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ゲート 代行者かく戦えり

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第一部:ゲート 開けり
  皇女の憂鬱&黒王軍の進撃 その1

 
前書き
参照文献
wikipedia
『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』→「用語4.1.2 特地の地域・国家」「登場人物3.4.2 特別地域・帝国関係者」

「パラッツォ」「フォロ・ロマーノ」

原書房「実戦スパイ技術 現代のスパイのすべて-第6章:秘密作戦/第7章:破壊工作」P242~250、262~275

指輪物語wiki「ラーツ」「ウグルク」 

 
特地:「帝国」首都「帝都(ウラ・ビアンカ)」にて





 帝都は帝国の人間からウラ・ビアンカと呼ばれる人口100万人を超える城砦都市で、市街は三重の城壁(高さ15m・幅10m)で囲まれており、
1番目の内側には帝国市民の住宅や市場などが立ち並び、2番目の城壁の内側は富裕層や貴族層など上層部の人間向けの施設が立ち並び、3番目の城壁内部には国家公文書館や元老院議事堂など重要な建造物が立ち並ぶなど、
地球で例えるならローマに非常によく似た都市である。


この都市に入るには北・南・西に設けられた跳ね橋付の城門から出入りするしかなく、城壁の周りには幅5m:深さ10mの空堀が設けられている。5万人を収容可能なコロッセオ(円形闘技場)やパンテオン(万神殿)も内部に建設されており、
毎日多くの帝国市民や市外から様々な用事で来た人間によって賑わっている。
・・・・・・本来ならばの話だが。


かつて多くの人出で賑わっていた広場や商業地区では、今ではすっかり閑古鳥が鳴くほど賑わいを失っていた。外部から訪れる人間は依然と比べるとほとんどいなくなり、店の三分の一は閉店して空き家となっており、
目抜き通りにはこの首都に元から住んでいる住民や巡回の兵士ぐらいしか行き交わず、その人たちも元気がない様子で肩を落としながら地面に向けて顔を俯いたままの者が多い。


かつては多くの物資やその土地の名産品を帝国領内の各所や属国などから運んできて、市場経済を活気づかせていた商人たちの行列は、今ではほとんど見受けられない。1ヶ月に6回は来ていた例年から、月に1回・2回あるかないかぐらいに減少した。それゆえ商品の品揃えや品質は低下する一方で、
逆にその値段は比例してどんどん限りなく上昇する一方だ。


通貨の価値も低下する一方で、所謂インフレ状態に陥っていた。何せ物資がかつては潤滑に全土に行き届いていたのが、
とある原因のせいで輸送部隊や商人の荷馬車が襲撃されて途絶え、残された物資の価値が必然的に上昇したからだ。他の原因としては、通貨となる貴金属も件の襲撃によって採掘されたのが製造所に届かなくなったので、
何とか製造しようと質の低い他の金属で代用したりして、
通貨そのものの質が低下したからだ。


だが、それよりもかつての賑わいや活気を失う原因となったのは・・・・・・


ザッザッザッ


「はぁ、また見慣れない顔の兵士が増えたなぁ。どうせ新人だろう。今まで見慣れていたあの頼もしい男たちは何処へ消えたんだい?」

「確か東と北に派遣されたって聞いているぞ。すぐに帰ってくると居酒屋で笑いながら言っていたあの時が懐かしい。
もう既に3カ月は経過しているんだ。何時帰ってくるんだろうな……」

「あの人たちと比べれば、こいつらはてんでなっちゃいないな。こいつらと比べれば、まだ鍛冶屋の弟子の方が強く見える」


今、巡回中の兵士たちが隊列を組んで通りを歩いていく。
それを横目に住民たちはこそこそと話していたがまさにその通りだ。1ヶ月ほど前から以前からここに配属されていた兵士たちは前線へと送られ、代わりに新兵たちがその職務を代行するようになった。
既に帝国軍の兵士はとある理由で熟練した兵士たちが底を尽きかけており、大量に新兵が導入されたのだが彼らはまだ訓練が行き届いていないので、前線に送るわけにはいかないのでこうして後方の実戦経験のある兵士たちと交代する形で配備が進んでいた。
 

しかし、それは各地の都市で不安を招く切っ掛けの一つに繋がっていた。この首都を含め多くの城壁都市は戦略的・経済的・政治的価値から熟練の兵士たちで構成された部隊が配属されているケースが多く、彼らと市民は顔馴染みの関係でそれなりに互いに親しみを持っていた。
市民は巡回する兵士たちを頼もしく感じ、兵士たちは自分たちが守るべき価値を市民に見出すなど、
信用を抱いていた。


そんな彼らが戦況の悪化により、続々と前線へと配属転換となり姿を消し、代わりに頼りなさそうで見慣れない顔をした新兵たちが配属に就くと、彼らと比べて劣った仕事内容や顔馴染みでない等が原因で不安になり、
今まで築かれてきたその信用関係も次第に崩壊していった。
そしてそれがやがて帝国上層部に対する不信感や不満に繋がるのも、ある意味当然の話だろう。


この状況を何とか打開せねばと考える者は「帝国」に多くいたが、その中に一人の皇族の女性が含まれていた。




(宮殿「フォロ・ロマーノ」に多く存在するパラッツォにて)




「…という状況です姫様。既にこの「帝国」は国土の半分は完全に失いました。
このままですと約1・2年後には8割が占領され、この国は落日を迎えるのは間違いないでしょう」

「そんな!?グレイ殿、それは間違いないのですか?」

「ハミルトン、グレイが言うならばその通りなのだろう。…あまり信じたくはないがな、実際に市街地に繰り出して商店の品揃えや巡回の兵士を観察していれば実感できる。このままだと、この国は滅亡するのがな」


宮殿「フォロ・ロマーノ」は、東西約300m、南北約100mに渡って存在する宮殿を指す名前で、帝国領内ではたいていの都市に政治・宗教の中心としてフォルム(英語のフォーラムの語源)と呼ばれる広場が置かれていたが、このフォロ・ロマーノは首都に開設された最初のフォルムであり、最も重要な存在であった。
それがやがてあれよこれよと壁や天井が設けられ、次第に大広間や元老院議事堂を備えた宮殿へと変貌し、フォロ・ロマーノは帝国の中心的存在として機能し続けている。


そしてパラッツォとは決してパチンコグループの名前ではなく、イタリアにおいて宮殿を意味する言葉だ。イタリアの比較的大きな建築物を指し、建築としての価値を持つものである。古代ローマ皇帝の宮殿があったパラティーノを語源とする。パラッツォの多くは君主、王、太子、シニョーレ(領主)、貴族の居住のために建てられた。


この宮殿の内部には歴代の皇帝や皇族関係者、それに大貴族によって多くのパラッツォが建築されており、その一角の部屋でとある皇位継承者が腹心たちと前述の会話を交わしていた。部屋の中には2人のうら若き女性と1人の初老の男性が、
平服を着て腰に剣を携えた状態で空間の真ん中に置かれたテーブルの前に立っており、この「帝国」が置かれている現状について話している。


姫様と呼ばれた人物は、この「帝国」の第三皇女である

『ピニャ・コ・ラーダ』

赤い髪を持つ美女。
モルトの5番目の子供(姉二人は帝国の外の王国に嫁いでいる)で、第10位の皇位継承権を持つ。


幼い頃に見た演劇や趣味に基づいて同世代の貴族の子女を集め、自前の騎士団である「薔薇騎士団」を結成している。
部下に過酷な命令を出すこともあるが、
基本的に皇族としての義務感が強く慕われている。そして皇帝の子供の中で一番優秀な存在で、まだ考えが甘かったり権力志向が薄いなど多少の欠点があるが、
それを克服すれば優れた統治者となると父親(皇帝)に思われている女性だ。


そして他の3人の名前は

「ハミルトン・ウノ・ロー」侍従武官・准騎士

「パナシュ・フレ・カルギー」カルギー男爵家令嬢

「グレイ・コ・アルド」侍従武官・騎士補

それぞれ彼女の指揮下にある薔薇騎士団の隊長クラスを務めるなど、かなり重要な立ち位置に居る腹心達だ。


ハミルトン・ウノ・ローは、騎士団設立以前からよくピニャに同行しており、
騎士団学校時代はどちらかというと「鈍くさい方」な部下の一人。優秀な秘書タイプの人間ではあるが、いささか思い込みが過ぎるきらいがあり、また物事を実行する際にも度を越した根回しで暴走するところがある。
仲が良好な婚約者がおり、性的には騎士団の中で一番進んでいる(逸物が何なのかを知っていた)。


パナシュ・フレ・カルギーは、薔薇騎士団の白薔薇隊隊長で、正式な騎士団結成前は第二部隊隊長を務めていた。見た目は男装の麗人で、
密かにスピード狂の気がある。もう一人の相方を務める女性と共に薔薇騎士団の中で頼れる姉貴分として信頼を集め、
本人も面倒見が良いので頼れる姉御肌として今日も皇女を支えている。


そしてこの中で唯一の男性であるグレイ・コ・アルドは、
元筆頭百人隊長(兵卒の最上位)を務めていた男で、実戦でたたき上げた歴戦の騎士で、頭の回転が早く的確な助言でピニャを補佐する。騎士団の中では数少ない男性であり、一兵卒出ながら騎士補という地位にあるが、出自の関係でここまでが昇進の限界らしい(騎士補に任ぜられたのも34歳とかなり遅い)。今から7年ほど前に「騎士団設立」を決意したピニャに指導教官として引き抜かれたが、ピニャの(個人としては好ましいが、皇族としては問題な)無茶ぶりから来る心労に今もなお悩み続けている。


彼ら3人を交えてじゃじゃ馬な姫様は、
様々な伝手を利用して自分や部下たちが仕入れてきた情報を纏めていたのだが、
どうみてもどこぞの錬金術師のように「あらやだ、この国詰んでいる」という状況に、思わず頭を抱えて唸るしかなかった。ちなみになぜ情報を集めようと彼女が思ったのかというと、何か祖国がピンチらしいと宮殿に使える女官や市民たちの話などを聞いたので、自分なりに父上の手助けは出来ないかと思ったからだ。





現状、「帝国」は崩壊するまで秒読みに入ったと言えるほど危機的状況だ。既に国土の半分以上が敵対勢力に支配されているか、もしくは彼らとの戦闘地域となっており、そこから国に納められていた税収や収穫物が途絶え、前述の描写のように国内の食糧事情や財政事情などが悪化する一因になっていた。税収や前年度より50%低下し、
自給率は残された領土で必死に収穫に励んでいるのでまだ何とか毎日食べていけるだけの量を賄えているが、このまま領地を失い続けると飢餓が発生すると予測されている。


そして各地で治安が悪化して山賊や盗賊が街道や山中で商人や旅人を襲い、チャンスやタイミングによっては村落や町を襲う事もある。おまけに襲った人間を殺すこともあれば、
誘拐して身代金を要求する事もある。
こうして国内の治安はどんどん日を追うごとに悪化していた。


このように「帝国」を悩ませているこれらの諸問題は、敵対的な2つの勢力が原因であった。このファルマートをほぼ領有する超大国であるこの国に対し、今まで反旗を翻す勢力は大小様々に存在したが、全て「帝国」によって壊滅状態に追い込まれて消滅した。
ゆえにこの国とこの大陸は、つかの間の平和と停滞した時代を迎えたのだが、
それを何と異世界からやって来た連中によって結成された2つの勢力によって、
そのパックス・オブ・エンパイアは崩壊して再び戦乱の時代へと突入したのだ。


「帝国」に敵対する勢力の一つは『黒王軍』だ。


この勢力はファルマート大陸に突如出現した、この世界の技術ではない技術で生み出された「門」(ゲート)を通じて現地の町や村を襲撃し、住民を奴隷にするか皆殺しにした後にかの有名な宣戦布告「黒の宣言」を発布して、迎撃に向かった帝国軍を壊滅すると直ぐに各地に異様な怪物の軍勢を派遣&占領し、無理やり支配下に治めてそこに居た帝国の民を前述の通りの扱いで虐げている。


連中は見慣れぬ姿をした怪物と未知の兵器を駆使し、圧倒的な身体能力や火力で帝国軍を赤子の手をひねる様に蹴散らし、運良く捕虜となった兵士達は奴隷となるか拷問されて最後喰われるか、もしくは行方不明となるしかなかった。民も同じような目に遭っているようで、わざと解放された幸運な者の発言によると、
奴隷となった者も病気や負傷など様々な要因で働けなくなると、最終的には市場で解体処分されてその肉や臓器などは食料として売買され、
残った皮膚などは色々な製品に加工されているそうだ。


そして幸運にも何とか捕まる前に逃げ出すことが出来た現地の民間人は、戦争難民となって避難先の各地の都市や郊外にスラム街を形成し、
現地の食糧事情や治安の悪化を招いている。彼らは自国民なので属国民や亜人のように手荒な扱いは出来ず、おまけに成人は兵士や勤労奉仕などに役立てることが可能だが、病人や老人などは全くの無駄飯ぐらいと化すので余分な出費を強いられるのだ。


更に彼らが自身の体験した恐怖を都市部の人間に話すので、
黒王軍への恐怖や自国に対する不安が広まり、民衆の精神に大きな影響を及ぼすのだ。ある帝国貴族はこうしたマイナスの効果しかもたらさない避難民の事を「疫病神」と呼ぶほど忌み嫌い、無理やり肉壁として前線に派遣することを議会で求めたぐらいだ。
こうして帝国上層部は、黒王軍への対応だけでなく避難民への慰安などにも注意する必要があった。


おまけに黒王軍は「帝国」に対してとある目的の達成と心理的圧迫、そして〝嫌がらせ”を行うために、騎兵部隊らしき謎の狼の様な獣に騎乗した部隊を派遣し、帝国各地の畑や果樹園などに放火して焼き払い、農民たちの収穫物を減少させて食糧事情の悪化を目論んでいた。この〝嫌がらせ”は地味に効果的で、各地の農村や田舎の町がパニック状態に陥り帝国軍の駐屯を望んだので軍隊の配備状況に支障をきたし、
「帝国」上層部も食糧供給源を守るために部隊の移動や拠点の建造などを考えるなど余計な努力や労力を強いられ、帝国軍はこれ等を守るために更に余裕のない状況下で前線から部隊を割いたりと、
その効果は黒王軍の予想以上にかなり有効的であった。



そして2つ目となる敵対勢力は、『自由の民』だ。


主に「帝国」支配下であった亜人部族や連合諸王国など、
常にチャンスがあれば帝国に歯向かい自由と独立を勝ち取ろうとしていた連中だ。彼らは黒王軍の指導者と同じ異世界の連中の手を借りて独立運動を行い、それに成功した勢力である。その背景的に反帝国思想で団結し、
種族の壁を越えて「帝国」と互角の国力を手に入れて対等の関係となるのを目指すと同時に、今までの積もりに積もった恨みを晴らして散った祖先や同胞に報いるために様々な軍事活動を行っている。


その活動の一端としては、破壊工作や暗殺、そして民心獲得工作(ハート・アンド・マインド)の3つが主な具体例だ。
例えば民心獲得工作ならば、帝国国内の田舎に工作員を派遣して現地の帝国人と触れ合い、彼らの日常生活で起こる問題を政府に代わり様々な手段を用いて解決したり、現地の知的職業人(聖職者・医師・学者など)と懇意になったり、医療技術で患者を治療したりして関心や好感度を得て、頃合いを見て何度か集会などで演説を行っていた。


その演説内容は要約すると以下の通りとなった。

・政府上層部や貴族たちは、国民から富を搾り取るだけ搾り取る事しか考えておらず、我々はその不当な搾取から諸君らを含む民衆を解放するため戦う兄弟であると説く。

・政治的、社会的、
経済的違いなどを利用して、人民を政府から引き離し、一般国民の消費物資は不足しているのに、
一部の特権階級だけが享受しているという点を強調する。

この2点に注意して如何に帝国政府上層部や貴族など支配階層が庶民にとって敵なのかアピールし、
田舎では必需の家畜技術や衛生技術の向上などを並行して行う事で、一体誰が農村にとって頼りになる存在なのかと揺さぶりをかけたのだ。


おまけに幸か不幸か幸運なことに、自由の民へ運命の女神が微笑んだのかは知らないが、帝国軍の減少により治安が悪化したので活発化してきた山賊や盗賊、
そしてその元凶である黒王軍の行動部隊などが地方で暴れまわるようになり、
それらを見事排除して現地の治安維持に努めたことでその演説に後押しするような説得力を持たせることになった。


今まで帝国政府からあまり注目されずインフラ整備などは不完全で、更に領土拡大の恩恵などを受けてこなかった田舎の人間からすれば、
本来なら敵である筈の自由の民の方が頼もしい存在と目に映った。何故なら帝国上層部が今まであまり熱心に行ってこなかったインフラ整備や様々な改革、そして治安維持や医療行為など必要なことを全て行ったからだ。


生まれてから一度も皇族の顔を見たことなどほとんどない地方の人間にとって、
頼りない祖国や上層部に対する愛国心や忠誠心を持てという方が無茶な話であり、彼らの生活を保障&改善する組織があればそっちに鞍替えするのはある意味至極当然であった。
彼らの価値観は、
戦乱の時代の世界各国の国民(戦国時代の日本など)とほぼ同じであった。自分たちの生活を保障してくれて何か生活に悪影響を及ぼさなければ、領主がどんな悪人だろうが変人だろうが大人しくその庇護下で文句も言わずに生きるのだ。


こうして地道な宣伝活動と寄り添って生きる手段が徐々に実を結び、地方では黒王軍に占領されていない地域で帝国軍が駐屯していなければどんどん自由の民に寝返るようになり、その支配領域はまるで細菌のように静かに、そしてじわりじわりと現在進行形で浸透している。
このように「帝国」は、黒王軍と自由の民という2つの勢力に悩まされており、
このままだと何れ崩壊するのが帝国上層部に所属する者には容易に想像できた。




コッコッコッ

「う~ん、ここまでこの国が追い込まれることは歴史上一度足りともない。空前絶後の危機だ。やはりここは妥協する必要があると思うな。
まだ話の通じる自由の民と講和を結び、
黒王軍との戦いに専念する必要があるな。悔しいが、亜人共に頭を下げるのはかなり癪だが、こうでもないと講和は結べんだろう。奴らの武力を上手く使い黒王軍を打倒しないと、このままでは奴らの軍勢によって帝国は間違いなく滅びるな」

「確かに。まだ比較的に大人しく話も通じる自由の民の方がマシですな。黒王軍の連中は我々を劣等種として奴隷扱いならまだしも、下手をすれば弄び欲を満たす道具としか見ておりませんからな。
私も姫様の意見に賛同します」


神経質そうに机を指でトントンと叩きながら、ピニャは現状を踏まえてこのような決断を下した。
その考えに歴戦の戦士であるグレイも同意する発言を発し、
他の2人も頷いて同意を示す。何故なら一行の脳裏には先日幸運にも黒王軍の陣地を帝国軍が占領し、
その際にそれに偶然参加していた自分たちも含めた部隊一同が見たとある光景が浮かんだからだ。


そこは黒王軍の行動部隊が築いた臨時の拠点と思われるもので、鬱蒼と木が生い茂る林の中に設けられていた。その敵部隊は装備も銃火器と連中や自由の民が称する未知の強力な兵器を一切用いていなかったので、多分2線級の部隊だったのだろう。何はともあれ、約100体ほどの見慣れない姿のオークとウルクハイという未知の人型怪物で構成された部隊を、たまたま行軍していた帝国軍が発見して殲滅し、まだ息が残っていた奴を尋問してその場所を知ったので踏み込んだところ、そこで一行は〝地獄”を見たのだ。


壁に埋め込まれているフックに吊るされた生首と、その持ち主と思われる胴体が40個ぐらい無造作に置かれていた。胴体には明確に拷問や落書きの跡が残っており、色々なレパートリーが存在している。例えば生首の口に蝋燭が無理やり刺し込まれていたり、
脳天に突き刺された状態でキャンドル状にされて置かれている。そして串刺しにされた頭蓋骨がアンティークやインテリアのように、隅っこにポツポツと設置されている。


他にも口元に舌に奴隷の焼き印が無理やり刻まれたまま、
切断された肘から先の腕部分を咥えていたり、プレデターのように引きずり出された脊髄ごとネマイクスタンドのように、ぶら下げたままの状態で吊るされている。また、胴体から無理やり抜き取られた臓物が周囲に飛び散っていたり、
抜き取られたことで空洞となった胴体に糞尿がトイレのように詰められていたり、皿状の物体の上に〝調理”されたそれらや肉片などが盛られていたりした。


明らかにそれらの死体は、生命体として全く取り扱われておらず、単なるゴミや昆虫など劣等な存在として扱われていた。奴らは人間をまるでゴキブリなど害虫や糞のようにしか思っておらず、奴らに囚われた人間の最期はこの様に最悪な終わり方を迎えるのは明白であった。これなら奴らと戦い戦死する方が何百倍・何千倍もまだマシだと、否が応でもこれを見た全ての人間が同じことを思った。


この惨状に侯爵公子のカラスタ将軍や勲爵士のミュドラ将軍は、思わず地面に思いっきり今朝食べた朝食を胃液ごと膝を付いた状態のまま吐いた。勇猛だが意外と冷静なポダワン将軍も怒りの余り顔を炎のように真っ赤にし、先ほど切り捨てたオークの死体にその言葉にならない感情の赴くままに足蹴りを何度も行い、
終いには手に持った刀で大声で喚きながら何度も切り付けたり突き刺したりした。2人と同じように、
この場に居合わせた帝国軍の連中は同じ反応を示した。


この日以降、軍からこの報告を受けた皇帝モルトはそれを即座に国中に発表し、
黒王軍の残虐性を訴えると同時に最後まで徹底抗戦することを述べ、またそのために自由の民との一時的な和睦も検討していることを訴えた。この発表に「帝国」は大いに揺れ、
改めて敵の残酷さと自国の衰退ぶりを思い知る人間が増加し、黒王軍の残虐性を思い知り士気が低下する者もいれば、
そのように無残に殺されて更に死後も弄ばれた自国の人間の事を思い逆に燃え上がる者もいた。



そしてそれを踏まえた上でピニャとグレイの発言に、2人は果たして自由の民との和睦条件はどうなるのか気になったので彼女に尋ねてみた。
和睦を請う立場が相手と比べて政治的に弱いのは、古今東西例え異世界だろうが変わらないので、
この場合は自由の民が和睦を受け入れるような手土産を掲げる必要がある。それに納得して初めて、
相手側が和睦を妥当と考えて結んでくれるのだから。


しかし、今は衰退の一途を辿りそうでもないが、かつて「帝国」はこのファルマート大陸の覇権国家であり、自由の民を構成する亜人や属国の人間は帝国人よりも圧倒的に立場が弱く、奴隷と余り変わらない位置づけだった。まるで中世ヨーロッパやロシア帝国時代の農奴や、西洋諸国の植民地における白人の原住民に対する手荒な扱いに良く似た扱いを彼らは受けており、何かと理由を付けて迫害したり恨みを買うような行為を帝国人は長年行っていた。


なのでこのように自由の民が長年溜め込んできた恨みなど負の感情と、彼らに対し帝国人の精神に形成されたプライドや優越感などが非常に問題で、今更頭を彼らにこちらから下げるのはそれらが邪魔をして容易ではなかった。どうしても「向こうから頭を下げて言うべきだろう」と思ってしまい、態度にそうした考えがつい出てしまうのだ。そして自由の民側も、「こちらがわざわざ負け犬なお前たちのために話を聞いてやるんだ。有り難く思え」と態度に出てしまい、
時には直接口に出して如何に此方が立場的に上なのかを知らしめるので、なかなか会談が進まずひどい場合には中止に追い込まれるのだ。




「やはりここは私が率先して自由の民の連中に頭を下げるべきか……」


「それが一番無難でしょう。姫様自ら率先して頭を下げたとなれば向こうのプライドを満足させますし、他の将軍や貴族にも示しがつきますからな」


これを踏まえピニャが己が率先して頭を下げて交渉に臨めば、そうした傲慢な態度を取る交渉人を務めることが多い帝国の貴族たちも自分を見習って改めるだろうし、自由の民も忌々しい「帝国」の最高権力者である皇帝の一族に連なる人間が頭を下げれば、
それに対しムカつくことは無く逆に頭を下げさせたとして大いに満足するだろうと思ったからだ。
その意見にグレイも同意を示し、他の面々も暗い表情を浮かべながら頷く。今のところ思いつく最適な方法が悔しいがそれしか無いからだ。


こうして会議はこの様な事が決定し、
後日彼女が父親にこれを奉上して担当に任じられるよう努力することになった。
彼女は祖国のピンチを自分たちが考えた方法で改善した光景を夢見て思わず笑みを浮かべ、意気揚々と父上の居るであろう皇帝の間へと歩いて向かった。


・・・・・その自信満々な発案が否定され、父親に対する不信感を彼女が僅かに抱いたのは、後の事を思えば運命の転換点とも言うべきだろう。何はともあれ、
「帝国」はこのように次第に追い込まれており、条件付き和平を考える勢力は彼女以外にも出現しだしており、後にそれがピニャ皇女という錦の御旗にはそこそこ相応しい存在の下で一つに纏まり、
「講和派」と称されて帝国内で大きな力を持つ派閥となるのは未来の話だ。



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一方そのころ


「黒王軍西部方面軍 第8軍団第12師団第9連隊第第4大隊所属ウルク=ハイ部隊隊長と副隊長:ラーツとウグルク」




鋼鉄で覆われた蹄が幾つも地面を蹴って走る。その足の正体はワーグと呼ばれる狼に似た、イノシシとのハーフみたいな外見をしている生物だ。その背中には銀色の大きな鎧を身に纏ったゴリラの様な人型モンスターを背中に騎乗させ、「帝国」と劣等種(人間や亜人などこの特地に生きる自分たち以外の事を指す)が呼ぶ土地を縦横無尽にとある任務のために駆け巡っている。


その数は総勢約1600騎ほど。それぞれが両耳と口元に無線機のイヤホンマイクを装着して互いにこれを通して会話できるように工夫されており、同時に奴らが明らかにこの世界の生き物ではないことを知らしめている。
何故ならこの中世ヨーロッパ程度の科学レベルな世界に、
イヤホンマイクが装着可能で更に携帯できるサイズの無線機などは一切存在しないからだ。そう彼らこそこの特地を現在騒がす元凶集団

『黒王軍』

所属のモンスターである。


奴らの種族名は

「ウルク=ハイ」

とあるイギリスの世界的に超有名なファンタジー小説「指輪物語」に登場する敵モンスターだ。一言でいうなら同じくファンタジー世界では定番の敵であるオークの強化型で、普通のオークよりも大柄で、知性も人間並みに高く、持久力もある。皮膚もとても頑丈で、弓矢も当たり所によっては効果が低減して矢が刺さったまま動けるなど、この世界の人間にとってはかなり手ごわい存在で、ウルク=ハイ1体で帝国軍兵士4人分の戦力を誇る。


そして武器は主に盾とマチェット状の剣、またはハルバードや戦斧、他にはウォーハンマーやフレイルなど、使用するのに人並み以上の力を必要とする大きな破壊力がポイントな代物を装備している。
しかし、これ等の武器は本来彼らが扱う武器ではない。あくまでこの世界に合わせた武器なのだ。本来扱う武器は同じ異邦人である自衛隊やカルデアの連中と同じく銃火器である。
どちらかというと、
整備が簡単で値段の安い旧東側諸国の武器が大半である。


では何故これ等の武器を使用せずに今手にしている武器を使うのかというと、
万が一帝国軍に鹵獲されてコピーされたら面倒だからだ。
総大将の黒王の意向もあり、なるべくこの世界に産業革命など技術革新が起きるのを防ぐためにこうし武器を使用しているのだ。更にこれらの武器は力任せに振り回すだけで敵兵の鎧や盾を砕き中身の肉に被害をもたらすことが可能なので、
銃火器と比べるとその単純さと破壊力もあって意外と奴らに好まれていた。
 

そんな事情はさておき、奴らは同じく「指輪物語」に登場するモンスター「ワーグ」に騎乗して何を目的に行動しているのかというと、「帝国」の食糧事情悪化のために辺境の村落を襲撃したり、田畑を焼き払っているのだ。一応こうした任務専用の部隊がきちんと存在するのだが、生憎彼らは今回休息日なので一般部隊に順番が回って来たのだ。黒王軍は数が膨大なので予備部隊も豊富だからこそ、
意外ときちんと兵士たちの体調もしっかりと考慮するホワイトな環境なのだ。


そのため彼らは前述の理由から車両などは使えないのでワーグに跨り、帝国の村々を好きに隊長の判断に任せて襲撃して回っているのだ。
そして今回、隊長格のウルク=ハイであるラーツと副隊長のウグルクは、帝国西北西部の辺境区域にあるゲロトデ村を襲うために行軍している。
西部方面軍の拠点「ウルグ=アラドルン」からは約800km離れた地点に目標の村が存在する。


偵察用のモンスターや成層圏を飛ぶ監視艇からの報告によると、人口は約400人程度のごく普通の村で、特産物は小麦と人参、周囲には北に林があり東に小川があるだけで、他には何も特徴的なものがないと報告を受けている。見事なまでに何もない辺境の村のイメージそのものな場所であると知り、
両名共に今度の任務は簡単で非常につまらないものになると予測していた。だが、任務は任務であるので兵士である彼らには拒否権は無い。
なので手早く済ませることにしていた。


ウルグ=アラドルンから出発して約4日程経過した今現在、
時刻はちょうど正午ぐらいを腕時計の針は指している。目的の村と思わしき家々を発見したので北にある林で潜み、休息を取りながらも順番で双眼鏡を用いて偵察を行っている。
今のところ視界に映るのは農民と家畜、
それに牧草ロールや家の壁ぐらいで、
武装した兵士や弓を所有する猟師などの危険要素は一切見当たらない。実に平和でのどかな村の光景が広がっていた。




「タイチョウ、キョウハアノムラヲドンナフウニコウゲキシマスカ?」(隊長、
今日はあの村をどんな風に攻撃しますか?)


「ソウダナ……マズハムラヲホウイシロ。ツギニテノアイテイルレンチュウニムラノカナニトツゲキサセ、スキニリャクダツヤサツリクヲオコナワセル。ソシテニゲダシテキタレンチュウヲノコッタホウイシテイルレンチュウデショリスルカ」(そうだな……まずあの村を包囲しろ。次に手の空いている連中にに村の中に突撃させ、好きに略奪や殺戮を行わせる。そして逃げ出してきた連中を残った包囲している連中で処理するか)


「リョウカイシマシタ。スグニソノムネヲヤロウドモニメイジテキマス」(了解しました。すぐにその旨を野郎どもに命じて来ます)


双眼鏡を覗いて村の様子を見ていた副官のウグルクの質問にラーツはそう返答し、部下たちに村を包囲するように展開することを命じた。
そして包囲網を維持できるだけの人員を残して残りは村へと突入させ、村民を駆り立てて皆殺しにし、突入部隊が取り逃がしたものは外の包囲網でしっかり補足して殺すという、
魚釣りの方法を参考に編み出されたやり方で任務に取り掛かることにした。



そして与えられた作戦内容を承知した部下たちが休憩から戻るのを確認し、奴らは任務を開始した。
手始めに村の周囲をなるべく村民に見つからないように気を付けながら接近する。見つかるまで村に近づくつもりだが、
もし見つかったら、
その時は即座にこそこそ動くのはやめて攻撃を開始する。
なお、接近している最中に指揮下の1600体のうち400体を村に突入させる突撃部隊とし、残り1200体を包囲網形成部隊として2つに分けておく。



カシャ
カシャ
ジャリ
ジャリ
パキ
ペキ



ワーグに乗りながらなるべく音が出ないように気を付けているが、それでも発生してしまう鎧のパーツ同士が小さくぶつかり合う音や、地面の小石や小枝などを踏むことで起きる音が小さく周囲に響く中、村の様子を見つめ確かめるが相変わらず変化はない。
このままだと包囲せずに突っ込んだ方が早く終わらせることが出来るのではないかと予感する。だが、そうした慢心が敗北につながるので慢心せずに先ほど決めた手順通りに事を継続する。


そして幸いにも村から1km離れた距離まで見つからずに接近することに成功し、
村の包囲網を形成することに成功した。
そして部下から配置に着いたと報告を受けたラーツは信号拳銃をポッケから取り出し、信号弾(照明弾、発煙弾など)を上空に向けて発射した。さぁ、この村を蹂躙しよう。



「トツゲキーーーーー(突撃)!!」


「ウラァーーーーーー!!」


ギャアアァァーーー!!



彼の号令に合わせて部下たちは掛け声を発して村人を威圧する雰囲気を発し、
村人の不安や恐怖を駆り立てる。このウルク=ハイ達を背中に乗せたワーグたちもそれに釣られるように吠えて、威嚇すると同時にこの声を聴いた村人の恐怖心を掻き立てる。その声を聴いて慌てて村の外へと視線を走らせ、自分たちを取り囲むように包囲する何千騎ものモンスターを見て瞬く間に顔色を青白くし、大声で他の人間に聞こえるように叫ぶ。


「襲撃だ!皆、この村は包囲された。
もうおしまいだ!!」と。


その叫び声を合図として、決めた通りに400騎ほどのワーグに跨ったウルク=ハイが突撃を敢行し、
村へと武器を振り回しながら突入する。
慌てて外に居た村人は家屋の中へと避難したり壁際に隠れようと走るのが見えるが、背中に全身オートメイルのウルク=ハイを載せたまま最高速度50km/hの速さで走れる奴らには無駄な抵抗である。
全速力の勢いをフルに活かしたまま家屋の壁へと突進した。


するとどうだろうか、ほぼ猛牛が突進したかのように壁には大きな衝撃が走り、
中には瓦礫となって崩れるものもある。
これで防壁代わりとなっている壁が崩壊したので、中に居た住民は全くの無防備となった。すかさずウルク=ハイ達はファルシオンやハルバードなど手に持つ武器を、人間たちの背中や胸に向けて勢いよく振り下ろしたり突き刺す。


たちまち鋼鉄の刃や穂先が、骨や肉を簡単に切り裂いたり貫通し、血と悲鳴を大きく噴出させて周囲の地面や壁を真紅に染め上げる。奴らはそのまま武器を引き抜いて地面に犠牲者が倒れ込むのを横目に、次の哀れな犠牲者に狙いを定めて攻撃へと取り掛かる。そして同じような手順で次々と村人は老若男女関係なく平等に殺されていく。


ある老人は、心臓をハルバードで串刺し状態のまま地面に引きずられて紅葉おろしのように皮膚を削り取られていくので悲惨な状態となり、
最後には皮膚がぼろぼろになっていたのと地面を引きずった衝撃で穂先が横にぐいっとずれたので、
上半身と下半身の2つに分かれてしまった。


更にその後ろを全く気付いていない別のワーグが思いっきり踏みつけたので、
体はバラバラに飛び散った肉片と血の池だけとなった。だが、老人は既に刺された時に死んでいたのでそれはある意味幸運であっただろう。
何せ小石や小枝などが混じっている地面を引きずられたり、
真っ二つにされる痛みやショックを味わうことなく死ねたのだから。


また、別の場所では泣き叫ぶ赤ん坊や幼児を抱えた親が、
迫り来るワーグに背中を向けて必死に走って逃げている。
その無防備な後ろ姿に向けて馬上のウルク=ハイ達は勢いよく武器を振り下ろす。するとどうだろうか?何と奴らの筋力と武器の鋭さが上手く重なり、人体はまるで豆腐の様にスパッと胸に抱える子供ごと心臓部分まで切断された。まるで薪割のように縦に真っ二つになったので、
彼女たちは悲鳴すらあげる間もなく血の噴水と臓物をまき散らしながら即死した。


この様に次々と殺戮の宴が繰り広げている中、続々と出来上がった死体を一部のウルク=ハイがワーグから降りて回収している。別にこれは供養しようという心がけなどではなく、
とある作品作りの材料集めのために行っているのだ。死体を回収し終えたら、
奴らは近くの家屋から柵や長い木の棒などを持ち出して紐で死体をそれに縛り付ける。そしてそれを人が通る所に良く見えるよう工夫しながら配置していく。


これは何を意味するのかというと、「帝国」に対する一種の宣伝材料である。
帝国上層部や帝国軍が守れなかった人間たちをこの様に晒すことで、彼らに己の無力さを知らしめているのだ。同時にこれは挑発の意味も重ねている。
「お前たちが余りにも無力だから、善良なる国民がこんなにも無様に死んでいくのだ。そしていずれお前たちもこのようになる。息絶えるその日まで、精々首洗って待っていろ」
と、血で書かれた看板を遺体にぶら下げておくのだ。


こうしてこの村の住民は一人たりと例外残さず皆殺しにされ、死体は縛られた状態で棒に吊るされ放置された。そして襲撃を終えるとラーツ隊長の指揮下で再び行軍体制を整え、
即座に帝国軍が駆けつける前に村へサーメート(テルミット焼夷弾の一種で、
短時間に狭い範囲に集中する非常に高い温度を爆発的に生み出せる兵器)を利用した焼夷手榴弾を放り投げて火を付け、
村が黒煙に包まれて盛大に燃えるのを見届けてから退散して本拠地へと帰還した。





そして襲撃から約1日が経過してからやっと巡回の帝国軍部隊が現地に到達し、
この惨状を発見するとたちまち伝令を出して皇帝の下へと報告すると同時に、
僅かな望みに賭けて生存者の捜索に取り掛かった。その際、
彼らは注意深くしたいの吊るされている棒をチェックし、
何かワイヤーなどがセットされていないかどうか注意深く見つめた。幸いにも今回はそうしたのが一切無かったので、安心して遺体を収容して付近の草原に埋葬することが出来た。


何故、このような厳重な警戒をしていたのかというと、黒王軍は地球のテロリストのように様々な仕掛け爆弾を多用するのだが、その中でも特に帝国軍に大損害を与えているのが、
人間の死体に爆弾を仕掛けるトラップだ。これは今でも猛威を振るっているトラップの一種で、軍隊の同胞意識などを利用したものだ。特に現代の兵士など訓練された人間は仲間の死体が戦場に放置されていると、辱められないうちに回収して手厚く葬ろうとする傾向が強いので、
事前に聞いていなければ何も警戒せずに接触するので仕掛け爆弾に実に引っかかりやすいのだ。


仕掛けてあるのは主に手榴弾など手軽な爆弾で、他には放棄された武器などにも仕掛けてある場合がある。死体や武器など様々なものに仕掛けらたこの爆弾は、
共通点としてそれらに上手く隠蔽されたワイヤーに引っかかると作動するのがポイントだ。帝国軍はこれ等の仕掛け爆弾に現代の知識がないので多く引っかかり、既にこのトラップのみで約1万人近い死傷者を出している。
なのでこの大量の犠牲を踏まえてどうすれば引っかからずに済むのか経験したので、帝国軍兵士は必ずこのような時にはチェックする習慣が身についたのだ。


ともあれ、こうして村人の死体の埋葬や生存者の確認チェックを終えた部隊は、
間に合わなかったことを悔やみながら、
予定通りに次の巡回先へと出発した。
彼らは特定の地域ごとに巡回する任務を帯びた部隊で、その目的はこうした辺境の地での黒王軍行動部隊による襲撃を防ぐと同時に、地方の帝国民に安全をアピールして祖国から国外逃亡することを防いだり、彼らが自由の民に加わることを防ぐためであった。


だが、この地道な活動はあまり効果が無かった。何故なら運よくオークだらけの部隊に遭遇すればワンチャンあるが、
それ以外の場合は大抵返り討ちにあって犠牲者を増やすだけなのだ。こうして黒王軍は「帝国」に出血を強いており、
徐々にチェックメイトへと一歩ずつ近づいていた。



果たしてこの国が崩壊するまでに王女や上層部は間に合うのだろうか?


そして自由の民と共闘する日は来るのだろうか?


互いに歩み寄るには、何かしらの切っ掛けがあればよいのだが・・・・・・・・・・・
 
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