ちょっといい?』
「なんだいきなり、やかましい。今は本番中だぞ」
『もう~、それはわかってるわよ~。でもアニキ、もう手札が1枚もないじゃない?おいら達は次のターン、どうすればいいのさ』

 その質問に万丈目はちょっと眉をひそめ、なんだか随分と久しぶりに見る悪人面をしてみせる。

「俺が知るか、そんなこと。せいぜい狙われるのが自分じゃないことを祈ってるんだな」
『『『……』』』

 実にあっさりと、なんてことないように言い放たれた内容に、最初3兄弟がそれぞれ顔を見合わせる。それから数秒後、少しでも自分が他の2人の後ろに隠れて次のターンをやり過ごそうとする醜い争いが始まった。……兄弟の絆の力、ねえ。
 とはいえ、それはあくまで精霊の視認できる僕らだから見える世界での話。アカデミアのほとんどの観客も、レポーターのお姉さんも、自分たちが全国放送に兄弟喧嘩を流していることなど気づいてすらいないだろう。ちょっとソリッドビジョンが荒ぶってるな、程度の認識止まりのはずだ。
 まあそれはさておき、イエローの指摘通り手札の無い万丈目にはこのターンできる事は既にない。ターンプレイヤーは再び十代に移り、本人公認の奇跡を呼ぶドローが行われる。

「俺のターンだな。魔法カード、ミラクル・フュージョンを発動!」
「十代君、ここに来てまたもや怒涛の引きの良さを見せる!ミラクル・フュージョンは通常の融合とは違い、ヒーロー限定となった代わりにその素材を墓地からも選ぶことができるようになります!」

 さっきから、あのお姉さんの知識量が凄い。ただのレポーターかと思ったら、このデュエルで使われたほとんどのカード効果を把握している。逆に言うと、そのお姉さんでも咄嗟に効果の出てこなかったテンペスターって一体……いや、もはや何も言うまい。僕は好きだよ、あのデザイン。
 そんなことを考えている一方、フィールドでは既に融合が始まっていた。墓地から融合素材として除外されるのは、フェザーマンとバーストレディ。使い手が十代となると、ここで登場するヒーローは「奴」しかありえない。僕にとっての霧の王と同じように、十代にとっての永久のマイフェイバリット。

「融合召喚、フレイム・ウィングマン!」

 E・HERO フレイム・ウィングマン 攻2100

「ついに現れたか……」
「いいや、まだだ!さらに魔法カード、融合回収(フュージョン・リカバリー)を発動。融合召喚に使われたスパークマンと融合を墓地から回収し、そのままこの融合を発動……手札のスパークマンと、場のフレイム・ウィングマンで融合召喚!全力で行くぜ、シャイニング・フレア・ウィングマン!」

 十代のフェイバリットカード、フレイム・ウィングマンがスパークマンの光の力を受けてさらなる高みに登る。全身のほとんどを包みこむ丸みを帯びた純白の鎧はそれ自体がほのかに暖かい光を放ち、聖なる光を纏いフィールドに立つその姿はまさに聖戦士という形容がふさわしい。2度にわたる融合を経て呼び出されたこの白い戦士こそが、融合軸ヒーローの頂点とも呼べる存在だろう。
 そしてその効果は素材となったフレイム・ウィングマンの力を受け継ぎつつ、より攻撃的なものへと進化を遂げている。

「シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は、墓地に存在するE・HERO1枚につき300ポイントアップする。俺の墓地に残るヒーローはバブルマン、テンペスター、フレイム・ウィングマン、スパークマンの4体、よって1200ポイントアップだ」

 E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン 攻2500→3700

「だが、俺の場のおジャマ3体はどいつも守備表示で、しかもその攻撃力は0。いくらシャイニング・フレア・ウィングマンを呼び出そうと、俺にダメージは通らないはずだ」

 そう、確かに万丈目の言葉は正しい。でもその正しさは、あくまで常人を基準とした場合の言葉でしかない。十代の引きの強さの前では、常識すらも脇にどいていく。

「魔法カード、HEROの遺産を発動。俺の墓地から素材モンスターが指定された融合ヒーローのテンペスターとフレイム・ウィングマンをエクストラデッキに戻し、カードを3枚ドローするぜ。そして魔法カード、H-ヒートハートを発動!このターンの間シャイニング・フレア・ウィングマンその攻撃力を500ポイントアップし、さらに貫通能力を得る!」
「十代君、一切攻撃の手を緩めない果敢な攻めっぷりだ!貫通能力を得ての攻撃で、おじゃ万丈目のモンスターとライフを一気に削る作戦、これが、デュエルアカデミア代表の実力なのでしょうか!」

 HEROの遺産により墓地のヒーローが減り、シャイニング・フレア・ウィングマンの輝きがやや落ちる。しかしその光を補うかのように、燃え盛るHの文字がそのバックに堂々と現れた。
 
 E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン 攻3700→3100→3600

「バトルだ!じゃあ、えっと……おジャマ・ブラックに攻撃!シャイニング・シュート!」
『嫌だぁーっ!』

 E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン 攻3600→おジャマ・ブラック 守1000(破壊) 
 おじゃ万丈目 LP3600→1000

 なんだかものすごく切実な断末魔とともに、ブラックの体が爆散する。さすがの十代も、あそこまで明確に拒否されると若干やりにくそうだ……かと思ったが、全然そんなことはないらしい。やっぱ十代、ちょっとドライになっちゃってるな。それがいいことか悪いことかは、僕にはよくわからないけれど。

「またこれで逆転だな。カードをセットして、ターンエンドするぜ」

 E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン 攻3600→3100

 おじゃ万丈目 LP1000 手札:0
モンスター:おジャマ・イエロー(守)
      おジャマ・グリーン(守)
魔法・罠:なし
 十代 LP400 手札:1
モンスター:E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

「互いにライフは残りわずか、いよいよこのデュエルも終盤に差し掛かってまいりました!フィールドの状況だけで見るならば大型モンスターのいる十代君の方が有利ですが、おじゃ万丈目、このドローで奇跡を起こせるのか!?」
「俺のターン、ドロー!魔法カード、馬の骨の対価を発動!フィールドから効果モンスター以外のモンスターであるおジャマ・グリーンを墓地に送ることで、カードを2枚ドローさせてもらうぞ」
『せっかく助かったのによー……』

 あまりといえばあまりのこの扱いには本人も思うところあったらしく。ぶつくさ言いながらグリーンが墓地に送られる。これで万丈目の手元には2枚の手札と、フィールドのおジャマ・イエローのみ。自分が最後まで生き残ったことにこっそりと安堵の息を吐くイエローだったが、次の瞬間その表情が凍りついた。そのまま万丈目のセリフを遮り、イエローにしては珍しく万丈目相手に食い下がっていく。

「お、もう1枚引いたか。2枚目の馬の骨の対価を発動、おジャマ・イエローを……」
『ちょちょちょちょっと待って万丈目のアニキ、そこはもっとこう、最後に残ったおいらが知恵と勇気を振り絞って兄弟の敵を取るとか、そういうカッコいいストーリーがあるもんじゃないの!?』
「……なんだと?」
『だからもっとほら~、いい加減コストにするとかじゃなくってさぁ、たまにはおいらだってアームド・ドラゴンのダンナやVWXYZのダンナみたいにバリバリーっと活躍したいのよ』
「お前は自分の底が知れた知恵や勇気より先に、俺のデッキを絞るのを手伝え!おジャマ・イエローを墓地に送り、カードを2枚ドローする!」
『アニキのいけず、ケチンボ、鬼、悪魔、万丈目!』
「やかましい!それにこの手札なら、お前にはどうせまたすぐに働いてもらうことになる」
『へ?……アニキ、このカードって!』

 カードとしては墓地に送られたものの、イエローの精霊がふわふわと浮き上がって万丈目の手札を覗き込む。その表情がぱあっと明るくなったところで、万丈目が満足げに笑った。

「そういうことだ。さあ待たせたな、十代。魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地のおジャマ・イエロー、ブラック、グリーン、そしてアサルトワイバーンとアームド・ドラゴン LV5の5体をデッキに戻し、カードを2枚ドローする」
「おじゃ万丈目も怒涛のドローを見せ、なんと手札をわずか1枚の状態から4枚にまで回復させた!この勝負、まだまだどちらに勝利の女神が微笑むのか予想がつきません!」

 まるで十代のような引きを見せつけ、手札を1ターンで爆発的に増やす万丈目。お姉さんも言っていたけどこのデュエル、もしかしたらもしかするかもしれない。そう考えているのは僕だけでは無いようで、会場中の空気までもが次第に変化してきた。

「フィールド魔法、おジャマ・カントリーを発動!カントリーは1ターンに1度、手札のおジャマカード1枚を捨てることで墓地のおジャマ1体を蘇生することができる」
「墓地のおジャマ?でも万丈目、もう3兄弟はデッキに……」
「甘いぞ、十代。甦れ、おジャマ・ブルー!」
『はいなー』

 万丈目の呼びかけに応えておジャマの里に立ち並ぶ家の1軒の扉が開き、その中から青いおジャマが口紅を塗りながら登場する。

 おジャマ・ブルー 守1000

「堂だ十代。これが俺の手に入れた、新たなるおジャマの力だ!」
「そんなカードいつの間に……いや、あの時か!」
「おじゃ万丈目、なんと4色目のおじゃまを特殊召喚したーっ!あのカードは一体いつの間に墓地に送られたのか、後にVTRで解説を行いたいと思います!」
『魔力の泉だな。手札を捨てる余裕があったのはそこしかない』

 チャクチャルさんの解説に、ようやく僕も得心する。確かにあの時、万丈目は魔力の泉のデメリットでドローしたのち手札を1枚捨てていた。そんな手札コストが、こんな詰めのタイミングになって生きてくるとは。

「この瞬間おジャマ・カントリーのさらなる効果と、捨てられたおじゃマジックの効果が発動する。おじゃマジックは手札かフィールドから墓地に送られた時イエロー、ブラック、グリーンの3体をデッキから手札に加え、カントリーは場におジャマモンスターいる限り全てのモンスターの攻守を逆転させる!」
「シャイニング・フレア・ウィングマン……!」

 シャイニング・フレア・ウィングマンの素の守備力は2100あるうえ、攻撃力上昇効果は攻守が入れ替わろうと引き継がれる。とはいえ、ここで攻撃力がダウンするのは十代にとっても嬉しい話ではないだろう。しかも万丈目の手札に再びあの3体が集結した、ということは、この後の展開も容易に想像がつく。

 おジャマ・ブルー 守1000→0 攻0→1000
 E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン 攻3100→2700 守2100→2500

「魔法カード、融合を発動!手札のおジャマ・イエロー、ブラック・グリーンで融合召喚だ!もう1度行って来い、お前たち!」
『ついにこの時が来たのね!おいらたちに任せて、万丈目のアニキ!』
『『『おジャマ究極合体!』』』

 白い体の大部分を占める巨大な顔に対してあまりにも貧弱な申し訳程度の体、そして胴体というよりもはや顔から直接伸びる手足。風呂敷のマントが風もないの着地の衝撃にたなびき、下半身と頭にかぶった赤い花柄パンツがきりりとカラーアクセントとして映える。

「出でよ、おジャマ・キング!」
『むんっ!』

 おジャマ・キング 攻0→3000 守3000→0

「でました、おジャマ・キング!あの異様な風体のモンスターこそが、おじゃ万丈目の操る最後の切り札なのでしょうか!」
「おジャマ・キングもまた、カントリーの下で攻守が入れ替わる。バトルだ、十代!ゆけっ、おジャマ・キング!」

 勢いよく膝を曲げて飛び上がり、キングの巨体が宙に舞う。手足をばたつかせて必死に飛距離を稼ぎ、どうにかシャイニング・フレア・ウィングマンの頭上にたどり着いた。巨大な口が重々しく開き、低い声が会場全体に響き渡る。

『フライング・ボディアターック!』

 叫び終わると同時に体を前傾姿勢にし、重力に従ってそのまま頭のパンツから落下を始める。呆然としてその様子を見上げたまま動けないシャイニング・フレア・ウィングマンに変わり、十代が伏せカードを発動させる様子が見えた。

「トラップ発動、攻撃の無敵化!このカードの効果でシャイニング・フレア・ウィングマンは、このターン戦闘でも効果でも破壊されない!」
「やはり防いだか、おジャマ・ブルーを守備表示で出しておいたのは正解だったな。だがそれも予想の範囲内だ、ダメージだけは受けてもらうぞ」

 おジャマ・キング 攻3000→E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン 攻2700
 十代 LP400→100

「十代君、健闘していますがもはやそのライフは風前の灯!果たしてもう1度奇跡は起きるのか、それともこのままおじゃ万丈目が勝利の栄光を手に入れるのでしょうか!」

 攻撃の無敵化は使い切りのトラップ、これで十代にこれ以上身を守るすべはない。でも、これまでも十代はそんな状況から何度も奇跡の大逆転を成し遂げてきた。次のターンにまた逆転が成り立つのか、それとも万丈目がそれを耐えきるのか。いずれにせよ、次の十代のターンで全てが決まる。

「さあかかって来い、十代。カードをセットしてターンエンドだ」

 万丈目からの誘いに一度目を閉じてからデッキに手をかけ、深呼吸する十代。沈黙の一瞬の後カッと目を見開き、勢いよくカードを引いた。

「俺のターン、ドロー!……魔法カード、R-ライトジャスティスを発動!このカードは発動時に俺のフィールドに存在するE・HEROの数だけ、場の魔法・罠を選んで破壊する。選べるカードは1枚……おジャマ・カントリーを破壊、これによりすべてのモンスターの攻守は元の数値に戻る!」
「ここでそんなカードを引いたか……!」

 十代のラストドローは、おジャマ・キングの攻撃力がシャイニング・フレア・ウィングマンのそれを上回っているという前提そのものを覆す魔法・罠破壊カード。頼みの綱だったカントリー消滅により、全てのモンスターの攻守が元々の数値へと入れ替わっていく。

 おジャマ・キング 攻3000→0 守0→3000
 おジャマ・ブルー 守0→1000 攻1000→0
 E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン 攻2700→3100 守2500→2100

「これが最後のバトルだな。シャイニング・フレア・ウィングマンでおジャマ・キングに攻撃、シャイニング・シュート!」
「確かにこれが最後のバトルだ十代、ただしお前にとってのな。リバースカーd……何!?おい、どういうことだ……?」

 攻撃に合わせ、最後の伏せカードを使おうとする万丈目。だが突然、その動きが止まった。着ぐるみの耳の部分を押さえつけ、慌てた様子で何かを問いかける。恐らく、この距離だと観客やお姉さんにはあの声は聞こえていないだろう。現に隣のクロノス先生も、万丈目のおかしな様子には気が付いた風もない。ダークシグナーゆえの向上した身体能力の持ち主である僕だからこそ、辛うじて耳に入ってきたようなものだ。
 結局、そのまま光り輝くヒーローの攻撃はおジャマ・キングに命中した。どこかスッキリしない物を残しながらも、勝負はついたのだ。

 E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン 攻3100→おジャマ・キング 攻0(破壊)
 おじゃ万丈目 LP1000→0





「あーっと、ついに決着!長きにわたる激闘を制したのはデュエルアカデミア本校代表、遊城十代君でした!会場では現在、このどちらが勝ってもおかしくなかった素晴らしいデュエルを魅せてくれた遊城十代君、そしてあと1歩届かなかったおじゃ万丈目の両者に盛大な拍手が響いています!注目の新人、おじゃ万丈目のこれからの成長に我々デュエルチャンネルとしても大いに期待しつつ、今回の中継フェイズはここでおしまいです!名残惜しいですが、来週もまたデュエルチャンネルでお会いいたしましょう!」

 レポーターの人が、カメラに向かって締めの一言を述べる。その後ろで、十代が倒れた万丈目の方へ近寄っていくのが見える。万雷の拍手のせいでかき消され、恐らくマイクも拾えていないほどの小さな声ではあったが、なんとか十代が最後にかけた言葉を僕だけは聞き取ることができた。

「万丈目、今日のお前は強かったぜ。だけどメディアに注目されるために最後にわざと負けるなんて、お前がエドから学んだことがそれだったら、正直がっかりだ」

 やはり十代も、最後の万丈目の様子が引っ掛かったのだろう。それだけ言うと何も返さず、ただ悔しそうにうつむくだけの万丈目の方を振り返りもせずに会場から出て行ってしまった。
 だがその時の万丈目の表情が何となく気にかかった僕は、クロノス先生にあることを頼むことにした。訝しまれながらも了承を貰い、熱気冷めやらぬ会場を2人で後にする。すぐに目的の場所、コンピューター室にたどり着き、手近な1台を起動させて教員専用のページを開いてもらう。こればっかりは僕1人ではどうしようもないので、クロノス先生の手が必要だったのだ。

「それにしてもシニョール清明、さっきのデュエルのデータが見たいだなんて、一体どういう風の吹き回しナノーネ。確かに教員用のホームには生徒たちの成績をつけるために、常にデュエルデータは送信されてきますーが……」
「あ、最初の方じゃなくて、ラストターンのあたりをお願いします。万丈目が最後に伏せていたカードのあたりを。どうしても、気になることがあったんですよ」

 最後に万丈目が伏せていた、だけど使われなかったカード。十代はそれを、わざと負けるために発動しなかったのだと読んでいた。正直僕も同じ気持ちではあるけれど、それでも違うと心のどこかでは思っていた。それを裏付けてくれる、確たる証拠が見たかったのだ。昔はいざ知らず今の万丈目はそんなインチキするような奴じゃない、そう信じたかった。だが祈るような気持ちのなかで出てきたカードデータは、そんな思いを一瞬で吹き飛ばす現実を押し付けてきた。

「やや、これは……どういうことナノーネ」
「メタバース……」

 僕もクロノス先生も、その結果に言葉を失う。メタバース、それは発動時にデッキからフィールド魔法1枚を手札に加えるか直接発動することができるフリーチェーンのトラップカード。
 もし万丈目が最後のシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃宣言時にこのカードを使ってもう1度おジャマ・カントリーを発動させていれば、再び攻撃力の逆転が起きておジャマ・キングによる返り討ち、どころかそのダメージで万丈目の最後の逆転が成立していた可能性が高い。

「万丈目……どうして……」

 思わずつぶやくが、どこからも返事はない。それも当然だ。クロノス先生も、その疑問への答えは持ち合わせていないのだから。 
 

 
後書き
見てお分かりの通り、次回も万丈目回です。
……予定投稿日が10月22日。レジェンドデュエリストパック2の発売が、11月11日。そして恐らく、次が拙作最後の万丈目メイン回。
…………ちょっと早いけど『アレ』、出しちゃっても……いい、よね? 
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