| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百三五幕 「クラッシュ・パフォーマンス」

 
前書き
月一更新とか言いながら失踪しようとした貴方って最低の屑だわ!でおなじみの作者です。

もしもまだ待ってくれていた読者の方がいたら、もはやなんと詫びればよいか……既に裏情報メモも紛失して一度執筆を諦めたというどうしようもない体たらくですが、脳みその中のメモを頼りに書いています。

そして過去一番ヤベー代物が出来上がりました。
ごめん、これ閲覧注意かもしれません。 

 
 
 これから起きる殺人事件、というのは、いわゆる宣戦布告というか……殺害予告と捉えていいのだろうか。こんな綺麗な女の子から「お前を殺す」と言われても現実味なんか皆無な筈なんだけど、この場に広まる空気が私の安直な印象に「違うな、間違ってるぞ!」と告げている。

 悪意――それは人間にのみ抱くことができる、途方もないまでの狂気。

 考えてみれば私が今まで出会った敵というのは漆黒の遊星G(※ゴキブリです)とか無人機っぽい何かとか同級生とか暴走ベルくんとか……なんというか、相手を殺してやろうという程に強い意志や敵意を持たない存在ばかりだった。
 所謂原作における亡国機業の人みたいな殺人を厭わない人の纏う気配に、私は身が竦んで動けなくなる――とマズイなぁ、と思い、瞬時にISを展開して、最後のガラスをぶち破りその場を逃走した。

「これぞ我が逃走経路!!」
『我がも何も唯の最短距離では?』

 ちなみに展開しているのは特例で学園から拝借出来たラファールちゃんだ。一応ながらトーナメント時代に持たせた武装なんかも入っているが、それなら何故アルキミアを使わないの?という話になる。
 理由は簡単。あれに乗っているのが私だとバレるのが死ぬほど恥ずかしいからです。

 町の空に突如現れ高速飛行するラファール。しかし、不幸なことに、そしてなんとなーく予想出来ていた通り、その飛行に現地の軍より速く追い縋ってくる機影が一つ。姿を確認するより早くロックオン警告。咄嗟にバレルロールで回避した私の眼下を徹甲弾が掠めていく。

「あっぶな……!!」
『敵のIS展開を確認、情報を解析します』

 肝が冷える実弾射撃を潜り抜けてやっとルマリーさんの展開するISの全貌が明かされる。

 そこにあったのは、銀色のインフィニット・ストラトス。
 神聖なる銀は昔から魔除けや毒を見分けるものとして何かと重用されてきた。しかし佐藤さんの瞳に映るそのISは、美しい筈なのにどこか攻撃的な威圧感を発している。

 手に握っているのはISの装飾に合わせてカスタムされたライフルだ。原型はよく分からないが、目を引くのは銃身の上下についた銃剣(バイヨネット)である。もはや銃に剣がついているというよりは槍に銃の機能もつけたと言われた方が納得のいくむき出しの攻撃性が伺える。
 非固定浮遊部位にはチベット仏教の法具であるヴァジュラの形状を想起させるスラスターが付き、全身の装甲がやけに大人しいデザインなのが逆に不気味さを煽る。多分だけど、あれはまだ真の姿じゃないんだと思う。それが証拠にレーイチくんの簡易解析の結果によると装甲のあちこちに「仕込み」らしきものがあるという。
 と、ルマリーさんがわざとらしくオープン回線で話しかけてくる。

「ふーん……教務補助生だからISも持ってるんだ?ずるいなぁ、候補生でもないのに、さぁッ!!」

 発砲音を認識するより早く、なるだけ高度を取りながら回避行動をとる。

(………何の躊躇いもなく本気で発砲してきた。私に優しくしてくれたあの姿は全部演技かぁ、これキッツイ……)

 人に軽い嘘をつかれるぐらいはあるが、完全に此方を騙すつもりで接してきたというのは結構心にクるものがある。これで相手がオータムさんとかスコールさんだと「知ってた☆」とか言って豪快にイジれるのだけれど、これが世界と対峙するという事なのか。ちょっと人間不信に陥りそうだよ。

 しかし、今の何気ない言葉を佐藤さんイヤーは聞き逃さなかった。

(私がIS持ってる事を知らなかった……?っつーことは、私を襲うのは計画通りだけど、臨海学校で仕掛けてきた人たちとは別口ってことかな?とすると、向こうの目算では私がアルキミア持ってるなんて欠片も知らないよね……)

 それは今後札として使えそうだ。思えばこの世界でこっち側が情報アドバンテージ持っているなんて稀有すぎない?
 だが問題もある。ここはイタリア領なのだ。私はベル君護衛の名目でISの使用は許されているが、警告なしの発砲まで行ったルマリーさんは完璧にテロリストだ。今頃早期警戒網に引っ掛かってイタリア軍のIS乗りが現場に急行しているだろう。
 何が問題なのかはっきりしろって?しょうがないなぁ、じゃあ言うよ。

Q.もしもここでIS同士の戦闘が勃発して電磁投射砲や大口径ライフルをぶっ放したらどうなる?
A.(巻き添え被害(コラテラルダメージ)で近隣住民が)死ぬわ。

 そう、間違ってもこの町の中で戦闘などおっぱじめられては困る。今だって敢えてルマリーさんより高度を高く取って飛行することで流れ弾が街に着弾するのを防いでいるのだ。欲しいのは戦闘に必要な場所だ。最低でも海岸、出来ればアドリア海まで出たい。それは後からくるイタリア軍もそうだろう。

 ほかに懸念があるとすれば、イタリア軍に嗅ぎつけられる可能性をルマリーさんが分かっていないとは思えないこと。何か仕掛けられていたら、率直に言ってマズイ。最悪の場合はアルキミアを使う必要も出てくるだろう。

 とにかく飛ぶ。そろそろ海岸に差し掛かる。彼女が私のお尻を追いかけてきてくれれば――と思ったが、やっぱり都合よくいかない。突然ルマリーさんが停止した。訳が分からずこちらもスピードを緩める。

「下、見える?観光客とか地元の人とかわらわらいるの」
「そりゃまあ、ここ観光地だし……」
「反吐が出ると思わない?ゴミ共がさ」

 起伏のない、独り言のような声だった。

「10人死んだんだよ?10人殺したんだよ?それがISが使えるだの美少年だのってなんにも分かってない馬鹿な大人たちが囃し立てて、そんな馬鹿たちを選挙で選んで、自分たちは何もかも忘れたみたいにのうのうと生きてる大人とか、蛆より不愉快なんだよ。観光客はもっと嫌い。思い出の溢れるこの土地に土足で入り込んで、ここで起きた事なんて知りもしないどうでもいいことだと思ってる」
「それは……」

 良く分からないけど八つ当たりじゃない?と口にしようとして、やめる。
 何か、話がマズイ方向に流れている焦燥感がある。刺激するのはまずい。
 彼女の独白じみた言葉が続いていく。

「そりゃ死んだ人のうち7人は唯の屑だし、どこで死のうがどうでもいいんだよ。でもそのうち二人は子供だったんだよ?もう一人は警察官だったんだよ?――パパだったんだよ、私の?」
「ッ!?」

 瞬間、はっきりと感じるほどにどす黒く濁った彼女の負の感情が言葉と共に溢れた。

「気持ち悪い気持ち悪い、みんな気持ち悪い。あんなことを起こしたベルーナを知らないくせに。ああなる前のベルーナを知らないくせに。あの後のベルーナを知らないくせに。知らないくせに知った気になって過去を置き去りにして、新聞の三面記事の端に追いやって!!」
『マスター、いけません!!』
『何が!?』
『ロックオン警告が解除されました!!彼女は『別の場所に撃つ気』ですッ!!』
「見なよ下のゴミ共を。物珍し気にスマホ出してのん気に所属不明ISを撮影なんかしちゃって、人をダシに自分が満足感を得ることしか考えられないゴミはさぁ……」

 彼女の手に持ったライフルが、下から喧噪と共に見上げる民衆へと向いた。
 顔に浮かぶは狂気、そして嘲笑。もはや彼女が何を撃とうとしているかなど考えるまでもない。

「――パーティーの前に片付けちゃおうかぁッ!?」
「――ッ!!」

 殆ど反射だった。
 人生で初めての高速切替(ラピッドスイッチ)を芸術的に成功させた私のライフルから発射された三点バーストの弾丸がルマリーさんのIS非展開部分に命中し、彼女のライフルの銃口が僅かに海へと逸れた。

 瞬間、町と町の隙間のような海に十数個の水柱が立ち上り、間をおいて下がパニックに陥った。

「撃った!撃ったぞ!?どうなっている、パフォーマンスじゃないのか!?」
「イタリア軍じゃないぞ!?片方はリヴァイブだ!!フランスのテロリストか!?」
「おい、どけ!!逃げるぞ!!こんな場所にいたらミンチにされちまう!!」
「どっちが犯罪者だよ!」
「先に撃ったのはリヴァイブだぞ!!」
「馬鹿言いなさんな!!下に撃ったのはあの銀色だよ!!」
「ロドニー!!ロドニー、どこに行ったの!?」

 阿鼻叫喚の民衆たちの頭上で、私は考えることすら忘れそうな程夢中になって瞬時加速で突っ込み、ルマリーさんに肉薄した。

 この人はヤバイ。IS世界でも人殺しを厭わない人はいたが、目の前に出現したこの女は違う。快楽殺人じゃないし、任務だから殺そうとしてるのでもない。心の底から本当に本気で『下にいる連中など死ぬべきだ』という怒りを以てして、人類史上初記録となるであろうISによる民間人発砲を実行した。

 一分一秒も野放しに出来ない。
 何かしなければ、或いは倒さなければ彼女は撃つ。
 私を無視してでも撃つ。撃って地上に血の地獄を形作る気だ。

「ルマリィィィィーーーーーーッ!!!」

 そして、その破れかぶれの特攻は、最悪の形で失敗した。

「やっぱり、そっちから飛び込んできてくれたね?」
『マスター!!これは罠ですッ!!』

 ルマリーのISの非固定浮遊部位からヴァジュラのようなスラスターが突如として射出される。その正体は、クローアンカーだった。ラウラの使うアンカーと違って数は二つしかなく、しかし明確に相手を爪で捕えようとする二つの兵装は驚くほどあっさりと私の全身をリヴァイブごと絡めとった。
 ユウくんの遣うIS用武器『鎌首』をより実践的に構造に取り入れたものだったのだろう。ギチギチと音を立ててクローアンカーがISの装甲に食い込み、体にかかる圧が段々と増していく。

「ぐ、うあああ……ッ!!」
「まさかここまで早く突っ込んでくるとはちょっと予想してなかったな。本当の本当にお人よしのイイコちゃんなんだね、佐藤稔って!もしかして自分の優しさが他の人の優しさになっていつか世界が平和になるとか真顔で言っちゃうタイプなのかな?」
「そ、そこまでじゃないか……な……それに、私も……」
「なぁに?」
「私も……あなたが街を攻撃する可能性は、考えてたし……」
「その結果がこれね。無様な女よ、ねぇッ!!」

 腹部に衝撃。蹴り飛ばされ、しかも飛んだ瞬間にライフルを三点バーストで二回、こちらが撃った倍の弾を叩き込んできた。うわぁ、本当に……さっきまでこの人がいい人だと思っていたっていう現実が果てしなくツライさんだ。涙を出さないように堪えていたけど、ちょっとだけ出ちゃった。

 人間、いったい何があればこんな存在になってしまうのか。私が一番恐れていた「民間人に刃を向ける」という最悪の展開を防ぐ方法は、人身御供ぐらいしか思い浮かばなかったのだ。ラファールの後のアルキミアという保険をかけてなお、こんなにも恐ろしくて辛い。

 撃たれて宙を舞った身体がクローアンカーで無理やり引き戻され、今度は彼女の足が私の腹に押し付けられた。途端に足の装甲が展開されてまたクローが飛び出し、お腹をがっちり固定する。足で相手を拘束する構造――そしてそのかかとに銃口のような穴があることを、私はレーイチくんの解析結果で知っている。

「とりあえず5発!吐いちゃわないようにお気をつけあそばせ?」

 ドガンッ!!とミサイルでも撃ち込まれたような音と共に弾丸が絶対防御越しに腹を抉った。ジャコン、と音を立てて足の踵あたりから薬莢が排出される。立て続けに二発、三発、四発、五発。一瞬間を置き、約束破りの六発目が鳩尾に命中した私は、衝撃に耐えられず胃の中身を吐き出した。

「あーあ、だから気を付けろって言ったのに。人の話を聞かないわね、あなた」
「どう、じで……」
「ん?」
「どうしで……えほっ、私を殺すの……?」

 もう頭がおかしくなりそうだった。ただ、それだけは聞いておきたかった。
 質問に、ルマリーさんはその言葉を待っていたとばかりに歪に微笑んだ。

「あなたがベルーナの隣にいるから。そしてあなたがベルーナを守る者だから」
「……意味、分かんない」
「じゃあ分かるように言ってあげる。あなたを殺したらベルーナの今の三人の友達とやらと伯父も一人ずついたぶって殺すわ。でもベルーナは殺さない。殺さずに死体を一人一人見せてあげて、泣かせて吐かせて叫ばせて心を壊して……私はその壊れたベルーナを愛すの」
「は………」

 もうこれ以上ないと思うほど沈んだ精神が、更に沈んでいくのを私は感じた。
 彼女の言葉は意味が通らない。なのに、彼女が何を言っているのかわかる。それが最高に気持ち悪く、冒涜的で、そして彼を愛すといったルマリーの顔が恍惚に染まっているのが、心底受け入れがたかった。

「あのね、ホルマリンとかベークライトとか使って貴方たちの死体をケースに入れて展示するの。ベルーナは朝に起きて、自分の見た死体は夢だったんだと思ってリビングに降りてくるんだけど、そこに朝ごはんを作って待っている私と、食卓の横にケースを並べておくの。ぐちゃぐちゃになって断末魔の顔だけ残してるあなたたちを見てベルーナどんな顔するかな?発狂しちゃうのかな?失禁くらいはきっとするよね?だから私はそんなベルーナを愛おしく思うの。粗相くらい私が処理するし、脱糞しちゃったって大好きよ」
「……………」
「もう一度目を覚ましたらまた発狂するのかな?それとも自殺するのかな?でも駄目よ、自分の命を自分で散らすなんてそんな悲しいことをしちゃいけないの。だからベルーナのすべてを私がやってあげる。ベルーナの子供だって産んであげるの!名前なにがいいかな?あなたの名前なんていいんじゃない?子供の名前を呼ぶたびに貴方の最期の顔を思い出せるもの!」
「……………」
「――何かいいなさいよ、つまんないわね」

 もう一発、腹部に発砲。胃がめくれ上がりそうな錯覚を覚えながら、私は思った。

 ああ、この人は理由なんて分からないけど心底ベルーナが好きなんだな。

 ああ、この人は理由なんて分からないけど心底狂ってしまっているんだな。





 ああ――こんなヤンデレメンヘラクソビッチにベルくん渡すとか論外だよね。





 私はまるでそれが当然のことであるかのように身体とクローの隙間に手を翳し、高速切替の指定座標をクローとじぶんの隙間に設定した。
 量子化を固形物等が存在する場所で行った場合、安全装置が発動して量子化そのものがキャンセルされる。でもそれは普通のISの話であって、『アルキミア』の話ではない。通常ISと違って特別性のアルキミアの技術を使えば、もっと違う事が発生する。

 捕まることなんて別に最初から知ってたし、何も作戦立ててなかった訳でもないし、このまんまなぶられて殺される気なんてさらさらないし。

 量子化を物質と重なる場所で強制的に行った場合、物質と量子化物が融合して使い物にならなくなるのだが、絶対防御の及ぶ存在だったら別だ、無理やりにでも弾かれる。私は腹を掴むクローの両脇に引っ掛かるよう『曼殊沙華』を展開し――。

 バッチィィィィィィンッ!!!

「な、何をッ!?何をした!!」

 ここで初めて驚愕に目を見開くルマリーさん。彼女の足のクローは曼殊沙華が突然内部で実体化したことで無理やりに弾かれたのだが、そんなこと説明してあげる必要もない。無理やり展開したせいで曼殊沙華の両端が破損して一発撃てば壊れる状態だけどそんなこともどうでもいい。

 私は『発射可能状態で展開した』曼殊沙華のバレルを自由になった手で掴み取り、クイックブーストで無理やり全身に回転を加えながらぶん回す。

「お前みたいな危険人物にベル君お婿に出す訳あるかぁぁぁぁぁーーーーーーーッ!!!」
「へぶーーーーーーッ!?」

 曼殊沙華の銃底をフルスイングで顔面にぶつけられたルマリーさん――いや、もう呼び捨てでいいや。危険人物ルマリーは極めて間抜けな悲鳴をあげながら、海の方へ吹き飛んでいった。そのルマリーさんに向けて機械的に曼殊沙華を発射し、海面でチュドーーーーン!!と大爆発が起きた。

 潮と爆風が吹き荒れて下の人たちが更に混乱しているが、そんなことはお構いなしに私は通信回線をオープンにして威風堂々と宣言する。

「私の目が黒いうちはベルくんには指一本触れさせないんだからね!?」


 ――そうです、時間稼ぎからの不意打ちまで、全ては私の計算のうちです!!
  
 

 
後書き
だから作者が作った筋書きをショートカットしようとしないでくれますか。ウソだろこいつ2年ぶりに書いたのに全然変わってねぇ。ベルくんの過去を耳元で囁かれてもっと暗くするはずだったのに、覚悟決めるの早すぎるんだよ君は。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧