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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン81 邪魔の化身とラスト・『D』(邪)

 
前書き
前篇です。書きたいシーン全部詰め込んだらいつもの倍とかいうドン引きする長さになったので急遽分割。いつもと同じペースでいつも以上に時間消費してるのに、いつまでたっても書きあがらないとかいう大変貴重な経験でした。

前回のあらすじ:イカサマに手を染め、勝ち試合を放棄した万丈目。引き換えに人気は出たようだが……?原作の流れまんまじゃんとか言わない。 

 
「……なにこれ」

 僕の目の前には、大量の雑誌がある。どれも表紙にドヤ顔の万丈目……いや、着ぐるみ着用のおじゃ万丈目がどどーんと様々なポーズを決めた状態で写り、大文字で特集タイトルが綴られている。『君の心におジャマします―――大型新人、おじゃ万丈目の素顔に迫る』『デュエリスト対談「おじゃ万丈目」』『おジャマショック到来!?LVモンスター品薄相次ぐ』『ファン必読!おじゃ万丈目、今月おジャマするスケジュール一覧』『怒涛の新連載!「3匹のおジャマ」』『万丈目グループ、株価爆上げ!?超上流へと「おジャマします」』『下着販売メーカーも嬉しい悲鳴!?花柄赤パンツ売上前年度300%増』などなどなど……なんかもう凄いね、うん。
 雑誌の束をいったん脇にどけ、テレビをつけるとちょうどニュース番組がやっていた。

『視聴者の皆さんおはようございます、KCデュエリストニュースの時間がやってまいりました。本日のゲストは今話題の彼、おじゃ万丈目さんです!』

 ……知ってた。この万丈目バブルとでもいうべき現象はあの十代とのデュエルからかれこれ1週間経った今でも衰える兆しすら見えず、それどころか日が経つにつれますます加熱しているような節さえある。もちろん友人として、僕も素直に喜びたいところではあるのだが……どうにも、そんな気分にはなれないでいた。
 もちろん、その原因はわかっている。あの十代とのデュエル、ラストターンの攻防。土壇場で勝負を捨てた万丈目のことを十代は見限ってしまったらしくあれ以来世間の流行にもどこ吹く風、万丈目のまの字も口にしたことはないが、僕はまだそこまで割り切れそうにはない。
 とにかく、もういっぺんでいいから彼に直接会いたい。万丈目は本当に、勝負を投げ出してウケを狙うほどの色物としてやっていくつもりなのだろうか。それならそれで、そんな生き方も彼の人生なんだろう。その覚悟を決めたうえでその道に飛び込んだのなら、僕個人として何か言う権利はない。ただ、それでも最後に本人と会って話をしてみたかった。この話、どうもまだ何か裏がある気がする。
 それとも僕がそう思いたいだけで、単に現実を見れていない事の表れなのか。だとしたら、やっぱりそれは悲しいものだ。

「遊野さーん、宅配が届いてますよー」
「はい?」

 レッド寮のうっすい壁を通じて聞こえてきた声に思考を中断され、ドアを開けて声の主を確かめる。名前は覚えていないけれど、顔なじみのアカデミアの事務員さんだ。その手の中には、ごくシンプルな小包が1つ。

「……僕に?」
「今日の便で朝一に届きましたよ。じゃあ、この紙にサインお願いします」
「はあ、どうも……?」

 僕に荷物なんて、誰だろう。親父……なわけないし、童実野町に友人なんて呼べる生易しい関係の奴はいない。
 今でこそ海馬コーポレーションが睨みをきかせているおかげで少しはマシになったらしいが、僕が子供時代のあの町の治安と民度はそりゃあもうひどかった。そんなところに母親を事故で亡くしたケーキ屋の息子だなんて差別点の塊みたいなガキが放りこまれたもんだから、常にターゲットを探していた連中からしてみればさぞかし鴨がネギ背負ってきたように見えただろう。親無しだの片親だのケーキ屋だのと散々にいじめられ馬鹿にされ、それでも生きるためにもがいているうちにめきめき鍛えられて、喧嘩ばかり強くなっていったものだ。あの時は特に意識していなかったけれど、毎日のように喧嘩騒ぎを起こしては素手だったりその辺の石ころや木の枝だったり、あげくの果てには工事現場の鉄パイプまでちょろまかしては数人単位で返り討ちにしていた僕も客観的にみるとかなりの不良だったのだろう。
 ま、今となってはもはや昔のことだ。それに、あの経験もそう悪いことばかりではない。ダークシグナーになってから著しく底上げされた身体能力は、あの時期に少しでも体力消費を抑えて効率的に逃げ回ったり隠れては不意打ちしたりといった体の動かし方を頭に叩き込んでおかなければ絶対に使いこなせなかったろう。
 とと、つい昔のことを思い出してしまった。そう愉快な記憶でもないし、なるべく頭の片隅で放置しておきたかったのに。それはともかく、今はこの小包だ。

「箱の中身はなんじゃろな、っと。カード?」
『うわ~ん、清明のダンナ~ッ!』
「!?」
『へ?……きゃんっ!』

 包みを解いた瞬間、見えてきたのはデュエルモンスターズのカードの裏面。何気なく拾い上げて表にすると、その中から黄色の顔が奇声とともに迫ってきた。咄嗟のことに受け止めてやる余裕もなくさっと身をかわすと、そのまま僕の顔の横をすり抜けて後ろの壁に頭から突っ込んでいく。ベシリ、という嫌な音がして、気を失ったらしいその見慣れた精霊……おジャマ・イエローが床に倒れた。

「イエロー!?なんでここに……」

 手の中に残ったカードも、当然おジャマ・イエロー。精霊憑きということは、どう考えてもこれはもう万丈目のカードだろう。完全にのびてしまったイエローを持ち上げ、とりあえず机の上に寝かせておいた。今のうちに、十代も呼びに行こう。どうせ興味は持たないだろうけど、そのせいで隠し事をしたみたいになるぐらいなら最低限彼の耳にも入れておいた方がいいだろう。

「なあ清明、今聞き覚えのある声が……」
「あ、お帰りー」

 と思ったけど、わざわざ僕が出向くまでもなかった。釣り竿片手にちょうど帰ってきたらしい十代が、ドアを開けてひょっこり顔を出す。

「おジャマ・イエローじゃないか。何してるんだ、こんなところで?」
「そんなもんこっちが聞きたいんだけどね。ほーれ、起きろー」
『う~ん……はっ!』

 もう少し寝かせてやるつもりだったけれど、十代のほうから来たなら話は別だ。カタツムリで遊ぶ時の要領でちょいちょいと触角のような目を突っついてやると、すぐに跳ね起きて辺りを見回す。僕らの顔を認識すると、突然その両目からぶわっと涙が溢れ出した。

『よかった、会えてよかったわ~!お願い、万丈目のアニキを助けてあげて!』
「助けて?万丈目を?」
「どういうことだ?」
『実は……』

 涙ながらにおジャマ・イエローが語りだした話は、なかなかに嫌な話だった。エドのために開発されたという最後のDカードとその紛失、十代と万丈目のデュエルに賭けられていたエドの進退、そしてその全てが現おじゃ万丈目のプロデューサー、マイクの手のひらの上で起きていたこと。
 そういえばエドも、光の結社事件の時にはかなり手慣れた様子で盗聴対策を考えて動いていた。プロの世界ってのは、どうしてこう生々しく嫌な話ばかりついて回るのだろう。それを呑み込んでこそのプロの表舞台、だなんて口で言うのは簡単だけど、なんともスッキリしない話だ。

『……っていうことなのよ。でもマイクってあの嫌な男、用心深くて全然隙がないものだから、アニキもそのカードがどこにあるか探すチャンスもないって……だからオイラがこうやって、小包に隠れてアカデミアまで来たってわけ。お願い、このおジャマ・イエローの顔に免じて、アニキをあのプロデューサーから解放してあげて!』
「事情は分かったけど、そんなこと言われてもな……大体、万丈目はもうこの島に居ないんだろ?俺らのところに来てどうしろってんだよ」
『それについては、え~っと……あったあった、これよぉこれ!』

 十代のもっともな指摘に1瞬言葉に詰まるも、部屋の中を見回してあるものを見つけたイエローがすぐに気を取り直す。そのままふよふよと飛んで行った先には、さっき僕がのけておいた大量の雑誌の束。その中の1冊を指さして、もう片方の手でこっちこっちと手招きする。その本の表紙にはおじゃ万丈目のアップ写真と、その特集記事のタイトル。

「『ファン必読!おじゃ万丈目、今月おジャマするスケジュール一覧』……これ?」
『そう、これなのよん』

 言われるがままにぱらぱらとページをめくると、イエローお目当てのページはすぐに見つかった。横から十代が覗きこんでくる気配を感じながら、予定表とやらの該当箇所を読み上げる。

「えっと……2日後にアカデミアで、我らがデュエルの一番星、おじゃ万丈目対地獄帰りのダークヒーロー、エド・フェニックスによる師弟対決?」
『アニキの話だと、この時にもそのプロデューサーはくっついてくるはずだから、この島についてから試合が終わるまでに何とかしてほしいって。だからお願い、ねっ?』
「そんなこと言われてもなあ……要は、試合中にこっそりその最後のDカードとやらを盗んで来いってことだろ?」

 これだけ言われても、十代はあまり気が乗らないらしい。僕だってタイマンや闇討ちならともかく、盗みになんて手を染めたことはない。
 ないが、そういうことがいかにも得意そうな人は知っている。ただあの人に頼むとなると、別の場所から物凄いしかめっ面が僕に向けられるのは目に見えている。かといって他にあてもなく、気は進まないがため息を1つついてPDFを取り出す。番号を打ち込みながら、イエローに釘を刺しておいた。

「イエロー。今から代引きで送り返したげるから、帰ったら万丈目に伝えといて。これ、いっこ貸しだからね」

 ……なんてことを言ってから、時は流れて2日後。再びやって来たテレビカメラや取材スタッフといった部外者でアカデミアが賑わう中、僕もまた本業に精を出してい……られたら、どれほど儲けが出ただろう。確かにおじゃ万丈目デビュー戦の時にも大々的な売り出しをやったばかりなので今回はスルーしてもよかったといえばよかったのだが、だからといって何もせずに見過ごすのはあまりにもったいない。
 残念ながら、今日は少し勝手が違うのだ。「当日需要はいいんですか?」という葵ちゃんの疑問を振り切ってまで、本日休業の宣言をしたのには理由がある。
 おジャマ・イエローから助けを求められて、はや2日。マイクなる悪徳プロデューサーについてはその道のプロに代わりに頼んでおき承諾も得たのだが、その時からなぜか全く彼女と連絡がつかない。最初の反応が結構乗り気だったからこの件は早いとこ、それも万丈目たちが島に来るより先に片付くだろうと踏んでいただけに、正直この展開は想定外だ。とにかく万丈目とは本番前に話し合っておく必要があると思ったので、本業はすっぱり諦めたのだ。

「万丈目、万丈目ー」
「万丈目サンダー、だ。それよりその声、清明か?」

 普段は更衣室の扉におじゃ万丈目様、と書かれた張り紙を張っただけの控え室の前に立ち、軽くノックして返事も聞かずに即ドアを開ける。放送開始までは、まだ少しある。まだ着ぐるみは着なくていいのか、いつもの黒服姿の万丈目がそこにいた。
 僕の顔を認めて何か言おうとしたのか口を開きかけたのを手で制し、まず謝ろうと頭を下げる。

「万丈目、実は……」
「準、入るぞ」

 まだ話し始めるかどうかのうちに扉が開き、どこかで見た覚えのある2人組の男が入ってくる。その顔を見て、万丈目が息を呑んだ。

「兄さん達、どうしてここに?」
「どうしたもこうしたもない。お前がついに政界、財界の我々に続きカードゲーム界にプロデビューしたと聞いてな、祝いの言葉を言いに来たんだ」

 その言葉を聞いて、僕もようやく思い出した。この2人は万丈目長作と、同じく万丈目長次。僕らの知る万丈目の実の兄だ。財界、政界、カードゲーム界の頂点にこの3兄弟で君臨する事が目標のエリートコンビで、2年前にはアカデミアの買収をかけて万丈目と兄弟対決をしたこともある。その時に顔を見ていたのだから、それは見覚えがあって当然だ。
 それにしてもわざわざ2人そろってアカデミアまでそれを言いにくるあたり、元々の兄弟仲は悪くないのだろう。買収事件のせいか何となく嫌味なエリートのイメージが先行していたけど、この万丈目の兄だけあって案外根は悪人でもないのかもしれない。現に万丈目も、突然の登場の驚きが覚めてからはどこか嬉しそうだ。

「すまない、わざわざこんなところまで来てもらって」
「なに、気にするな。それよりも、お前に渡したいものがあってな。俺たちはデュエルモンスターズについては素人同然だが、万丈目グループの財力を結集してお前にぴったりだと思われるカードを製造したんだ。もっと早くに渡してやるつもりだったんだが、思いのほか開発に時間がかかってしまってな。これならばそのデッキの形を崩さずに入れられるはずだ、ぜひ使ってくれ」
「兄さん……」
「じゃあな、準。俺たちはこの後も他の仕事があるからお前の雄姿を特等席で見ることはできないが、お前のことは応援しているぞ」
「……ああ、ありがとう」

 それだけ言うとやって来たときと同じように、嵐のように2人の万丈目兄は去っていった。万丈目の手元に残された3枚のカードを大切そうに撫で、1枚ずつ丁寧にデッキとエクストラデッキに入れていく。その作業が終わってから、改めて僕の方に向き直った。

「清明、お前がこうして俺のところに来た理由はわかっている。俺もこの数日ずっと観察していたが、最後のDカードはマイク本人が常に肌身離さず持っているらしい。まったく、用心深いことだ」

 そう吐き捨てる万丈目の表情には、兄の前では隠していた焦り、苛立ち、そういったものが色濃く表れていた。だが、それも無理はないだろう。イエローから聞いた話によれば、マイク本人が直接現場に出向いて指揮を執るのは今回がラストチャンス。これ以降彼は仕事を持ってきては裏方から指示を出すことに徹するそうだから、カメラの前で直接罪を叩きつけられるのは今日が最後なのだ。
 万丈目が深く息を吸い、僕の顔を真っ直ぐに見つめる。その目には、すでに硬い意志の力……誰が何と言おうとも聞こうとしないであろう、この男らしい負けん気の強さが宿っていた。

「よく聞いてくれ、清明。今日の試合で奴は俺とエドに途中まで本気で戦わせた後、適当なタイミングで八百長の指示を出すらしい。その時になったら合図を出すから、奴を取り押さえるのを手伝ってくれ」
「そりゃ構わないけどさ。万丈目、でもそれって……」

 今日の一戦は、全国放送の生中継だ。たとえ悪徳プロデューサーの持ってきた仕事でも、エドのネームバリューも相まって全国から注目の集まる大チャンスには違いない。そんな大事な時に、プロとしてはまだ駆け出しの万丈目がアクシデントを自分から起こしにいくというのか。僕はまだプロでもなんでもないからともかくとして、仮にもプロがこれだけ大きな機会を棒に振るなんて……成功しても失敗しても、失うものが大きすぎる。

「皆まで言うな。カードを盗んだのが奴だとしても、元はといえばそれを止められなかったのはエドの付き人だった俺の不始末。本当ならば俺1人で片を付けたいところだが……いつも世話になってすまないな、清明」

 それでもう話は終わりとばかりに立ち上がり、ロッカーから例の着ぐるみを引っ張り出す。もう着替えるから出ていけ、ということだろう。ま、チャクチャルさん並みに貴重な万丈目のデレシーンが見れただけでもよしとしますか。できれば万丈目なんかより女の子、特に夢想やレア度高そうな葵ちゃん辺りの方がよかったんだけどなあ。
 ……なんて考えているとは、まさか万丈目も思うまい。それにしても、こうやって聞くだけですでに穴だらけのプランではあるが、事前の仕掛けがだめになった以上この策に乗るしかない。1度だけ頷いて、控え室を出て行った。





「お待たせしました全国各地のデュエリストの皆さん、デュエルチャンネルのお時間です!今回私たちはなんと、つい先日も訪れた海馬コーポレーションのお膝元、デュエルアカデミア本校へとまたまたおジャマしています!」

 ついこの間も来たレポーターのお姉さんが、またしてもマイク片手にカメラに向かって元気にしゃべる。あの人も、まさかこんなすぐにまたここに来ることになるとは思わなかったろう。と、ここであの時と同じように、あざとく耳に手を当てて体を傾ける。

「……おやおや?おジャマ?そうなんです!なんと今回デュエルを行うのは、つい先日この番組でデビュー戦を捉えたあの大型新人、おじゃ万丈目!対するは最近まさかの電撃引退を果たしたプロデュエリストにしておじゃ万丈目の師、貴公子エド・フェニックス!なんと彼はこの1戦に自らの復活を賭けているとのことですが、これは自らを追い込むことで師弟の情を切り捨て、本気のデュエルをするという決意の表れなのでしょうか!そうだとすれば、おじゃ万丈目にとっては何と凄まじい試練となるのでしょう!」

 なるほど、エドの引退をそう絡めてきたか。感心しながら見守っていると、デュエル場の両端から今日の主役2人がゆっくりと歩いてきた。たった1人でやってくるエドに対し、後ろにいかにも小物そうなスーツ姿の男を控えさせる万丈目。恐らく、あれがプロデューサーのマイクとやらなんだろう。

「両者ともに気合は十分、一触即発の雰囲気が漂っております!もはや2人に言葉は無用、ということでしょうか!それでは私も、もはや語ることはありません!視聴者の皆さんとともに、このデュエルを最後まで見守っていきましょう!」

 カメラの死角になる位置で、やや体より大きめな上着を羽織って帽子をかぶりマスクをつけた上に眼鏡までしているせいで表情どころか性別すら読めないのスタッフらしき人が自分の手首をこれ見よがしに叩くジェスチャーをする。そのまま片手を大きく上に挙げ、開いた指を1本ずつ折りたたんでいく。あれが、本番のカウントダウンがわりなのだろう。5……4……3……。

「そこまで堕ちたか、万丈目……!」

 神経を集中させていた僕だからかろうじて聞き取れた程度の小声で、エドが苛立ちを見せる。多分、八百長の存在がエドにも伝えられたのだろう。間違っても試合を断られないように、こんなギリギリになるまで伝えない。効果的かもしれないが、やり口がいちいち汚い。2……1……。

「「デュエル!」」

 カウントダウンを終えたスタッフが、相変わらずカメラの死角を縫って足音を殺し後ろに引いていく。撮影の手伝いでもするのかと思ったら、万丈目陣営のすぐそばまで歩いていきそのまま観戦モードに入ってしまった。随分くつろいでいるけれど、撮影とかいいんだろうか。
 そんな動きには誰も気づかず、ついに2人のデュエルが始まった。万丈目の言葉通りなら、少なくとも今はまだ2人とも本気で戦うはずだ。

「僕の先攻だ!魔法カード、デステニー・ドローを発動。手札のドレッドガイをセメタリーに送ることで、カードを2枚ドローする。モンスターをセット、さらにカードを2枚セットしてターンエンドだ」

 エドにしては大人しい立ち上がりで、守りを固めるだけでターンが交代する。だが万丈目の着ぐるみに包まれた表情には、ひとかけらの油断もない。

「俺のターン、ドロー!魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動!手札のモンスター1体をコストに、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚する。来い、カオス・ネクロマンサー!」
「あーっと、おじゃ万丈目、またしてもデッキを変更したのか?カオス・ネクロマンサー、あれは墓地のモンスターの数により攻守を変動させるモンスターです!ですが今のおじゃ万丈目の墓地には、たった今コストとして墓地に送った1体しかモンスターが存在しないぞ!?」

 カオス・ネクロマンサー 攻0→300

「カオス・ネクロマンサー……」

 確かに、レポーターのお姉さんに見覚えはないだろう。あの時万丈目はただのいち生徒だったのだから、あるわけがない。だけど、この学園にいる僕らは知っている。あれは万丈目がかつて1度だけ使用した縛りデッキ、【攻撃力0】において逆転の切り札となったカードだ。
 あれ以来使ってこなかったあのカードをここでデッキに入れてきたということは、その意味するところは1つ。万丈目はこの1戦、自分の持ちうるすべての戦術を使って実力でエドに勝とうとしている。
 ……負けるな、万丈目。エドにだけじゃない、この決してきれいごとだけじゃないプロデュエリストの世界に、それを象徴するあのマイクなんかに、負けるな、万丈目。

「カオス・ネクロマンサーをリリースして、アドバンス召喚だ。来い、アームド・ドラゴン LV5!」
「出ました、おじゃ万丈目の切り込み隊長!アームド・ドラゴンの咆哮が、再びこのアカデミアに轟いたあっ!」

 レポーターお姉さんの言葉通り、アームド・ドラゴンが吠える。だがその体が着地するかしないかのうちに、いきなり光に包まれた。

 アームド・ドラゴン LV5 攻2400

「これだけではないぞ、エド。魔法カード、レベルアップ!このカードの効果により、本来の条件を無視してLVモンスターのアームド・ドラゴンは進化する!」

 アームド・ドラゴン LV7 攻2800

「おじゃ万丈目、いきなり最上級モンスターを特殊召喚しました!レベルアップ!を用いての奇襲戦法、まさしくLVモンスターの強みを最大限に生かしての上級戦術です!」
「攻撃力2800、か」
「バトルだ、アームド・ドラゴン。セットモンスターを粉砕しろ、アームド・バニッシャー!」

 わずか1ターンで現れたLV7が、剛腕をエドの眼前に叩き付ける。1瞬だけレイピアらしき武器を手にした仮面の人型モンスターが見えた気がしたが、すぐにその姿もかき消えた。

 アームド・ドラゴン LV7 攻2800→??? 守700(破壊)

「この瞬間、バトルで破壊されセメタリーに送られた幻影の魔術士のエフェクト発動!デッキから攻撃力1000以下のヒーロー1体を、守備表示で特殊召喚する!カモン、ディフェンドガイ!」

 アームド・ドラゴンに張り合うかのように、煉瓦の体を持つ巨漢のディーヒーローがあまりの重さに砂埃を巻き上げて着地する。片膝立ちになるその姿はまさに鉄壁の盾で、いかなる攻撃も通さないとの気概が強く伝わってくる。そして実際その守備力は、レベル4の下級モンスターとしては高いを通り越してもはや異常の域だ。

 D―HERO(デステニーヒーロー) ディフェンドガイ 守2700

「そのモンスターを起点に守りを固めるつもりだろうが、甘いぞエド。メイン2に移行してアームド・ドラゴンの効果を発動!手札のモンスター1体を捨てることで、そのカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ相手モンスター全てを破壊する、ジェノサイド・カッター!」
「おじゃ万丈目の捨てたあのカードは……攻撃力1000、黒蠍-茨のミーネ!一方エドの繰り出したディフェンドガイは守備力こそ2700を誇りますが、攻撃力はわずかに100!これはおじゃ万丈目、先の先を見越しての容赦ない追撃だーっ!」

 アームド・ドラゴンが腕を振り、三日月形をした光のカッターを連射する。顔色一つ変えないエドをよそにディフェンドガイめがけてまっすぐ飛んで行ったそれは、しかしその巨体に到達する寸前で見えない壁に阻まれたかのように明後日の方向へ向きを曲げる。
 万丈目の舌打ちが聞こえた。エドの場で、1枚のカードが表になっている。

「だがアームド・ドラゴンのエフェクトには、致命的な弱点がある。それは裏側守備表示のモンスターに対し、その効果は何の意味もないということだ。速攻魔法、皆既日触の書を発動!全フィールドのモンスターを裏側守備表示とするこの効果なら、アームド・ドラゴンも空振りだな」
「なんとエド・フェニックス、アームド・ドラゴンの効果の裏を付いた!おじゃ万丈目、これでは完全にコストの払い損だ!これこそが新人のおじゃ万丈目と、プロとしての経歴も長いエド・フェニックスとの実戦経験の差だというのでしょうか!?」

 いや、一概にそうとも言い切れない。確かにディフェンドガイの破壊こそ失敗はしたが、見方を飼えれば伏せカードを使わせたともいえるし、アームド・ドラゴンが低い守備力を晒してしまうのはともかく手札コストの損失に関してはそこまで痛手でもない。ただ手札を無駄に捨てただけならともかく、皆既日蝕の書には強力な性能と引き換えにそれなりのデメリットもあるからだ。

「逃がしたか。ならばカードを1枚伏せ、これでターンエンドだ。そしてこのターンのエンドフェイズを迎えたことで……」
「……皆既日食の書のもう1つの能力により、お前のアームド・ドラゴンはリバースされる。そしてその数1体につき1枚、お前はデッキからドローすることが許される。だが、ただでというわけにはいかないな。永続トラップ、便乗を発動!このカードは、相手プレイヤーがカード効果によるドローを行った時にのみ発動できる」

 万丈目の言葉の後を継ぐように、説明の後半をエドが行う。だけど、便乗か。あのカードは確か、これ以降万丈目がカード効果によるドローを行うたびにエドもまたカードを2枚引くようになるカードだったはずだ。恐らく、本来は表側守備表示だと相手にドローさせるデメリットの発生するディフェンドガイとのコンボで使う予定だったのだろう。万丈目の予想外の猛攻に、このターン中に便乗を発動するためには皆既日蝕の書を切らざるを得なかったというところか。
 万丈目も同じ結論に至ったらしく、少し嫌そうな顔こそしたもののすぐに気を取り直す。

 ???→アームド・ドラゴン LV7 守1000

「便乗……まあいいだろう、この1枚は引かせてもらうぞ」
「このわずか往復1ターンの間に、目まぐるしく戦況は変化しております!しかしアームド・ドラゴン、その守備力はわずか1000!これはおじゃ万丈目にとって、かなりの痛手と言えるでしょう!」

 おじゃ万丈目 LP4000 手札:1
モンスター:アームド・ドラゴン LV7(守)
魔法・罠:1(伏せ)
 エド LP4000 手札:2
モンスター:???(セット・ディフェンドガイ)
魔法・罠:便乗

「僕のターンだ。魔法カード、カップ・オブ・エースを発動。このカードは発動時に正位置か逆位置かをランダムに決定し、正位置なら僕が、逆位置ならお前が2枚ドローする。さあ万丈目、この回転を止めてみろ!」
「……ストップだ」

 かつて斎王も愛用していたドローソース、カップ・オブ・エース。あの時は斎王自身の能力も合わせることで実質3枚積める強欲な壺となっていたが、今回はその恩恵もなく、真の意味でのギャンブルカードになっている。エドの頭上で回転するカードが、万丈目の声によりゆっくりと停止した。

「……あーっと、おじゃ万丈目、逆位置を引き当てた!さすがの運の強さ、やはりこれが持っている男、おじゃ万丈目の実力なのでしょうか!」
「当然だ。エド、2枚のカードを引かせてもらうぞ」
「構わないさ。ただしこの瞬間便乗の効果により、僕もカードを2枚ドローする。さらにもう1枚、2枚目のカップ・オブ・エースだ」
「……ストップだ」

 再びエドの頭上で回転するカードに、万丈目がストップをかける。だが万丈目の強運も2度は続かなかったらしく、今度は先ほどと真逆の位置で停止した。

「残念だったな、これにより今度は僕だけがカードを2枚引く。デステニー・ドローを発動。手札からドリルガイをセメタリーに送り、さらにカードを2枚ドロー。ディフェンドガイを反転召喚し、V・HERO(ヴィジョンヒーロー) ヴァイオンを召喚!そしてヴァイオンは召喚に成功した時、デッキからヒーロー1体をセメタリーに送ることができる。行け、ダイハードガイ!」

 ???→D-HERO ディフェンドガイ 攻100
 V・HERO ヴァイオン 攻1000
 
 便乗とカップ・オブ・エースのコンボにより、回転がどちら向きに止まろうと必ず2枚のドローをするという結果を導き出したエド。その潤沢になった手札から召喚されたのは、なんとEでもDでもない新たなる種別のヒーロー、ヴァイオン。まさかヒーローつながりということ以外にシナジーの無いカードが入るわけもないし、恐ろしいことにディーヒーローは今なおエドと共に進化を続けているらしい。となると、次に何が出てくるのかはもはや本人以外の誰にも予想がつかない。
 そして今回エドのとった戦術は、新たに手に入れた力の解放だった。

「万丈目、まさかお前がこのカードの初陣を飾る相手になるとはな。ヴァイオンのセカンドエフェクトによりセメタリーのダイハードガイを除外することでデッキから融合を手札に加え、そのまま発動する。場のディーヒーロー、ディフェンドガイと闇属性モンスター、ヴァイオンの1体を素材として融合召喚!鉄壁の意思もつ英雄よ、運命すらも幻惑する英雄よ。地獄の底にて結集し、仇なす者に致命を与えよ!カモン、ディーヒーロー、デッドリーガイ!」
「エド・フェニックス、なんとここで融合を使用!これまでのE・HEROから現在のD-HEROにデッキを変更して以降、初となる融合召喚ですっ!一体いかなるモンスターが現れるというのでしょうか!」

 ディフェンドガイとヴァイオンが飛び上がって空中で混ざり合い、以前見たディストピアガイともまた一味違う第2の融合ディーヒーローとなる。スマートではあるが無駄なく筋肉のついたしなやかな身体が青く見えるのは、そんな色のスーツを着ているからではない。人型こそとってはいるが、明らかに人外であることを示す濃い藍色の肌には骨とも金属ともつかない材質の無数の棘が静かに光り、その両腕の先にある5本の指の先からは、血のように紅い捕食者の爪が伸びている。肌の色と同じ、暗い藍色のマントに全身を包んだ中でひときわ目立つ、どこか泣いているようにも見える醜悪な顔の眼の奥で、静かな知性を湛えた眼光が瞬いた。

 D-HERO デッドリーガイ 攻2000

「デッドリーガイ……?」
「まあそう慌てるな、すぐにこいつのエフェクトも見せてやるさ。だがその前に魔法カード、死者蘇生を発動。セメタリーに眠るドリルガイを攻撃表示で復活させる」

 デッドリーガイの横に、以前アモン戦でも見せた全身からドリルをこれでもかと生やす新ヒーロー。確かあのカードには場に出た時に手札から下級ディーヒーローを特殊召喚する効果もあったはずだが、今回はその効果を使わないようだ。

 D-HERO ドリルガイ 攻1600

「さて、待たせたな。デッドリーガイのエフェクトを使わせてもらう。互いのターンに1度ずつ手札を1枚捨てることで、デッキからディーヒーローをセメタリーに送る。その後僕の場のディーヒーローは、このターンの終了時までセメタリーに眠るディーヒーロー1体につき200ポイントの攻撃力を得る!」

 デッドリーガイが片腕を宙に掲げると、その掌を中心に紫色の人魂が1つ、また1つと浮かび上がる。その数は合計4つ……仮にあの人魂1つが墓地のディーヒーロー1体を表しているのだとすれば、先ほど捨てた手札コストも何らかのディーヒーローなのだろう。

 D-HERO ドリルガイ 攻1600→2400
 D-HERO デッドリーガイ 攻2000→2800

「覚悟しろ万丈目、ドリルガイでアームド・ドラゴンを攻撃だ。そしてドリルガイは守備表示モンスターを攻撃するとき、貫通ダメージを与える」
「おのれ……!」

 D-HERO ドリルガイ 攻2400→アームド・ドラゴン LV7 守1000(破壊)
 おじゃ万丈目 LP4000→2600

「おじゃ万丈目、これは手痛いダメージですっ!このままエド・フェニックス、わずか1ターンで押し切ってこのデュエルを制するのか!?」
「ふざけるな、そう簡単にやらせはせん。リバーストラップ発動、ダメージ・コンデンサー!手札1枚を捨てることで、今俺の受けた戦闘ダメージ以下の攻撃力を持つモンスター1体をデッキから特殊召喚する。来い、破面竜(ネイキッド・ドラゴン)!」

 墓地から万丈目を守るように立ちふさがったのは、万丈目の愛用するドラゴン族専用リクルーターの仮面竜……ではなく、よく似てはいるが別物の竜。まるで仮面竜の仮面が破れたようなその顔の口元からは、呼吸するたびにひゅうひゅうと小さな炎が吐き出されている。

 破面竜 攻1400

「攻撃表示……?」
「そうだ。そして今捨てられたカード、おじゃマジックの効果によりデッキからおジャマ・イエロー、ブラック、グリーンを1枚ずつ手札に加える」

 訝しむエドに対し口の端を釣り上げて笑い、手札コストの損失をチャラにする3枚サーチを行う万丈目。その様子に最初にピンと来たのは、意外にもレポーターのお姉さんだった。

「おじゃ万丈目、デッドリーガイに攻撃力では遥かに劣る破面竜を、なんと攻撃表示で繰り出した!これは戦闘破壊された場合に発動できるリクルート効果を発動するため、ダメージ覚悟でエドの攻撃を誘っているというのでしょうか!?もしそうだとすれば、なんという捨て身の戦法なのでしょう!さあどうするエド・フェニックス、ここであえてこの誘いに乗って戦闘を続けるのか、それともここは引くのでしょうか!?」

 多分あのお姉さんに悪気はないんだろうけど、あんな言い方されたらあのエドが引くわけがない。案の定、罠と知りつつ万丈目の望みどおりに、デッドリーガイが爪を振りかざして飛びかかる。

「いいだろう、万丈目。何を企んでいるかは知らないが、その下手な誘いにあえて乗ってやろう。デッドリーガイ、破面竜に攻撃しろ!」

 D-HERO デッドリーガイ 攻2600→破面竜 攻1400(破壊)
 おじゃ万丈目 LP2600→1400

「ぐっ……この瞬間、破面竜のモンスター効果発動!このカードが戦闘破壊され墓地に送られたことで、デッキから守備力1500以下の幻竜族モンスター1体を特殊召喚する。俺が呼び出すのは守備力1000、メタファイズ・アームド・ドラゴン!」

 デッドリーガイが素手で破面竜の体を深々と切り裂いた刹那、白色の輝きが弾け飛ぶ。その光の中心で先ほどドリルガイの攻撃により傷つき倒れたアームド・ドラゴンが、ドラゴン族という枷から解放されて更なる高みへと幻界突破を成し遂げる。

 メタファイズ・アームド・ドラゴン 攻2800

「おじゃ万丈目、大逆転の最上級モンスターです!これはエド・フェニックス、手札に融合1枚しかカードの無い現状ではやや厳しい相手か!?しかしデッドリーガイは先ほどのエドの言葉通りならば相手ターンにも効果を使えるモンスター、まだ結果はわかりません!」

 デッドリーガイとメタファイズ・アームド・ドラゴンを間に挟み、エドと万丈目が睨みあう。つかの間の拮抗状態を打ち破り、再びエドが動く。

「僕の手札はこれで2枚。これをそのまま伏せ、ターンエンドだ」
「エド・フェニックス、なんと自分から手札をすべて伏せた!?デッドリーガイの効果は手札コストがないと使えませんが、このままではおじゃ万丈目のメタファイズ・アームド・ドラゴンに攻撃力で敵いませんが……?」

 お姉さんの疑問は、僕ら全員の頭に浮かんだことでもあった。デッドリーガイは、墓地の仲間の数に応じてフィールドにいる仲間の攻撃力の底上げを行う。なのにここでその効果を使うための手札を消してしまえば、素の攻撃力だけではメタファイズの攻撃力に追いつけない。いくら伏せカードが2枚あるとはいえ、発動前に除去されるリスクも考えればその両方を伏せることが良手とは思えない。
 だがターンを譲ったエドの表情を見て、すぐにその狙いが分かった。エド・フェニックスという男には、第一印象だけならクールに見えるもののなかなかどうして熱くなりやすい一面がある。恐らくあれは、先ほどの万丈目に対する意趣返しのようなものだろう。さあ攻撃力を下げてやったぞ、攻撃できるものならやってみろ。そう挑発し返しているのだ。
 そして万丈目も、それがわからないほど鈍くはない。ないが、そこで攻撃しないという選択肢もまた、万丈目にはないだろう。ターンが移り、新たなカードを引く。それを見て少し意外そうな顔になるも、すぐさま表情を引き締めそれを発動する。

「ありがとう、兄さん……速攻魔法、おジャマッチングを発動!」
「おジャマッチングだと……?」
「一体なんでしょう、あのカードは……?私もこのレポーターの仕事を始めてから数年経ちますが、あれは見たことのないカードです!これは、ますます目が離せない展開になってまいりました!」

 おジャマッチング、僕も見たことのないカードだ。プロのエドやレポーターさんですらその存在を知らないということは、あれがさっき万丈目兄から貰っていた3枚のカードの1つということだろう。

「おジャマッチングは手札かフィールドのおジャマカード1枚を墓地に送り、デッキから同名カード以外のおジャマ1体とアームド・ドラゴン1体をデッキか墓地から手札に加え、その後そのうち1体を通常召喚することが可能となる。俺が捨てるカードとして選ぶのは、おジャマッスルだ。出てこい、おジャマ・ブルー!」
『はいな~』

 おジャマ・ブルー 守1000

「さらに、俺の墓地に存在する闇属性モンスターは地獄戦士(ヘル・ソルジャー)、カオス・ネクロマンサー、黒蠍-茨のミーネの3体のみ。最高のマッチメイクを見せてやろう、エド。この条件が整ったことにより、手札に加えたダーク・アームド・ドラゴンは無条件で特殊召喚できる!」

 ダーク・アームド・ドラゴン 攻2800

 メタファイズ化し純白になった片割れとは真逆の進化を遂げた、闇に染まる漆黒のアームド・ドラゴン。これで万丈目のフィールドにはおジャマ・ブルーを中心に、白黒2体のアームド・ドラゴンが並び立つ。そして、ダーク・アームドの効果の恐ろしさは、僕もよーく知っている。

「なんということでしょう!おじゃ万丈目、先ほどの敗北寸前だった状況をひっくり返し、2体もの最上級モンスターを召喚権すら使わずに並べてみせました!恐らく地獄戦士は最初のターン、ワン・フォー・ワンのコストで墓地に送ったものと思われます!」
「ダーク・アームドの効果を発動。墓地の闇属性モンスター1体を除外するごとに場のカード1枚を破壊する、ダーク・ジェノサイド・カッター!地獄戦士を除外し左の、そしてカオス・ネクロマンサーを除外して右の伏せカードをそれぞれ破壊し、最後に茨のミーネを除外してデッドリーガイを破壊する!」
「ならば2枚のトラップ発動、そのどちらも強欲な瓶。そして自身への破壊効果にチェーンして、デッドリーガイのエフェクトを発動!強欲な瓶2枚分によりカードを2枚ドローし、この増えた手札のうち1枚を捨ててデッキのディーヒーローをセメタリーに。さあ、この2枚の効果は通させてもらおうか」

 D-HERO ドリルガイ 攻1600→2600

 モンスターを重点的に狙っていれば理論的にはこのターンで勝負を決め切る事も十分狙えた盤面だったが、さすがに伏せカードを放置するリスクの方が大きいと判断したようだ。3発の闇のカッターが空を裂き、ほぼ同時に着弾して3枚のカードを破壊する。しかし結論から言えば伏せは2枚とも完全なブラフ、結果論とはいえこれは痛い。

「バトルだ、エド。メタファイズ・アームド・ドラゴン、ドリルガイに攻撃しろ!」

 純白の剛腕が光の軌跡を描きながら振り下ろされ、デッドリーガイの死に際のあがきで大幅に強化されているとはいえ元々のステータスが下級モンスター止まりのドリルガイを上から叩き潰す。まずは、1撃!

 メタファイズ・アームド・ドラゴン 攻2800→D-HERO ドリルガイ 攻2600
 エド LP4000→3800

「通ったーっ!エド・フェニックス、この師弟デュエルにおいて初めてそのライフに傷がつきました!しかもまだおじゃ万丈目のフィールドには、その攻撃命令を待つダーク・アームド・ドラゴンが控えております!」
「続けて攻撃だ、ダーク・アームド!」

 待ってましたとばかりに漆黒の剛腕が天を指し、唸りをつけて叩き下ろされる。これで、2撃……!

 ダーク・アームド・ドラゴン 攻2800→エド(直接攻撃)
 エド LP3800→1000

「おじゃ万丈目、ダブル・アームド・ドラゴンによる怒りの反撃です!エド・フェニックス、いまだその闘志は衰えてはいませんが、2人のライフポイントはこれで逆転いたしました!」
「カードを1枚伏せる。さあ、どう……うん?」

 ここで何か言おうとした万丈目が急に訝しげな顔になり、言葉を途中で切る。それと同時にエドも表情が一変し、露骨に不愉快そうなそぶりを見せる。まさか、そう思ったところでほんのわずかに客席の方を向いた万丈目と目が合い、そこで予感が確信に変わる。 
 

 
後書き
後半へ続く。 
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