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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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第百三六幕 「アニンバイテッド・ゲスツ」

 
 ここまでは計画通り!!……と格好つけてはみたものの、ぶっちゃけ状況はかなり良くない。早速曼殊沙華の銃身がプスプスと煙を上げている。強制量子化のせいでバレルに亀裂が入ったまま無理やりぶっ放したので、あとはこん棒としてしか使えない。

 ひとまず、突っ込んで捕まったのは本当に作戦だ。拘束する装備を持っているかどうかは分からなかったけれど、目の前に戦闘能力を持ったISが来れば狂人であってもそちらに目をやるはずだ。なので拘束してきて完全に注意が逸れたのはむしろラッキーに近い。
 まぁ、その後の全く容赦のない攻撃で既にラファールのエネルギーが3割弱しか残っていないという大問題もあるけど。あのIS、完全にバリア削りに特化しているのかもしれない。クローに捕まると継続的にエネルギーを削られるし、踵の大口径弾の威力がヤバイ。多分腕にも同じタイプの仕掛けがあるのだろう。

「仕込まれていたのがパイルバンカーだったら死んでたんじゃ……」
『あの構造でパイルバンカーは反動にクローが耐えられませんし、姿勢制御に無理が出ます。大口径弾の方が合理的だったのでしょう。なお、踵弾は43mmサボットスラッグ弾。至近距離での発砲を前提としているため距離を取れば威力が大きく減退しますが、捕まれば先ほどの通りです』
「……断腸の思いではあるけど、ラファールのバリアが切れたら瞬時にアルキミアを展開するっきゃないか」

 実は外装は外付けで分離したら無事な本体が出てくるというのはスパロボではよくあること……イカンイカン、また電波拾ってる。現行ISで最強クラスのアルキミアなら性能でゴリ押しできるかもしれないけど、あのISは一度噛みついたら離れないすっぽん的な要素があるからアルキミアでも油断禁物。さっきの量子化回避も何度も通じるものじゃないし。

 そして、曼殊沙華の直撃とはいえ銃口が破損した状態での発射なため収束率が甘く、そして相手ISは競技用設定ではない。痛手にはなったろうが、断然戦闘続行可能な銀色のISが海上に姿を現した。

「あはっ、貴方ISを違法改造でもしてるの?私の『ヴェルテックス・プレダートルス』の拘束から逃げ出したのは貴方が初めてよ?」
「まぁホラ、縛られるのは趣味じゃないんで。フェザーなんで」
「そうなんだぁ。ずるいなぁ。ベルーナの為にそんなに頑張るの?……ずるいなぁ」
「ずるくないよ。やることやってるだけだよ」
「それがずるいんだよね……何にもしてないくせにさぁ、たまたま一緒の部屋になっただけでさぁ。ベルーナってそうじゃないのよ?」

 顔は笑ってるけど、目はこっちを見ているけど、心の焦点が合っていない。そのまま彼女は手に持ったライフルを前に向け、淡々と発砲する。円状制御飛翔(サークルロンド)で距離を取りながらこちらもストーム・オブ・フライデーを発砲。ただ、地上に銃口が向かないよう誘導してだが。

 せめて海岸沿いだけでも民間人の避難が終われば大分戦いやすくなるし、なるだけイタリア軍の到着を待ちながら時間稼ぎをしたい。国際法上は外国の支援っていう線もなくはないんだけど、アドリア海に面した国々はその悉くがIS委員会の非加盟国だ。どう考えてもイタリア軍の到着が一番早い。

 しかもベル君がここに無謀にも乱入してくるかもしれないし、真実とやらがまだモヤモヤしてるし、彼女の不安定な感情がまた地上の人々に向かわないようにしなきゃいけないし……あーもう、考えなきゃならないこと大杉!大杉の悪口はそこまでだ!

 さて問題です。ヤンデレメンヘラクソビッチなルマリーの注意を引き付ける最適な方法は何でしょう?答えは……口プレイデスマッチだ!!

「ベルくんと一緒の部屋になったのは一種運命だと思うんだよねー!結局学園でベル君のこと面倒みられる能力あったの私くらいだしさー!特に織斑君は駄目。致命的に駄目だったね!その辺はどうなの!?」
「じゃあ織斑一夏はベルーナの視界に二度と映れない場所に棄てる必要があるね」

 あ、飛び火した。




 その頃日本。

「はっ!?俺のあずかり知らぬところでものすごく恐ろしい意思決定が為された気がする!?」
「おい一夏、夜に煩いぞ。しかも意味が分からん」
「あ、ああゴメン千冬姉。なんか寒気がしてさ」
「心配するな、お前は風邪をひかん」
「う、うん………うん?それどういう意味で言ってる?」

 


 で、アドリア海上空。

「――という訳でですね、ベル君の正当な保護者はベル君のおじさんと私。このわたし。間違ってもテロリストの貴方じゃないくてわ・た・し~!たわしじゃないよーわたしだよー♪」
「へぇー。ふぅーん。貴方そういう人なのね。性格ブスってやつ?ま、いいけど」
「怒ってる人ってよく自分は怒ってないし気にしてないアピールするよね~」
「はっ……ダッサ。かまってほしいの?」
「いやぁ、知ってるアピールがあんまりにも鼻についたんで立場分からせてやろうかと。まぁ実際問題貴方がベル君の面倒見が出来ると思えないし、ベル君があなたのこと好きになるとも思えないし、現実見つめて素直に諦めたら?」

 なんだろう、口はぺらっぺらに軽く色々言ってみてるんだけど、ヤンデレの人の怒りって普通の人の怒りと違って不協和音みたいな不気味さがある。というか私が「ベル君」って言葉を発するたびにこめかみに青筋が浮き出るから挑発が効いてるのがバレバレだし。
 なお、この間にも攻防は続いている。残りのエネルギーを節約しながら発砲する私と、不気味なほど緩やかに距離を詰めようとしているルマリーとヴェルテックス・プレダートルス。心は挑発に乗ってるけど体は手の内を明かさないつもりか、それともこうして粘っていれば先にこっちのエネルギーが尽き、なおかつイタリア軍はまだ到着しないという計算があるのか。おかげでどんどん口数ばかり増えていく。
 ……エマージェンシーコールは届けた。返答もあった。されどイタリア軍は来ない。やはりこれは何らかの足止めを食らってるとみていいかな。アルキミアの展開はほぼ確定らしい。ちくせう、本当にヤだけど背に腹は代えられぬ。

「ところでさぁ。ベル君と事件の話、まだ途中だったよね」
「知らずに死ねば?」
「10人死んだんだってね」
「そうよ?10人。実質的な犠牲は3人だけど、そんなことも貴方は知らないわよね。ベルーナの隣にいるくせにさ?」

 じゃかり、と彼女のライフルに弾丸が装填される。

「馬鹿な貴方には分からないでしょう?いいえ、馬鹿でなくても分からないわね、訂正するわ。ベルーナと私の決して切れない繋がりは、貴方が数か月間積み重ねたそれとは訳が違うのよ」

 舌の滑りがよくなってきている。肉体的には腕利き操縦者で精神は病んでいるけれど、年相応だ。年相応に自分の存在や理屈を誇示し、自分が上だとマウンティングしたがる幼稚な精神性が抜けきっていない。やがて彼女は、きっと言いたくて言いたくてしょうがなかったであろう言葉を口にした。

「教えてあげる!!私が11歳のときにパパを殺したのはねぇ――」







「ベル君だった。違う?」







「――知ってて隣に、いるっていうの?」

 多分初めてだろう、彼女は唖然とした顔を見せた。そんな筈はない、何故だ、理解できない――私が彼女に向けた感情と同じものが、彼女に浮かんだ。

『……マスター』
『ごめん、何も言わないで』

     ぱちり(・・・)

 別段、知ってた訳じゃない。

 ただ、彼女の言葉の節々には愛憎が見え隠れし、ベル君の本性とかやったことという言葉を使っていた。怒りを通り越した感情を抱くためには、只事では至れない。

 ベル君の過失によって死んだという話かと最初は思っていた。恨むのは理屈では分かる。でもそうであるならば、それは子供のやったことだ。イタリア軍や役人といい周囲といい、そこまで口を噤んでひた隠しにすることとは思えないし、彼女の態度を見ていると予測が少し外れている気がした。

 そして、ベル君の深刻だったトラウマ。暴力に対する、ある時からぴったり止まった恐怖の感情。理屈ではロジカルに並べられない様々な情報を並べているうちに、使徒を倒し敵を襲った「あのとき」のベル君が脳裏に浮かんだ。
 自分のせいで人が死ぬ。なるほどショックだろう。状況によってはトラウマものだ。でもベル君はなんというか、辛い過去と現在の思考が必ずしも一致しない曖昧さがあった。しかも彼はチカさん公認の特異点だ。『そんなもので済む過去なのか』という疑問を感じれば、予測ぐらいは立つ。

 ショックかって?大ショックだよ。ベル君の手が血で染まってたなんて。
 人殺しの面倒見て一緒に寝てたのかって感じたか?感じない訳ないじゃない。
 予測が外れてほしかったかって?言って反応見るまでずっと思ってたし、今もちょっと思うよ。

     ぱち、ぱちり(・・ ・・・)

 人類の大いなる罪、されどアベルとカインの代から途絶えることのなかった『殺人』。
 人殺しは早く捕まれとか、人殺しは死刑になるのは当たり前だとか、人はすぐに言う。
 そんなに言葉にするのは簡単なのに、こんなにも当事者になると苦しい。

 でも、私は平気な顔して頷いた。ハッタリだけど頷いた。

「なんで。なんで。人殺しだよ?未成年じゃなければ終身刑だよ?10人殺して、友達殺して、友達の父親まで殺して、両親に見捨てられて!!そんな人間と一緒にいて平気でいられるヤツなんている訳ないッ!!お前は『しもべ』でもないくせにッ!!」
「平気だよ。平気じゃないけど、平気な顔して私は明日もベル君の寝顔をかわいいなって思いながら優しく起こしてあげるの。それは、何も変わらない。悪いことしたら『めっ』て怒って、反省したベル君の頭を撫でてあげる。おかしい?」
「おかしいわよ!!何で、何で私は『こう』で、何で赤の他人の貴方が『そう』だって!!何でそんな顔が出来るんだッ!!」

 ああ、もう自分でも段々何言ってるか分からなくなってきてるみたい。

 こればっかりは、ごめんね。ずるいよね。分かるよ。

 平均的な日本人の女子高生なら、絶対するっと受け入れられない。葛藤?拒絶?もっと陰鬱としたよくない何かに発展する?やぁい人殺し、次は誰を殺すんだ、とか言ってモデルガン見せつけて、嘔吐するところを見て喜んだりする人もいちゃったりするのかもしれない。

 でも、私はそういうの出来ないと思う。しないんじゃなくて出来ないの。

 だって、一度死んで、40年も意識が連続しちゃってるから。

 もう何もかもおかしくなった後の女だから。

     ばちちちち(・・・・・)

 だから怖いとか嫌だとかよりも先に、「好きだからしょうがない」って諦めが出てしまうの。

 本当、ずるい女だよ佐藤稔は。諦めで好きになるなんて、背徳の愛みたいだ。

「それでもね。やっぱりベル君はベル君だから、しょうがないんだ。ずるくてごめんね」
「う、あ………ああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 立場が逆転した。ルマリーが感情に任せて瞬時加速で真正面から突っ込んでくる。私はそれにかすれたような笑みを浮かべながら、高速切替でロケットランチャー『ジャベリン』を持って迎え撃った。



     ばちちちちちちちッ!!!


「え――?」
「な――!」
『……複合拡散シールド『アルヴァトーレ』自動展開。対閃光、衝撃防御』

 それに気づかなかったのは、結局のところ私の落ち度だったのだろう。先ほどから空間がひずむような、はじけるような音を聞いていたにも関わらず独り善がりに場に酔ってレーイチくんの発言を停止したせいだ。

 だけど、誰が想像できるだろうか。まさか自分たちのすぐ近くに、『数百メートル規模の巨大な光の塊が突然現れ、そして弾ける』だなんて。

 轟音、衝撃、閃光。私は辛うじてISで取れる受け身姿勢をすることしか出来ないままその衝撃に弾き飛ばされた。数度の水面バウンドで全身が軋みを上げ、海岸沿いの崖に激突して崖が陥没し、頭がくらくらし、人生で一番ダメージ受けた日だなぁなんて見当違いなこと考えて――。










「――わぁぁぁぁーーーーッ!?激突する、このままだと崖突っ込むよラウラ!!AICで何とかしてぇぇぇぇーーーー!!」
「馬鹿言うなシャル!!こんな高速移動中にAICなどポンポン出せるか!!逆噴射とPICで間に合わせ――はぁ!?学園のラファールの識別信号!?」
「どええッ!?まさか日本に転移してき――ボグベェッ!?」
「あバっふッ!?」

 私の右の崖にシュヴァルツア・レーゲンが、左にラファール・リヴァイブⅡが、ブロリーに吹っ飛ばされたベジータよろしく崖にめり込んだ。

「なにこれ……いや、なにこれ」
「だ、誰かと思ったら佐藤さんだったか。ということはここはまだイタリアか。いや待て、何故佐藤さんがISを展開している?何をしていたんだ?」
「そういえば途中でイタリア軍の人が管制室となんか言い合ってたけど、もしかして佐藤さんなにかやらかしたの?」
「わからん……全然わからん!」

 状況は、加速度的に混迷してゆく。
  
 

 
後書き
何故二人がと思っている佐藤さんと、何故佐藤さんがと思っている二人。

ヴェルテックス・プレダートルス……イタリア語で「頂点捕食者」。 
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