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メン・タンク・マッチ:MTM

作者:鷲金
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初動編
  MTM:初動編 第6話:「修練(きょうしつ)」Aパート

 
前書き
メン・タンク・マッチ:初動編の第6話Aパートを掲載開始しました。
初動編は、主人公達がメン・タンク・マッチに参加するまでの話です。

*メン・タンク・マッチ:MTMはまだ未完成の作品のため、全てを一度に掲載することは出来ません。また、各話の修正などで更新が遅れる上、更新期間がランダムで投稿することになります。一応、最終話まで投稿する予定です。
MTMは20話以上の物語を予定しています。  

 
日曜の朝9時頃
今日で23日となる5月は、これから6月に入ろうとしているせいか、
いつの間にか空気の湿度が高くなっていた。梅雨の時期に近づいているせいだろう。少し蒸し暑さも出てきて汗をかきやすくなった。
そんな季節替わりの中、
(あぁ、なんか気不味なこの状況。ハァー)
天桐はそう思いながら心の中で溜息をついた。
今、天桐は矢元、城ノ崎、加埜、早間の5人である場所にいた。
そこは、広い敷地と錆びついたトタンで出来たプレハブの車庫と2階建ての家が建っているだけの寂しい場所だった。その二件共は、凄く古い建物なのか強い風が吹くと多少揺れた。
その2階建ての建物1階にある一室。中は、昔馴染みの学校にあった木製と鉄製のパイプで出来た椅子と机がいくつも並んであり、正面の壁には黒板が付けられてある丸で教室のような部屋だ。
その部屋の中、黒板の前に天桐達5人は並んで立っていた。
5人の表情は、気不味そうだったり、爽やかだったり、微笑みだったり、偉そうだったり、緊張してたりなどと、それぞれ違った。
そんな5人の目の前を、一人の女性が通った。
早間の隣で立ち止まった女性は一回転し黒板の正面を見て、
「はーい、皆注目ね」
と元気な声で言った。
その女性は見た感じ20歳位の若さで天桐より若干背の低い人だった。
「今日からしばらくの間、うちで戦車道の勉強をすることなりました」
その人は、天桐達に手を指し示し
「男子諸君です」
と紹介をした。
天桐達5人を紹介した相手は目の前で腰を掛けている4人の女性だ。
その紹介を受けた4人は、
「え?なんで男が?」
「嘘、男子が戦車道?」
岡野(おかの)さん、これはどういうことでしょうか?」
「・・・」
と驚いた反応を示した。
その4人は、全員同じ学校の制服を着ていて、年齢は天桐達とそれほど差がないように見える。
彼女達の制服を見た天桐達は、それがどこの制服か一目分かった。
それは、天桐達と同じ県内であり、隣町にある岬野女子学園(みさきのじょしがくえん)の制服だからだ。
岬野女子学園は、名前通り女子校であり、生徒数が800人程の規模の学園である。更に、学園艦ではなく珍しく陸地にあるタイプの学校だ。
以前、天桐は岬野の話を聞いたことがあった。創立45年にもなる岬野は、十数年前までは学校は学園艦に存在していて、生徒数が3000人を超えていた。しかし、年々減る入学者による生徒不足と学園艦の老朽化が重なり15年程前に陸地へ移ったとか。それは天桐達の信道高校と同じような理由だ。
「岡野さん、説明して下さい。どうして男子が?」
と天桐達から見て、一番右側に座っている眼鏡をかけた女子が岡野に質問した。
「それは後で説明するからね。それよりも」
岡野は、顔の向きを彼女達から天桐達に変え、
「はーい、男子諸君。皆に、自己紹介してね。右からどうぞ」
と言った。
そこで左端に居た早間から順に
「は、早間です。よ、よろしくお願いします」
「加埜だ」
「僕は、城ノ崎。よろしくね」
「チース、矢元でーす。ヨロシクね」
「ど、どうも天桐です」
と早間、加埜、城ノ崎、矢元、天桐と各それぞれの個性が出た自己紹介をしていった。
そもそもなぜ、5人がここに居るのか。
昨日、メンバー集めが終わった天桐達にアルベルトは、専用の戦車が完成するまでに戦車についての勉強や練習をするように言ったのだ。大会に出る為にも、戦車の知識・技術・経験はある程度付けた方がいいと考えたアルベルトは、どこか戦車が使えて練習が出来て指導もしてくれ所を探して用意してくれた。それが、電車で30分程度の距離にあり、町から一番近くで経営されてある岡野戦車道教室だ。ここで天桐達は、短期限定での生徒となり、しばらく勉強をすることになるのだ。
これを探すのにアルベルトは骨が折れたと言っていた。大会までに残り時間が少ない上に、メン・タンク・マッチのことを余り公に公表出来ていないため、大会のことを知らない所ばっかりであり、説明しようにも出来ないのが現状だった。それに男に戦車道を教えてくれるような戦車道の関連施設は中々ないは当然。寧ろ、怪しく思われるのが当然だった。そんな中、やっと見つけたのが、この岡野 友恵(おかの ともえ)という女性が運営する戦車道教室だった。アルベルトが何かの条件を提示したら謹んでOKしてくれた。更に、事情をある程度しか聞かず、こちら側のことは公に言わないとも約束してくれた。しかし、女性しか行わない戦車道を男性が行うのは一般的、戦車道を知る者にとって違和感があるのは当然だろう。天桐も最初は、女性しか行わない戦車道の教室で勉強をすることに若干の不安があった。しっかり、教えてもらえるのか上手くなれるのだろうかとそう思った。
「さて、皆さん。彼らについての説明だったわね」
だが、天桐達がここへ来た際、岡野さんが出迎えて真っ先に言ってくれたのだ。責任を持って皆さんを指導しますから安心して下さいと、そのお陰で今は不安が完全に消されていないとは言え、少しは余裕が出来た感じになった。
「実は、彼らは戦車道連盟の関係者で、しばらくここで戦車道の勉強をすることになりました。それで」
と岡野は彼女達に説明を始めた。勿論、説明内容はほとんど嘘だ。本当のことを余り知らないとは言え、しっかり約束を守って嘘として作り話を言ってくれた。
説明を聞き終えた彼女達も
「嘘、そんなことが」
「そうなんだぁ」
「なるほど、そうだったのですね」
「・・・」
と理解はしてくれたようだ。
(何とか納得してくれたのかな?まぁ、取り敢えず俺たちは余り怪しくないようにしないと。アルベルトが言うには、戦車が完成予定は6月下旬頃らしい。つまり、あと1ヶ月ここで勉強をしないといけない。それに、これはチャンスだ。ここで戦車について練習や勉強することで大会での力はもっと着くはずだ。ただ、・・・このまま、練習期間が終わるまで彼女達と何も無ければいいが)
と彼女たち4人を見て思った。
一方、ここに通っている彼女達はと言うと
「あの人、イケメンでいいかも(矢元を見る)」
「隣の子かわいいですね(城ノ崎)」
「・・・(目の前の早間を見る)」
とそれぞれの反応を示した。
だが、一方
「男が戦車道?そんなの認めないんだから」
と若干一人だけは違った反応があった。先程から天桐達に凄い敵意を持っている眼鏡女子だ。
「ねぇ、ハルナ。そんなに怒ってどうするの」
「だって、男が戦車道だなんて」
「えぇー、別にいいじゃん。かっこいい人もいるしさぁー」
と言うが、眼鏡女子ことハルナは、
「何言ってんの、男が戦車道をするなんて伝統が汚れるわ。それに、」
天桐をもう一度睨みつけた。
「あの男、なんかさっきから私のことばっかり見て不愉快なんだけど」
と言ったハルナに天桐は、
(それは、おめーが睨んでくるからだろ!)
と心で反論した。
「はいはい」
そんな中、岡野は手を叩いて彼女達の会話を止めた。
「では、こちらも自己紹介しましょうか」
今度は、女子達に自己紹介をさせた。
「さぁ、ハルちゃんから」
と岡野が言うと、
「え?は、はい」
返事をした眼鏡女子や他の3人は席から立ち上がって、順に自己紹介を始めた。
最初は、ずっと天桐達男子に敵意と不信感を抱いている眼鏡女子だ。
「ゴホン。ハルナよ。・・・よろしく(プイ)」
次は、隣に座っているテンションが妙に高いギャル風の女子だ。
「はーい。ナツコ、でーす。どうぞ、よろしくねー(両手を振る)」
三番目は、この中で一番の長身であり、黒い長髪のお嬢様っぽい女子だ。
「わたくし、ミアキと申します。以後、お見知り置きを(お辞儀)」
最後は、ずっと無言のままこちらを見ている一番背の小さい女子だ。
「・・・チフユです・・・(ペコリ)」
こちらも個性が出た自己紹介をした。
全員の自己紹介を終えたことで、岡野は
「さぁ、自己紹介も終わったところで、早速、練習を始めたいと思います。では、皆さん。これより車庫に行きますね」
と言って教室のドアを開けた。
「車庫へですか?」
天桐が言うと岡野は
「はい。まずは、実際に戦車を触ったり見たりして乗ってみましょう」
そう答えた。
「え?いきなりですか?」「早速、乗れるんですか」
天桐は驚いたが、早間は喜んだ。
「えぇ、教科書で学ぶより実際で学ぶ方が一番覚えやすいですし、上達が早いんですよ。では、行きましょうか」
と言い、岡野は教室を出た。
「まじかよ」
とさっそく驚く天桐に
「これ岡野さんの指導方法なのよ」
とハルナが教えてきた。
「さぁ、行くわよ」と言ってハルナ達は教室を出ると、振り返り
「何やってんの。さっさと行く。トロいわね」
とハルナは天桐達を急かして全員で車庫に向かった。



教室のある建物から車庫まで繋がっている渡り廊下を歩き、車庫に入った。
「さーて、皆さん。こちらがこの教室にある戦車達です」
と岡野は手を指し示し伝えた。
手の先には、2台の戦車が並んでいた。
「すげー、ホンモンだ」
「かっけーな」
「凄いね」
「ヒュー」
と天桐達は驚く一方、
「これはM4A2シャーマン75mm砲塔搭載型に、Ⅲ号戦車N型ですね。」
と早間はテンションが上がり、自前の知識を口から出していく。
「あの子、結構詳しいわね」「そうですね」
と早間のことでハルナ達は驚いた。
一方、天桐はシャーマンの方を見て
「シャーマンかアルベルトのゲームで俺が使ったのと同じやつか」
と呟いていると
「てか、戦車道教室なのにこんだけかよ」
加埜が隣で文句を言ったのだ。それを聞いた天桐は慌てて
「おい、加埜。失礼だろ」
と文句を言ったが、加埜の言葉に
「ごめんなさいね。うちは、そんなに規模が大きくない上、資金も少ないのよ」
と岡野は申し訳なく言う。
「ちょっと、アンタ達!岡野さんに失礼じゃない。それが、これから教えて貰う相手への礼儀かしら」
加埜の言葉が耳に入ったハルナは、早速怒鳴り声を言った。これには天桐は同意せざるを得なかった。
「本当はもう一台、岡野さんの戦車があるのですが、今は修理に出してるんですよ。ねぇ、岡野さん」
とミアキがそう岡野の言うと
「え?・・・えぇ、そうね」
ゴホン
一度咳を出した岡野は、
「さぁ、それより。早速戦車に乗ってみましょうか」
と皆に伝えた。それで天桐は
「じゃあ、俺らはシャーマン」
と言ってシャーマンに近づこうとすると
「ハァ?!何、言ってんの?」
とハルナが大声で天桐に怒鳴ってきた。
「な!なんだよ、いきなり?」
天桐は驚いて振り返る。
「それはこちらのセリフよ。このシャーマンは私たち4人の戦車よ」
「は?なんだそれ。もしかして、私物かこれ?」
「いや、私物じゃないけど。・・・私たちは、ずっとこれで練習してきたんだから。私たちのなの」
(なんだよ。なんかワガママぽい言い訳だな)
とハルナの言い訳に対してそう思った。
「わかったよ。じゃあⅢ号の方でいいよ」
と渋々天桐は言った。
「当然よ。あ、そういえばアンタ達。男子だけど戦車の免許、持ってるの?」
とハルナの質問に天桐は(え?)と顔をした。
「これよこれ」
ハルナはポケットから戦車道用の免許を出して見せてきた。
「あぁ、それな。ええと、一応」
と天桐は自分のポケットに入れている財布を取り出し中から
「ちゃんと、戦車道連盟公安委員会からちゃんと特別使用の免許を交付されるよ」
と見せるとハルナが何も言わずにそれを手に取った
(おいおい、何いきなり取ってるんだよ)
と思っている天桐を無視して免許を見回すハルナは、
「偽物じゃないのか。チッ」
と言った。
(ちげーよ)
と心でまた反論した。そして、最後に免許の顔写真をじっと見たハルナは
「へぇー、・・・アホ面ね」
と言って、天桐に免許を投げ返した。
それをキャッチした天桐は
(はぁー?いきなり何喧嘩売ってんだ。この眼鏡女、絶対こいつとは仲良くなりたくないわ)
と出会って1時間でお互い最悪な関係になった。
「さぁ、皆お喋りしてないで乗りましょう。練習始められないですよ」
岡野は天桐達に急ぐように言った。
「あ、すいません。というより俺達、戦車に乗ったことないんですけど。どうすれば」
天桐達は、本物に乗ったことがない故、戦車の正しい登り方や入り方を知らない、それを岡野に言うと
「あぁ、そうだったわね。けど、普通に乗ればいいのよ普通に」
岡野は当たり前のような顔をして言った。
「え?いや、ですからどっからどうやって登って入ればいいのか」
「こういうのは自分達自ら考えてやっていくのが一番覚えるのが早いの。だから、どう乗ればいいのかも自分で」
「は、はぁ」
(何だよそれ)
と訳が分からないまま返事をした。
「それと5人の誰がどのポジションかも決めてね」
「ポジション?あぁ、車長とか砲手とかいうやつですか」
「えぇ、Ⅲ号の場合は車体に操縦手と通信手が、砲塔に砲手、装填手そして車長が乗るの」
「なら、俺が車長で加埜は砲手。あとは、」
と天桐が皆を方に顔向けると
「俺は操縦手をやるぜ」
「僕は通信手」
「なら、自分は装填手を」
他の三人は自分自身でポジションを決めてきた。
「分かった。じゃあ、皆はそれで頼む」
天桐は皆にそう伝え、
「さぁ、早く乗り込むか」
と言い全員は登り始めた。
5人共、砲塔と車体のハッチからそれぞれ内部に入り込み、自分達の配置についた。
「準備出来た?」
岡野が外から話してきた。天桐は砲塔のハッチから顔を出し岡野の方を見て
「はい」
と答えた。天桐は、岡野が肩から何か鉄の箱をかけているに気付いた。携帯用無線機である。
「では、これから指示を出すから通信手に無線をつけるように言って」
「はい。賢太、無線をつけてくれ」
と内部に向かって城ノ崎に伝えた。
「わかった」
城ノ崎は、隣に置いてある無線機に目をやった
「えーと、これかな」
とON/OFFと書かれた電源と思われるスイッチをONに倒した。
すると、
「聞こえてる?」
と無線機から岡野の声がして車内に響いた。
城ノ崎は、無線機と繋がっているマイクが付いたヘッドホンのようなものを頭につけ、
「はい、聞こえてます」
とマイクに向かってそう言った。
「よろしい。では、まずエンジンをかけるところから」
岡野は次の指示を出した。
「なぁ、士良。エンジンってどうかけるんだ?」
矢元は、天桐に聞いた。
「えーと、・・・わからん」
そう言うしかなく天桐は渋々答えた。
「適当にその辺押せばいいじゃね」
隣の加埜は適当に言った。すると、
「えーと、すいません」
早間は、天桐と矢元の間をすり抜け、矢元の後ろに寄った。
「まずは、イグニッションを入れるんです。目の前にスイッチがあるので」
と矢元の前にあるたくさんのスイッチの中の1つを指差した。
「これか」
矢元は、そう言いそのスイッチを押した。
ガァガァガガガ
と戦車のエンジンが動き出した。
そして、Ⅲ号戦車が大きな機械音と共に振動しだし、後方からは黒い煙が吹き出した。
「よしでは、戦車を動かして貰います」
岡野はエンジンがかかったのを確認し、次の指示を伝えてきた。
「では、パンツァー・フォー!」
「パンツのあほ?」
岡野の言葉に加埜がそう反応した。
それに対して早間
「いえ、先輩パンツァー・フォーですよ。戦車前進のことです」
苦笑いしながら答えた。


天桐達がⅢ号に搭乗してから5分が経過した。
広い練習場に、天桐達のⅢ号戦車はやっとの思いで車庫から出ることが出来た。
「ふうー、難しいなこれ」
矢元は、そう言いながら操縦席のレバーやペダルをぎこちなく動かす。
「おい、竜二もっとスピードだせよ」
「わりーな。今ので、精一杯だよ」
加埜に急かされた矢元だが、
「最初だから仕方ないさ」
二人に天桐はそう言った。
「遅い!」
無線から岡野でない怒鳴り声が聞こえた。
(うわー、またか)
その声を聞いて、天桐はそう思った。
「アンタ達のせいで練習時間が減っちゃうじゃない。全く男ってこうもトロいのかしら」
ハルナから文句が聞こえてくる無線機のスイッチを切りたいがそうする訳にはいかず、そのまま聞くしかなかった。
「ハルちゃん。その辺で、彼らは始めてなんだから余りいじめちゃ駄目よ」
岡野が無線でハルナにそう伝えたお陰で
「・・・はい」
ハルナはそれからしばらく黙った。
「では、最初は移動の練習からさっき渡したマップにあるコース通り走ってみてまずはそこからよ」
と言い、天桐は最初に貰ったマップを見た。
「はい、これですね」
「車長は、そのマップを見ながら周囲を確認しながら操縦手に指示して、そのコースを走らせるの」
「わかりました」
そういい天桐はマップを見てハッチから顔を出し、そのまま矢元に指示をした。
それから2時間近く、練習は戦車を走らせるから始めて、しばらくして砲塔を回す、砲弾を装填する、的に向かって撃つ、通信で相手と連絡をとる、周囲を確認して車長が4人に指示を出すと、5人それぞれ連携良く自分達の役割をこなせるように練習した。


そして、時間が過ぎていき、時計が昼の12時を示した頃。
岡野さんは腕時計を見て、
「さーて、皆さーん。そろそろお昼休みにしますよ」
と皆に伝えた。
「「はーい」」
とハルナ達は先にシャーマンで戻って行った。
昼食は、皆教室内で食べることになっている。
「今日のお弁当、何にした?」
ハルナが他の女子達に聞いた。
「私、唐揚げと春巻き(冷凍食品)」
「わたくしは、ちらし寿司と焼き魚と煮物を」
「・・・チーハン」
「ハルナは?」
「私は、これ」
と言ったハルナは自分の弁当を見せた。
ハルナの弁当はピンク色のケースに入った1段弁当であった。おかずとご飯と間で別れている。
おかずは明太子入り卵焼きと唐揚げにタコさんウインナー、ご飯は戦車の形になっている海苔に梅干しがのっていた。
「おいしそー、1つ頂戴」
と箸でハルナのおかずの1つを取ろうとしたナツコに
「いーや。一昨日もあげたでしょ。自分の食べなさいよ」
とハルナは弁当をナツコから離した。
「えー、だって私の冷凍だもん」
「それは自分がしっかり作らないのが悪いでしょ」
と言って断った。
「うー、けち」
「あらあら、いけないですわ喧嘩をしては。ミアキさん、よければわたくしの煮物をお一つ如何ですか?」
とナツコにミアキが自分の弁当を両手で掴んで言った。
「あ、サンキュー。どこかのドケチさんとは違うわ」
「あぁ、そういうこというの。ふーん、じゃあ来週から課題手伝ってあ―げない」
「あぁ、ごめん。ごめんてば。それだけはマジで勘弁して。お願いだって、アイムソーリーヒゲソーリだからさ」
と言って賑やかになっていた。
するとハルナが天桐達の方を見た。
そして、
「うわー、見てよ。男子のあれ」
ハルナがそう言って箸で天桐達を指した。
すると、そっちを見たナツコが
「全部コンビニのだ」
と言った。
天桐達はそれぞれコンビニのビニールから出した物を食べていた。
おにぎり、サンドイッチ、コンビニ弁当といったコンビニで売ってるものばかりだ。
「な、なんだよ。ジロジロ見んなよ」
天桐はそう女子達に言った。すると、ハルナは
「寂しい食事ね。一つあげようか?」
と弁当を持って向けてきた。
「よ、余計なお世話だ」
と天桐は顔をそらし拒否した。
だが、
「まぁ、あんたには上げないけどね」
とハルナは弁当を引っ込めた。
(こいつ、マジでむかつくな)
と天桐は腹が立ちながらおにぎりにかぶりついた。
「なぁ、士良。お前、あの子に何かしたのか?」
加埜が弁当を食いながらそう聞いてきたが、
「してねーよ。初対面だ」
と言うと城ノ崎が
「士良に気があったりしてね」
とにこやかに冗談を言った。
「ぜってー、ちげーだろ」
と天桐は即答した。
すると城ノ崎は、ハルナの方を見て、
「まぁ、僕もそろそろ度が過ぎると思ってきたから、反撃の準備はしとくよ」
と妙な笑顔で言った。それに対して、早間以外は
(あぁー、あの女。終わったな)
と思った。
1時間の昼休みが終わり、午後の練習を再開した。


午後の練習は5時に終わった。
岡野は皆に
「では、皆さんお疲れ様でした」
そう言って、ハルナ達も
「「お疲れ様でした」」
とはっきり答えた一方で
「お、お疲れ様でした」「つかれした」「ふぅー疲れた」「おつ」「はぁー、もう終わるのか」
天桐達は疲れた顔をしてそう答えた。
そして、色々あったその日の授業は終わった。


帰りの電車で
「はぁー、疲れた」
天桐はそう言ってだらしなく席に座っていた。
「初めて戦車に乗ったけど、疲れたね」
城ノ崎は隣でそう言うと
「けど、操縦めちゃ楽しかったぜ」
矢元は意外と楽しめたのか笑顔だった。
「くそー、あと少し右を狙っていれば」
加埜は、今日初めての射撃練習で的を何度か外したことを根に持っていた。
「早く土曜にならないですかね」
と少しショックを受けている早間がそう呟く。
駅についた。天桐達は、そのまま駅の近くで晩飯を一緒に摂り、7時にその場で解散した。


夜11時
あれから家に帰った天桐は、家に帰ってからシャワーを浴びて、そのまま寝間着に着替え、クタクタになった体でベットに倒れ込んでいた。
初日から色々なことをやった挙句、環境による疲れも重なったので、大きな疲労が出たのだ。
すると、ゆっくり休んでいた天桐は突然、
「そうだ」
と机の上に置いてある携帯を取り、どこかに電話をかけた。
「もしもし、俺だけど」
「おう、士良。どうした?」
スピーカーからアルベルトの声が聞こえた。
天桐は、戦車の設計から開発製造を、アルベルトと柴田さんとその部下達が今どうなってるのか気になって電話したのだ。
「おう、行ってきたか」
「あぁ。行ってきたよ」
「どうだった?」
「まぁ、大変のなんの」
と天桐は今日教室であった大体のことを話した。
「まぁ、そうだろうな。いきなり新入りが入ってきた挙句、女子ではなく男子だったんだし。足を引っ張るなら、そりゃ怒るさ」
「いや、そうなんだろうけど、もうあれはそういうレベルじゃねーな」
「まぁ、いいさ。とにかく練習をしっかりやって本番で動けるようにしとけよ」
「あぁ、分かってる。それよりも、そっちの様子は?」
「あぁ。全体の4割ってとこか」
「いや、戦車も気になるけど。そっちの皆とか、元気かなって」
「あーそれか。あぁ皆元気・・・なわけねーよ。全然元気じゃねーよ」
とアルベルトは少しキレ気味に言った。
「もうクタクタさ。徹夜も多くてやばいさ」
「おい、大丈夫かよ」
「まぁー、大丈夫だ。けど、そうしないと製作に時間がかかっちまう」
「そうか、すまない」
「何謝ってんだ。俺らだって自分たちで好きにやってるようなもんだからな。あ、ちょっと待て」
「うん?」
「よう、天桐君久しぶりだな」
突然、アルベルトではなく柴田が代わってきた。
「柴田さん、ご無沙汰です」
「おう、元気か。今日教室に行ったんだろ。どうだ進一とかちゃんとしてたか」
「えぇ、皆頑張りましたよ」
「そうかそうか。あぁ、こっちのことは心配すんなしっかりやってるからな」
「は、はい。けど、余り無理しないで下さいね」
「大丈夫だって。伊達にガキの頃から機械いじりをしてきた訳じぇねーからな」
「はぁ」
「おっと、じゃあまたな」
そう柴田が言うと、またアルベルトが代わった。
「とにかく、頑張りな。いずれこれよりももっと大変なことをするんだからな」
「あぁ、頑張るよ」
と天桐は答えた。
「じゃあ、また今度な」
「おう」
通話を切った天桐は携帯を机に置くと、そのまま床に就いた。


それから次の土曜日、天桐達は今日も戦車道教室で練習をやる。
彼ら5人は、土日か休日ぐらいでしか練習を出来ない。
ここに来るまでに30分以上かかる上に、平日は学校があり休む訳にはいかない。
放課後来て練習をしようと思ったが、この教室では基本夜間の練習を行わない。
それに、基本戦車道で夜間に行うことは稀にしかない。それなりに経験を積んだ者でも、意外と大変で危険なこともある。それを、まだ始めたばかりの天桐達が夜間練習をやるのは少し無理があった。
それから、午後の練習を早めに終え、全員は車庫に戦車を戻していた。
Ⅲ号戦車の回りには天桐達5人がそれぞれ清掃や片付けを役割分担しえ行っている。
加埜と城ノ崎は砲身の清掃を、矢元は履帯に放水をして泥などを落としている。
そして、早間は空薬莢の撤去を行っていた。
「空薬莢か。手伝うよ。俺の方は終わった」
「先輩、いいですよ。自分でやりますから」
「二人でやった方が早いだろ。ほら貸せって」
と天桐は言って車外に出てた。
「ほら」
「はい」
と車内の早間から空薬莢を受け取った。
「よいしょ」
そのまま、空薬莢を外に置いてあったキャスター付きの空薬莢用ボックスへと入れた。
それを何度も繰り返し空薬莢全てを入れた。
「ふぅー」
と天桐は一息をつくと隣のシャーマンに目をやった。
するとハルナが偶々、シャーマンの砲塔から降りるのが見えた。
(あいつ、今日もうるさかったし、ウザかったな)
とハルナを見ながら、今日もあった文句や煽りを思い出した。
するとハルナは後ろから天桐に見られているのに気付いた。
「ちょっと」
いきなりハルナが大声で言ってきた。
「ん?なんだよ」
天桐は突然のことに少し驚いた。
「今、私のスカートの中、見ようとしてたでしょう」
ハルナはそのようなことを言ってきた。
「はぁ?してねーよ」
無論、本人はそのようなことをしてはいない。だが、ハルナは勘違いをしたのだろう。凄く怒っている。
「変態」
「だから、してねーよ」
「嘘よ。私が降りる時、スカートの中を覗こうとしてたんでしょ」
「ちげーて、言ってんだろ。自意識過剰にも程があるぞ」
「何よ、今度は逆ギレ。最低ねアンタ」
「あぁ、もうお前何なんだよ。ずっと俺たち男に嫌な態度取るわ言ってくるわで」
「別に変じゃないわよ。私は、ちゃんと正しく事実だけを言ってるのよ」
そうやって喧嘩を始めた天桐とハルナの喧嘩を周りの7人が見ている。
「ちょっと、ハルナ言い過ぎだって」「そうですよ。余り言うと天桐さん達も」「・・・(ウンウン)」
ナツコ、ミアキ、チフユの彼女達3人はハルナに落ち着くように言うが、ハルナは
「ほんと、男が戦車道をやるなんて」
とまだ言ってくる。
「戦車道連盟から言われているからとか知らないけど。ほんとさっさと出ていってほしいわ」
「いや、少なくとも後1ヶ月はここに居るからな」
と天桐はそう言うと。
「全くほんと不愉快だわ。大体ね。アンタ達男子がなんで戦車道をするのか今でも理解できないわ。
戦車で戦いたいなら自衛隊に行くか。ゲームでもすればいいのよ」
と言ってきたが天桐は、
(まぁ、俺は戦車道をしたいというよりもメン・タンク・マッチに出て試合をしたいだけなんだけどね。一応、あれは戦車道ではないから)
と心でそう思った。
「それに、いくらアンタ達が頑張っても私達には勝てないけどね」
とハルナは更に言ってことに、天桐は受け流そうと思ったが、なぜか勝てないと言われたことに対して、
「そんなのやってみないとわかんねーだろ」
と文句をつけた。
「あら、そうかしら。私には、勝てると思わないけど」
「お前、いい加減にしろよ。俺らをずっと馬鹿にしてるが、お前だって結構ミスしてることだってあったろう。今日の練習でも岡野さんに色々言われたじゃねーか」
「くっ。言ったわね。男子のくせに」
「あぁ、男が戦車して何が悪い」
天桐とハルナは段々言い争うをするようになり、その喧嘩が熱を上げてきた時だ。
「はい。ストープ」
突然、岡野さんが間にいきなり割り込んできた。
「お、岡野さん」
それに天桐もハルナも驚いた。
「お互い、冷静に」
「けど、岡野さん」
「ハルちゃん。貴方の言いたいこと昔のことを分かっています。けど、貴方が悪いわよ」
と岡野はハルナを叱った。
「・・・けど」
とハルナは悔しい顔をして、そう言った。
すると岡野さんが仕方ないという顔をして
「では、こうしましょう。ここは、お互い戦車道で、決闘で決着をつけるのは」
と言ってきた。
「戦車道で?」
「決闘?」
天桐とハルナ、更に周りの7人も驚いた。
「そうね。来週の日曜日の6日でいいでしょう」
と日付まで決めてきた。それに対してハルナは、
「え?しかし」
異議を唱えようとすると、
「あら、けどさっき男子に負けないと言ったでしょ。怖くなったの?」
岡野はハルナにそう言ったのせいで
「いいえ、分かりました」
とその決闘を承諾したのだ。ハルナは天桐達を睨み
「いいわ。望むところよ、相手になってあげる。こいつらと私たちの1対1での決闘を受けます」
天桐達に指を指しそう宣言した。それには天桐他7人共全員が驚いた。
「え?決闘をやるのか。俺らがお前らと?」
「ええ、そうよ。嫌ならいいわよ。どうせ勝つのは私たちなんだから」
「な?」
「それにアンタ達、センス無いのよ。今までの練習見ていてそう思ったは」
「おま」
「男は尻尾巻いて逃げればいいじゃない。チキンちゃーん」
とハルナは挑発をした。すると、天桐は今までのハルナの態度や言動に対する不満が溜まっていたせいもあってかその一言で堪忍袋の緒が切れてしまった。
「じ、上等だ!やってやるよ」
と怒鳴った天桐は他の4人に意見も聞かずに勝手に決めた。
「では、決まりですね。それまで皆さん喧嘩は控えてくださいね。」
「「はい」」
と天桐とハルナは答えた。
「はい、では皆さん。帰る準備をして帰宅して下さいね。私は、この後用事があるんで先に行きますね」
と岡野は早歩きで車庫から出て行った。
天桐やハルナ達は、そのまましばらく無言になった。
(はぁ、決闘か)
と天桐はそう思い皆の方へ行こうとした時だ。
「ねぇ、待ちなさいよ。決闘、ほんとにやるの?」
とハルナは天桐を言い止めた。
「当たり前だろ。売られた喧嘩を買わなきゃ男が廃るってよく言うだろ」
と振り返った天桐は言い返した。
「そう」
と言ったハルナは、
「なら、何か罰ゲームがないと面白くないわね」
と突然言い出した。それに天桐は
「罰ゲーム?」
「えぇ、そうよ。内容は、そうね」
と腕を組んで考え込むとニカと笑い天桐を睨んだ。
「もし、負けたら方はしばらくの間、相手の言うことを1つ聞くってどうかしら。勿論、チーム連帯責任で全員ね」
と言った。
「な!?」
それには、天桐をはじめ彼ら5人共は驚いた。一方、
「ちょっとハルナ」「何をおっしゃっているのですか?」「・・・」
とナツコ達3人も同じくだ。
そんな驚く3人に、ハルナは大丈夫だってという顔をした。
この罰ゲームの内容を聞いた天桐達は少し不安がった。
まだ練習を始めて1週間ほどの天桐達には、ハルナ達への勝ち目が少ないことははっきり分かっていた。普通なら、この勝負逃げるのが賢い選択なのだろう。
だが、天桐はハルナの態度が(どうせ、びびって逃げるに決まっている。こいつらが、負けるに決まっている)と当たり前のように馬鹿にしているというのが嫌でも分かった。それに対して、どうしても退けない対抗意識に燃えてしまった天桐は
「ああ、いいぜ。呑んでやるよ」
と他の4人に確認もせず、堂々と答えた。
それを聞いたハルナは、
「そう、では来週、楽しみにしてるわ。帰りましょう皆」
「う、うん」「は、はい」「・・・」
動揺している3人と共に車庫を出て行った。
車庫に残された天桐達5人だけとなり、しばらく静寂が続いた。
それからなぜか、天桐は喋ろうとも動こうともしなかった。
そんな天桐の額には汗が湧き出ていた。今日も湿度が高くて車庫の中が暑いのもあるだろうが、これは別の原因で出ているものだと天桐自身は気付いていた。
なぜなら、背中の方で嫌な気を強く感じるからだ。
そのせいもあってか、天桐は後ろに居る4人へと振り返ることすら出来ないまま、時刻は夕方5時となった。

 
 

 
後書き
第6話はABCの3パートとなっております。
続きのBパートは、また後日投稿致します。
 
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