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メン・タンク・マッチ:MTM

作者:鷲金
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初動編
  MTM:初動編 第6話:「修練(きょうしつ)」Bパート

 
前書き
メン・タンク・マッチ:初動編の第6話Bパートを掲載開始しました。
初動編は、主人公達がメン・タンク・マッチに参加するまでの話です。

*メン・タンク・マッチ:MTMはまだ未完成の作品のため、全てを一度に掲載することは出来ません。また、各話の修正などで更新が遅れる上、更新期間がランダムで投稿することになります。一応、最終話まで投稿する予定です。
MTMは20話以上の物語を予定しています。  

 
今の時刻は、戦車道教室の営業終了時間である夕方5時を過ぎて6時半頃だ。
天桐達は、既に町へ帰って来ていて、駅近くのファミレスのテーブル席に5人共座っていた。
「という訳でだ。皆、」
天桐は、席に座ったままそうしゃべり始め
「・・・すまん」
と4人に頭を下げた。
その天桐を4人は、しばらく黙って見つめていると
「「「ハァ・・・」」」
早間以外の3人は同時に溜息をついた。それから、
「どうせ、また後先考えずにやっちまったんだろ。おめーの悪い癖だ」
「士良らしい言動だったね」
「士良の悪い癖だぜそれ」
と加埜、城ノ崎、矢元はそれぞれ言った。
「まぁ、皆さん。もう決まったことですし、仕方ないですよ」
早間は天桐を庇おうと皆を宥めようとする。
「ほんとうに、すまん」
天桐は、また謝った。
自分が軽率な言動で、また皆を巻き込んでしまったことを悔やんでいるのだろう。
この前まで、天桐は矢元、城ノ崎を巻き込まないように例の大会に参加することを隠し通し協力させないように配慮していた件があった。だが、結局早間のせい、いや、お陰と言うべきか仲間として参加することになった後もしばらく矢元と城ノ崎のことを気にしていたところが少しあった
そして、頭を下げる天桐を見た4人は、
「まぁ、確かにもう過ぎたことはしゃねえ。やるっきゃないだろ」
「そうだね」
「あぁ」
と3人は余り気にしていないような言い方をした。
「そうですよ」
早間もそれに乗っかって言う。
「だから、先輩。もう謝らないで下さい、ね」
彼ら4人の言葉を聞いた天桐は
「あぁ」
と言い顔を上げた。
「とにかくあいつらに勝たなきゃ」
「取り敢えず、練習だね。あと勉強して行かないと」
「あぁ、そうだな」
「もっと操縦方法を勉強しねーとな」
「俺の場合は射撃の感覚だ。もう少しで完璧に掴めそうなんだ」
「僕は、まだ通信しかしてないけど。戦車についてもいろいろと勉強してみようかなって思ってるよ」
「それなら、自分が教えますよ。家にいっぱい資料があるので是非今度家で泊りがけで」
「それは遠慮しとくよ」
「あ、そう・・・ですか」
と4人は話し合ってる一方で、天桐はずっと黙っている。
「おい、士良」
加埜は天桐に話しかけた。
「?」
「いつまで落ち込んでんだ。さっさと今後のこと話し合うぞ」
「あ、あぁ。そうだな」
天桐は落ち込むのを辞め、皆と今後のことを考えて話し合いを続けた。
「まずだが、実力はこっちが圧倒的に低いのは確かだ。それはこの1週間で分かった」
「それは、そうだろうな」
加埜は同意した。
「それに戦車の経験や知識、技術についてだが。俺らは余りにも低すぎる。あ、お前は別な早間」
「え、はぁ。そうですね」
早間は苦笑いで答えた。
「それと、あいつらについて何か情報が欲しいな」
「情報?」
矢元はそう聞いた。
「あぁ、あいつらが一体どんな戦い方をするのかとか何か弱点になるものがないかとな」
と天桐は答える。
「ねぇ、士良」
「なんだ?」
天桐は城ノ崎の顔を見た。城ノ崎は凄くニコと笑いながら
「実はねえ。良い情報もあるんだよね」
と言った。
「良い情報?なんだ?」
天桐は疑問に思い聞き返すと
「それは、ねぇ」
城ノ崎は自分の鞄から書類のようなものを取り出した。
「あの子達の過去の試合記録や関する資料だよ」
その書類をテーブルの上に置いた。
「「「おぉ」」」
「おぉ、ってこれどうしたんだよ」
3人が驚くが天桐だけは少し嫌な顔をした。
「あぁ、岡野さんのところから借りたんだよ」
とまたニコりと笑う城ノ崎に
「借りたって。一応、聞くが岡野さんに断ってきたんだよな?」
と天桐は尋ねるが
「あ、それとねぇ」
とその言葉をシカトして、再び鞄から何かを出そうとした。
「聞いてねぇし」
と天桐の言う言葉も聞いていない城ノ崎は、
「彼女達について大体だけどまとめた弱み、じゃなくて個人情報」
と言って別の書類も出した。
「今、さらっと弱みとか言ったよな」
「相変わらず、なんかこえー奴だな」
「・・・」
と他の三人も少し引いた顔をして反応した。
「まぁ、余り気乗りしないがあいつらの戦車道に関することならいい」
と天桐は資料を見て
「で、どうなんだ」
と城ノ崎に聞くと
「うん、全部は見てないけど。彼女達の戦車道についての経歴とか中々興味深かったよ」
と答えた。
「で、何が分かったんだ」
と加埜も聞いてきた。
「まずは、」
城ノ崎は最初に出した資料の1つを手に取った。
「あの子達の中で、ハルナさんだけは中学生からあとの3人から高校1年から始めてるね」
「ほぉ、中坊からか」
「すげーな。そんな時からやってんだ」
と驚く加埜と矢元に、早間は
「まぁ、幼少期からやっているところもありますから。本流の方とか」
と言った。
更に加埜は、
「でもアイツ(ハルナ)本当に強いのか分かんねぇぞ。以外とそんなに」
と少し楽観的な考えで言うと
「ちなみにハルナさんは、全国戦車道一般大会チーム戦中学生の部に出場して、地区予選で準優勝した」
城ノ崎は更に情報を言った。
「けど、地区予選でだろ。それくらい」
「それからあの4人は、去年の全国戦車道一般大会の個人戦高校生の部で、100以上の参加の中でベスト16位に入ったこともあるらしい」
と城ノ崎は続けて言った。
「・・・終わったなある意味」
「めちゃ強いじゃん」
「凄いですね。個人で16位に入るとは」
「そうだね。見る限り彼女達は凄い実力を持ってるみたいだね」
と4人は言うが次第に
「「・・・」」
言葉が出てこなくなったのか沈黙へと変わった。
1分程が経ち、
「まさか、こんな事になるとはねぇ」
「ただの決闘だったらよかったろうけどな」
「罰ゲームつきで、負けたら言うことを聞くって」
「こちらは、とても不利ですからね」
と再び話始めた。
「はぁ」
天桐は溜息をついてから、立ち上がり
「ちょっと、トイレ行ってくる」
「あ、あぁ」
矢元は答えると、天桐はお手洗いの方へ向かった。
すると、加埜も
「よっと」
と立ち上がり、天桐に気づかれないように後を追った。
それから1分も経たずに加埜は戻ってきた。
「はぁ」
息を吐き座った加埜に、矢元が
「どうだった」
と聞いた。
「トイレでめっちゃ後悔してた。俺は、なんてこと言っちまったんだって」
「・・・そうか」
「まぁ、士良が原因なんだしね」
「そう、ですけど」
と4人は暗くなっていった。
「あとは6日か」
「こりゃ、明日からも練習しないと不味いな」
「そうだな」
「・・・はい」
それからしばらく4人はまた黙り始めた。
皆、何をすればいいか何をしないといけないのかを理解している。しかし、不安で仕方がないのだろう。あと6日で、自分たちより経験も実力も上の相手に挑み勝利をしないといけないのだから。
それから5分が経過した。
「・・・ただいま」
天桐がトイレから帰ってきた。すると加埜が、
「トイレ長かったな、士良」
と言うと早間が
「ちょ、加埜さん」
と止めに入るが
「え、あぁ。腹の調子がな・・・」
と天桐は然りげ無く答えた。それから5人でまた話し合い10分が経過し、
「それじゃあ。そういうことで明日な」
「あぁ」「おう」「うん」「はい」
5人はレジで会計を済ませて帰ろうと外に出た。
「ねぇ、士良。これから彼女たちについて調べることかない?もう少し調べて弱点とか見つけるよ」
「あぁ、それに少し気になることがあってな」
「気になること?よかったら調べようか?」
と早間は言うが
「いや、いい」
と天桐は早間に断り、
「俺が聞く」
そう答えた。


月曜日
学校の放課後
5時までに終わったHRの後、天桐は矢元、城ノ崎、早間と共にそのまま駅に向かって走った。
向かった駅では、すでに加埜が待っていた。彼らは、そこから電車に乗ってある所まで行った。
出発してから30分程、彼らはしばらく歩き目的地に着いた。それは岡野戦車道教室だ。
今日は、学校がある平日なのになぜ此処に居るのか。実は、昨日の夜、天桐は皆と話し合い放課後も練習をしないかと言った。無論、全員賛成してくれたので早速岡野さんに連絡を取り、今週の毎日だけ夜間の練習もさせてくれと言ったのだ。
岡野も最初は少し素人の天桐達のことも考えて不安で反対をしたが、天桐達の熱心な気持ちと決闘になったのは自分の責任だということを理解して、夜21時までの練習をさせて貰えることとなった。
「よし、今日は、あいつら居ないはずだから、て、えぇ!」
天桐は突然、驚いたのか大声を出した。
「あら、来たのね」
それもそのはず、この時間に居ないと思っていたはずの彼女達が居たからだ。
「なんで、お前らが」
と天桐はハルナに指差すが、
「だって、夜間訓練が出来ると聞いたら普通するでしょ」
と当たり前な顔をして答えた。
「いや、普通はよく分からんが。ってどこでそれを」
「普通に岡野さんが教えてくれたのよ。これから天桐君達の練習準備があるからって」
「あ、そう」
(あちゃー、そういえばこいつらに黙っているように頼んでなかったな)
と天桐はまぁいいかと顔をしてそのまま車庫に向かった。
「よし、練習を始めるぞ」
「「おぉー」」
5人はⅢ号に乗り込んだ。
もう夕方の5時過ぎになる練習場は、残りの夕焼けの光と戦車についた照明のみの明るさしかない闇の世界だった。この練習場近くの町にある光達は、夜空の星々みたいに小さくキラキラして見えるだけで、ここからは回りを照らす光力としては低すぎる。
そんな、何も見えない練習場でも天桐達は、僅かな光を頼りに練習を続けた。
ある時は戦車が大きな穴に落ち、ある時は池に落ち。そして、ある時は天桐の足が加埜の頭に落ち、
加埜の拳が天桐の頭が落ち、そして、城ノ崎の静かな怒りの雷が戦車に落ちた。
そんないろいろ大変な練習環境の中、天桐達は毎日学校の放課後すぐに戦車道教室に来て21時まで練習を続けた。


4日目木曜日の21時10分過ぎ
明後日決闘である今日。天桐達は既に車輌(Ⅲ号戦車)の片付けをして帰宅しようと教室から出ていた。
一方、車庫ではハルナ達が車輌(シャーマン)の片付けを行っていた。
4人はそれぞれ分担して作業を勧めていた。
「よし。これで終わり」
とハルナは自分の作業を終えると車輌から離れた。
「じゃあ、私物置の片付けと鍵閉めてくるね」
「わかった」
ナツコにそう伝えたハルナは、車庫の外へと出て行った。
それからハルナ以外の3人だけが残って作業を続けてようやく
「よし、これで終わりっと」
「そうですね」
「・・・お疲れ」
と3人は片付けを終えた、その時だ。
「なぁ、3人共ちょっといいかな」
と突然、男の声で3人は話しかけられた。
「え?」
「はい?」
「・・・?」
3人は声が聞こえた方へ顔を向けた。
「あ、えーと。どうなさったのですか?天桐さん」
ミアキは天桐の顔を見てそう聞いた。
「えーと、その1つ聞きたいことがあってだなぁ」
「聞きたいことですか。なんでしょうか?」
「あぁ、その。あいつ、ハルナのことで」
質問に天桐はそう答えた。
「ハルナさんのことですか?」
「あぁ」
「え?まさか、アンタ。ハルナのこと好きなの?言っとくけどハルナは男は基本嫌いだよ。百合という意味じゃないけどね」
と今度はナツコが言ってきた。
「ちげーよ。そういうことじゃあねぇよ」
とツッコミを入れた天桐は
「その、あいつは、どうしてあんなに男を目の敵みたいにしてんだ?」
と本題を聞いた。すると3人は少しおどおどしてから
「えーと、ごめ。知らない」
「わたくしは、存じません」
「・・・(フンフン)」
と3人共は知らいないと回答した。天桐は3人を見て嘘ではないと思った。
「私たち、ハルナとは高校の時からの付き合いでさ」
「ハルナさんのあの男嫌いみたいなのはそれ以前から在ったらしいので」
「・・・知らない」
と天桐に教えた。
「そうか、知らないか。悪かった突然こんなこと聞いて。それじゃあ」
と天桐は少し残念に思いながら、帰ろうとした時だ。
「私が、話しましょうか?」
と横から誰かが話しかけてきた。
「え?」
天桐は横を振り向いて相手を確認すると
「岡野さん」
と言った。岡野、そのまま天桐の目の前まで寄って、
「聞きたいのは、ハルナさんの過去についてですね?」
ともう一度聞いた。
「あいつがなぜ、男嫌いなのか知ってるんですか?」
「えぇ」
「そうですか。では、お願いします」
と天桐は岡野にお願いをした。
「それには、彼女と私との出会いを話さなければいけません。少し長くなりますが?」
と岡野は聞いてきたのに対して、天桐は頷いて答えた。
「分かりました」
と岡野は少し歩き机の側にあったパイプ椅子に座り、
「私が彼女と出会ったのは、彼女が小学6年の時の春。そう私が、この戦車道教室を開いて間もない頃です」
ハルナについて語り始めた。
「その日の夕方、私は買い物をして帰る途中でした。その日なぜか私はいつもとは違うルートで帰ろうと思い、偶々近くの公園を通ったのです。すると、公園の中で一人の女の子が彼女は泣いていました。その子がハルナさんでした」
「え?」
「泣いてた?」
「・・・」
ナツコ、ミアキ、チフユは反応をした。
「はい。彼女は、ただ泣いていただけではありません。彼女は、服が土で汚れていて、彼女のランドセルからは教科書や筆記用具が外で散らばっていて、ビリビリに破られていたりしました。」
「それって」
天桐はそう言うと
「えぇ。実は、彼女。小学校の時から・・・いじめを受けていたんです。男子から」
と岡野は答えた。
「後から知ったのですが、彼女は小さい頃から真面目で元気いっぱいな子供でした。彼女は、いつも勉強や運動を精一杯頑張り、成績も優秀で人柄も良いことから回りから良く思われていました。無論、先生から褒められてもいました。ですが、男子側の一部からは面白くないと思われていませんでした」
「なぜです?」
「彼女のクラスメートのある男子達は、授業中にふざけたり、女子にちょっかいを出したりと悪いことを良くしていました。そして、ハルナさんは彼らを注意し、時には先生に言いつけたこともありました。そんな彼女に対して恨みを抱いたその男子達は、彼女にちょっかいを出すようになったのです。それは次第にいじめへとエスカレートし、学校全体から孤立させようとしました」
「「・・・」」
「ある時は、彼女の上履きがなくなってプールに投げ入れられていたり、ある時は、給食に変なものを入れられていたり、ある時は、体操着を刃物で切られていたりと、それはどれも酷いいじめだったそうです」
「ひどい」「酷すぎます」「・・・(ウンウン)」
「そして、ハルナさんはそのまま誰にも相談せず、いじめは5年近く続きました。」
「ご、5年も?!」「そんな、なぜ」「・・・(目を見開く)」
「誰にも相談しなかったんですか、あいつは?」
「実は、彼女をいじめていた子の何人かは偉い人や学校の役員のお子さんが居たそうで担任も余り言わなかったそうなんです」
「何それサイテエー」「ですが、親御さんには言えるのでは」「・・・(ウンウン」」
「無論、彼女は親に言うべきだったんでしょうが。彼女は、言わなかったんです」
「親にも?」
「彼女の家族は、今は母親しかいないです」
「母親だけ?」
「父親は、彼女が幼稚園の時に病気で亡くなったそうで、それからは母親が女一人で彼女を育てたそうです」
「そうか、だからあの時」「父親の話をしなかったんですね」「・・・」
「ハルナさんの母親はそれは毎日毎日、彼女が学校に行っている時、仕事してお金を稼いでいました。だから、彼女が帰ってきた時は、家に居ない時もあれば居る時もあります。そして、母親いつも凄く疲れていました。だから、ハルナさんはそんな母親にいじめのことを言って不安にさせたり、問題を増やしたいとは考えたくなかったから、相談もしなかったんです」
「それで、相談をしなかったと」
「えぇ、ですから転校すらせず、いじめを5年も耐えて来たんです」
それを聞いたナツコ、ミアキ、チフユは少しずつ泣き顔になってきた。
「そして、彼女と出会った時、私は泣いていた彼女をほっとく事が出来なかったので、事情を聞こうとしましたが、拒否されました。もし、それが親に知られたら不味いと思ったんでしょうね。だから、聞き出すのに苦労をしました」
「・・・」
「それから要約事情を説明してくれました。今まで溜め込んでいたもの全部を話したので凄く泣き出し、ハンカチで顔を拭いてあげていく度に涙と鼻水が出て、ハンカチはぐっしょりになりました」
「・・・」
「それから、私はハルナさんと知り合いになってから、彼女と放課後一緒に帰って上げることにしたんです。毎日毎日彼女の話を聞いてあげて、嫌なことの相談や励ましたりしました」
「・・・」
「そんなある日、私は家に彼女を招待しました。そうこの戦車道教室にです」
「・・・」
「それから彼女は戦車に戦車道に凄く興味を懐きました。まさに乙女の憧れのように夢中になりました。それから、彼女が中学校に入ってすぐにうちに入り、生徒となりました。中学校は陸地の学校で女子しかいなかったので、男子からのいじめはなくなりました」
「そうか」「良かった」「・・・(ウン)」
彼女達は一安心した。
「いじめはそれ以来なくなりました。ですが、」
「・・・ですが?」
天桐はその言葉に疑問を感じた。
「彼女は、今だ男子への恨みが残ってしまっています。それも戦車道を掛け合わせて」
「掛け合わせて?」
「彼女が熱狂した理由は、戦車道で女は男より強い、優れているという象徴であると考えて始めました。ですが、それを男に負けたくない男よりも勝っている怖いものなんて無い戦車道さえやれば自分はあいつらに勝てると、自分自身に言い聞かせてやっていたのです。結果、戦車道をしているうちに、彼女の戦車道は男への復讐の為へと変わってしまった。それは今もずっと、彼女は続けています」
「なら、岡野さん。なぜ、あいつのそのことを知っていて止めなかったんですか?戦車道を辞めさせることだって出来たはずでは?」
「そ、それは、・・・怖かったんです。彼女が、辛かった人生でようやく手に入れたかもしれない希望を奪うことになるのではないかと。それで私のせいで、彼女をまた地獄へと行ってしまうのではないかと不安だったんです」
「・・・」「岡野さん」「・・・」
「なるほど、彼女について分かりました。異常に戦車道をしている俺らを敵意していたのも説明がつきました。自分にとって最高な世界である領域に俺ら男が来たのに凄く不快感を感じたのも当然でしょうね。ただ、」
「?」
「それなら、なぜ彼女が居るこの教室に俺らを了承したんですか?こうなることを想定しときながら」
「そうですね。それには、ちゃんと理由があります」
「・・・」
「彼女は、今言った通り戦車道を男への復讐としてやっています。ですが、彼女がいくら戦車道をやっていってもその恨みは消えません。何より戦車道をやっても男に勝つということ事態がないのですから。せめて、戦車道で男子と戦うことが出来て、勝つならまだしもですが」
「・・・そういうことか」
「私は、ハルナさんの気持ちを変えたかった。彼女の戦車道を復讐だけの存在にしてはいけないと。彼女には、そんな道を進んでほしくはないと。ですが、いくら考えても、もいい手を思いつきませんでした・・・ですが」
岡野はフッと天桐を見た。
「そんな中、貴方達(チャンス)が現れてくれた」
「・・・つまり、全部計画通りだったってことか」
「?」「あ、そういう」「・・・」
「すいません。騙したみたいで入れてしまって」
「いや、実際俺らを受け入れたことにはほんと感謝してます。ですが、どうしても俺らに何か頼みでもあるんじゃないのか?」
「?」「・・・」「・・・」
「そうですね。天桐さんの考えている通りです。では、お願いです天桐さん」
「・・・」
「ハルナさんに彼女に、」
「・・・」
「ワザと負けて下さい」
「・・・」「・・・」「・・・」
岡野のその言葉に3人は驚いた。絶対に、そのようなことを言う人とは思っていなかったのだろう。
「こんなこと言って、先生として失格ですよね。分かってます」
「・・・」
「けど、もし彼女が天桐さん達、男子に戦車道で勝てば、彼女は戦車道で男子より勝ったという気持ちとなり、そして、男性への恨みと彼女にとっての戦車道の考え方を、解消してくれると思っているんです。だから、今度の決闘でそれが出来ればと」
「・・・」
岡野は椅子から立ち上がり
「ですから、お願いです。天桐さん、どうか負けて下さい。勿論、彼女たちと罰ゲームの賭けをしていることは知っています。ですが、私が何とかするので心配しないで下さい。ですから」
と頭を下げた。それを見た、天桐や他の三人はそれを黙って見ていた。
誰も文句は言えなかった。岡野は、ハルナの為に考えてそう判断したのだろう。
こんなことを頼むは最低な行為なのも自覚してもなお、頭を下げてまでお願いをした。すると、
「私からもお願い、ハルナのために負けて」「この様な無粋なことを申し上げることは大変好ましくはありませんが、どうか情けを」「・・・(ペコリ)」
ナツコ、ミアキ、チフユも天桐に頭を下げて頼んだ。それを見た天桐は
「ハァ」
と溜息をつき、
「岡野さん」
天桐は岡野の名を呼び彼女の前まで近寄った。
そして、岡野は顔を上げ
「天桐君、・・・やって」
と言った時だ。
「そんなの知ったことかよ」
天桐はそう放った。
「・・・」
その言葉は、彼女たちの表情を変えた。するとナツコは、顔を上げて
「え?今あんたなんて?」
天桐に聞き返した。
「知ったことかよって言ったんだよ」
「・・・」
再び同じ言葉を聞いた岡野は、なんとも言えない表情になった。
「ちょっと、あんた・・・岡野さんがこんなに必死に頼んでるのに」「ちょ、ナツコさん」
ナツコが天桐に迫って文句を言おうとした。だが、天桐は
「お前らは、そんなんで本気で良いと思ってんのか?」
と彼女達に言った。
「ん」「・・・」「・・・」
それを聴いて3人は固まった。
「あいつが、過去に男子にいじめを受けて親にも相談出来ずに5年間耐え続けて、更に戦車道を復讐としてやって来たと。だから、俺らにワザと負けてくれと?・・・そんなこと、俺らには関係ねーだろ」
「そう・・・だけど」
「それにな。もし、俺が逆の立場だったらそんな勝利、ぜってーそんなこと望まねぇな」
「「「・・・」」」
「あいつだってそう望んでいるはずだ。だが、お前らそんなに勝たせたきゃ・・・本気でかかってこい!」
「「「!」」」
「そして、俺も、俺たちも全力で勝ちに行く。お前らを倒すためにな」
「天桐君・・・」
天桐は岡野に顔を向けて
「ただ、それだけです。・・・話してくれて、ありがとうございます。では、俺はこれで」
と礼を言って頭を下げ、そのまま車庫から出入り口から出て行った。
彼女たち4人は、それを黙って見送った。
一方、車庫の裏口に誰かが静かに立って、今の話を聞いていたことは誰も気付いていなかった。


決闘の日である6日、朝9時数分前
岡野戦車道教室が有する練習場
の中心部にある草原の中に1輌のM4A1戦車が停まっていた。
更に、その戦車の前には搭乗者であるハルナ達4人が並んで立っていた。
その彼女たち4人の前を岡野が歩き、立ち止まった。
すると岡野は空を見上げた
「今日の天気は、やはり一雨きそうね」
と呟く。今日の天気は、朝の予報では晴れのち曇りと言っていたのを岡野は確認していた。
他には通り雨が降る場合があるとも言っていて降水確率は40%だった。
既に空には灰色の雲がいくつも見えている。時間が経過する度にその雲は増え、更には広がっているように見える。そう天候を気にしている岡野の他に別のことを気にしている者がいた。
「遅いわね」
ハルナは自分の腕時計を見て言った。
約束の時間まであと3分もあったが、未だに決闘相手である天桐達と戦車が姿を見せていないのだ。
「まさか、あいつら逃げたんじゃないでしょうね」
と天桐達が試合放棄をしたんではないかと疑念を抱いた。
「それはないよ」
隣に居るナツコはそうハルナに言うと
「え?そ、そんなの分からないわよ」
と反論した。すると
「わたくしもそう思います。ねぇ、チフユさん?」
「・・・うん」
更に奥にいるミアキ、チフユもそう答えた。
「ミアキ、チフユも皆どうしたの?それに何か、今日は凄くやる気があるというか。まぁ、あって当然だけどさぁ」
ハルナは3人がいつもと少し違うことに戸惑っていた。
「昨日少しね」
とナツコ
「ナツコさん」
「シー」
ナツコの言った言葉を聞いてミアキ、チフユは止めた。
「昨日?あぁ、なるほどね」
その言葉を聞いて、ハルナは何かを納得したようだった。
そう話しているとどこからか
ドゴォゴォゴゴゴ
と駆動音か轟音が聞こえてきた。その音は次第に大きくなり、こちらに何かが近づいているように聞こえる。ハルナ達、それに岡野は、音の方がする右手に顔を向けた。
その先には、Ⅲ号戦車が走っていた。
Ⅲ号戦車はハルナ達の数メル前で停車した。そして、砲塔と車体の上部ハッチが開き、天桐達が出てきて降車した。
「すいません。遅くなりました」
天桐は岡野にそう言い、5人はすぐにハルナ達の向かい側に整列した。
「よく、逃げなかったわね。」
ハルナは天桐の顔を見てそう言った。それに対して天桐は、
「当たり前だろ。男が女の子相手にしっぽ巻いて逃げれるかよ」
と言い返した。
「まぁ、いいわ。勝つのは私たちよ。コテンパンにしてやるから覚悟しないさ」
「それ、マンガや映画だと負けフラグだから辞めとけ」
二人は睨み合いをした。その間を、まるで見えない火花が飛び散っているようだ。
「ゴホン」
岡野は咳をして
「それでは、これより女子チーム対男子チームの決闘を始めます」
と言った。
「一同、礼」
「「お願いします」」
岡野の号令と共に9人の男女は相手に対して頭を下げた。
「それでは、各位指定された場所まで移動して下さい。9時10分になったら、開始の合図を無線にて行います。」
「「はい」」
そう答えた天桐達とハルナ達はすぐに各自の戦車に乗り込んだ。
それから移動を開始し、互いに岡野に指定された場所に向かった。
それから3分程が経過、各自が持ち場に着いたことで開始時間まで待機となった。
岡野戦車道教室の練習場は300ヘクタール近い土地となっている。
その中でハルナ達女子チームのM4シャーマンA2が北西の端を、天桐達男子チームのIII号戦車N型は東南の端で、互いに4キロ程離れて待機している。
そして、10分という時間が来た、
「時間が来ました。それでは、」
無線機から岡野の声がした。
「はじめ!」
決闘が始まった。


 
 

 
後書き
第6話はABCの3パートとなっております。
続きのCパートは、また後日投稿致します。 
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