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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第78話:解らない事があったなら誰かに聞くのが一番早い。でも鵜呑みにするのは危ないよ。

(ラインハット城:プライベートルーム)
コリンズSIDE

謁見の間から自室へと戻った俺達は、ポピーのMH(マジックフォン)をテーブルにセットしてグランバニア宰相のウルフ君へ通信を繋げる。
勿論、父上はMH(マジックフォン)の撮影範囲外に待機してもらって……

『何ですかポピーさん……俺ってば宰相になって凄く偉くなったから忙しいんですよ。他所の国に嫁いだ元姫様の我が儘に付き合ってる余裕は無いんですけどね』
「相変わらず生意気だなキサマ」
MH(マジックフォン)の呼び出し音が鳴って直ぐにウルフ君の姿が現れた。

先刻(さっき)お父さんが来て、コレをお義父様に渡していったわ……アンタこれが何だか分かる?」
ポピーはMH(マジックフォン)に映ってるウルフ君にラーの鏡を見せると、それが何なのかを漠然と尋ねた。
『綺麗な鏡ですねぇ……何かのプレゼントじゃないですか?』

「アンタこれが何なのか知らないの?」
『知らねっすよ……何なんですか、その鏡が!?』
本当に知らないのか、ポピーのしつこい問いに辟易した様子で答える。

「これはラインハットに古くから伝わる国宝のラーの鏡よ」
『へぇ~それが。じゃぁポピーさんは自分を映さない方が良いですよ……化けの皮が剥がれて離婚届を突き付けられるでしょうから』
いや、ある意味ポピーの姿は、今のままが真実の姿だよ。

「うるっさいボケェ!」
『……あれ? ラインハットの国宝は誰かに盗まれたって言ってなかったですか?』
だから君に通信を送ってるんだよ。

「そうよ……その盗まれた物をグランバニア国王が持ってきたのよ。アンタの国に盗人が居るはずよ。誰なのか言いなさいよ!」
『知らねーよ……そんなの鏡を持ってきたリュカさんに聞けば良いじゃんか! あのオッサンは何て言ってるんだよ?』

「……“拾った”の一点張りよ」
『じゃぁ拾ったんだろ! 盗まれたって騒いじゃったからって、無理矢理犯人捜しをするなよな。今更“無くしてただけでした”なんて言い出しにくいだろうけどさ』

「そんな理由で居もしない泥棒を探すか! グランバニアに最近急に居なくなったメイドとかは居ない? お父さんが其奴を誑かして、ラーの鏡を取り返したんじゃないかと思ってるのよね」
『ウチも大所帯だから、メイドや兵士等の入れ替わりは激しいんですよね……リュカさんが誑かすにしたって、それが誰だか特定するのは難しいですよ』

「そっかぁ……」
『お力になれず申し訳ありませんね』
グランバニアのメイド事情に落胆したポピー。
ウルフ君も申し訳なさそうに謝ってくる。

『じゃぁ俺は仕事に戻りますので……』
「うん。手間をとらせて悪かったわね」
通信が切れたMH(マジックフォン)を見下ろし妻の覇気が無くなってる気がする、何の情報も得られなかった所為だろうか。

「どうやらウルフも知らない所でリュカが泥棒を見つけたみたいだな」
確かに……女性関係の事だし、リュカ陛下の独断だったのかもしれないな。
「お義父様は甘いですわね」
先程まで覇気の無かったポピーが、悪魔のような笑みを浮かべて父上に指摘してくる。

「い、いや……だって……」
「やっぱりウルフも今回の件に一枚噛んでる様ね」
「何でそうなるんだよ……ウルフ君は何も知らなさそうだったじゃん?」

「何も知らない男が、私からの通信を事前に待ってる訳ないでしょ! MH(マジックフォン)越しにアイツの居る場所を見た? 誰も居ない完全なる個室で私の通信を受けたのよ……しかも即座に! 呼び出しをして誰も居ない場所まで移動する必要も無く!」

「それって……リュカがラインハットにラーの鏡を返却する事を知ってたって事か?」
「そうでも無きゃウルフの奴は自分の執務室で私の通信を受けたはずよ。現在アイツの執務室には大勢のスタッフが居るのよ……今回の通信と符合しないわよね」

なるほど……リュカ陛下がラーの鏡を返して『拾った』と言い張れば、その真偽を確かめる為にポピーがウルフ君に通信すると予測し、彼は事前に人気の無い場所で待機していたって事か。
呼び出しに応じる早さだけで、そこまで読み取るとは流石だな。

「それらの事を総合すると、お父さんもウルフも私達に今回の嘘に付き合わせようとしてる事が解るわ」
「何だ嘘に付き合わせようとするって!?」
未だに俺も父上もポピーの荒唐無稽さに慣れる事が出来ない。

「これから話す事は私の勝手な推測よ。お父さんもウルフもメイドや泥棒の事を何も言って無いから、私が言う推測を事実として言い回るのはダメよ」
「それは解ってる……ワザとアイツ等も何も言って無いんだろ!?」

「ラインハットで泥棒を働いた偽メイドは、予想通りグランバニアに行き同じ様に偽メイドとして潜入してたと思います。ですが理由は解らないけど、あの2人には正体を知られ捕まったんだと思います」
「捕まった!? ……って事は最近まで身を潜めてたのか?」

「いえ、多分ラインハットを去った後直ぐにグランバニア入りしたと思います」
「しかしラーの鏡が盗まれたと判明してから、今日までで3年以上は経過してるぞ!」
それまでリュカ陛下も泥棒も、何もしてないなんて考えられない。

「そこで重要になってくるのは、お父さんが何時あのメイドに気が付いたかです」
「如何いう事だ? 偽メイドが泥棒を働こうとして気が付いた……そして捕まえてラーの鏡を取り返したんじゃないのか?」

「違うわね……そうだとしたら泥棒に対して何も考えが及んでなかったし、ラインハットに虚偽の報告をする意味が全く無いですからね」
「ではリュからは、あの泥棒に対して何らかの考えを巡らせてるというのだな?」

「そうですお義父様。考えてみて下さい、あの泥棒の能力を……ラインハットに居た期間は半年くらいだと思われますが、その間に誰も疑わないほど職場に溶け込み、消え去った後も誰も容姿を思い出せないくらい目立たない存在であり続けたんです。これって凄くないですか?」

「ま、まぁ……確かに凄いな」
してやられた身としては、泥棒の能力を褒めたくはない。
父上の言葉も途切れがちなのは、その所為だろう。

「って事はですよ……その凄い能力を利用してやろうとは考えられませんか?」
「考えられないよ! 相手は罪人だぞ……それを取り締まる側に協力なんて絶対にしないだろう!」
その通りだ。例え捕まっても、捕まえた奴らの言う事なんて聞くはずがない。

「そこで意味が出てくるのが、ラインハットを立ち去ってから3年以上という期間です」
「何故そんなに間が空いた事に意味があるんだ?」
「俺も父上の意見に同意します。これだけ期間が空いたのは、グランバニアのセキュリティーが厳しかったからだろ」

「ちっちっちっ……チミ達は私の父を解ってな~い!」
人差し指を左右に振って、俺達を馬鹿にするように話す我妻。
その姿に苛つきを憶える。

「泥棒が偽メイドとしてラインハットで働いてる間に、お父さんも何度かこの城に訪れてるんです。そして私のお父さんの特技として、一度見た女の顔は絶対に忘れないという特技があります。我々はメイドの1人として……城で働くその他大勢として、奴の容姿を完全に忘れてるけど、女好きのグランバニア国王は彼女の容姿を忘れる事は無かったんです! 鏡が盗まれた事に気が付いて、お義父様達が居なくなったメイドが怪しいと騒ぎ出してた事もお父さんは知ってましたし、そのメイドがシレっとグランバニア城で働いたから、これを利用してやろうと考えたんだと思います」

「泥棒だと気付いた時に、我が国に知らせるって考えは起きなかったのか?」
「先程も言いましたが、あの泥棒は凄腕です。ラインハットに報告して、犯罪者を引き渡して終わりって事にはしたくなかったんだと思います。泥棒の事を聞いたら、絶対『引き渡せ!』って騒いだでしょ?」

「まぁ確かに言うが、その言い方は腹が立つ」
「事実なんだから我慢して下さい」
「ポピー、リュカ陛下等がラインハットに知らせなかった理由は解ったが、これ程までに時間が掛かった理由はなんだ?」

先刻(さっき)お義父様も言ってましたが、普通に捕まえたんじゃ泥棒も自らの能力をグランバニアに役立てようとは思いません。そこで3年以上という月日を使い、少しずつ泥棒を罠に嵌めたんだろ思います」
「そんなに時間を費やしてか? その間に逃げられる可能性は考えなかったのか?」

「ええ……考える必要は無かったでしょう」
「何故!?」
そうだ何故なんだよ?

「泥棒という存在が厄介なのは、その存在が何処に居るのか判らない事です。居るか如何かも判らない……居たとしても誰なのかが判らない。そんな状態では適切な措置をとれないですし、下手に疑心暗鬼が生じれば泥棒もその隙を突いてくるのです」
「そうか……今回は初めからリュカに正体がバレてたから、そんな厄介さが発生しないのか!」

「そうです。そして誰が泥棒か判っていれば、其奴が欲しそうなお宝情報を断片的に与え、逃げ出すチャンスを潰させる事も出来るのです!」
「ではリュカ達は、何故そうまでして泥棒を取り込みたかったのか? 一体何を泥棒に盗ませようとしてるんだ?」

「もう一度言うけど、これは私の推測よ。私の推測なんだから、今後お父さん達に会っても今回の話をしないでよ」
「随分とクドいな……それは理解してるよ」

「多分お父さんは、あの偽メイドに他国の情報を盗ませるつもりよ……所謂スパイ」
「ス、スパイ!?」
「それは大問題だな!」

「そうよ、大問題なのよ。だからラインハットに嘘を言って、それをグランバニアとしての公式見解にしたのよ」
「そこがまたよく解らんのだが?」

「ですから……ラインハットはグランバニアの公式見解()に付き合い、国宝を泥棒に盗まれた事実は無かったと言う事にするの! 泥棒なんて居なかった……急に居なくなったメイドは、ただ居なくなっただけで何も盗んでなかった。だからグランバニアにも泥棒が流れ込んだ事もないし、何かを盗もうとした事だってない。そういう事にしなきゃならないんですよ」

「う゛~ん……言いたい事は理解出来たが、自国内で起きた事件まで無かった事にさせられるのはなぁ……」
「お義父様、これは重要な事なんですよ! グランバニアは間違いなくスパイを他国に送り込んでるんです。その国が何処だか考えた事ありますか?」

「え……まさか我が国じゃないだろうな!?」
「何でラインハットにスパイなんか送り込むんですか!? この国には『リュカ様と敵対するのなら私(俺)は豪快に寝返ります!』と公言してる姉弟が居るんですよ。意味が無い」

「そう言えばそうだったな……」
「じゃぁポピーは何処だと思ってるんだい?」
「本当に判らないの? 国交が途絶えていたのに、再開させようとしてる国があるでしょ」

「……今ティミーが大使として赴き、先方の大使を国賓として連れ帰ろうとしてる国か!?」
「そうよ。お父さんはあの国の事が好きじゃないんですよ……なのに先方から国交再開の打診が在ったから、渋々だけど外務大臣を大使として赴かせた。万が一にも戦争になった時の為に、あらゆる手立てを打っておくと思いませんか?」

「だがアイツがそこまでするかな? 戦争以前にスパイが居る事に気が付かれたら、それが引き金で戦争に発展しかねないだろう。もしそんな理由で戦争になっても、我が国は援護出来ないぞ!」
「だから今回、泥棒が存在しなかったと嘘を吐いたんでしょ!」

「……………! そ、そうか!!」
「鈍いわねぇ……最初から泥棒(スパイ)が存在しなければ、他国から疑いがかけられてもラインハットだけはグランバニアの無実を断言出来る。勿論これはグランバニアの公式見解を完全に認める事が前提だけどね」

泥棒(スパイ)の事を知っていれば、我が国もホザックから疑惑の目で見られ、格好の開戦口実にされる……それを避ける為には、国宝を盗んだメイド(泥棒)の事を無かった事にしなければならない」
凄く難しい表情で悩む父上。

「そんなに悩む事かしら? グランバニアは最大の友好国で、国王同士が大親友。更に第一王位継承者の嫁はグランバニアの姫。更に更に言えば、この国が混乱に陥った時に最大級の手助けをしてくれたのは現在のグランバニア国王で、その国王が目の前で父親を殺され奴隷にされてしまった原因を作ったのは昔のラインハットだった。リュカ王のちょっとした嘘に付き合うか、自国のプライドと安定の為に恩人を売り飛ばすのか……悩む必要ある?」

「わ、分かったよ……相変わらず嫌な言い方する娘だな!」
「じゃぁ今日ここで会話した事は口外しちゃダメよ。デール様には知っててもらわなきゃならないから、お義父様から言っておいてもらうけど、今この場から泥棒騒動は勘違いだった事になるんだからね!」

スパイを他国へ送り込むという国際問題の前には、自国の泥棒騒動も無かった事にしなきゃならなのかぁ……
王様ってのも大変そうだな。
俺に務まるのか?

コリンズSIDE END



 
 

 
後書き
次話から遂にホザック王国のキャラが登場します。
原作(DQ5)には無かったけど、
あれだけじゃ国家の数が少なかったので、勝手に作っちゃいました。

作者の中では、
あの世界はもっと広い事になってます。
DQ5のワールドマップは、全世界の一部って感じです。
そう、DQ1の世界がDQ2の一部でしか無かったように。 
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