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離れてはならない

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第二章

「下世話な言葉だけれど」
「いや、実際にあの方はだ」
「もてるっていうんだね」
「昔からな。あれだけの美貌だからな」
 ヘリオスは素直にだ。アフロディーテの美貌を褒め称えた。そのうえでだ。
 自分が手に持っているその酒を少し飲んでからだ。エオスにこんなことを言った。
「男が魅了されない筈がない」
「そしてお母さん自身もね」
「その彼等を受け入れているな」
「そうだよね。だから今はね」
「今は?」
「僕のお母さんではあっても」
 それと共にだというのだ。今のアフロディーテは。
「それと共に恋をする女の人なんだね」
「そうだな。今はどちらかというと」
「恋をしているのかな」
「母であっても恋はできるのだ」
 ヘリオスは今一つの真実を述べた。
「そうであってもな」
「そういうものかな」
「そうだ。エオスはまだわからないか」
「ううん、どうもね」
 子供と言っていいその顔でだ。エオスはヘリオスに返した。
「そういうことは」
「君はまだ結婚していないな」
「結婚どころか誰かを好きになったこともね」
 それもないというのだ。これは本当のことだ。
「まだ。そうしたことはね」
「そうだな。だからだな」
「そうしたことってわからないんだよね」
 少し残念そうな苦笑いになってだ。エオスはヘリオスに答えた。
「子供のことも。親でも恋ができるとかね」
「そういうものだ。そしてだ」
「そして?」
「そうしたことは自分が子供を持てばわかる」
 まさにだ。その時にだというのだ。
「だから君も恋をすることだな」
「恋ねえ。恋はよくわからないけれど」
 それでもどうかとだ。エオスはヘリオスに返した。
「愛はね。お母さんに教えてもらったよ」
「愛は、か」
「親子はね。何があっても離れないものがあるってね」
 このことはわかるというのだ。エオスもだ。
「そのことは教えてもらったよ」
「そうなのか」
「そうだよ。このことはヘリオスも」
「わかる。子供がいるからこそな」
「成程ね。それでなんだね」
「そうだ。だからまた言うが」
 ヘリオスの言うことは変わらなかった。ここでもだ。
「君もだ。恋をすることだな」
「そのことを実際に味わってよくわかる様にだね」
「そうだ。是非共な」
「ううん。恋を作ることが僕の仕事だけれど」
 エオスは己の務めから述べた。
「それでも。僕自身が誰かを好きになることはね」
「まだだな」
「ちょっとね。これからはわからないけれど」
 こんなことをだ。エオスはヘリオスと話していた。そうしてだ。
 この宴では楽しく酒を飲みヘリオス達友人と話していた。しかしだ。
 突如として場が騒がしくなった。そしてだ。遠くからこんな叫び声が聞こえてきた。
「大変だ!テューポーンだ!」
「テューポーンが来たぞ!」
「逃げろ!早く逃げろ!」
 この叫び声を聞いてだ。エオスは血相を変えた。そしてだ。
 友人であるヘリオス達にだ。こう言ったのだった。
「まずい、テューポーンなんかが来たら」
「そうだ。我々ではとてもだ」
 ヘリオスもだ。蒼白になった顔でエオスに言う。
「相手にならない」
「どうしよう、やっぱりここは」
 彼等が慌てているとだ。ここでだ。
 伝令の神ヘルメスがだ。駆けながら彼等に叫んで来た。
「ここはゼウス様が引き受けられる!だから他の者は逃げろ!」
「ゼウス様が!?」
「そうだ。他の者は逃げろ!」
 そうしろとだ。ヘルメスは叫ぶのだった。 
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