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ゲート 代行者かく戦えり

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第一部:ゲート 開けり
  自衛隊 特地へと出陣せん

 
前書き
引用文献
wikipedia
「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり-4.2 組織」
「Fate/stay night」
「TYPE-MOON」
「星形要塞」

TYPE-MOON Wiki
「サーヴァント」 

 
20xx年
(テレビ中継にて)
「当然のことですが、銀座に突如出現した(ゲート)の向こうにどんな光景が広がっているのか、
どんな土地が存在しそこでどんな生物が存在するのか?我々は全く知りません。
門の向こうに人類またはそれに良く似た存在が存在するのか確認する必要があります。この門がどのような原理で構成されたのか、なぜ突然侵攻されたのか、
これらの様々な疑問を解決する必要があります。なので、
わが国は門の向こうを特別地域…略して『特地』に我が国の自衛隊を派遣する事に決定しました。
そして銀座で悲惨な事件を引き起こした『帝国』を名乗る武装勢力の指導者と交渉し、その賠償を必ず支払わせることを誓います!」


パチパチパチパチパチパチパチパチ!!

パシャッ!
パシャッ!
パシャッ!


北条 重則(ほうじょう しげのり)内閣総理大臣は、多くの国内外のメディアの中継が行われている国会演説中でそう述べ、満場一致の拍手の嵐を受けていた。
銀座事件から1カ月半が経過した現在、
日本国は1945年に太平洋戦争で敗北して以来半世紀以上となる軍事行動を展開しようとしていた。
彼の演説に与党の議員は勿論、野党でも保守的・右翼的な政党の議員は興奮した様子で起立して盛大な拍手を送っており、左翼的・反日的な政党の議員も不満そうに、もしくは無表情を浮かべながら起立せずに座った状態で拍手している。


普段なら左よりな野党勢力はミンシュシュギガー、テイコクシュギテキハツゲンダーとか戯言を惜しげもなく言い放つだろうが、とある事情からテレビなどマスメディアの前でそのような発言をすることが出来なくなっていたのだ。もし、
うっかり言ったら次の瞬間には、その議員の政治家としての人生はそこで終了するのだ。ゆえに普段の発言をなるべくしないよう彼らは注意深く心がけていた。


それは先の「銀座事件」において、謎の一行の手助けがあったとはいえ国民に一万人を超える死傷者を出し、更にここ最近の行方不明者が門を通じて侵攻してきた帝国を名乗る武装勢力の仕業であることを知って以来、
彼らに対する日本国民の怒りは高ぶっていて断固とした対応を政府に求めていた。この状況で普段通りに政府批判の発言(大量殺戮を行った自衛隊と警察は裁かれるべきと発言)をしたとある野党議員は、たちまちツイッターなどが炎上して多くの抗議文章や電話が後援事務所に送られ、所属する政党に庇いきれずに見捨てられて議員辞職(あくまで強制では無く〝自主的”に)をする有様だ。


おまけにこの発言を受けてその議員の所属していた政党が言い放った過去の発言に注目し、如何に売国奴的発言を繰り返して政府や自衛隊の邪魔をしてきた害悪な存在なのかと、
ネットでまとめサイトが作られて批判メッセージの嵐が公式ホームページに殺到してダウンしたり、発言に同調した自称知識人やコメンテーター、それに戦前では超右翼であった大手新聞社などのマスコミに対して、世間は60年代の新左翼のデモ隊の様に激しい罵詈雑言を交えた批判を浴びせ、彼らのツイッターやホームページが炎上したり自宅が襲撃されたりと多くの事件が発生したのだ。


これ等の影響で彼らは自己の不利を悟り、発言をすぐさまテレビの前やホームページなどで謝罪の言葉と同時に撤回し、
何とか自分の身に降りかかった今回の騒動の鎮火を試みた。
そしてそのような記事や論文を記載した新聞社は謝罪文章を掲載し、日ごろ彼らと敵対していたコメンテーターや新聞社などはこれを好機を見て日頃の怨みと言わんばかりに積極的に攻撃をしていた。


ともあれ、このような対応を取ることで一応事態は収まり、
それ以降はなるべく左翼系の議員やマスコミ等は普段通りの発言を控えるようになった。こうした事情を踏まえて、左翼系な野党の議員たちはこのような反応を示していたのだ。
実際に一連の騒動で左翼系の関係者では死者が8人、負傷者が14人も出ているのだ。関係する家屋やビル等にもかなりの被害が出ているので、
日ごろただ吠えるだけの彼らも流石に命は惜しかった。





「同時に、我々はあの日銀座で国民を助けてくれた謎の一行への接触も同時に試みます。今まで世界各国の政府の協力の下で寄せられた情報を考慮すると、彼らはわが国で製作されたとある二次創作品の登場人物で、また世界中でテロ等を防いだりして何かと世界平和に貢献しているのが明白であり、
何故本来実在しないはずの存在が現実にいるのか、様々な疑問が政府内部で問題となっております。
もしかしたら今回の事件に何かしらの関係、または情報を少しでも知っているかもしれません。更に国内だけでなく世界中からも彼らに対する感謝や調査の要望などが寄せられているので、是非一行に穏便に接触を試み、
何とか同盟関係を構築したいと我々は考えております」


そして次に発言された言葉に、集まった報道陣と国会議事堂は大いにざわついた。何せ彼が触れたのは今最もネットやテレビなどで大いに盛り上がっている話題であったからだ。
先の銀座事件において、あの日銀座に居た多くの民間人などを助けたのは警察や自衛隊ではなく、
コスプレ集団の様な恰好をした一行であることを国内外問わず多くの人間が認知していた。更にその正体を探るべく様々な手段を使ったところ、とある作品のキャラクターである可能性が浮上したのでより一層の混乱を招いていた。




その作品とは
「fate」シリーズである。




この作品は2004年1月30日にTYPE-MOONから発売されたテレビゲームで、ジャンルは伝奇活劇ビジュアルノベル。稼働プラットホームは当初はパソコンのみであったが、現在は家庭用テレビゲーム機・スマートフォン(スマホ)など各種に渡る。どんな願いも叶えると言われる聖杯を手に入れるために、
魔術師たちが神話や歴史の英雄の霊を召喚し殺し合う「聖杯戦争」。その聖杯戦争に巻き込まれた半人前の魔術師、衛宮士郎を巡る伝奇活劇ビジュアルノベルゲームである。


ちなみにTYPE-MOONは、クリエイタープロダクション・有限会社ノーツのゲームブランド。同人サークル「TYPE-MOON」のメンバーによって設立された会社であり(社名はメンバーの一人・奈○きの○の小説『Notes.』に由来)、代表は「ぷよぷよ」等で有名な株式会社コンパイルのグラフィッカーだった武○崇。インターネット上では"TYPE-MOON"を直訳した「型月」(月型)と呼ばれることもある。


本作品は、それまで同人サークルとして活躍していたTYPE-MOONの商業デビュー作品である。
また、TYPE-MOONによる他の作品、『月姫』や『空の境界』などと同一世界での出来事を扱っていることでも知られている。これらの作品の間にはストーリーの直接的な関係はなく、
それぞれの作品は単独で内容を理解することができるものの、共通の設定を背景に描かれており、
クロスオーバーする部分も存在している。


『月姫』同様ビジュアルノベル形式のゲームであり、一応「18禁のアダルトゲーム」というカテゴリに属してはいるが性的描写は控えめであるため、「ストーリー、設定面に比重を置いた伝奇活劇物」の色合いが強いゲームである。同じような傾向の作品に、ニトロプラスやアージュの作品が例として挙げられる(マブラヴオルタネイティブ、刃鳴らすetc…)。


後年発売されたファンディスク『Fate/hollow ataraxia』も合わせた販売累計は約40万本におよび、アダルトゲームの実販売数が集計されるようになってからは(2011年時点で)最高の売上を誇っている。
そのヒットの余波は凄まじく、本作発売当時はコミックマーケットをはじめとする同人誌即売会を本作品一色で埋め尽くし、普段アダルトゲームをプレイしない層にも「名前くらいは聞いたことがある」ほどの知名度を獲得することに成功。
インターネット上では「Fateは文学」というコピペも流行したぐらいだ。


現在ではこれや前日談となるfate/zero等を基にしたスマホゲームである「Fate/Grand Order」(略称FGO)が昨年に発売されて以来、
色々な意味で高い評価を受けて課金ゲーの中でも最高峰(意味深)の作品として多くの人気を集めている。そして銀座事件で目撃された人街染みた力を発揮したのは連中は、これらのシリーズに登場する過去の英霊(サーヴァント)であるのが数々の証拠(写真や動画など)から確実視されていた。


実は約2年ほど前から、世界各地でこのサーヴァントと思わしき存在が目撃されており、その活動は決して表に出ることは無くインターネット等で限られていたが密かに大注目を浴びていた。例えばフランス・首都パリでは、イスラム教の創始者であるムハンマドの風刺画を載せた新聞を発表した新聞社への襲撃を試みたイスラム過激派テロリストの集団が、銀髪の如何にも高貴な雰囲気を出した少女とその付き添いに「ヴィヴ・ラ・フランス」と言葉と共に鎮圧されたり、アフガンのとある山中で、
髑髏のマスクを着けた集団が待ち伏せに遭ったアメリカ兵を救出して逆にタリバンの構成員を皆殺しにしたり、中国西部の山奥で大地震が発生した際に、真っ先に褐色の大男たちが瓦礫の山を力技で排除して生き埋めの人間を救助したりと、
世界中で起きたテロ事件や大災害などで彼らは人命救助に大いに活躍していた。


そして世界中の原作を知るオタクたちは、その活躍ぶりを見て妄想が現実となった事と祖国を自国が生んだ英雄が救ってくれたことに対して大いに喜び、その一方であまりアニメなどに興味を持っていない&女体化やゲーム等が苦手な多くの大人は驚愕を隠せなかった。まずは原作について色々とプレイしたり教わったりして学び、次にその能力や魔術のパワーインフレの激しさと設定の深さに驚愕し、そして最後にはどう対処すれば良いのかと考案したりと、
世界各国政府の上層部はこれ等の様々な悩みを嫌でも抱える羽目になった。


例えばサーヴァントという存在は、聖杯戦争に際して召喚される特殊な使い魔で、使い魔としては最高ランクで、魔術よりも上にある。一般に使い魔という単語から連想される存在とは別格で、一線を画している存在。
その正体は英霊、
神話や伝説の中でなした功績が信仰を生み、その信仰をもって人間霊である彼らを精霊の領域にまで押し上げた人間サイドの守護者である。
英霊を英霊たらしめるものは信仰、つまり人々の想念であるが故に、その真偽は関係なく、確かな知名度と信仰心さえ集まっていれば物語の中の人物であろうがかまわない。ゆえに色々な作品に出て来る超ハイスペックな登場人物も、たとえ仮想の存在であっても多くの人々の信仰心と知名度があれば召喚できるのだ。


サーヴァントとは英霊であり、現世では聖杯の力でエーテルで出来た仮初の肉体を与えられる。サーヴァントは血肉を備えた「実体」と、
不可視で物理的に縛られない「霊体」の二つの状態をとることができる。基本的に、両者の行き来に制約はなく、サーヴァントの意思によって自由に行える。
実体は物理的干渉力を持った状態であり、基本的には戦闘を行うための状態。
霊体は物理的干渉力を持たない状態であり、基本的には非戦闘時の状態。つまり壁などを「霊体」の状態なら容易に通り抜けることが可能なので、厳重な警備が敷かれた施設などに簡単に侵入が可能なのだ。


サーヴァントの実体は、「霊核」と呼ばれる存在の周囲を、
魔力で出来た肉体で包むことで成立している。肉体そのものは仮初のものであり、サーヴァントは基本的に魔力が尽きない限り活動できるが、肉体の損傷は霊核の弱体化を招き、
サーヴァントに対するダメージとなる。
基本的には通常の人間と同じで、心臓の喪失や首の切断などが起こればサーヴァントも死亡(霊体も含め現世でのカタチを保てなくなって霧散)する。ゆえに彼らを殺すには、何か魔術的・神秘的な様子を含んだ武器でないと、霊核を傷つけることが出来ないのでこの世界ではほぼ無敵の存在となる。


そして一部のサーヴァント(インド系やヘラクレスなど原作でもチート扱いな連中)は、核兵器並みの宝具や凶悪なスキル等を持っているので、核兵器を使用しても殺せるかどうか不明という桁外れの理不尽さに、思わず対策を練っていた軍関係者は怒りの余り帽子を地面に叩きつける有様だった。


おまけに彼らの活動はどれも全て民間人にとっては好印象を抱けるものばっかりなので人気を集めており、下手に一行と戦う事態になった際に世論の反応にも対処する必要があると考えていた。下手したら自分たちの手で彼らを救えと、自国の政府に対して非があると考えてクーデターが勃発するかもしれないからだ。
実際フランスでは近年の歴史研究のおかげで名誉回復されていたマリー・アントワネットらフランス王家の人間の人気がテロの影響で更に高まり、世界中では改めて自国の英雄を見直す歴史研究に多くの注目が集まり、
予算が多く追加されたりして研究者の環境改善や研究速度の上昇など色々な後押しをしていた。


こうした動きの中で世界各国政府の中で、必然的に原作を生み出した日本に対処を任せようという声が挙がるのはある意味当然であった。
特に欧米諸国でその声は強かった。何故なら中東利権や難民問題などが絡むイスラム教過激派テロに大変悩んでいる共通点を抱えているこれらの国々にとって、
この問題を抱えるような余計な真似は余りしたくなかったのだ。なのでこれを良く知っているであろう日本に情報収集を一任したのだ。


こうして欧米諸国を中心とした世界各国からお願いされた日本政府は、それを断ることが出来ない事(アメリカに与党議員や閣僚の汚職などの証拠を突き付けられた)と仕事が更に増えたことに嘆きながら、まずは製作会社に人員を派遣して資料を提供してもらい、同時に製作者たちから色々と話を聞いてみた。しかし、
全く手掛かりとなる情報や証拠などを何一つも手に入れることはできなかった。


何にも収穫が無かったので、一行の情報を何か得ることが可能な手段はほぼ潰えたかと思われたが、
そこに一筋の光明が差し込んだ。それは、「銀座事件」で捕虜となった帝国軍の兵士の自供だった。
彼らは先の事件で何とか幸運にも降伏できた兵士達で、属国の人間を交えない純粋な帝国民で構成されているので祖国の事情をよく知っており、サーヴァントの事も地球世界よりも少しは知っていた。


帝国にとってサーヴァントとは、最近やたらと「帝国」に歯向かい打撃を与えて来る「自由の民」と名乗る亜人と属国の中心とした反乱勢力の指導者的存在で、
その正体は異世界の英霊であるとハーディーから教わっていたので、亜神の様に人間では叶わない人の姿をした化け物だという認識を抱いていた。流石にそれぞれのクラスや真名などは一切知らなかったが、尋問担当の日本政府の公安職員がそれぞれのサーヴァントの絵(設定集のページやゲームの表示画面などから参照)を見せると、彼らは何人かに見たことがあると答えたので、この情報を聞いて日本政府は確信した。


「あの銀座に突如発生した「門」の向こうに、昨今世界を騒がせているサーヴァントと関係している組織があるらしいから、現地で彼らと接触&交流すればいずれ必ず会えるだろう」と。


一行と接触するためにも必ず向こうに自衛隊を派遣しなくてはならない。こうした思惑の下に北条総理はそう発言し、
議会と国民の支持を求めたのだ。彼の演説が終了した後に議会の8割が賛同の拍手を鳴らし、テレビ集計で国民の約83%が支持する回答を行った。こうして日本は正式に戦後初となる「門」の向こう側へと軍事行動を起こし、世界が見守る中で自衛隊特地派遣部隊を派遣することが決定した。


自衛隊特地派遣部隊とは、およそ3個師団相当で最大6個の戦闘団が編成される。
実戦も想定される特地派遣部隊は任期(2年)のある「士(兵卒)」は二期(4年)以上勤務している士長のみとし、「曹(下士官)」以上の自衛官2万5千名を中心に編成された。部隊員は特地へ派遣される前に帝国語の速成教育(通称:駅前留学)を受けている。
この部隊には例の外国人達も公式では書類上に記載されていないが、密かに加わっている。






 それから数日後、
彼らは銀座の「門」の前に集結し、
銀座一丁目の門を囲むように作られた巨大なドームの前で、自衛隊特地派遣部隊の出陣式が行われていた。北条総理は政権終盤時期に銀座事件を迎えたのでこの時には既に退任し、後を継いだ本位 慎三(もとい しんぞう)総理と特地派遣部隊の指揮官である狭間 浩一郎(はざま こういちろう)陸将(中将)の二人から訓示を受けていた。



「北条前首相ならびに各政党の皆様のご尽力により法案が可決され、こうして諸君を特地へ送り出す事となりました。
諸君の任務は非常に重要であります。
心して任務に取り組むように。そして諸君の活躍には我々日本人だけでなく、世界各国が注目していることを決して忘れないように。私からの訓示は以上であります。諸君、健闘を祈る!」


「諸君、私が指揮官の狭間である。既に一ヶ月ほど前から偵察が入っているが、
現地は非常に不安定であり何が起こるかが解らない。常に周囲への警戒を怠らず任務に当たってほしい。幾ら相手が中世ヨーロッパと同じレベルの文明とはいえ、魔法やドラゴンなどこの世界には全く存在しないものが向こうの世界には居るのだからな。決して侮らないように、
慢心せずに任務に臨むように。以上だ」


演説が終わると狭間陸将(中将)の号令と共に、74式戦車を先頭に一斉にゲートを開いて向こうの異世界(特地)へと進撃を開始した。トンネルの様な閉所空間を抜けた先には雲一つない青空が広がり、ほぼ平坦な丘が広がっている場所に自衛隊の戦車部隊は飛び出した。この丘はこの特地では「アルヌスの丘」と呼ばれており、実は以前にも「門」が開いた事があり、そのたびに様々な種族が入ってくる事で特地は様々な種族が溢れた可能性がある。そのため、
帝国を始め各種族にとっても「聖地」とも呼ばれている場所である。


だが、実際には辺鄙な場所で、最寄りの(イタリカなど)でも馬で丸1日以上かかる所だ。ゆえにこの時もウサギや野鳥が居るぐらいで、他には何も目ぼしいものは無かった。しかし、その方がここで拠点を建設しようとする施設科の人間にとっては好都合だ。
丘の上には門を中心に巨大な六芒の星型要塞が築かれ、その内部には自衛隊特地派遣部隊向けの各種様々な施設や居住地が建築された。


星形要塞とは、火砲に対応するため15世紀半ば以降のイタリアで発生した築城方式。イタリア式築城術、稜堡式城郭、
ヴォーバン様式という名で分類されることもある。中世に見られた垂直で高い城壁を持つ円形の城塞は、火砲の普及後、
その脆弱性が露わになった。一方、星形要塞は多くの稜堡(三角形の突端部)を持ち、それぞれがお互いをカバーするように設計されている。複雑な対称構造を構成する要素として、半月堡、角堡、
王冠堡といった外塁が設置されることもある。


15世紀末から16世紀初めにかけてのイタリア半島へのフランス軍の侵入により、
星形築城術はさらなる発展を遂げた。
フランス軍は新型の火砲を装備しており、伝統的な中世からの城壁は容易に破壊することができた。


新型火砲の威力に対抗するため、城壁は低く、分厚くなり、
砲弾によって砕け散らないように土と煉瓦を含む多くの材料で作られた。そして最も重要な改良点として稜堡が作られ、
新時代の要塞を特徴付けた。要塞の防御力強化のためには多数の方向からの援護射撃が不可欠だが、
その完成形として星形の要塞が出現した。


星形要塞の原型は中世の小高い丘に建てられた「砦」であった。敵が放つ矢より、さらに高い位置にある要塞から放たれた矢のほうが遠くまで飛んだ。攻撃側はハシゴをかけて城壁を越えるか、城壁の下に向けて地下道を掘る、もしくは城門を破壊するしかなかった。攻めにくく、
守りやすい要塞は戦術の要諦となった。


新規の効果的で機動的な包囲に際し、
火砲が15世紀の軍事戦略に組み込まれた。これに対する軍事技術者たちの反応は、防壁を壕の中に埋め、土塁を前面に盛るというアレンジであった。これにより火砲は破壊的な直射による攻撃を行えなくなり、防壁の頂上まで盛られた土塁は瞰射(大仰角での砲撃。砲弾が上から降る)の衝撃を吸収した。状況が許しさえすればマルタのマノエル要塞の場合のように、壕は天然の岩を開削して設けられ、壕の背後の壁は加工しないままの岩壁だった。防壁は低められより攻撃されやすくなった。


更に悪いことに、
以前から塔の設計として主流であった丸い形状は、「死角」または「安全地帯」を作り出した。ここは比較的に防御砲火から遮蔽されていた。理由は防壁の他の場所からの直接射撃は、屈曲した壁面に沿って撃ち込めなかったからである。
これを予防するべく、
円形や角形をした塔は、強襲してくる歩兵に遮蔽地帯を与えないよう、ダイヤモンド型に展張成型された稜堡へ変わった。壕と防壁は攻撃側の歩兵を注意深く作られた殺傷地帯へ導いた。ここにあびせられる防御砲火は、壁を強襲しようと試みる歩兵部隊を壊滅できた。これらから、歩兵は防御砲火からの遮蔽物をもたなかった。


さらなる巧妙な変更は、防御の受動的な形式を能動的なものへと移行させたことだった。低められた防壁はより強襲されやすくなり、かつ、
攻撃者が壕の外にある斜面を占領でき、
攻撃側の大砲をそこに据砲できたならば、土塁の傾斜が直射に対して提供した防護は失われた。そこで要塞の造形は、
縦射または側面攻撃の最大限の使用を、
基地の防壁を攻略しようとする攻撃者に対して実行できるよう設計された。要塞内部のぎざぎざしていて星形の箇所にある各火点は、火砲を遮蔽していた。これらの火砲は、近隣の火点の角の下を直接狙える射線を持っていた。これは、星型の各点が敵の砲撃から防御されている間は保持された。


星形要塞は、多数の小銃で要塞を防御する際に、死角を無くすための形状であった。大砲は要塞を攻撃するための兵器としては有効であったが、要塞に攻め寄せる多数の兵士を迎撃する兵器としての有効性は低かったからである。ところが榴弾が開発されると、
大砲によって多数の兵士を攻撃する事も可能となり、要塞防御兵器としての有効性が高まる事となる。


また、星形要塞は大仰角からの砲撃に対しては無力であった。そのため、掩体壕の中に大砲を配置するようになった。
掩体壕の中に大砲を配置するようになると、要塞の形状にも変化が見られる。
複雑な凹凸がある星型から単純な多角形となり、掩体壕をその多角形の辺の中心部分に突出して配置する、多角形要塞が誕生した。そして機関銃の実用化により、それも掩体壕の中に配置された。


しかしながら、星形要塞から多角形要塞への移行が一気に進んだ訳ではない。
多角形要塞への移行が進む過程において、要塞そのものの価値が低下していった。まず軍隊の機動性の増大は、要塞の存在を無視してそれらを迂回しての軍事行動を可能とした。
また、大砲の発達、
機関銃の発達、有刺鉄線の実用化は、
本格的な要塞を構築せずとも塹壕でも十分な防御を可能とした。そのため第一次世界大戦においては、長大な塹壕による防御線が主体となった。逆にその後は戦車や航空機の実用化により、塹壕も含めて長大な防衛線が無力化した。


こうして星形要塞のみならず要塞そのものが衰退していく事になるが、死角が無いという星形要塞の形状はその後も有効性があったため、
基地防衛のための機関銃陣地など、限定されたシチュエーションにおいては、
星形要塞類似の陣地の構築は現代でも行われている。アルヌスの丘に星形要塞に似た陣地が構成されたのは、いずれ必ず来るだろう帝国軍に持ち込んだ機関銃や火砲の有効性を活かすためである。






施設科の自衛官たちがショベルカーやダンプカーなどを駆使して一生懸命構築作業に励んでいる間、
自衛隊特地派遣部隊は周辺に展開して警戒任務に当たり、
拠点建築に協力すると同時に警戒ラインや地雷原の構築を始めた。いずれ敵の帝国軍がこちらを発見し、部隊を派遣してくるのは明白だ。
それまでになるべく防衛準備を整えておきたいところだ。
ヘリが続々と上空を飛び階付近の偵察を空から行い、地図作成用の情報を逐一報告する。それを聞いて司令部は現地周辺の地図作成を行い、
次々と指揮下の部隊に指示を下す。


その間にもどんどん時間は経過して、
やがて夜の暗闇が下りて周囲は真っ暗闇に包まれた。直ぐに持ち込まれたLEDのライトなどが灯されて周囲を明るくし、
作業を夜中でも継続できるようにする。
何せこの丘一帯は民家などが一切無い場所なので、唯一の光源となるのは古代から地球でも人類を照らし続けてきた、
真っ暗な夜空に天高く浮かび、金色に輝く月光のみだ。


そんな状況下でも不眠不休の働きで陣地構築の作業は行われる。早くしないと帝国軍がこの夜の暗闇に紛れて夜襲してくるかもしれないのだ。古今東西そうだが、敵の拠点を真正面から攻めることは基本的に愚策なので、
拠点を攻める際に有効的な方法はまず夜中に攻める事、そして一番理想的なのは拠点を建設している無防備なところを襲撃する事だ。


前者は夜だと人間は基本的に睡眠時間なので注意力が散漫となるし、夜の暗闇やそれが生み出す影など兵士を隠す天然の障害物が増えるので、昼間よりも侵入するリスク等が低下して夜襲が成功しやすくなるのだ。それを防ぐためにも自衛隊特地派遣部隊は盛んに照明弾を打ち上げたり、
10km先をも照らせるようなサーチライトや赤外線センサー等を用意して、アルヌスの丘一帯がずっと明るくなり続け暗くならないようにし、
万が一暗くなっても暗闇空間が見えるように心掛けていた。


こうして不眠不休で日夜働き続けると、
4日目の早朝には一応は星形要塞陣地が完成し、周囲には鉄条網と地雷原が敷かれるなど防衛拠点の体裁を整えることに成功した。施設科の自衛官たちは昼夜問わずの作業でヘトヘトとなったが、それに釣り合う十分な成果を出すことに成功した。ベトナム戦争時のケサン基地の様に、多種多様な防衛感知装置などで守られている。


まず1つ目はPPSレーダーによる15km先の人の動きを探知だ。
2つ目は有効範囲5kmの暗視装置。3つ目は150mにも及ぶ地雷原の背後に設置された、振動感知器と赤外線探知機がセットされた縦に二重にも重なっている鉄条網。
4つ目は引張り式感知器がセットされた縦二重・横三重の鉄条網。そして5つ目には錆びた鉄骨で出来た杭と鉄条網で構成された柵。この5つの手段で基地周辺は常に警備されていた。
帝国軍の兵士が例え最初の障害物を超えても、必ず次の障害物で基地に通報されるし、何重にも折り重なっている鉄条網や地雷原を突破するのは例えモンスターを用いたとしても困難だろうから、効果は抜群だろうと推測されていた。


こうして一応出来上がった基地に自衛隊特地派遣部隊は駐屯し、一部の偵察部隊やヘリコプター部隊を除いて外に出ることは一切無く、引き籠ったままだった。何故なら彼らは帝国軍をここで迎え撃つことを目論み、そのために連中をここまでおびき寄せる必要があったのだ。幾らドクトリンや兵器のレベルが違うとはいえ、まだまだ帝国軍は自衛隊にとって未知の存在だ。何か未知の兵器や攻撃手段を残しているかもしれないので、こちらが有利な場所で戦う方がマシだと考えていたので待ち構える選択を選んだのだ。






基地を構えて8日後、
遂にその時が来た。
銀座事件において銀座を襲った帝国軍と同じ装備をした一団をOH-6D観測ヘリが確認したのだ。その数は約2万人ほどで、
捕虜から得た情報によると1個軍団に相当する部隊だ。この調子だと会敵まで約6時間ほど、歓迎パーティの準備には十分すぎる時間だ。ゆえに自衛隊特地派遣部隊は速やかに部隊をそれぞれの持ち場に展開し、帝国軍が有効射撃範囲内に迫り来るのを手ぐすね引いて待っていた。


そして帝国軍がアルヌスの丘に築かれた謎の建造物を視界に捉え、一先ず様子を見るために偵察部隊を派遣したのを見計らい、自衛隊の特科部隊所有の榴弾砲が火を噴いた。


ドォン!
ヒューーーーーーン


「何だ!?何の音だ!!??」

帝国軍第8軍団偵察部隊所属の男(33歳)は愛馬に跨り、聖地であるアルヌスの丘の上に何時の間にか築き上げられた謎の建造物の正体を確かめるべく、一路そこへ蹄をパカラッと鳴らせながら向かっている途中に、まるで火山が噴火したような大きな爆発音が丘の方から聞こえてきたので、思わず部下たちに一旦止まるように命令して自分も愛馬の足を止めてしまった。・・・・・・・・・・・・それが自分達の命取りとなるのを知らずに。


足を不運にも止めてしまった20騎ほどの騎兵部隊に向けて、
155mmりゅう弾砲(FH70)の砲弾が1発空気の唸り声をあげながら飛んできた。
1発で横幅50m・縦深35m・破片の飛行距離370mの有効着弾範囲を持つ155mm榴弾が彼らの頭上で炸裂し、
一瞬で彼らの体をずたずたに引き裂いた。運が良い者は即死できたが、不運な者は前進を爆発の衝撃と破片でズタボロにされてもまだ息があり、出血多量の状態で痛みを感じながら死んでいった。


その光景を双眼鏡などで見た観測班は、
思わず喉の中でこみ上げる吐き気を堪えるので必死だった。
初めてリアルタイムで見た死体、それも自分の所属する組織によって作られた死体、バラバラ殺人事件の死体よりも悲惨な肉塊となった死体を見て平然として居られる人間はいるだろうか?いや、サイコパスか戦場慣れした人間でもない限り無理だろう。


そして同じく味方の無残な死にざまを見せつけられた帝国軍は、自衛隊側と同じく余りにも悲惨な死体を見て士気が低下するかと思われたが、逆に復讐のためか怒りの感情のせいなのかは知らないが、
退かずに威勢の良い掛け声を挙げて前進してきた。実際、
この時の彼らには恐怖心よりも怒りの感情の方が上回っていた。敵の攻撃と思われる謎の魔法(帝国軍にとって砲撃は魔法の一種と思われている)で戦友が無残にも殺されたのだ。
彼らの敵討ちに意識が傾いても別に何もおかしくはない。


復讐心に燃える帝国軍は先の砲撃で部隊を密集させている危険性に気付いたのか、幾つかの部隊に小分けして相変わらず密集隊形を保ちながらこちらに迫ってくる。具体的には百人隊の様に100人程度のグループが、それぞれ50m間隔に間を開けながら進んで来ているのだ。明らかに先の砲撃を意識した布陣である。一度の砲撃で大損害を被らないよう一応彼らも注意しているのだ。



この中世ヨーロッパレベルの軍隊を含め近代までの軍隊は、
下手に現代の様に個人個人でバラバラに戦うと、愛国心や忠誠心など近代の兵士に備わっている精神がほとんど無いので簡単に戦場から逃亡し、山賊や盗賊などに一転して治安悪化の原因を作るのだ。ゆえに相互監視の意味合いも込めて兵士たちを密集させているのだ。精神的に周りに多くの友軍が居れば、バラバラに戦うよりも心強いので敵前逃亡するリスクが減るからだ。


だからこそ、密集して方陣や陣形を組んで戦うのは必然だった。兵士たちも隊列を組んで戦うよう訓練されているので、
急に散兵となって戦うなどかなり無理があった。なので帝国軍の総大将は可能な限りバラバラになれる苦肉の策として、
100人隊ごとに部隊を分けて進軍させたのだ。それぞれの隊長の指示に従い、一歩また一歩と偵察部隊がやられた距離まで近づいていく。


この時、帝国軍はやろうと思えば尻尾を巻いてこの場から退却する選択肢も残されていた。しかし、
祖国の事情がそれを許さなかった。今、
「帝国」は絶賛大暴落&大ピンチの真っ最中だ。黒王軍と自由の民この2つの勢力によって国土は荒らされ、国土の25%は占領された状態だ。


属国の連合諸王国は自由の民に鞍替えして堂々と歯向かうし、他の属国や亜人達がそれに感化されて様々なゲリラ活動を繰り返す。そして黒王軍の殲滅戦によって皆殺しにされることを恐れ、小さな村や町の住民が故郷を捨てて大都市へ難民として避難し、大都市の生活・治安事情の悪化を招くなど、
まさに踏んだり蹴ったり&泣きっ面に蜂な状態となっている。このままだと国が崩壊するのは明白なので、何か明確な勝利を得ない限り下手に負けたり逃げることが出来ないのだ。
ゆえに彼らは退却せずに前へ前へと、
知らずに地獄の道を突き進んでいた。


一方、そんな背景などを露知らない自衛隊特地派遣部隊は、
最初MLRS部隊による攻撃で帝国軍を歓迎しようと考え、照準を定めて何時でも打てる態勢を整えて本部からの砲撃開始の命令を待っていた。
同じく155mmりゅう弾砲もその言葉が発令されるのを今か今かと待っており、それが少しでも出されればたちまち地獄絵図が生まれるだろう。


「作戦司令部より全特科部隊に命じる。
撃て!」


ここに地獄が生まれるのが決定した。


命令が出たのでたちまち待ってました!と言わんばかりに、
砲門やロケットが火を噴く。そして飛び出した砲弾やロケットが迫り来る帝国軍の頭上で炸裂し、
破片や子弾を周囲にばら撒いて人体などに大きな穴を穿つ。
特にMLRSから発射されるM26ロケット弾1発で直径約200mを制圧できるので、後に「鋼鉄の雨」と帝国軍に湾岸戦争時のイラク軍の様にMRLSはそう呼ばれ、大きな恐怖と畏怖の念を抱かれる事となった。


自衛隊の砲撃による激しい感激の洗礼を受けた帝国軍は、
一言で言うと悲惨な状態となっていた。
まだ30kmも離れているのに既に先頭の部隊はほぼ文字通り全滅状態(一般的に損耗率40%を超えると全滅と見做されるが、この時は80%以上であった)で、
僅かな生存者も恐怖のあまり頭を抱えて地面に伏せてしまうか、一瞬で仲間が自分を除いて皆全滅したことで発狂して棒立ちのまま笑い出したりぶつぶつと独り言を言いだす等、
攻撃を受けた部隊はまともに機能しておらずもはや戦える状態ではなかった。


それでも僅かな希望を胸に抱いて、彼らは前進を止めることは無い。確かに敵の攻撃は火山の噴火のように激しく威力は絶大で、進むごとに周りの部隊が文字通り消し飛んでいくが、接近戦に持ち込めば慣れ親しんだ集団戦術を十分に活かせるし、味方への誤射を恐れてこの攻撃も止むだろうからまだ希望があった。その一筋の望みに全てを賭けて、彼らは隣が吹き飛んでも前進し続けた。





だが、その望みが遂に絶える時が来た。
それは・・・・・・


「こちら第6対戦車ヘリコプター隊。これより帝国軍へ攻撃を開始する。オーバー」


上空からの対戦車ヘリによる地上掃射。
それと・・・・・・


「作戦司令部より戦車部隊と普通科部隊へ、射撃開始!」


戦車部隊&普通科部隊の攻撃開始だ。


設けられた塹壕に展開した戦車と普通科隊員たちが照準を定め、それぞれ己のタイミングに合わせて個々に射撃を開始する。発射される鋼鉄の弾丸によって、
たちまち僅かな生き残りたちが止めを刺される形で次々と体に風穴を開けて死んでいき、肉壁として運用されていたオークやトロールなども一瞬で肉片となり、
平等にあの世へと順番に送られていく。
その様はまるで死の舞踊みたいだ。


81mm迫撃砲 L16や120mm迫撃砲 RT、
96式40mm自動てき弾銃にカールグスタフ無反動砲などから発射される砲弾が、
帝国軍の部隊に向けて射撃して丸ごと吹き飛ばしていく。
そしてFN MAG機関銃やブローニングM2重機関銃、89式5.56mm小銃64式7.62mm小銃などから飛び出る弾丸が、兵士たちの体を幾つも貫いて血しぶきや肉片を地面にぶちまけていく。


初めての実戦、それも直接相手の姿が見える至近距離で銃を撃つ自衛官たちは、
自分の撃った弾丸で敵が死んでいく光景のその目で見るので精神的ショックを十分に味わっており、
必死にあれが敵で撃たないと自分が死ぬと精神的暗示を言い聞かせて撃ち続けているが、中には興奮状態で既に死んだ支隊にも撃ちこむ自衛官が居るぐらいだ。


この永遠にどちらかが死ぬまで続く死の舞踊には、遂に帝国軍は最後まで踊りきることが出来なくなってきた。もう精神的に限界だった。
榴弾砲とロケット弾が雨の様に頭上に降り注ぐ中で仲間の8~9割は死傷し、何とか近づいても今度は地面に埋まった地雷原や鉄条網がその進行を大いに邪魔してくる。この世界にはどれもない代物なので対処方法が分からないので進むのは困難となり、それに手間取っている間に自衛官から良いカモとして銃火器で狙われ射殺されるのだ。


悲惨な死に方をする帝国軍兵士も続出した。155mm榴弾やM26ロケット弾、81mmと120mm迫撃砲弾の爆発で肉片だけとなって即死する幸運な者。
不運にも体がバラバラになりながらも息が残っていて、死ぬまで飛び出した臓器などを抑えたりしながらもがき苦しんで死ぬ者。そして背後で起きた爆発の衝撃で前方の鉄条網に吹き飛ばされ、肉体を突き刺さる棘でズタズタにされて死ぬ者。地雷の作動によって下半身を吹き飛ばされ上半身だけとなりながらも息が残っており、後方に運ばれるまでに絶望の時間を味わって死ぬ者。このように各種様々な火砲による砲撃、そして地雷原と鉄条網のセットでこの様な地獄絵図が生まれているのだ。


そしてそれらを何とか乗り越えても、
普通科の隊員が扱う銃火器で射殺された。例えば89式5.56mm小銃や64式7.62mm小銃から発射される5.56mm弾や7.62mmによって、胴体や頭部を撃ち抜かれて風穴を開けて死ぬ兵士。
ブローニングM2重機関銃の50口径弾によって、頭部や胴体を破裂させられて死ぬ兵士。カールグスタフ無反動砲やパンツァーファウスト3によって、大きな図体のトロールやオークが木っ端みじんに吹き飛ばされて、それの巻き添えを喰らって死ぬ兵士etc…。彼らは一人も自衛官を殺せずに次々と撃たれ全滅していった。





最終的に軍団長も榴弾砲で吹き飛ばされて死亡し、生き残った生存者は戦場から逃亡する余裕もなく自衛官たちに次々と確保されていった。
残存兵たちは彼らの常識とはかけ離れた戦闘に平常心を保てず、精神的ショックの余り逃げる気力も無かったのだ。故に自衛官が近づいても抵抗する素振りは全く見せず、大人しく連行されていったので自衛隊は拍子抜けすると同時に、抵抗される事で対応に慣れていない自衛官に死傷者が出る恐れが無いので安心した。


この戦いの結果、
帝国軍の死傷者は約2万人中88%が死傷し、最終的に74%が死亡した。そして残りの12%が投降した。
ここまで壊滅状態となった理由としては、多くの士官が死傷したことで降伏するリーダー格が居なくなったのと、前述の激しい砲火と銃撃などが原因である。
余りの惨劇に精神を病む負傷者や捕虜も発生し、後に社会問題へと発生する事となった。


一方、勝者である自衛隊の方でも問題が多少発生していた。
それは・・・・・・


ザッ

ザッ


「これは凄い……。
こいつらは最後まで諦めなかったんか。
敵ながらその精神には感心するな…!」


「えぇ、帝国軍は明らかに容易い相手ではありませんよ。
柳田二等陸尉も見て分かると思いますが、奴らは過激派テロリストの様に決して諦めません。愛国心なのか矜持なのか分かりませんが、最後まできちんと戦い抜く戦士たちです。
このような優秀な兵士たちには、幾ら我々が技術的に上回っているとはいえ油断は禁物ですよ」


戦闘から一夜明けたアルヌスの丘にて、
陣地の前方に広がる帝国軍の死体の山を横目に見ながら、
特地方面派遣部隊幕僚の1人である柳田 明(やなぎだ あきら)二等陸尉(中尉)は、4・5人の副官を引き連れて戦場跡を観察しながら歩いていた。


彼は防衛大学校を優秀な成績で卒業し、
日頃の言動にエリート意識が漂い鼻につく人間で彼を苦手に思う自衛官は多く、事務畑であるため先日の戦闘には直接参加していないが、
実際にこの光景を見ると当時の現場の自衛官たちの精神的負担が如何に掛かるのかと、視覚的に十分に思い知った。


何せ見渡す限り彼の視界には、帝国軍兵士や怪物の死体の山が映っており、他には臓物の飛び出した死体や風穴が幾つも開いた死体、まだかすかに息が残っているが直ぐに死ぬだろう哀れな生存者、
そして鼻が曲がりそうになるほどの火薬と死臭の匂いが充満し、死体から流れ出た血の池と肉片があちこちに点在する等、ここが自衛隊の作り出した地獄絵図であることが嫌でも彼に認知させる。


だが、この地獄を作り出したのは帝国軍にも一端がある。
最初の砲撃で撤退すればよかったのに逆に侵攻することを選択し、最後まで戦い抜こうとしたのがこの結果だ。同時に帝国軍の士気が高い事を自衛隊は認知し、
下手な対応では決して屈しないことを思い知らされた。何せ彼らは最後の一人になるまで隣の部隊が全滅しても前進を止めず、部隊のリーダーが死んだらすぐに他の人間が指揮官の代役を担ったりと、
専業軍人らしい優れた対応ぶりを見せつけたからだ。


それを踏まえて副官たちは柳田に決して侮らないようにと忠告し、その言葉に彼も素直に同意した。
ここまで見事な散りぶりを見せつけられた彼の心境は、太平洋戦争でバンザイ突撃を喰らったアメリカ海兵隊指揮官のような心境であった。
決して敵は野蛮な連中の集まりで、容易く圧倒できるような存在ではない。油断すると殺される危険な敵だと明確に認識できた。





「だが、これで何とか帝国も我々の実力を思い知っただろう。ここは日本にとって重要な天然資源の宝庫だ。それこそかつての満州の様に、
世界から爪はじきされても構わないぐらいのな。早く採掘に取り掛かりたいから、このまま素直に土下座して賠償してくれれば万々歳なんだがな……」


柳田は思う。このまま日本政府との圧倒的な実力差を思い知り、素直に銀座事件で生じた被害を「帝国」が弁償してくれれば事態は丸く収まり、更に貴重な資源の宝庫であるこの異世界の開発が出来ると。この異世界は天然資源の大半を海外からの輸入に頼っている日本にとってはまさに楽園で、何としてでも採掘を進めて自国の利益にしたいと考えていた。


彼は愛国者である。
その為にどんな汚い手でも必要ならやる覚悟を抱いている。
それでも、早く「帝国」に負けを認めれ貰い賠償を頂き、
安心して資源採掘が可能な平和な世界へとなることを望んでいた。だから早く降伏してくれとそう願った。そしてその願いは、様々な報告で知った日本政府の願いでもあった。


彼らはまだ知らない


この世界は資源の楽園などではなく、
神々の為に神々が用意した箱庭であり、
いつ崩壊するか分からない欠陥物件であることを。


そして異世界から恐ろしい黒王軍というウイルスが地球にも牙を向き、第三次世界大戦が危うく勃発しそうになる事など、この時誰も全く予想だに出来なかった 
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