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ゲート 代行者かく戦えり

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第一部:ゲート 開けり
  我らレジスタンス組織「自由の民」

 
前書き
引用元
wikipedia
「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり-特地の国家・地域」
「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり-3 登場人物」 

 
特地のとある大きな洞窟で







 その洞窟はロルドム渓谷に存在した。
近くにはダークエルフの住まうシュワルツ森林や炎竜の住む洞窟などがあるため、「帝国」の民などは余程の理由が無い限り問題ごとを避けるためにここには近寄らない場所だ。
ゆえに「帝国」に逆らう者たちにとって、ここはまさに身を隠したり、拠点を設けるのにはうってつけの場所であった。


そもそもこの土地はエルベ藩王国という「帝国」の南方に位置し、「帝国」の傀儡国家である諸王国連合の一角を成す小国の国土の一部だ。
資源が豊富な国で、
国王も賢明な君主なのでかなり優れた国家だ。こうした経緯もあって「帝国」への反感はかなり根強いものがあり、かの国に反旗を翻る存在を匿う下地はかなり出来上がっていた。


「帝国」に対して反乱を企てる者は、
様々な理由から反逆者となって追われながらも多く存在した。その身分もかなり豊富で、逃亡奴隷もいれば没落した貴族などかつての支配層の人間もおり、また多くの亜人がそれに加わっていた。例えばヴォーリアバニー(首狩り兎)やキャットピープル、エルフやワーウルフ、それにハリョと呼ばれる混血児集団である。


特にヴォーリアバニーとキャットピープル、ハリョの3種族は、「帝国」に根強い恨みを抱いていた。
前者はその容姿から性的欲望の対象として人間に愛玩奴隷として扱われ、後者は混血児という出自ゆえ、どちらの親の種族にも受け入れられなかった者たちなので差別の対象として手荒く扱われていたからだ。他にも亜人の多くは自分たちの住処を帝国軍に破壊されたり、奴隷狩りが行われて戦利品の奴隷として「帝国」の貴族に売買されたりと、色々な酷い目に遭っていたので多くの反感を密かに抱いていた。






だが、そんな日々が続くかと思われた今から約4年ほど前の夏、この地に密かに小規模な空間の裂け目が生じ、そこを通って人の姿をした何か高貴な気迫を放つ存在が、近くで暮らしていたヴォーリアバニー達に接触してきた。彼らは自らを異世界出身の{英霊}(サーヴァント)と名乗り、彼女らにこう囁いた。


「我々がこの血に拠点を構えるのに協力してくれないか?
協力してくれれば「帝国」に打ち勝つ術を与えよう」と。


その言葉を聞いてヴォーリアバニーの女王テューレと専属部下のデリラは、彼らの言葉を鵜呑みには出来ず一先ず様子見をすることにした。
しばらくの間、サーヴァントたちは彼女たちに許可を得て周辺の森林を開拓したり、簡単な拠点作りを行っていた。やがてヴォーリアバニー達の中から彼らに接近する者もちらほら出現し、密かに交流が進んでいた。


そんな時にタイミングよく、皇帝の第1子であるゾルザル・エル・カエサル率いる奴隷狩り集団が現れた。彼はかねてより手に入れたかったヴォーリアバニーの愛玩奴隷を手に入れようと、自分の派閥に所属する部下を引き連れておよそ5000人ほどで彼女たちの居住地に攻めてきたのだ。彼はこれぐらいの大人数ならば、
戦闘能力の高さで幾ら有名な彼女たちでも叶わないだろうと踏んでいたのだ。


しかし、彼らは当時たまたまその場に居たサーヴァント6体によって容易く撃退され、更に彼らから色々な戦闘訓練を受けていたヴォーリアバニー達によって、
たちまちその人数を100人程度まで減少させ、生き残りが撤退を強行しなければ危うく皇子を捕虜にする勢いであった。
彼女たちはそこで助けてくれた最近自分たちの生活空間に入り込んだ見知らぬ一行の実力を、その時に思う存分目の当たりにして大いに感銘を受け、感謝の心を抱くと同時に彼らへの協力を決意するようになった。






こうして後に彼らサーヴァントのマスターを名乗る青年から彼らがカルデアという機関に所属するメンバーで、予測される大災害からこの世界を守るために派遣されたことを聞いたテューレは、自分たちを「帝国」から助けてくれた一行の話を信用して協力を申し出て、ここに同盟関係が構築された。
そして色々と話をするうちに亜人と人類の関係に話が及び、
やがて如何に人類に亜人が虐げられているのか聞いたマスターの青年は仮面を脱ぐと、何かを決心したような表情を素顔に浮かべながら彼女に次のような事を言いだした。


「亜人の亜人による亜人のための独立国家を樹立しよう。
可の大国と対等な関係となり、君たちの尊厳を守り抜くにはそうするしかない」と、彼は彼女を含めたヴォーリアバニー達に熱く語った。


最初その話を聞いて、彼女たちは一体何を言っているのかが理解できなかったが、彼から詳しい説明を聞くと理解でき、
彼の考えに協力を申し出た。彼曰く、
「今まで散々苦痛を味合わせてきた「帝国」から、貴女方亜人の権利や自治権などを獲得すれば、
表立って亜人に手出しをする事は無くなる。その為には彼らに多大な出血を強いることである程度の譲歩を引き出し、
下手に手を出すと痛い目を見ることを骨の髄にまで分からせることがとても重要である」と。


その言葉に共感した彼女たちは、「帝国」から自分たちにとって当たり前の権利を勝ち取るべく武力闘争を行う事を決意し、手始めに他の亜人との協力を考えた。彼女たちは他の亜人達からも武力の高さから畏れられる存在であったので説得は難しかったが、
彼らも「帝国」へ苦しめられていたので次第にその説得に応じて同志となり、
遂には約6000人にも及ぶ一大勢力へと成長した。この人数は戦闘員のみの数値で、非戦闘員を含めると約2万にも及んだ。


当然「帝国」も自分たちの統治体制に歯向かう彼女たちに大いに警戒心を抱き、
他の亜人達が全てそれに加わって手が付けられなくなる前に潰そうと幾度も試みた。ハリョの連中を鉄砲玉として送り込んで現地でのスパイ行為や破壊活動を行わせようとしたり、
彼女たちに加わろうとする他の亜人達が住む集落を襲おうとしたりと、思いつく限りの嫌がらせを行おうと試みていた。


しかし、その行為は全て失敗に終わった。まずハリョの連中は今まで同じ亜人からも弾圧を受けていたので任務を全うするかと思われたが、
忍び込もうとしたり襲い掛かろうと準備していた彼らを仕掛けてあった隠しカメラからの報告で、
現地で仏教とキリスト教という異教を布教していた2人のとあるサーヴァントが一行の下に駆けつけて見事撃退されて逆に説得され、今まで通りの生き方では何時まで経っても自分たちの置かれた境遇は変わらないと悟り、
逆に彼女たちの仲間となって協力してその目的を達成する事で変えようと決心し、帝国軍の情報などを手土産に監視役の帝国貴族を殺してその生首を持って寝返ったのだ。


次に他の亜人の集落への襲撃は、予め青年が予測していたので集落は全て家屋や住人ごと全て消え失せており、逆に地雷など罠が仕掛けてあたので数十人の死傷者を無駄に出す結果で終わった。とある魔術によって施設ごと彼女らの本拠地へと移転させられた多くの亜人達が保護され、代償として色々な手段を通じて権利獲得の闘争へと協力する事になった。






 この頃になると勢力が次第に大きくなったので、彼女たちは何時までも無名なのは色々と不味いから正式に名前を決めようと3回にも及ぶ会議の結果、

『自由の民』

という組織名が決まった。


{このファルマート大陸に暮らす全ての種族は自由であり、
それを遮るものには死を!}というスローガンを掲げ、彼女たち・彼ら達は全ての亜人達に同盟を誘うと同時に「帝国」に対し宣戦布告をした。そして一先ず一行は地盤固めに専念し、積極的に領土に攻め入ろうとはしなかった。この動きと声明に対し「帝国」は非難声明を出したものの、先の被害などを考慮して積極的に討伐軍を出そうしたり、諜報活動は一応行うが破壊工作や買収などの行為はしなかった。


何しろ一行が反旗を翻して自由の民と名乗りだした頃に件の黒王軍が暴れ始めたので、一応大人しくしだした連中と黒王軍を同時に敵に回すよりも、ある程度妥協してそのまま静かにしてもらい、2つの戦線を抱える羽目になるのを防ごうと上層部がそう考えていたからだ。なので自由の民は静かに他の帝国領へと浸透し、
現地の亜人や祖国に不満を持つ人間をどんどん自分たちの勢力範囲内へと招き入れたり、辺境地を次々と征服して帝国の役人や軍隊を壊滅させて勢力を拡大していった。やがて帝国領の約15%を支配地域に治め、一種の国と化す様になった。


同時にどんどんカルデアからサーヴァントや物資などが運ばれ、
神々の計画で急速に精々中世レベルで技術が停滞しているこの大陸に産業革命や技術革新が次々と起こるようになった。
例えば火薬と銃の概念は、非力な老人や子供でも大の大人を殺せることを意味し、同時に音は出るが弓や魔術よりも安全な遠距離から多くの敵を殺せる手段があることを一行に知らしめた。


そして石油など数多くこの大陸に眠る化石燃料を使用する機械は、従来の人力や家畜の力を利用するよりもはるかに効果的であることを知らしめた。そして資本主義や社会主義など色々な近代の概念は、彼らの思考や価値観に大きな影響を与えた。このように現地にもたらされた近代の知識は、自由の民に所属する亜人達の生活や知識を豊かにした。そして現在・・・・・・・・・





「いいなぁ、私も新しい水着が欲しいなぁ。でもお金無いんだよねぇ~」


「あと10日の辛抱よ。あと10日経てば給料日だからきっと買えるわよ」


「ねぇ~、そろそろ時間だから番組変えていい?そろそろ天気予報のニュースやるから是非それを見たいんだけど~」



洞窟の中に作られた前哨基地にて、水着など夏物を取り扱った番組が流れるテレビを見ながら女性の亜人達が愚痴を溢していた。彼女たちはこの基地で哨戒任務や維持に努める兵士で、それぞれ潜水艦乗りの様に24時間を3つのサイクルに分けて行動していた。
8時間は任務をこなす勤務時間にし、8時間を緊急事態発生に備えた待機時間で、
残りの8時間を睡眠時間に当てていた。
基本的には休憩や食事などは待機時間に済ませるのが当然で、勤務時間中はトイレ以外は原則一切持ち場を離れないシステムとなっている。


彼女たちは地球の世界各国の軍隊やPMCの様に周囲の地形に溶け込む迷彩色を施した軍服を着用し、
手元や足元にアサルトライフルなど銃器を置いている。無論、引き金部分の安全装置は掛かっているので事故は防がれている。彼女たち以外にも多くの男性が設置されたテーブルの上に料理が盛られたプレートを置いて食事を取っていたり、
チェスやカードゲームに勤しんだりして時間を費やしている。ここは休憩室なのでこうした娯楽設備などが整っており、
他にもビリヤード台やアーケードゲームの筐体、各種書籍を取り揃えた本棚などが部屋のあちこちに設置されている。


他にも前哨基地と化したこの洞窟内部には、各種武器弾薬、
食料と水、軍服や医薬品など色々な物資が保管されており、
最低でも5000人が2カ月は立て籠もれるように計算されていた。洞窟の周りには幾つものセンサーや隠しカメラ、落とし穴や地雷原が仕掛けられており、警戒態勢は基地より20km離れた地点にまで及んでいたので万全の態勢で敷かれていた。


そんな前哨基地の指令室で、
ここの司令官を務めるワーウルフの男と、自由の民の創設メンバーの一人でヴォーリアバニー部族長のテューレが話し込んでいた。2人の前には木製で中型のテーブルが存在し、その上には「黒王軍について」と記載された書類が10枚ほど纏めて置かれていた。



「それで、これが現時点で奴らについて掴めた情報なの?」


「はい、危うく諜報員が5人ほど死傷するリスクがありましたが何とか無事に無傷で手に入れることに成功し、その情報を纏めた代物がこれです。どうやら黒王軍はあの御方達のように、〝この世界に元から生きていた存在”では全く構成されておりません。
異世界から侵略してきた軍勢かと思われます。おまけに本隊は我々と同じく銃火器や戦車などを使用しており、間違いなくこのままだとこの大陸は奴らの庭と化すでしょうな」


黒王軍について色々な情報が記載された書類には、幾つかの写真が掲載されていた。大半の写真に映っていたのは、帝国の民の死体の山であった。村落らしき場所を背景に首の無い胴体が積み木のように積まれ、キャンプファイアーのように囂々と燃え滾る様子を撮った写真。生き残った人々が奴隷のように薄着の状態で首と足に枷を架せられたまま連行される写真。生きたまま見知らぬ怪物たちの餌となって喰われている一場面など、幾ら亜人であっても目を背けるような光景がカラー写真で撮影され記録されていた。


そして残りの写真には黒王軍を構成する個々のモンスターの死体写真で、他には奴らの支配地域について図で説明された書類が存在する。
死体写真にはオークやウルク=ハイの解剖写真も撮られており、それぞれ解剖を担当した医者のコメントがついている。
それによると、間違いなく奴らはこの世界の生物ではないと報告している。


そして支配地域について描かれた書類には、「帝国」の20%にも当たる領土が実効支配されているのが示されていた。
自由の民の支配地域を加えると、約三分の一が敵対勢力に支配されていることを意味している。同時に赤い矢印でこのままのペースだと、
黒王軍に半年後には国土の5割を支配され、1年半後には全土を支配されるだろうと予測されていた。





「別にこのまま帝国が奴らに占領されてどんな目に遭おうが私たちには本来関係ない。むしろ大歓迎なので是非とも手伝いたいぐらいだ。
だが、流石に数少ない同胞が被害に遭っているとあれば、
奴らへの戦闘を念頭に置いた方が良いかもな。あの宣言の事もあるし」


「そうですね。私を含め、指揮官の者は全員貴女の考えに同意しています。確かに奴らが人間だけを襲うなら別に問題ではないですが、意識して行っているのか分かりませんが人間の奴隷となっていた同胞が犠牲となっています。少なくとも奴らはこの世界に存在する全ての生物を殺すと公言しているので、
近い将来、必ずや本格的な戦闘が起きることを考慮しておく必要があります」


書類を見つめながら会話する2人の視線の先には、帝国貴族または裕福な商人の奴隷として働かされていたのだろう亜人の奴隷の死体などが映った写真が存在し、
他にも亜人の生息地を哨戒していた部隊が黒王軍の襲撃部隊と接触し、有無を言わさずに向こうから攻撃してきたので反撃し、負傷者をかなり出したが相手を全滅できたという報告書がここ数日間で次々と挙がっている。


どうやら先日の宣言通り、黒王軍は容赦なく敵味方と区別せずに生きとし生けるものを敵と見做しているようだ。このままだと、いづれ奴らとも戦う事になるのは必然だろう。となると、自由の民は「帝国」と「黒王軍」この2つを敵に回すこととなる。つまり部隊を2つに分裂する必要があるという愚行を犯す必要があるのだ。防ぎたくても黒王軍は交渉の余地が無い事が宣言で分かっている事だし、
「帝国」は色々と怨みが積もった相手なので簡単には交渉などできない。最早避けようのない選択であると上層部は覚悟を決めていた。





「まぁ、これ以上は全体会議で決めることだ。なので今日はこれにて終了としようか。問題もどうやらないみたいで安心したぞ。では、私はこれから帰るから後は頼んだぞ」


「はっ、どうかお気を付けてテューレ様」


これ以上話し合うようなことや聞くべき報告などは無いので、一先ず予定通りここでお開きにしてテューレは帰ることにした。基地司令の彼が見送りの言葉を述べて見送る中、彼女は外で控えていた部下を引き連れて司令官の閣僚たちに見送られながら基地に勤める兵士たちの目に触れないように行動し、送迎用の輸送ヘリに乗り込んで本拠地へと帰った。


何故、彼女が人目にあまり触れないようこそこそと動いていたのかというと、
今回の訪問が一応お忍びなのと、部下たちがきちんと平常時からまじめに仕事やっているか確かめようという思惑があったからだ。その結果、何とか一般兵たちに今回の訪問はバレずに済み、そして彼女も兵士たちが休み時間でだらけ過ぎなところがあるがきちんと職務に励んでいるのを確かめられたので、概ね満足のいく結果で終わった。



輸送ヘリ(旧ソ連製Mi-8)が本拠地に設けられた地上5階建て、地下8階建ての軍事拠点「マザーベース」に到着。降り立った彼女は他の族長たちに今回の訪問で得た情報を報告して書類を提出し、自室に戻り暑苦しい制服を脱いで下着姿となって一休みしていると、ベッドの枕元に置いてあった電話の受話器がタイミング良く鳴り出した。それを取って応答しながら耳に寄せると、
聞こえてきたのは諜報担当官の1人であるヴォーリアバニーの声であった。



プルルルルルル

ピッ

「もしもし。テューレだがどうしたんだ?」


「はい、テューレ様。現在フォルマル伯爵家の領府イタリカで潜入任務に就いているコードネーム{翠星石}と{真紅}の両名から先ほど連絡が入りまして、
異世界へと繋ぐ(ゲート)が存在するアルヌスの丘から異世界の軍隊が現れ進撃を開始し、対応に当たっていた現地の帝国軍およそ2個軍団(レギオン)が僅か4時間で壊滅状態に陥ったとの事。このままだと1カ月中には間違いなくイタリカに押し寄せるとのことです。それを踏まえて今後の対応を両名とも求められていますが、陛下は如何なさるのですか?」


昔親衛隊所属であった彼女の声は少し興奮していた。しかし、その理由も痛いほど分かる。何せ〝予め言われていたのだが、言葉や文化が違う異世界の軍隊がこちらに侵攻してくる”という言葉が見事当たり、更に彼らは2つの敵対勢力を抱える一行にとってかなり警戒すべき勢力であるからだ。カルデアよりもレベルは低いが、自分たちの扱っている銃火器や装甲車両などは全て〝向こうの世界”で発明された代物で、
自分たちの扱う兵器よりも上回るものを多く採用していると聞いていたので、
果たして対立する事になった場合どこまで抗えるのかと不安になったからだ。


何しろ自由の民は基本的にルルドと呼ばれる流浪の民を除けば人間嫌い、多少思う所があってなるべく接触したくないもの、怨恨ある敵と人間に対して見方が厳しいので、人間だけの軍勢はそれが異世界のであろうが人間である以上余り好感度を抱けないのだ。
例えそれが味方になってくれるかもしれない存在であろうと、彼女たちは今までの経験からつい戦う場合を想定してしまうのだ。


一先ず彼女はその不安を押しのけて、
テューレは一体どう彼女に答えるべきなのかと必死に脳味噌をフル回転させる。
信頼している2人にこのまま潜入任務を続行させるべきなのか、それとも任務を中断させてここまで帰還命令を出すべきか、どちらの選択肢を取るか迷っていた。


前者の選択なら、
件の(ゲート)を通じてこの世界に進撃してきた異世界の軍隊、確かカルデア所属の人たちは自衛隊と呼んでいたが、
それの情報を得ることが可能だろう。
間違いなく「帝国」の食糧供給源の1つとして有名なかの場所を自衛隊は占領し、
統治下に置くのが想定できるからだ。


その際に2人が必ず役に立つ。何故なら潜入先がこの地周辺を納めるフォルマル伯爵家で両名はメイドとして勤めており、
自衛隊がイタリカを占領してフォルマル伯爵家を保護下に置くと、その際に自衛隊関係者が入り込んだり色々と接触する機会が増えることが予測されるので、
例えば接触して色仕掛けで懐柔したり、
衣服などに盗聴器を仕掛けたりと色々な工作活動が行えるかもしれないのだ。


しかし、当然だがその分身元がバレるリスクが高まる。古今東西いつの時代も変わらないことだが、
捕まったスパイの末路は悲惨なものだ。
拷問に次ぐ拷問を体で十分に味わい、
最後は処刑されて祖国にも無関係を装われて報われない等、
碌な目に遭わないのがスパイの末路だ。


彼女たちを失う事は、組織にとっては大きな損失となるだろう。特に片割れはヴォーリアバニーの中でも最も優れた戦士たちの集まりである親衛隊出身なので、
個人的にも何とか彼女だけでも危険から遠ざけたいと思っていた。彼女はスパイとして悲惨な死を遂げるのではなく、
戦場で戦士として戦って死ぬべきであると。その為に彼女だけでも戻そうかとつい思ってしまった。


そんなお気に入りの部下を気に掛ける心が、先ほど述べた2つの選択肢の内、後者の撤退させるという考えを生み出したのだ。この考えは他にもこのような利点がある。それは自由の民に関する情報が、
自衛隊や現地の帝国民へ漏れることを防げる事だ。カルデアからの指示で「自分たちの情報を知られることはまだ不味いという事で、なるべく情報が漏れないように注意せよ」と、
つい昨日そう通達されていた。


それを踏まえると、
2人の撤退は別に何のお咎めもないので実に好都合だ。しかし、それを行えば自衛隊に関する情報入手手段が一つ減ることに繋がる。一体どの選択が我々にとって利益があるのか・・・・・・彼女は無言でしばらく悩み続けた。電話の向こうも察知したのか無言のままだ。しばらく両者共に無言の状態が10分ほど続いた後、
彼女は覚悟を決めて決断を下した。



「彼女たちにこう伝えろ。このまま職務を全うし、自衛隊の情報を収集せよと」


「はっ、了解しました。そう伝えておきます。では、失礼します」


ガチャ
プー プー


このままスパイ活動を継続させることを彼女は選択した。
私情に押し流されては族長など組織のリーダーを務めることは出来ない。彼女たちに更なる負担を掛けてまでも自衛隊の情報収集の方が大事だと判断したのだ。
こうして自由の民は一先ず自衛隊に関する対応は、情報収集任務のみにしてなるべく接触しないように行動する事が後の会議でテューレが提案し、賛成多数で可決されたのでそれに基づいて行動することが今後の活動方針に定められた。


後にカルデアの連中が自衛隊特地派遣部隊との接触を開始し、彼らの命令を受けて一行が本拠地へ招き入れるまで見事情報を漏らさずに隠し通し、彼女らの存在をカルデア経由で知った日本政府と自衛隊の双方は、地球世界と同じ銃火器で武装して、ムジャヒディンやベトコン並みにゲリラ戦に優れた第三組織の登場に驚愕し、交流や接触がますます慎重になるのは別の話である。







「同時刻:エルベ藩王国国王デュランを含め連合諸王国軍に参加する当主達一行:自由の民が設けたとある拠点にて」




 連合諸王国軍(コドゥ・リノ・グワバン)とは、エルベ藩王国、アルグナ王国、リィグゥ公国等、
ファルマート大陸に存在する21カ国による総勢10万にも及ぶ連合軍を意味する言葉だ。だが、実質は「帝国」の傀儡国・属国が集まって形成した連合軍である。
この連合諸王国に所属する21カ国の中小国は、どれも「帝国」との間で不平等条約を結ばされており、一種の使い勝手の良い部下(道具)扱いを受けていた。


例えばそのうちの一つとしては、日本でも日米修好通商条約や日米和親条約などに代表される、「関税自主権を行使させない」や「治外法権(領事裁判権)などを認めさせる」等だ。これによってたとえば、条約上有利な国の国民(帝国民)が不利な側にある国(連合諸王国構成国)の居留民として犯罪を犯した際、その国の裁判を免れることから重大な犯罪が軽微な処罰ですんだり、見過ごされたりする場合もあった。


次は江戸時代の大名家の様に、参勤交代と天下普請のような命令である。現皇帝モルト・ソル・アウグスタスが代々受け継がれてきた傀儡国・属国に対する政策を更に強固にした結果誕生した代物で、
前者は皇帝に自国の情勢について部下を引き連れて出向いてきたトップの王様自ら説明させるという内容で、流石に家族を帝都(ウラ・ビアンカ)に常住させてはいなかったが、
国元から帝都までの旅費で大名に負担させていたため、各諸王国に財政的負担を掛けたがこれはあくまで副次的なものにすぎず、本当の狙いは太平の世にある今の時代で皇帝と各国の王との主従関係を、帝国の民や貴族、
それに交流のある諸外国や亜人の部族などに示すための軍事儀礼であった。


そして後者は、天下普請と同じく「帝国」が各地の諸王国に命令し、道路整備や河川工事などインフラストラクチャー整備などの土木工事の行わせる事だ。これによって帝国はほとんど費用を掛けずに抱える要塞の修復や道路整備などを行え、代わりにこれを命じられた国は「帝国」の為に人手や資金を出して土木工事を行う必要があった。


どちらの命令も帝国上層部が納得できる理由以外で行えない場合は、その国に帝国軍団が幾つも送られて無理やり帝国領へと併合させられる羽目になるので、
色々と財政を切り詰めて連合諸王国は与えられてきた命令をこなしてきた。このような事情を踏まえると、彼らが抱える連合諸王国軍は機会があれば帝国軍との戦いを望むのはある意味当然であり、
「帝国」は大きなヘイトを溜めてきた。


故に同じ大きな怨みを抱く者同士が接近するのは、とても理に叶った行動であった。最初に連合諸王国に接近したのは自由の民たちの方であった。カルデア所属のサーヴァント(クラスはキャスター・セイバー・ライダーで、それぞれ生前に王を務めていた者と論弁が巧みな者で構成)6体が連合王国を構成する中小国各地の首都を回り、自由の民について説明すると同時にかの支配者たる国への反抗を促したのだ。特に力を思う存分発揮したのはアンデルセンとイスカンダルという男たちだ。


前者は各国の王に対して毒舌交えた煽りで、後者は己のカリスマ性をフルに生かした説得で彼らを扇動し、「帝国」に対する反抗を決意させた。そして頃合いを見て自分たちの保護下にある組織へと勧誘し、今日はその誘いに応じて彼らは自由の民が設けたとある拠点へと隠密で訪れたのだ。目的は言わずもがな、果たして反乱するリスクが同盟を結ぶ利益と見合うかどうかだ。





一行が僅かな護衛を引き連れて総勢80人で拠点へとやって来た時、そこは大きな2階建ての居酒屋であった。それを隠れ蓑にしてその地下に拠点が設けられており、地下4階ぐらいから8階ぐらい地中深くに存在し、長い階段またはエレベーターを使いそこに向かうと射撃場や武器庫、
貯蔵庫や医務室などが設置されている。


現在彼らは射撃場に来ている。対応に当たっているのはカルデアのサーヴァントの1体で、クラスはアサシン、真名を「エミヤ」という魔術師殺しの異名を持った殺し屋だった男だ。
20~21世紀の現代社会を生きていた暗殺者なので近代の銃火器やパソコンなど武器や電子機器の取り扱いには優れており、現在は自由の民の拠点で亜人達に銃火器や爆薬の取り扱い方法を説明する教官として働いている。


アルグナ国王、モゥドワン国王、リィグゥ公王、そしてエルベ藩王国国王デュランなど一行は、エミヤから自由の民が使用する様々な銃火器を使用する場面を見せつけられ、実際にそれを使用する機会もあったので自ら用意された標的に向かって引き金を引き、
人間と同じ形をしたそれらが大きな発射音と肩に来る衝撃と共に鋼鉄の弾丸でズタボロの穴だらけとなる光景を見て、
この世界には全く存在しない銃火器の威力と恐ろしさを直に思い知り、驚愕を隠しきれなかった。


まずその脅威の一つとしては、これを扱えるのなら子供や女性でも簡単に大の大人を射殺できることだろう。実際現実世界でも少年兵という問題がある様に、
銃火器は非力な存在でも簡単に人を殺せる手段となる。実際戦場で銃剣付きの小銃と大砲が活躍しだした頃から、従来の兵士としては不合格であった男性でも徴兵されるようになり、時には女性や少年までもがゲリラとして銃を手に活躍し、
軍隊と将軍は火力と数の暴力を優先して兵士個人の能力に頼らなくなった。


特にAKシリーズを代表する旧ソ連製銃火器は西欧製の代物と比べると精度が低かったり反動が大きかったりするが、前線で碌な整備をされなかったり余り教育を受けなかった兵士が扱えるようにし、余り優れた設備の無い工場でも生産できるように簡易な設計にしてどんな環境下(泥沼に漬け込む・銃身が砂まみれになるetc…)でも確実に作動するよう考慮したせいで、発展途上国などでは敵味方双方が使用するぐらい重宝され、大量破壊兵器並みに多くの人間を今なお殺している。


次に装弾数と有効射程範囲が、特地において二つ目の脅威となる。基本的に弓矢は1発撃つとまた矢をセットする手間暇がかかり、更に放物線や風向などを考慮する必要がある。しかし近代の銃火器(小銃)は5発装填可能で、次の矢を準備する弓よりも早く次の目標へ連続攻撃が可能だ。更に有効射程距離も弓の100~250mと比べその3・4倍の800~1000mと優れており、狙った目標へ真っすぐ弾丸が飛ぶので弓と比べると初心者でも扱いやすい等、
大きな発射音が出る点を除けば銃火器は弓よりも非常に優れた兵器なのだ。





この2点を踏まえると、今の歩兵の遠距離攻撃には投石器など攻城兵器や魔術を除けば弓に頼るこの世界の軍隊では、自由の民に勝てる筈がないという事が嫌でも彼らに理解できた。
だが、同時にそれは次のような事を意味する。一行が所有する銃火器をこちらも様々な手段で手にすれば、「帝国」に対し反旗を翻すことが可能であると。これ等の圧倒的な火力と連射力によって、
帝国軍団を容易く撃退できるだろうと王たちは考えていた。


そのためにも自由の民たちとの同盟を結ぶ必要があると一行は考え、代表としてデュランが案内役兼教官のエミヤに話しを持ち掛けた。


「すまないが、この銃という兵器は実に素晴らしい。私たちは是非これらを部下たちに持たせたいので、どうすれば譲ってくれるかね?もしくは供給してくれるのか?叶えられる範囲内であれば何でもやろう」


「それは実に簡単な話だ。あなた方が我々の仲間となり同志として、この大陸を治める覇権国家に喧嘩を売れば彼女たちは提供してくれるだろう。大丈夫だ。
我々が如何に成果を上げているか嫌でも知っているだろう。
ならば友人となる方が利口だと思わないか?」


「確かに、我々はあなた方と同じ共通の敵を抱えている。
しかし、幾らこれ等の兵器が協力でも相手の方が人数が多いし、最近では黒王軍という厄介な存在がこの大陸を悩ませている。それを踏まえるとまだ「帝国」に味方する方が安全だと我々は考えている。果たしてあなた方に反逆するリスクとそれに十分に釣り合う利益はあるのか?」


「あぁ、そういう事なら心配ない。この映像を見てくれれば嫌でも我々の実力を理解できるだろう」


軽くジャブ代わりに挑発して様子を伺ったところ、相手は一切それに反応するそぶりを見せずに逆に見せたいものがあると言ってきたので、
彼は少し嫌な予感がした。ここで逃げないともう後戻りはできないと第六感が激しく訴え、背中には続々と冷や汗が流れまくる。


しかし、もう後には引けない。「帝国」の支配下でいることは耐えられない。
その首輪から外れるには、どんな危険が待っているかもわからない取引でも行う必要があった。なので彼を含めた一行は、エミヤについて来いと言われるがままにとある場所へと向かい、そしてそこで驚愕の映像を幾度と見せつけられた。
そして選択を突き付けられて後が無い事を感じたので、一行は決断した。「帝国」に反旗を翻して、
自由の民と同盟を結ぶという事を。




2時間後



「如何でしたか?
我々の戦力と能力を一部お見せしましたが、あなた方が我々の味方となればこの強力な力が何時でも支援してくれるのです。さぁ、どうしますか?」


「言うまでも無い。
是非とも我々連合諸王国は、自由の民へと協力させてもらう事にする」


エミヤの言葉にリィグゥ公王は一行を代表してそう言い放ち、連合諸王国が自由の民と同盟を結ぶことを口にした。その言葉を聞いた彼は一向に書類を渡し、
今後の事について幾つか説明をして理解してもらうと、今回の見学会を終えた。


そしてささやかな贈り物をお土産として受け取ると、一行は地上の居酒屋に上がり待機させていた部下を引き連れてそれぞれの国へと帰還した。その帰路の最中、馬に乗馬してぱっかぱっかと蹄が地面を踏みしめるので体を振動させながら、デュランは真剣な表情を浮かべて先ほど見た映像や銃火器などについて考え込んでいた。


(まさかあのような亜神並みの身体能力を持った存在が、
数十人も自由の民と称する亜人連合に協力しているとはな・・・・・・。あれでは銃火器が無くても容易く「帝国」を打倒できるだろうな。
そして自由の民は今後この大陸の主としてしばらく君臨する事になるだろう。
その際になるべく彼女たちに貢献しておかなければ、亜人の敵と判断されている人間が支配する我ら連合諸王国も敵と判断されるかもしれない。その前に彼女たちに媚びを売って印象を良くすると同時に、「帝国」の分割に口を挟めるような活躍をしなけばならないな。上手くいけば我がエルベ藩王国に繁栄をもたらすことが出来るだろう。
そのためには早く家臣たちに説明して、
戦争の準備をしなければ・・・・・・)


彼の脳裏には自由の民と一緒に銃火器で武装し、映像に出てきたサーヴァントと呼ばれる超人たちが戦場を踊るように舞い、次々と帝国軍兵士を吹き飛ばし、
援護射撃として無事な兵士を自分たち自由の民が射殺していく。そして全くの無傷で次々と帝国軍の拠点を陥落させる光景が浮かぶ。戦場はもはや帝国軍という名前の哀れな家畜たちの狩場である。


今まで主人であった「帝国」は、今度は奴隷であった我々の事をご主人さまとしてご奉仕する事になるのだ。これほど痛快で爽快な光景は、生まれて初めて見るもので今後二度と見れるものではないだろう。そう思うと胸が非常にワクワクしてくるのを感じてしまう。


そんな従来なら妄想にしか過ぎなかった未来がもうすぐ現実となる。彼の心には大いなる喜びと、
そして小さな憐みの心の2つで埋め尽くされていた。これから様々な地獄を見るだろう「帝国」の民に対する憐れみと、
いけ好かない皇族や貴族たちを見下しながら好きなように奴隷として扱い、栄光の日々を送るだろう祖国の栄華をこの目で見れる喜びが。


ふと空を見上げてみると、こちらに向かう際には曇り空であったのに今では雲一つない青空が広がっている。それを見てつい祖国や己を神々や天が祝福してくれているのかと思いながら、彼は祖国への帰路についた。 
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