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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン79 鉄砲水と表裏の皇帝

 
前書き
フラグ回収回。ずっとやりたかったんだこの回。

前回のあらすじ:リア充爆発しろ。 

 
「はー……葵ちゃーん」
「どうかしましたか、先輩?」

 のどかな昼下がり、いつもの放課後。珍しく誰も来ない店の中で、退屈を持て余し隣の葵ちゃんに話しかける。

「いや、暇だねって話」
「……どうかしてたのは頭でしたか」
「あら辛辣。つれないねえ、コミュニケーションは大事だよ?」
「今度はパワハラですか。始末に負えませんね」

 なんだかんだ言いつつ会話自体には付き合ってくれるあたり、葵ちゃんも暇してるのだろう。彼女の性格から考えて、本気で相手したくない時は返事すらしてこないはずだ。
 とその時、廊下から何やら人の動く気配がした。葵ちゃんも同時に気づいたらしく、すぐに全身をシャキッとさせて1瞬で仕事モードに移行する。

「すいません、ちょっといいっスか?」
「あれ、翔?はいどうぞ、いらっしゃいませー」

 ノックと共に聞きなれた声がして、すぐに扉が開く。そこにいた彼の……いや、彼らの様子を見て、なぜこんなに時間がかかったのかが理解できた。そこにいたのは、翔だけではなかった。彼の押す車椅子は空っぽで、その前には彼の兄にして漆黒のコートに身を包む僕らの大先輩。かつてカイザーの名で知られ今ではヘルカイザーの通り名を持つ男、丸藤亮が立っていた。

「カイザー……」
「おじゃましてすいません。でもどうしても兄さんが、清明君に会うって聞かなくて。リハビリもかねてってことで鮎川先生の許可も貰ったから、僕も付いてきたんだよ」

 リハビリ、という言葉が重くのしかかる。覇王の異世界で僕と別れた後、彼はユベルと戦っていたのは僕も知っている。大激戦の末に力尽きたものの、十代がユベルと一体化したのちどうにか僕らと共に帰還した、とも聞いていた。ただこれまでの無茶なデュエルがたたり絶対安静の面会不可という話だったから、あの時に別れて以来僕らが顔を会わすのはこれが初となる。
 久しぶりに見るカイザーは少々やつれてはいたが、体の状態と反比例するかの如くその目の狂気的ともいえるギラギラとした輝きは相変わらず、どころかあの時よりさらに深みが増しているようにも見えた。全てを射るようなその眼差しを真っ向から受けて立ちすくんでしまった僕に、落ち着いたいつもの口調で話しかけてきた。

「久しぶりだな、清明」
「ああうん、そっちこそ。元気?……っていうのもおかしいけど」

 そんな間抜けな返事をしながら、頭の中では彼が体調を顧みずこんなところまでわざわざやって来たわけを考えていた。なんて、そんなもの思い当たる節は1つしかないのだが。
 吹雪さんも以前チラリと似たようなことを言っていたが、それより付き合いがはるかに短い僕でもよくわかる。この男の本質はどれだけの時が経っても、僕が彼と初めて出会った3年前からまるで変わらない。目の前のことに真っ直ぐで、ストイックで。それこそが皇帝(カイザー)の皇帝たる証、自分の身体よりもその精神に重きを置く、誇り高く生真面目な彼の生き様。

「約束」

 そう呟くと、カイザーの表情にかすかな変化があった。やっぱり、思った通りだ。

「約束……守りに来てくれたんだ」
「当たり前だ。それに、仮に俺にその気がなかったとしても、このデッキがそんなことは許さないだろう。俺にもっと戦えと、もっと戦わせろと、そう囁いてくるこのカードがな」

 そう言って、こんな時でも腕に付けているデュエルディスクに視線を落とすカイザー。カードが囁く、ねえ。正直なところカイザーのデッキから精霊の気配は感じられない、けど……サイバー・ダークはなにせあのヘルカイザーとこれまでを戦い抜いてきた曰くつきのカードだ、精霊とは別に何かの力が宿っていてもおかしくはない。それがロクなものかどうかはともかくとして。

「約束?お兄さん、何の話?」

 完全に置いてけぼりになっていた翔が、そこで口を挟む。あの時翔はいなかったから、この話を知らなくても仕方がないだろう。聞かないでいてくれるとこちらとしても何かと楽だったが、そういう訳にもいくまい。

「あの覇王の異世界で、約束したんだ。またいつか、サイバー・ダークと手合せ願いたいって」
「そんな……!無茶だ、お兄さんはデュエルなんかできる体調じゃないのに!」
「まず、これだけ遅くなった非礼を詫びさせてもらおう。すまなかった」

 翔のいたって当然の非難もどこ吹く風、平然としたまま軽く頭を下げるカイザー。一見健康体そのものに見える、だけどよく注意して見ればすぐわかる。本来彼の体は、今こうしてここに立っていられることさえ奇跡みたいなものだ。当人は精一杯隠そうとはしているが、いくらカイザーの精神力が並はずれていてもそのボロボロになった体は嘘をつけない。ちょっと小突いてしまえばすぐ倒れそうな危うさが、ギリギリのバランスで成り立っている。こんな状態でデュエルすれば、たとえダメージの実体化がない普通のデュエルであっても凄まじい負担がかかってしまうことは想像に難くない。

「お兄さん、もうやめよう!約束でもなんでも、今は駄目だよ!」
「心配性だな、翔。だが、このデュエルを退くつもりはない。約束はもちろんだが、俺にはこのデッキに借りがある。ならば……!」

 口調こそ静かだが、その言葉には強い意志の力が隅々まで込められているのがわかる。普通に考えれば翔の言ってることの方が正しいんだろうけど……だけどなぜかはわからないが、目の前のカイザーはもうそんな次元を越えたところに居るような、そんな印象を受けた。もう肉体がどうこうといったくくりに捕らわれず、もっと高次の存在となっているような。だからこそこんな、自分の身体を顧みないような行動もできるのだろうか。
 それに、これはあまり大きな声では言えないけれど。この静かな闘志にあてられたのか、僕自身も心の底からかすかに高揚感が漲ってくるのを感じている。単純に、この強者と戦いたい。その闘争心がただのエゴでしかないことは否定できないけれど、それが僕の正直な気持ちだ。だから僕は、そっちからも何か言ってやってくれ、という翔の視線に気づかないふりをした。悪く思わないでほしい、なんて、言えた義理ではないけども。彼のためだけではなく僕自身のためにも、カイザーの願いを叶えたい。あの時の約束を果たしてもう1度、真っ向からカイザーと戦いたい。

「ならば翔、お前も来い」
「え……?」
「ヨハンに憑依したユベルとの戦いで、俺はお前に何を教えてやれた?お前にはまだ、これから変わる余地が残されているだろう。俺のデュエルをもう1度見ることで、お前も何かを掴むことができるかもしれない」
「そんな、僕は……」
「お前はこれまで、傍観者だったのだろう。今度は、お前が変わっていく番だ」

 傍観者、という単語に何か思うところがあったのか、急にさっきまでの勢いを失い暗い表情でうつむく翔。
 ま、なんか色々あったんだろう。愉快な話でもなさそうだし、別に深くは聞かないさ。それより大事なことは、なんだか場の空気が今の一言でガラリと変わったことだ。

「……あんまり無茶するようなら、絶対に途中でも止めてもらうからね?」
「ああ、好きにすればいい」

 あ、決まった。そして、カイザーが再び僕に向き直る。

「今すぐ、などと言うつもりはない。今日の深夜0時、灯台の下。それでいいか?」
「もちろん。正真正銘、今の僕にできる全力で挑みます。だからよろしくお願いします、カイザー」

 そして、翔に付き添われたままカイザーは帰っていった。早速デッキ調整をしようか、とボタンを押して腕輪型デュエルディスクを展開させたところで再び扉が開き、いつの間にかいなくなっていた葵ちゃんの顔がひょっこりと覗いた。

「お話し終わりましたか、先輩?」
「葵ちゃん、悪いけど今日はもう店じまいね。もう暇なんて言ってられないね、これからすっごく面白くなりそうなんだ!」

 言いながら、堪えきれない笑みがこぼれる。そんな僕の様子を怪訝そうに見つめ返したのち、彼女は肩をすくめて帰り支度を始めた。ほんと察しのいい後輩で助かるよ、葵ちゃん。
 それからのことは、ほとんど覚えていない。ただレッド寮に戻り、新しく入れたいカードとこれまでのデッキの中身を1枚1枚並べて何度も確認して擦り合わせた作業だけは覚えている。というより、そればかりやっていたらいつの間にか夜になっていた、というのが正しい。だがその甲斐もあって、今の僕に用意できる最高のデッキが組み上がった……はずだ。

「よし。行くよ、皆」

 自らを鼓舞するようにそう声をかけ、デッキをそっと撫でて外に飛び出る。だいぶ余裕を持って寮を出たつもりだったが、灯台に着いた時には既に2人とも先に来ていた。だがカイザーは当然として、翔も何も言わない。ただ無言で、互いがそこにいることを認め合うのみだ。お互い覚悟はとうに決まっているのだから、これ以上の言葉は蛇足でしかない、ということだろう。そういうことなら、話は早い。互いに向かい合い、それぞれのデュエルディスクを構えたのは同時だった。

「「デュエル!」」

「じゃあカイザー、僕が先攻と洒落込ませてもらうよ!フィールド魔法KYOUTOUウォーターフロント、永続魔法グレイドル・インパクトを発動!」

 本物の灯台にかぶさるようにソリッドビジョンの灯台が構築され、そこから放たれる光に照らされながらUFOが煙を吐きつつ落下する。なんともカオスな風景ではあるが、この2枚がこの最序盤から同時に手札に揃った意義は大きい。維持すれば維持するだけアドバンテージを獲得できるこの2枚は、僕の通常より枚数の多いこのデッキを回すうえで重要なエンジンとなってくれる。

「モンスターをセット。このエンドフェイズにインパクトの効果を発動、ドール・コール!デッキからグレイドルカード1枚、グレイドル・コブラをサーチしてターンエンド」
「俺のターン。サイバー・ドラゴン・コアを守備表示で召喚し、効果を発動。デッキからサイバー、またはサイバネティックと名のつく魔法・罠カード1枚を手札に加える。俺がサーチするのはフィールド魔法、サイバーダーク・インフェルノだ。そして、このインフェルノをそのまま発動!」

 サイバー・ドラゴン・コア 守1500

 ……地獄(インフェルノ)。その物騒な名に相応しく、灯台の街がみるみるうちに暗い炎に包まれる。なるほど、ここがヘルカイザーの地獄(ヘル)ってわけか。

「そして魔法カード、融合を発動。手札のサイバー・ドラゴン、そして場のサイバー・ドラゴン・コアを素材に、融合召喚」

 そして発動されたのはサイバー・ダークの関連カード……ではなく、ノーマルの融合。まずは表サイバーで牽制、ということだろう。だがその牽制は、それ1枚でも既に十分フィニッシャーになりうるほどのポテンシャルを秘めたカードだ。コアはサイバー・ドラゴンとしても扱うカード、となるとあの素材指定で召喚されるのは恐らく、2800の攻撃力を持ちながら2回攻撃の権利を持つあのカードだろう。
 だがその予想は、即座に打ち砕かれた。サイバー・ドラゴン2体が空中で混じり合い生まれた機械龍……それは断じて僕が心に思い描いたあのカードではない。黒いキューブ状の物体がいくつも組み合わさってできたいびつな胴体から、てんでバラバラにそれぞれ細部が異なる機械龍たちの3つの首と1本の尾が生えている。そのどれもが不規則に動き、うねり、身をくねらせる様は、まるで歪んだ胴体からそれぞれの龍が自らの体を切り離し、逃げ出そうとして暴れているようにも見えた。

「出でよ、キメラテック・ランページ・ドラゴン!」
「サイバー・ツインじゃない……?」

 キメラテック・ランページ・ドラゴン 攻2100

 こんなモンスター、卒業デュエルの時も見た覚えがない。その見た目もさることながら、サイバー・ドラゴンを素材としているにもかかわらずその攻撃力が素の状態から変わっていない点もまた余計にその不気味さを引き立てている。

「キメラテック・ランページ・ドラゴンは融合召喚に成功した時、その素材の数だけ場の魔法・罠を破壊できる。俺が選択するのは清明、お前の場の2枚だ!」

 黒いキューブが鈍く発光すると、3つの首のうち2つがまるで電流でも走ったかのように自らの身体への抵抗を止めた。そのまま操られているようなぎこちない動きでこちらを向き、口を開いてそれぞれが2枚のカードめがけて熱線を吐く。そのうち1本はすぐにUFOを炎の中に消し去ったが、もう1つの目標物……この地獄においてなおもその中心で屹立する灯台は、しぶとかった。炎に舐められ、焦げ付き、その一部を溶かしながらも、機械龍の攻撃を耐え抜き、前と変わらぬ光を閃かせて見せたのだ。

「グレイドル・インパクトはともかく……カイザー、さっき使った融合の魔法カードは、1度フィールドで発動されてから墓地に送られた。つまり、フィールドから墓地にカードが行った段階で僕のウォーターフロントには怪獣カウンターがコアの分も合わせて2つ乗っていたわけさ。そしてこのカードは、自身の壊獣カウンター1つをコストに破壊から身を守ることができる。さらに破壊されたインパクトも墓地に行ったから、カウンターをもう1回追加させてもらうよ」

 KYOUTOUウォーターフロント(0)→(2)→(1)→(2)

「破壊には失敗したか……ならば、キメラテック・ランページのさらなる効果を発動!デッキから光属性の機械族モンスターを2体まで墓地に送ることで、その枚数だけこのモンスターは攻撃回数を増やす。サイバー・ドラゴン・ツヴァイ、そして超電磁タートルの2枚を墓地に送り、バトル!まずは第一打!」

 再び、黒いキューブが不気味に発光した。と、今度は先ほど攻撃をしてこなかった最後の首が同じく抵抗を止め、こちらに向けられる。伏せモンスターを破壊し、さらに2回の直接攻撃が成功すればワンターンキルが成立する……だけど、そんな虫のいい話を通すわけにはいかない。僕だって、それ相応の覚悟を持ってこの場に臨んでいるんだ。

 キメラテック・ランページ・ドラゴン 攻2100→??? 守1500(破壊)
 KYOUTOUウォーターフロント(2)→(3)

「この瞬間、戦闘で破壊されたグレイドル・アリゲーターの効果発動!相手モンスター1体に寄生し、機械だろうがなんだろうがそのコントロールを掌握する!当然対象は、キメラテック・ランページ!」

 熱線を受けて弾け飛んだ銀色の飛沫が、空中で向きを変えその攻撃の発生源へと一斉に飛びかかる。当然、何か回避策は持っているだろうとあまり期待はしていなかったが、意外なことに見ているこちらが拍子抜けするほどあっさりと結合魔龍はこちらの支配下に置かれた。見ていた翔にとってもその展開は予想外だったらしく、小さな悲鳴が漏れる。

「お兄さん!」
「あ、あれ?」
『……いや、まだ仕掛けてくるぞ』

 チャクチャルさんの警戒を促す低い声が、脳内に響く。その言葉を待っていたかのように、目の前のカイザーも次なる一手に向けて動き出した。

「相手フィールド上にのみモンスターが存在するとき、墓地のサイバー・ドラゴン・コアのさらなる効果が発動できる。このカードを除外し、デッキからサイバー・ドラゴンを特殊召喚する」

 サイバー・ドラゴン 攻2100

「なるほど、リカバリーは万全、ってわけね」

 軽口を叩きながらも、内心では言いようのない不安感に包まれていた。サイバー・ドラゴンとランページの攻撃力は同じ、相打ち狙いを棒立ちでエンド……なんて、カイザーらしくもない。まだ何か、僕の見落としている戦術があるのだろうか。
 その時、ふとある情景が脳裏に浮かんだ。あれは、卒業デュエルの時。どうして忘れていたんだろう、サイバー流にはまだ、あのカードがあることを。しかし思い出せたときにはすでに遅く、カイザーのサイバー・ドラゴンと僕の場のランページが空中で混ざり合いさらなる機械龍へと変化を遂げていくところだった。

「あのカードは……!」
「場に存在するサイバー・ドラゴン1体及び、それ以外の機械族モンスター全てを墓地に送る。融合召喚!キメラテック・フォートレス・ドラゴン!」

 メタリックな輝きを放つ、龍というよりむしろ蛇に近い挙動をする異端のサイバー流。その攻撃力は、素材とした機械族モンスター1体につき1000。

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻2000
 KYOUTOUウォーターフロント(3)→(5)

 やられた。攻撃力こそ下がったものの、これでアドバンテージは一気にカイザー側に傾いた。唯一の救いは、一気に3枚のカードが墓地に送られたことでウォーターフロントのカウンターが上限の5つまで溜まったことだけど……それも、この手札だとあまり慰めにはならない。

 清明 LP4000 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:なし
場:KYOUTOUウォーターフロント(5)
 カイザー LP4000 手札:2
モンスター:キメラテック・フォートレス・ドラゴン(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
場:サイバーダーク・インフェルノ

「僕のターン、ドロー。KYOUTOUウォーターフロントに壊獣カウンターが3つ以上存在するとき、その光は1ターンごとに1体の壊獣を呼び寄せる!来い、怪粉壊獣ガダーラ!」

 これで手札に壊獣が1体、そして僕の手札にはグレイドル・コブラのカード。フォートレスをリリースしてこのガダーラを呼び、そのままコブラで自爆特攻。流れで寄生すれば大ダメージを通せるが、それは僕のライフも一気に削られる諸刃の剣だ。サイバー流相手には1度の気の緩みが死に直結するから、確実に倒しきれる状況でもない限り極力ライフは温存しておきたい。

「ここは、グレイドル・コブラ召喚!そのままフォートレスに攻撃!」

 グレイドル・コブラ 攻1000(破壊)→キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻2000
 清明 LP4000→3000

「戦闘破壊されたコブラの効果でフォートレスに寄生、そのまま追撃のダイレクトアタック!」

 その召喚条件を考えれば最低クラスの攻撃力しかないとはいえ、それでもダイレクトアタックならば初期ライフのきっかり半分を削り取るだけのパワーはある。両目のあるべき場所に付いたスコープが静かに獲物を求めて動き、その中心に捉えたカイザーめがけて熱線が撃ち込まれる。

「甘い。トラップ発動、パワー・ウォール!相手の攻撃により発生するダメージ500ポイントにつき1枚のカードをデッキから墓地に送ることで、戦闘ダメージを打ち消す!」
「これも防がれた……!」

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻2000→カイザー(直接攻撃)

 カイザーがデッキから4枚のカードを抜き取り、自分の前に無造作に投げる。そのカードたちが空中で半透明の力場を作り、機械龍の攻撃を完全に受け止めた。だが考えてみれば、こうなることぐらいフォートレスを攻撃表示で融合召喚した時点で気づけたはずだ。わざわざ起点になるよう出してきたのだから、当然その理由があることぐらい攻撃前に読めてしかるべきだった。
 これで僕はこのターン、攻撃力2000のモンスター1体と引き換えに1000ものライフと手札のコブラを失った。エンドフェイズまでに、このターンにできる事は……。

「永続魔法、強欲なカケラを発動。ターンエンド」
「俺のターン。肩慣らしはそろそろ切り上げて、ここからは本気で行くぞ。出でよ、サイバー・ダーク・キール!サイバー・ダーク・クローを装備しろ!」

 ついに僕の前に現れた、サイバー・ダークの1体。細長い蛇のような漆黒のボディが、月光を反射して鈍く光を放つ。その体から無数のコードが地下へと伸び、無数の鉤爪をわきわきと不気味に動かす小型の機械龍に接続される。

「……?」
「サイバー・ダーク・キールは召喚に成功した時、墓地からレベル3以下のドラゴン族モンスター1体を自身に装備できる。そして、その攻撃力がこのカードに加算される」

 サイバー・ダーク・キール 攻800→2400

 下級モンスターとしても明らかに低いわずか800の攻撃力が、一気に同レベル帯でも最高クラスの2400にまで膨れ上がる。これがサイバー・ダークの戦術、なるほど確かに自らを高めることで圧倒的な攻撃力を生み出す表サイバーとは根本的に異なる存在だ。

「サイバー・ダーク・クロー……?あんなカード、見たことない……!」

 初見の僕にとってはそういうものか、で済む話だったが、過去に1度裏サイバーと戦ったことのある翔にとっては見過ごせない違和感があったらしい。これまでのデュエルでカイザーが使ったことのないカード、というわけか。普通ならそんなこともあるよね、で済むような話だが、サイバー流のカードを引きこむ力を知っている僕みたいな立場からすると若干引っかかる話だ。説明を求めてカイザーに視線を送ると、その意味を汲み取ったのかキールに装備された状態のクローを見上げた。つられて僕もクローの方へ眼をやったところで、カイザーの静かな声が聞こえる。

「確かに、翔の言う通りだ。このカードはユベルとの戦いまでは、俺のデッキには入っていなかった。いや、そもそもサイバー・ダーク・クローなんてカードはどこにも存在すらしていなかった」
「どういうことなの、お兄さん?」
「俺はあの戦いで、自分の輝きを最高に出し尽くしたつもりだった。あれ以上は望むべくもない、限界以上を引き出せたデュエルだと思っていた。だが、それは俺の考えが甘かったらしい。俺自身はともかく、このデッキには……サイバー流にはまだ、進化の余地が存在する」
「進化の、余地……」

 風は、凪いでいた。ほんのかすかに押し寄せては灯台にぶつかり、また引いていく波の音だけがかすかに聞こえる。

「その境地にたどり着くのが未来の俺なのか、それともそうでないのかはわからん。だが俺はあの戦いから再びこの世界に流れ着くまでに、裏サイバー流……サイバー・ダークの新たなる地平を確かに見た。このクローこそがその証、その進化への布石となる1枚だ。だが俺はいまだその地平を、その進化を完全にはものにはできていない。ならばどれほど時がかかろうと、なんとしてもその新たなる進化を形にしてみせる。それが俺の使命であり、戦いを求め続けるこのデッキに対してのせめてもの礼だ」
「カイザー……」
「つまらない話を聞かせたな、清明。バトルだ!サイバー・ダーク・キールで攻撃、ダーク・ウィップ!」

 キールの細長い体が鞭のようにしなり、その尾の一撃が自身より巨大な機械龍の装甲を打ち砕く。その勢いでキールの体がもう一捻りされ、返しの尾の一撃が今度は僕を直接襲った。

 サイバー・ダーク・キール 攻2400→キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻2000(破壊)
 清明 LP3000→2600→2300

「なんで、ダメージが……!?」
「サイバー・ダーク・キールがモンスターを戦闘破壊した時、相手ライフに300の追加ダメージを与える。さらに今の戦闘のダメージ計算時、サイバー・ダーク・クローの効果が発動した。装備モンスターが戦闘を行うダメージ計算時、俺のエクストラデッキからモンスター1体を墓地に送る。俺はこの効果で、サイバー・エンド・ドラゴンを選択する」

 装備状態であることを前提とした効果により、さらにカイザーの墓地にカードが送り込まれる。表サイバー流の切り札中の切り札、サイバー・エンドを墓地に送るほどの戦略だ、何を狙っているかはまだわからないが、着実にその準備を整えつつある事は間違いない。

 清明 LP2300 手札:2
モンスター:なし
魔法・罠:強欲なカケラ(0)
場:KYOUTOUウォーターフロント(5)
 カイザー LP4000 手札:2
モンスター:サイバー・ダーク・キール(攻・クロー)
魔法・罠:サイバー・ダーク・クロー(キール)
場:サイバーダーク・インフェルノ

「僕のターン!まずはこのドローフェイズ、通常のドローをしたことで強欲なカケラに強欲カウンターを1つ乗せる。メインフェイズにはウォーターフロントの効果で、多次元壊獣ラディアンをサーチさせてもらうよ」

 強欲なカケラ(0)→(1)

 最初のターンに張られて以降、いまだ沈黙したままのサイバーダーク・インフェルノ。名前からしても間違いなくサイバー・ダークのサポートカードなのだろうが、どんな効果を持っているにせよこの僕の力、全カードの中でも最強クラスのモンスター除去である壊獣の力までは防げまい。
 それにしても、こういう展開になってくると最初にサーチしたのがガダーラというチョイスはちょっと失敗だったと思う。このデッキでは貴重な、どんな相手の攻撃も真っ向から戦闘で突破できる要員だったから持ってきておこうと選んだけれど、この状況なら他の壊獣の方がなにかとよかっただろう。

「サイバー・ダーク・キールをリリースして多次元壊獣ラディアンを、ラディアンの存在に反応して手札のガダーラを、それぞれのフィールドに特殊召喚!さらにガダーラはその特殊能力、風葬によって壊獣カウンター3つをコストに鱗粉の風をフィールドに撒き散らし、自身以外の攻守を半分にする!」

 次元の壁を越える宇宙人が、風起こす大怪虫が、一度にフィールドをその巨体で埋める。機械龍が我が物顔に蹂躙していた場の空気が、1瞬にして書き変わった。

 多次元壊獣ラディアン 攻2800→1400 守2500→1250
 怪粉壊獣ガダーラ 攻2700
 KYOUTOUウォーターフロント(5)→(2)

「ほう、これがお前の手に入れた力か。サイバーダーク・インフェルノがある限り装備カードをもつサイバー・ダークは相手の効果対象にならず、効果破壊もされなかったのだが……まさか、耐性の上から攻めて来るとはな」
『油断するな、マスター。わかってるな?』

 賞賛の声に応える余裕もなく、チャクチャルさんの警告が聞こえる。無論、何が言いたいのかはわかっている。手札にはアタッカーになるハンマー・シャークのカード、けれどもし僕が今のカイザーの立場だとしたら、ここで追加ダメージの誘惑に駆られての通常召喚は愚の骨頂だ。勿体ないけれど、このターンは下準備と割り切ろう。

「……バトル!ガダーラでラディアンに……」
「墓地の超電磁タートルを除外することで、効果発動。デュエル中1度だけ、バトルフェイズが強制的に終了される」

 先ほどランページの効果で落としていた超電磁タートルにより、ガダーラの攻撃が強制的に止められる。
 でも、これでいい。カイザーなら間違いなく壊獣のデメリット、壊獣はそれぞれのフィールドに1体ずつしか存在できない点を逆手にとって、ラディアンをこのターン生かすことで次に僕が新たな壊獣を手札に加えたとしてもカイザーのモンスターをリリースして除去、の流れを不可能にしてくるはずだと思った。だからこのターンはバトルを捨てて超電磁タートルの守りを引っぺがす、それができれば十分だ。そんな悠長なこと言ってられる相手じゃないのは百も承知だけど、だからといって墓地のカードに干渉できるカードなんてそもそもこのデッキには入っていない。

「ハンマー・シャークを守備表示で召喚。ターンエンド」
『それでいい。なかなか成長したな、マスター』

 お褒めに預かりまして、だ。上から目線なのは気にくわないけど。

 ハンマー・シャーク 守1500

「俺のターン。まずお前のカード、多次元壊獣ラディアンの効果を使わせてもらおう。壊獣カウンター2つをコストに、ラディアントークンを特殊召喚する」

 KYOUTOUウォーターフロント(2)→(0)
 ラディアントークン 攻2800

 何度も僕のフィールドで発動してきたラディアンの効果が、今回ばかりは僕に対して牙をむく。しかもこれで、ウォーターフロントを破壊から守るカウンターがすべてなくなってしまった。

「さらにサイバー・ダーク・エッジを召喚。このカードもまた、召喚時にレベル3以下のドラゴン族1体を墓地から装備できる。サイバー・ダーク・カノンを装備!」

 小柄な胴体とは明らかに不釣り合いな巨大な金属の翼を持つ、2体目のサイバー・ダーク。その全身からはキールの時と同じように無数のコードが伸び、またしても先ほどと同じように、だが先ほどのクローとはまた違い、丸い頭部がどこか芋虫のような印象を抱かせるサイバー・ダーク・カノンと結合する。

 サイバー・ダーク・エッジ 攻800→2400

「これでいい。速攻魔法、ダブル・サイクロンを発動!俺のフィールドに存在する魔法・罠カードと、お前のフィールドの魔法・罠カードを1枚ずつ破壊する。俺のフィールドからは装備カードとなったサイバー・ダーク・カノン、そしてお前のフィールドからはKYOUTOUウォーターフロントが破壊される」

 さっきまで凪いでいた空に、突然不吉な風が吹く。荒れる波が押し寄せる中でカウンターの尽きた灯台が、光を失ってゆっくりと倒壊していった。

「ウォーターフロントが……!」
「まだだ、サイバー・ダーク・カノンの更なる効果を発動!装備状態のこのカードが墓地に送られた時、デッキからカードを1枚ドローする」

 カイザーがカードを引く。まずい、そう思ったのは予感なんかではない。まぎれもない確信だ。そして案の定その確信は現実に変わり、カイザーはそのカードを即座に発動する。

「魔法カード、サイバーダーク・インパクト!を発動!俺のフィールド、手札、墓地のいずれかに存在するホーン、エッジ、キール3体のサイバー・ダークをデッキに戻し、融合召喚を行う!出でよ、鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン!」
「ついに出た、お兄さんの裏サイバー流エースモンスター……!」

 ホーンの頭部、エッジの翼、キールの尾。フィールドと墓地から飛び立った3体の下級サイバー・ダークのパーツ同士が組み合わさり、1体の巨大な機械龍となって空中で僕のガダーラと対峙する。あの姿は僕も異世界で見た、どころかその背に乗ったこともあるが、こうして戦う姿を見るのは初めてだ。

「サイバー・ダーク・ドラゴンが特殊召喚に成功した時、墓地に存在するドラゴン族1体を装備することができる。この効果にはレベル制限がないが、今回はサイバー・ダーク・カノンを選択する。だがこのカードにはさらにそれとは別に、攻撃力を俺の墓地に存在するモンスター1体につき100ポイントアップする効果もある」

 装備対象にレベル制限がないうえに、さらに率こそ悪いとはいえ自己強化まで備えているとは。今のカイザーの墓地にモンスターは何体いる?サイバー・ドラゴン・コアと超電磁タートルは確かゲームから除外されたはずだからその2枚は含めなくてよく、カノンも装備対象として墓地から剥がされたからそれも計算に入れる必要はない。それでも、融合素材やらなんやらでカイザーの墓地にモンスターは最低6体。パワー・ウォールで落としたカードのうち、何かわかっていない物があと2枚。もしそれがすべてモンスターだとしたら……ということは、素の攻撃力はたかだか1000でしかない鎧黒竜の今の攻撃力は……。

「攻撃力、3400……!」

 そうだ、と言わんばかりに金属の龍が咆哮し、ホーンの物であったその頭部に漆黒のエネルギー弾が生成される。当然その狙いはただ1つ、自らの前に立ちふさがるガダーラだ。そしてその真の力を発揮するための壊獣カウンターが枯渇した今の状況では、どうあがいてもガダーラに勝ち目はない。

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻1000→2600→3400

「行くぞ、バトルだ。サイバー・ダーク・ドラゴンで、怪粉壊獣ガダーラに攻撃!フル・ダークネス・バースト!」
「ガダーラっ!」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻3400→怪粉壊獣ガダーラ 攻2700(破壊)
 清明 LP2300→1600 

「ぐっ……!」
「カノンを装備したモンスターがバトルを行ったことで、デッキからサイバー・ダーク・キールを墓地に送る。次いでラディアントークンで、ハンマー・シャークに攻撃!」

 これも、異世界でずっと実体化していた影響だろうか。サイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃の余波は明らかにソリッドビジョンの範疇に収まらず、その衝撃により発生したとしか考えられない本物の風圧が僕の全身にぶつかり学生服をはためかせる。だが、そんなことを気にしている暇はなかった。プレイヤーの攻撃命令には逆らえず、ラディアントークンの体が闇に溶ける。次元を飛び越えて背後から振り下ろされた一撃が、ハンマー・シャークの後頭部を狙い打った。
 ここまではまだモンスターたちが壁となってダメージを抑えてくれたけれど、もはや僕の場に味方はいない。体中にまだ鱗粉が付いたままのラディアンと目が合ったが、お互いどうすることもできない。

 ラディアントークン 攻2800→ハンマー・シャーク 守1500(破壊)

「さらに多次元壊獣ラディアンでダイレクトアタック!」

 多次元壊獣ラディアン 攻1400→清明(直接攻撃)
 清明 LP1600→200

「ぐぐ……ぐっ……!」
「メイン2に魔法カード、七星の宝刀を発動。俺のフィールドからレベル7のラディアントークンを除外することで、カードを2枚ドローする」

 攻撃を終えたラディアントークンを除外することで、実質ノーコストでの2枚ドローを行うカイザー。自分のモンスターをコストにしていないのだから、やってることは強欲な壺と変わりない。

「魔法カード、おろかな埋葬を発動。デッキからサイバー・ダーク・エッジを墓地に送る。カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 もはやライフは風前の灯とはいえ、なんとかこのターンも凌ぎ切れた。ならば、まだ希望はある。このデュエル、次のターンが正念場だ。その覚悟を読み取ったのか、かすかにカイザーが微笑したように見えた。

 清明 LP200 手札:1
モンスター:なし
魔法・罠:強欲なカケラ(1)
 カイザー LP4000 手札:1
モンスター:鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン(攻・カノン)
      多次元壊獣ラディアン(攻)
魔法・罠:サイバー・ダーク・カノン(鎧黒竜)
場:サイバーダーク・インフェルノ

「僕のターン、ドロー!」

 引いたカードを見て、笑みがこぼれる。こんなギリギリの局面で駆けつけるだなんて、なかなか来るべき時ってものをわかってるじゃない。ここで来てくれるってことは、当然お膳立てもできてるんだよね?

「ドローを行ったことで強欲なカケラに2つ目のカウンターを乗せて、2つのカウンターが貯まったカケラの効果発動。このカードを墓地に送ることで、さらにカードを2枚引く!」

 最後に引いたカード2枚を合わせ、僕の手札は計4枚。これだけあれば、まだ戦える!

「魔法カード、ハーピィの羽根箒を発動!相手フィールドの全ての魔法、そして罠カードを破壊する!これでサイバー・ダーク・カノンも破壊されて、サイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力はダウンする!」
「お兄さんの切り札が……」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻3400→1800→1900

 装備していた分の攻撃力が下がった反面自己強化の数値が上がるため、結果として攻撃力の低下は1500ポイント止まりで終わる。カノンの効果による1枚ドローも許してしまうが、それはもう必要経費として諦めるしかない。だがそこで、あることに気が付いた。ドロー効果を合わせても、今のカイザーの手札は2枚のはずだ。だが彼の手札は今、見間違えでなければ3枚存在する。

「サイバーダーク・インフェルノが相手により破壊された時、デッキから融合、またはフュージョンと名のつくカード1枚をサーチできる。サイバネティック・フュージョン・サポートを加えさせてもらった」

 サイバネティック・フュージョン・サポート……忘れたくても忘れられない、機械族専用の融合召喚を墓地リソースで行えるようになる速攻魔法だ。首を振って不穏な予感を振り払い、目の前のサイバー・ダーク・ドラゴンに意識を集中する。

「相手フィールドの壊獣の存在に反応して、手札から粘糸壊獣クモグスを攻撃表示で特殊召喚して……さらに速攻魔法、帝王の烈旋!このターンのアドバンス召喚は、相手モンスター1体をリリースして行うことができる」

 粘糸壊獣クモグス 攻2400

 これで、準備はすべて整った。呼び出すは絶対不変、未来永劫の僕の切り札。

「クモグス、そしてラディアン!2体のモンスターをリリースして、アドバンス召喚!」

 このデュエルが始まってからずっと押されっぱなしだった僕に残された、最後の反撃の狼煙。2体の壊獣の姿が霧に包まれて消えてゆき、その中央から一筋の太刀が走る。

「さあ、あの時のリターンマッチと洒落込もう!行くよ、霧の王(キングミスト)!」

 霧の王は、リリースしたモンスターの攻撃力の合計がそのまま攻撃力となる。思えば卒業デュエルの時も、最後はこの霧の王とサイバー・エンド・ドラゴンの一騎打ちだった。あの時からカイザーは変わったけれど、僕だってもうあの時とは違う。恐らくこれが、このデュエルで僕が出す最後のモンスターになるだろう。

 霧の王 攻0→5200

「フッ、あの時の、か。いいだろう、来い!」
「もちろん!霧の王でサイバー・ダーク・ドラゴンに攻撃、ミスト・ストラングル!」

 大きく飛び上がった霧の戦士が、その宝剣で全体重を乗せた大上段からの一撃を浴びせかけると、サイバー・ダーク・ドラゴンもわずかに顔を上に向け、再び顔の前で発生させたエネルギー弾でそれを迎え撃たんとする。互いの攻撃のエネルギーが激突し、激しい爆発が起きた……だがその衝撃波が僕らの元に届くより先に、どこからともなく発生した深い霧が全てを包み込んでいく。
 勝負は、1瞬で決まった。発生した時と同じような唐突さで霧が晴れていき、みるみるうちに視界がクリアになっていく。その向こうに立っていたのは力尽きたサイバー・ダーク・ドラゴンの頭部に剣を突き立て、静かにその亡骸を見下ろす霧の王だった。

 霧の王 攻5200→鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻1900(破壊)
 カイザー LP4000→700

「どうだ……カイザーっ!」

 あの時、表サイバーの龍に倒された霧の王が、今度は裏サイバーの龍を切り伏せた。だがやはり気になるのは、あの時カイザーのサーチしたサイバネティック・フュージョン・サポート……だがサイバー・エンド・ドラゴンが先ほど墓地に送られた以上、あのカードが目当てではないだろう。となるとまさかさっき言っていた、裏サイバーの新たなる地平とやらだろうか。
 いや、でも、あれはカイザーでさえもまだものにできていない存在だと明言されたはずだ。まさか、このデュエルを通じて次のターンで『それ』を覚醒させるつもりだろうか。あまりにも危険で、分の悪い賭け……第一その新たな境地のモンスターが目覚めなかった場合、何も召喚することができずに終わる可能性すらある。
 そんな物思いは、カイザーの目を見て吹き飛んだ。あれは……本気だ。本気で僕とのデュエルを通して、その境地に登り詰めつつある目だ。知らず知らずのうちに鳥肌が立っていたのを精神力で抑え込み、にやりと笑ってみせる。いいだろうカイザー、僕が生き証人だ。その姿はっきりと、その命の輝きを、最後まで僕がこの目で見据えてやるさ。

「ターンエンド。今のが僕の全力だ、さあ来いカイザー!ただしここまで引っ張ったんだ、その結果が生半可な力程度なら、僕らがこの手でぶった切ってやる!」
「感謝するぞ、清明……。お前のおかげで、俺は今新たな境地に最も近いところに居る!俺は生きている、その命の輝きを、さらに激しく燃え上がらせてみせる!……俺のターン、ドローッ!」

 静寂が場を包んだ。僕も翔も、そしてカイザー本人も、物音ひとつしないその瞬間が、僕には永遠のものとも感じられた。
 そしてその均衡が、カイザー自身の手によって破られる。

「速攻魔法、サイバネティック・フュージョン・サポート……そして魔法カード、パワー・ボンドを発動!俺のライフを半分払い、墓地のサイバー・ダーク・カノン、サイバー・ダーク・キール、サイバー・ダーク・エッジ、サイバー・ダーク・クロー、そして鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴンの5体をゲームから除外する!」
「5体のサイバー・ダークでの融合召喚!?そんなモンスターが……!」

 カイザーが最後に引いたのは、彼の信じる究極の融合カードにしてサイバー流の象徴、パワー・ボンド。融合召喚した機械族の攻撃力を元々の数値分引き上げる凄まじいメリットと引き換えに、その力の代償としてエンドフェイズに挙げた攻撃力がそのままダメージとしてプレイヤーに降りかかるデメリットを併せ持つハイリスクハイリターンのカードだ。カイザーのライフはもはや残りわずか、どう考えてもエンドフェイズのデメリットには耐えきれない。このターンで決め切るつもりなら、真正面から迎え撃つまでだ。霧の王も考えることは同じなのか、正眼の構えで自身の剣を強く握りしめる。
 そうして僕らが見守るその目の前で、ついに裏サイバーの究極の境地がその目を覚ました。

「出でよ!鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン!」
「これが……!」

 その機械龍は、まさに限界を超えて更なる進化にたどり着いた鎧黒竜だった。ホーン、エッジ、キールの3体の特徴を併せ持ちながら、装甲の薄かった胸部からはクローの特徴である鉤爪が出現して補強され、その背にはカノンが自らの体をそっくりそのまま巨大な砲台として据えつけられる。だが何よりも恐ろしいのはそんな外見だけの特徴ではなく、一目見るだけで伝わってくる全身から立ち上る圧倒的なパワー。それは合体の相乗作用なのか1体1体の時どころか鎧黒竜とさえも比べ物にならない、完全に制御された洗練されつくした暗黒の力。

「パワー・ボンドの効果により攻撃力は倍になり……さらにサイバー・ダークネス・ドラゴンが特殊召喚に成功した時、墓地のドラゴン族または機械族モンスター1体を自身に装備できる。サイバー・エンド・ドラゴンを装備する!」
「サイバー・エンド・ドラゴンがサイバー・ダークネス・ドラゴンに……」

 翔が震え声で復唱する中、シルバーメタリックな輝きを放つ三つ首の機械龍が漆黒の機械龍に装着される。これが、表裏一体サイバー流の究極の形なのか。偶然なのか必然なのか、その攻撃力が2重の強化を受けて倍々式にはね上がる。

 カイザー LP700→350
 鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン 攻2000→4000→8000

「攻撃力、8000……でも!」

 僕の声に霧の王がコクリと頷き、圧倒的な力の差を前に怯むことなく剣を構え直す。その眼前で、サイバー・ダークネス・ドラゴンが前段発射に向けて力を溜めはじめる。背中の(カノン)、頭部からのエネルギー弾、そして吊り下げられたサイバー・エンドの3つの頭に、それぞれ別のエネルギーが充填されていく。

「行け、サイバー・ダークネス・ドラゴン!エヴォリューション・ダークネス・バースト!」
「迎え撃て、霧の王!ミスト・ストラングル!」

 鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン 攻8000→霧の王 攻5200(破壊)
 清明 LP200→0

 霧の王の一閃と機械龍の砲撃が激突し、世界が白い光に包まれる。目を閉じてもなお届く強烈な光の中で、何か動くものがかすかに見えた。強烈な逆光のためぼんやりとしたシルエットしか確認できなかったが、こちらに向けて咆哮するその姿はまるで機械の翼を生やしたサイバー・ドラゴンのような……だがその姿をもっとよく見ようとしたところで、光が収まってしまった。デュエルが終わったことでサイバー・ダークネス・ドラゴンの姿も消え、後に残ったのは僕とカイザー、そして翔の3人のみ。

「今のは……」

 今見えた光景は、ただの幻覚だったのだろうか。でもあの映像が僕に与えたあまりにも鮮明な印象は、到底そうは思えなかった。立ちすくむ僕の目の前で同じく立っていたカイザーががっくりと膝をつき、次いでその場に崩れ落ちる。

「お兄さんっ!」
「カイザー!」

 翔と2人で駆け寄ると、カイザーはよほど痛むのか心臓の位置に手を当てて苦しそうに息をつきながらも、それでも満足げに笑っていた。

「……清明、お前もあれを見たのか?」
「お兄さん、喋っちゃだめだ!今すぐ鮎川先生のところに……!」
「そうだろう、お前も確かに見たはずだ……」

 翔の言葉も耳に入っていないかのように、熱に浮かされたような調子で喋りつづけるカイザー。じゃあやっぱりカイザーもあの光景を、僕と同じあの未知なるサイバー・ドラゴンを見ていたんだ。小さく頷くとそれに満足したのか、胸にやっていた手を何かを掴み取ろうとするかのように星空へ伸ばす。震えながらもその手を握りしめ、さらに声を絞り出す。

「俺は見た、まだ見ぬサイバー流の進化、その更に果てを!サイバー・ダークネス・ドラゴンは、確かに裏サイバー流の境地かもしれない。だが、表サイバー流にも進化の道は残されている!あの1瞬の光の中で俺は見た、瞬間(ノヴァ)永遠(インフィニティ)となる様を!」

 握りしめた手を緩慢な動きで自身の腕に持っていき、今にも気を失いそうな中で自らのデッキを取り外す。どうにか掴んだそれを、自分を抱き起す翔に向けて差し出した。

「お兄さん、これは……?」
「翔、俺のデッキはお前に託す。次世代のサイバー流を見つけるのは俺ではない、ここからはお前の仕事だ。頼ん……だ、ぞ……」

 それだけ言ったところでついに力尽きたのか、翔の手の中で気を失うカイザー。手の空いた僕が鮎川先生を呼びに行かなくちゃいけないんだろうけど……駄目だ。さすがに、今のデュエルで精神力を使い果たしたせいでこれ以上はちょっと動けそうにない。地面に大の字に倒れると、頭上には満天の星空が見える。
 カイザーの掴もうとした新たな可能性の光も、この中のどこかにあるのだろうか。そんなことを考えながら、静かに意識を手放した。 
 

 
後書き
最後のは別にフラグじゃないです。サイバー流に残された新たな可能性、使うことは叶わなくてもちょっと見るぐらいなら、ね?みたいな。
別に意識してきたわけではないのですがヘルカイザーのデュエルは毎回タイミングを逃してばかりで全然描写できなかったので、こうして1度でもがっつり動かせたのは割と満足です。清明も満足してるでしょう……と言いたいところですが、なんか卒業デュエルの時より実力差がひどくなってませんかねこの2人。なんで霧の王出すまで1ダメージも通せなかったんだ主人公。 
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