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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第79話:お・も・て・な・し

(グランバニア港)
ギルバートSIDE

グランバニアが誇る蒸気の技術を利用した快適で優雅な蒸気船の旅を終え、私は国交の止まったグランバニアの港へ降り立った。
道中はその快適さに、私も随行の者達も驚くばかりだった……が、港に降りて城下町を見たら、これまでの驚きは些細な事でしかなかった事に気付かされた。

港から真南に見える一際大きなグランバニア城を筆頭に、背の高い建造物が所狭しと建ち並んでおり、そんな町並みを囲むかのように“列車”と呼ばれる蒸気の乗り物が大きな箱形の客車を引いて走っている。

グランバニアへの外遊が決まり彼の国の船に乗り込んでから、私の好奇心(興味)は尽きる事無く、今も目の前を走ってる列車に乗りたくて仕方ない。
ティミー殿下に列車に乗せてもらえないかと頼もうとした時、我々の目の前に大きく美しい白馬に引かれた大人数を乗せられるオープンタイプの馬車が停止した。

「ホザック王国のギルバート王太子殿下ですね。遠路遙々お越しいただきまして恐縮の極み……私はグランバニア王国の宰相を務めておりますウルフと申します。以後お見知りおきを」
馬車から降りてきたのは私などより遙かに若い金髪の美少年で、自らを宰相のウルフと名乗り恭しく挨拶してきた。

「こ、これはご丁寧に痛み入ります……私はギルバート・グラン・ホザックと申します。短い期間でありますが、存分にグランバニアを見学させていただきます故、宜しくお願い致します」
誠意を見せる為、深く頭を下げて挨拶をすると、それに従うかのように随行の者達も頭を下げた。

腹心のマーシャルとノイキスの両名は、私と心同じくしておりグランバニアの宰相閣下に対しても恭しさを欠いてないが、父上の指示で選ばれた残りの随行員4名は、まだ少年としか言えぬ歳の者に対して頭を下げる行為を良しとしてない感があり、小声で文句を言ってるのが私の耳に入ってくる。

年下に頭を下げたくない気持ちも解らないでも無いが、今言うべきで無い事くらいは理解してほしいモノだ……チラリとウルフ宰相の顔色を確認したが、聞こえて無さそうなので取り敢えずは胸を撫で下ろす。だが後ほど叱っておかねばならないだろう。

「皆様方は我がグランバニアの城下町を今すぐにでも見学したいでしょうけど、城では国王が皆様方の到着を待っております。今回、特別にあしらえた馬車でグランバニア城までお連れ致しますので、どうぞお乗り下さいませ」

確かに町並みを見て回りたい気持ちはあるが、一先ずはグランバニア王にお目にかかって、当方の事情を理解してもらわねばならない。
私は随行員に目で合図をし、ウルフ宰相の薦めに従って馬車に乗り込んだ。

見た目もそうだったが、乗り込んで更に実感出来るほど馬車は大きな作りになっており、当方8人が乗り込みティミー殿下と補佐官のリュリュ……それと私を恋敵として敵視してくる護衛官のラングストン殿が乗り込み、我々を迎えに来たウルフ宰相が乗り込んでもまだまだ余裕のある広さになっている。

「レクルト……城へ寄り道せずに向かってくれ」
「はっ閣下!!」
馭者の男にウルフ宰相が指示を出すと、ゆっくりと馬車が動き出す。



(グランバニア城下町)

魔法の力で日が暮れると点灯する魔道灯や馬無しで走る馬車の魔道貨物車など、不思議で興味深い物をウルフ宰相やリュリュから教えられていると、グランバニア最大の建築物たるグランバニア城が間近に迫ってきた。

10キロ近く離れた港から見ても大きさに驚かされていたのに、近付けば尚のこと唖然とする立派な建物……それがグランバニア城だ。
出立前にグランバニアの歴史を分かる範囲で勉強したのだが、私が生まれる以前のモンスターが蔓延る時代に、民を守りやすくしようと時の王が城の1階と地下部分に城下町を作ったのが始まりだったらしい。

現在ではモンスターも昔の凶暴さを持って居らず、城の外に町並みを展開しても危険が皆無になった為、一気に城下整備を行い発展したと聞いているが、昔の名残がそのままグランバニア城の大きさに繋がっている。

「レ、レクルト……ちょっと止めろ!」
「え? あ……は、はい!!」
私がグランバニア城の大きさに圧倒されていると、突然ウルフ宰相が馭者に停止を申しつけ、我等皆が前のめりになりながら停止した。な、何事だ!?

「おい、こら、テメー何してやがる!?」
「あ、ウルフぅ~。お帰りー☆」
「『お帰り』じゃねー! 何してんだよ、こんな所で!?」
「見ての通りお買い物だよ。大事なお客さんが来るから、美味しいシュークリームを買うんだ」

一軒のお菓子屋で買い物をする紫のターバンを巻いた男性に、ウルフ宰相は怒りをぶつけながら問いかけているが、その男性は気にする事無くお会計の列に並び続けている。
一体何者なんだろう?

「そんな事はメイドにでも任せればいいだろ!」
「ダメだよぉ……こう言う事は真心の問題なんだ。それが“おもてなし”の心だよ」
確かに素晴らしい考え方だが、宰相に対しての言葉遣いを気にした方が良いと思う。

「あ、あの……お先にどうぞ……」
「ええ!? 皆もずっと並んでたんだから、ダメだよぉ。順番は守らなきゃぁ」
「ほらぁ! 先に並んでた方々が順番を譲ってくれたんだから、素直に応じろよ! 何か皆さん、すいませんね」

ウルフ宰相の権幕を見た他の客達が、ターバン男に順番を譲る。
だがターバン男は遠慮してしまい、その事でウルフ宰相が更に怒り出す。
順番を譲ってくれてる方々への低姿勢とは真逆の態度だ。

「じゃぁお言葉に甘えちゃおっかな(ニッコリ)」
「さっさと買え、馬鹿!」
何なんだ一体? 何故、彼の買い物が終わるのを待ってるのだろう!?

「さ、32(ゴールド)40(シルバー)です」
「え……そんなに高いの!? 1個お幾ら?」
「は、はい……1個1(ゴールド)62(シルバー)です。それが20個ですので……」
「ありゃぁ……3(ゴールド)しか持ってこなかったよぉ」

「ぜ、全然足りてねーじゃねーか! お前3(ゴールド)じゃ1個しか買えないぞ……20個買おうとした意味が解らん!」
「だぁって僕、お小遣い少ないしぃ」

「あぁもう良いよ!」
イラつきが極限まで達したウルフ宰相が馬車から飛び降りると、ターバン男を押し退けて支払いを済ませしまう。
何故に彼はターバン男にそこまでするのだろう?

「すんません皆さん、お騒がせしまして……ほら、お目当ての物も買えたんだし、アンタも馬車に乗れ!」
シュークリームが20個入った紙袋をターバン男に持たせ、ウルフ宰相は彼も馬車に乗せ込んだ。
乗り込んだターバン男は「こんちわ」と爽やかに我等に挨拶して、当然の如く寛ぎ出す。

「リュ、リュリュ……この方は一体……?」
「何だ君? リュリュの事を呼び捨てにするほど親しいのかい? やっとリュリュも結婚相手が見つかったのかい!?」
ウルフ宰相に対してもだが、姫君のリュリュに対しても遠慮が無い男だな。

「違うわよぉ、もぅ」
「そうですよ。リュリュさんには相応しくないと私は思いますけどね!」
本当にムカつく男だなラングストンは!
コイツもリュリュの事を狙ってるようだが、身分が違うだろうに!

「ギルバート殿下、紹介させていただきます。こちらは私の父……グランバニア国王のリュケイロムであります」
「……は?」
な、なんだと……今ティミー殿下は何と仰ったのだ?

「あ、だからね……私とお兄ちゃんのお父さんなの、この人が」
「済みませんギルバート殿下……お見苦しい所を見せてしまって」
ええ!? ウ、ウルフ宰相も否定しないぞ!

「こ、これは大変失礼致しました!!」
「ん? 何か失礼な言動あった? 僕には見受けられなかったけど……」
た、確かに言動こそ無かったが、ずっと下々の者として見てたから……

「そ、その……ご挨拶もせずに……礼を欠いていたと……」
「いやいや……だって自己紹介もしてないのに、挨拶もないでしょ。全然失礼じゃなかったよ……それともぉ“アホな下郎が居る”とか思ってたのかなぁ?」

「そ、そ、そ、そんなことは決して……」
「大切なお客様なんだから虐めるなよ。まだ規格外の人種に慣れてないんだろうから」
き、規格外って……先程からウルフ宰相も国王陛下に対して失礼だな。

「ラングと一緒に居たのだろうから、多少の耐性は付いてるんじゃないの?」
「リュカさんとラングじゃ規格外レベルが違いすぎるよ。耐性が付いていても役になんか立たない」
確かにラングストンも大概だが、リュケイロム陛下もかなりのモノだ。

「陛下も宰相閣下も、国賓の前である事を意識して下さい」
「そ、その通りですね殿下……失礼致しました」
「え? 僕は意識してたけど……何か問題でも?」

ティミー殿下の厳しい一言にウルフ宰相は頭を下げたが、リュケイロム陛下は気にした様子を見せない。と言うよりも、我々に対する対応は問題ないと思って居るみたいだ。
どういう人なんだ、この方は!?

「陛下……黙ってましょう。もう公式の場なんですよ」
「あら吃驚。公式の場だと王様は(だんま)りの方が良いの?」
「ほら……グランバニア城に到着しました。世間一般の王様らしくして下さい」
「世間一般の王様……? 威張り散らすって事?」

あまりの出来事に戸惑っていたが、気が付けば既にグランバニア城に到着していた。
未だに国王陛下とウルフ宰相は言い合いをしてるが、我等一同も馬車から降ろされグランバニア城の入り口へと(いざな)われる。

「レクルト……悪いけどパトリシアと馬車を戻しておいてくれ」
「はっ……了解しました宰相閣下!」
あの綺麗な馬はパトリシアと言うのか……そんな感想を胸に白馬に視線を向けてると、私の随行員からの感想が聞こえてきた。

「あれが国王だと……この国に攻め込んでも容易く征服出来そうだな」
「全くだ……自ら下郎の如く城下に出てきて、買い物も碌に出来ないのではな」
父上から使わされた随行員4名が、グランバニアの方々には聞こえないような声で話してる。

正直この場で言うべきではないと叱り飛ばしたいのだが、私も同じ感想を持ってしまい何も言えないで居る……
それにティミー殿下が、国王陛下とウルフ宰相を先に城内へ行かせ、我等を先導しようと私の下に近付いてきたので、笑顔を取り繕って対応するしかなかった。

「ではギルバート殿下……皆様を城内に案内したいと思います」
「は、はい。宜しくお願いします」



(グランバニア城)

暫くティミー殿下に従いグランバニア城内を歩いていると、身形の綺麗な女性が1人……我々の側へと近付いてきた。どうやらティミー殿下を含め我々を目的の場所まで案内する役目を担った者の様だ……何処かの貴族令嬢であろうか?

「ティミー殿下お帰りなさいませ。そしてギルバート殿下及びホザック王国の方々、ようこそ追いで下さいました。我がグランバニアは皆様のご来訪を歓迎致します」
「これはご丁寧にありがとうございます」

「ユニ、ギルバート殿下方をどちらにお連れすれば良いでしょうか?」
「はい殿下。皆様方を迎賓室へと案内するように仰せつかってます」
こちらの可憐な女性はユニさんと言うのか……キレイだ。

「迎賓室?」
「はい。この度のホザック王国大使方のご来訪を機に、グランバニア城内に迎賓室を設けました。我が国が誇る宮廷画家等の力作が展示されている部屋にございます」

「なるほど……ではユニ、そちらまで案内をお願いします」
「はい。こちらへどうぞ」
グランバニアが誇る宮廷画家の作品があるとは……さぞかし素晴らしい作品なのだろうな。

「ギルバート殿下……」
私がグランバニアの芸術に期待を膨らませていると、正面を見据えたままのティミー殿下が私にだけ聞こえる声で話しかけてきた。

「先程のリュカ王と宰相の遣り取りですが、余り額面通りに見ない方が良いですよ……殿下の随行員方はリュケイロムを見下してますけど……」
き、聞かれてたのか!? やはりあの場で叱るべきだった……

「そ、そんな事は……「言い訳しなくて大丈夫です。あの遣り取りを見てグランバニアに畏怖の念を持つ者は皆無ですからね」
その通りだが客として招かれた者として、先程の態度は問題だろうに……

「リュケイロムも宰相も、皆様方の意識を操る為に先程のような茶番を演じてるのです。これから国家として交渉をする相手……それがあの様な間抜けだと思えば、皆様方も気を抜いた態度で応じるでしょうからね。ですが次に陛下が現れる時は、威厳に満ち溢れた大国の王者に様変わりしてるはずです。今の内に気持ちを切り替えておかねば、その威圧感に何も言えなくなりますよ(笑)」

そ、そんな事が……
し、しかし……ティミー殿下の忠告は聞くべきだろう。
私はグランバニアと友好的な関係を築いて、我が国の奴隷制度に終焉を与えたいのだから。

ギルバードSIDE END



 
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