| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ゲート 代行者かく戦えり

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一部:ゲート 開けり
  プロローグ 2 とある帝国軍団の壊滅

 
前書き
引用文献
wiki「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり---4:用語」「ローマ軍団」「ローマ軍の装備一覧」「鉄床戦術」「攻撃三倍の法則」

PHP文庫「戦争で読むローマ帝国史 建国から滅亡に至る63の戦い」P54~55、222~224

 

 
(銀座事件の数か月前)

「帝国」

この名前は特地における覇権国家の事を指す。知られている限りの国家、部族を従属させる唯一の「帝国」であることから国名を持たないという、ある意味ふざけた理由の国家だが、例えばローマやモンゴル帝国に近い派遣国家である。かつては共和制の小国だったが戦争で版図を広げ、その過程で一貫した政策を取れる帝政に移行した。


中央集権制と封土制が併存し皇帝と元老院が統治している。
軍事、風俗は中世ヨーロッパ似だが、
歴史、政治制度はローマ帝国に似ている。というのも、どうやらこの世界においては当初全く人類は存在しなかったのだが、この異世界を作った神々が「ゲート」を他世界に繋げた際に偶然人間が紛れ込み、そのまま定住したのが始まりで、
その中にローマ人と思わしき存在がおり、彼らが徐々に権力を握りやがては主力となったので今に至るからだ。


この国はヒト種至上主義社会で、亜人は差別されていた。
地球で例えるならかつての白人と有色人種の関係、またはユダヤ人と白人の関係と言えばよいだろう。特に帝国上層部は見目麗しい亜人を奴隷にしようと戦争に勝利した後に略奪と奴隷狩りを行い、
多くの亜人の部族を滅ぼし、中小国を自国の傀儡国家へと実質併合していった。


この国は攻め込んだ国・部族と一旦協定を結び、直後に連絡の不備や時間差から起きた偶発的な問題を理由にして反故にする」という騙し打ち的な戦略が常套化しており、どこぞのイギリスですら白い目を向けるような民度の国であった。基本的にローマ帝国や遊牧民の国家と同じく、略奪を他所からして資源や奴隷を確保しないと経済や国家統制が出来ない体制なので、侵略戦争は常態化していた。


近年ではほぼ周辺諸国を征服したので情勢は安定し、安定しすぎているが故に行き詰り、新たな奴隷の確保などが出来ないので閉塞感が国中を覆っていた。この状況を打開しようと現皇帝モルトは苦悩していた。そんな時であった、「穿門法」と呼ばれるとある秘術を、冥府の神{ハーディ}が彼に言及してきたのは。






冥府の神{ハーディ}は、一種の死後の世界である冥府を納める立派な神様の1柱である。だが、性格は非常に気さくではあるが、世界の調停を第一に守ろうと考えるゆえに俗人から見ればある意味非情な倫理観を持っており、更にとある困った特殊性癖の持ち主でもある等、まるでギリシャ神話や北欧神話の様に迷惑な存在でもある。


そんな冥府の神は、
自分たち神々の働きによって次第に停滞していくこの世界に憂いを抱き、この状況を打開すべく「帝国」を利用して新たな要素をこの世界に流すことで、停滞していく世界を再び活気づけようとする魂胆を抱いていた。
その誘惑に皇帝は見事乗っかり、彼は「門(ゲート」の存在を教わった。


ゲートとは、文字通り門であり、ただの門とは違い、異世界へと通じるドアみたいな存在である。
これをハーディが作り出し、帝国の魔導士が石造りの魔法建造物によって固定することが決定し、
その準備のために帝国が動き出したところで、予期せぬ事態が起きた。それは原作では発生した無かった現象で、この世界が原作から大きくかけ離れた第一歩を歩みだした切っ掛けでもあった。それは何かというと……



{海の向こうからこの国が存在するファルマート大陸に、
突如謎の大軍勢が侵攻してきた}のだ。







 その軍勢は一つ目が特徴的な旗を掲げており、軍勢を構成しているのは怪異(化け物・モンスター)ばっかりなのが特徴であった。オークやトロルなど、この大陸でもよく見かける怪異ばっかりであったが、違う所がかなりあった。まず一つ目は、外見である。


ファルマート大陸に生息するオークやトロルは、この大軍勢に所属する同胞と比べると、少しまだ親しみが持てそうなコミカルな外見をしていた。しかし、向こうはとにかく凶悪な面をしていて、文字通り化け物であるのが嫌でも理解できる。そして鎧で全身を身に纏い、どういった理屈なのかは知らないが人間の軍隊と同じく統制が取れており、集団行動を取りながら行進してくるので、帝国軍将兵は奴らが明らかに自分たちの知っているのとは違う存在であるのが分かった。


2つ目は、奴らの手にしている武器と数の多さである。人間の軍隊と同じく前述の通り全身黒い鎧で覆い、そして剣や長槍、メイスや斧で武装し、自分たちの知っているこん棒や斧とは比べ物にならないほど優秀な装備をして、戦列歩兵の様にトロルの奏でる太鼓のリズムに合わせて迫って来た。その数は約1万体ほどで、
続々とその数を5万・10万と増やしながら進軍してきた。その光景はまるで動く黒い森林の様で、農民や町人上がりの一般兵の心をへし折るには十分であった。


しかし、ひとまず相手側の意思が把握できないと帝国軍としてもどう対処すれば良いのかわからないので、ひとまず現地に居た部隊の将軍は特使を派遣し、この大軍団が大陸に侵攻してきた思惑について尋ねようと試みた。約30人ほどの馬に騎乗した彼らは、
白旗を掲げながら先頭を行くオークの大軍に接近して使者であることを伝え、話し合いの為にも彼らの司令官の下まで案内するよう求めた。


その返答は、



バシュン
バシュン
グサッ


「がはぁ!」

「ぎゃっ!」



オークの弓兵部隊による一斉射撃であった。約180本の矢が彼らに降り注ぎ、彼らはたちまち矢じりが体中に刺さり全身ハリネズミの様になって死んだ。そしてその光景を見た帝国軍は奴らに使者をいきなり殺されたことで怒りを覚え「敵」と断定し、先ほどまで震えていたのが嘘のように士気は向上し、不届きな連中に対する復讐心に満ち溢れていた。


こうして帝国軍こと帝国第4軍団を率いるロマイヤー将軍指揮下の約1万5千人(補助部隊や後方支援を含める)の部隊は、
迫り来る先頭を行くオークの軍団約1万人を開けた土地で待ちかまえ、伝統的な戦術で攻撃を開始した。その戦術とは、
「金床戦術」として現実でも有名だ。


この戦術は、「ホプリタイ」(重装歩兵)のファランクスを中心に敵を抑え、
両脇または一方から騎兵部隊を突進させ迂回し後方から敵を叩くもので、20世紀の戦いでも馬を戦車に変えて朝鮮戦争などで使われた古典的名戦術の1つだ。
もっと現代風に説明すると、複数兵科を使った戦術の一つで軍を二つの部隊に分け、一方が敵をひきつけているうちにもう一方が背後や側面に回りこみ本隊を包囲、挟撃する戦術。


その役目から敵を引き付ける側は低機動で耐久力のある歩兵などの兵科が選ばれ、背面に回りこむ部隊は騎兵などの機動力の高い兵科が選ばれる。半固定の部隊に敵を引き付け、
そこに機動力のある部隊が打ち付ける様が鍛冶屋の槌と金床に似ていることからこう呼ばれる。一般的にこの戦術を行う側は十分に機動力のある部隊が必要であり、諸兵科連合がうまく機能していることが必要である。
ただし、この戦術は自軍の兵力を分散してしまうという短所もあり、「槌」と「金床」の連携が不十分な場合、兵力集中において勝る敵軍に各個撃破される危険性もある。


古代マケドニア帝国や彼らから学んだローマ帝国、そしてその後継者とも言える帝国軍も好んで使用する戦術で、まず重装歩兵が隊列(ファランクス)を組んで隊列を組んだ敵の歩兵、
特に重装歩兵と突撃し、白兵戦に移行するとともに敵の進行をその場に捕縛する。その間に味方の騎兵が敵の隊列の後方、ないし側面まで迂回しそこから敵に突撃し、敵の隊列を分断、混乱させ敵部隊を壊滅させるのだ。


その準備をいつも通り冷静にし終えた帝国軍は、刻一刻と迫り来るオークの部隊を手ぐすね引いて待っていた。幾ら鎧を身に纏い立派に集団行動を取れていたとしても、所詮は野蛮な生物のオーク。
戦術や知略においては我々人類の方が上だ、それも貴様らと長年戦ってきたので慣れていると少し慢心していた。




しかし・・・・・・


ピタリ


「あれっ?おかしいぞ。オーク共が急に停まった。一体なんでだ?」


「そういえば、先ほどから周囲の偵察に放った偵察部隊が報告しに帰還してこない。本来ならもう帰還しても良い頃なのだが……まさか……」



今までゆっくりとだが着実に進撃していたオークの部隊約1万が自軍の目の前で停止し、動く気配が一切ないので帝国軍は不思議に思った。
何故ならオークというのは脳筋な生物なので、基本的には突撃の勢いを活かして突貫してくるのが普通だが、奴らはそのような行動を取らずに敵を前にして整列して待機するなど、
ファルマート大陸で暮らす人類や亜人が知っている従来のオークに対する常識的にはあり得ない行動を取ったからだ。


そんな予想外の行動を取る奴らに帝国軍将兵は驚くと同時に、先ほど放った偵察部隊が誰一人として帰ってこないことに疑問を持ち、もしかして不味い事態が起きているのではないか?と危惧する将校も徐々に増えていた。偵察部隊は貴重な情報を得て持って帰ることを第一の任務としているので、
例え襲われても必ず数人は何とか逃げ延びて戦闘開始前には戻るよう十分鍛えられているから、既に帰還していて当然の筈だった。


しかし、現にこうして誰も帰ってこない。もしかして補足されて逃げることが出来ずに皆殺しにされたのではないか?
つまりそれが意味するところは、オーク以外の部隊がもう既に今の所まだ遠くに居るのだが近くに隠れ潜んでいるのか?
それとも馬に乗って移動し上手く自然に隠れる偵察部隊を発見し、仕留めることが出来るほどの化け物が居るのか?etc……。とにかく情報が少ないので様々な憶測を呼び、次第に将校たちは今までのとは違う今回の敵に焦りを覚え、不気味に思えてきた。





その間にもどんどんオークの部隊に後続の同じ同胞たちの部隊やトロルの部隊が合流し、続々と層が厚くなっていく。
それを見た帝国軍は2つの選択を急かされる事となった。一つは数の差で不利になって来たのでこのまま戦わずに退却し、安全な防衛拠点に立て籠もる選択だ。


「攻撃三倍の法則というのが存在する。
これは戦闘において有効な攻撃を行うためには相手の三倍の兵力が必要となる、
とする考え方である。戦理的に見て防御は攻撃よりも有効な戦闘行動であり、
攻撃三倍の法則は防者の優位を明らかに示している。


なぜなら攻撃は敵部隊の戦闘力の撃破に主眼が置かれるが、
一方でその方式にもよるが防御とは敵部隊の攻撃を破砕するだけで足りるからである。この法則は普仏戦争から第一次世界大戦におけるドイツ陸軍の研究によって、第一次世界大戦の英国公刊戦史などで経験的に論じられるようになった。



この法則にしたがえば、純粋な戦闘員なら約1万人ほどの帝国軍が立て籠もる拠点を陥落させるためには、敵は約3万人の軍勢を必要とする。
だが、現在敵はオークが約3万にトロルが約2500体と、人間換算すれば総勢12万もの大軍勢となっている。つまり、圧倒的に帝国軍が不利であることを証明している。しかも、救援のために増援が来る可能性は伝令を送らない限り全く無いので、退却して籠ることはナンセンスだ。


もう一つの選択肢は、このまま踏み止まって戦う事だ。戦って相手の陣地で薄い箇所を見つけたらそこを一点突破し、
そのまま退却に移ることだ。しかし、
その場合わざと敵が包囲網へと誘導するために空けている場合があり、包囲殲滅となるケースがある。実際にナポレオンはこのわざと敵を誘導する戦術を得意とし、多くの敵軍を突破させてから包囲に移り殲滅した。


なぜそのような事を帝国軍が考えたのかというと、オークやトロルと比べると人間一人一人のスペックは劣っているので、数でも劣っている帝国軍が奴らと真っ向から戦っても惨敗するのが嫌でも目に見えているからだ。
それならば戦いながらも薄い所から退却する方がまだマシだし、上層部にも勇敢に戦ったと言い訳が出来るので、彼らはこれを選択して戦いに臨んだ。






 やがて、謎の軍団は準備が整ったのか再び前進しだし、
オークの長槍部隊を先頭にゆっくりと向かってきた。何やら角笛のような楽器を持ったオークが奏でる音色に合わせて、
長槍部隊はゆっくり列を乱さずに動く壁の様な威圧感を帝国軍に与えながら向かって来る。その後ろにはトロルが手に持つメイスやモーニングスターなど鈍器を握りしめながら、どしどしと大地を踏みしめ前進してくる。



「全軍、構えー!
よいか、奴らを普通のオークやトロル等と思うな!決して慢心せずに、各々の帝国兵士としての責務を果たせ」


『「おぉう!!」』



歩兵部隊の隊長を務める軍内部でそれなりの地位に居る軍人がそう叫ぶと、周りの帝国軍兵士たちもその声に答えて野太い声が響く。不安と恐怖で浮かれた気を引きしめて、ただ目の前の敵に集中する。最前列の2500人の弓兵たちが弓を構え、迫り来る敵軍に向かって攻撃の合図と共に何時でも放てるように準備する。
後方には「怪異使い」という特別な技能を持った技能者によって操られる、この世界のオークやゴブリンなどが消耗品として控えている。


その後ろには投槍を背負い盾と剣で装備した剣兵、槍を構えた槍兵の2種類で構成されるホプリテス(重装歩兵)が約7500人ほど待機し、ここの両翼に騎兵がそれぞれ750騎ずつ待機し、敵の騎兵の突撃や迂回に備えていた。
更にその後ろには投石器やバリスタなど兵器を操作する工兵部隊と、全部隊を指揮する将軍率いる幕僚らが控えていた。
今回は急いで駆け付けたので、こうした移動が遅い兵器とそれを扱う工兵部隊はいない。






そして奴らとの距離が300~200mぐらいの距離となると、

「放てー!!」

という号令と共に、
最前列に展開する弓兵たちが構えていた矢を一斉に放ち、
一定のエリア内に向けて矢の雨を降らした。


帝国軍の弓兵は敵兵士の体を狙うのではなく、なるべく密集して特定のエリアに向けて矢を放つように訓練されている。
こうする事で弓兵がいちいち的に狙いを付けたりする負担を減らせ、敵からしてみれば頭部や肩などにエリア内に侵入すれば矢の雨が降り注ぐので、しっかりと防御していないと死傷者が続出するようになっているからだ。


こうしてエリアに侵入したオークたちの頭上に矢の雨が降り注ぎ、鏃が鎧の隙間などに刺さり次々と地面に倒れる者が続出していく。しかし、この世界のオークとは違い全身に鎧や兜を纏っているのでその被害は少なく、
一度に脱落していくのは100~200人ぐらいとかなり少なめである。オークたちは脱落者の穴をすぐに埋めながら着実に近づいてくる。


そしていよいよ60mぐらい近づいてきたので弓兵たちは一度下がり、代わりに消耗品のゴブリンなどが突撃を開始した。
その後ろでは退却を完了した弓兵たちが改めて弓を構え直し、消耗品ごと敵を射貫けるように矢を番えている。近づいてくる消耗品に対し敵のオークたちは全身を止めて槍衾を形成し、奴らへ向けて槍を前に勢い良く突き出して串刺しにし、
攻撃が届く範囲内に一切近づけない。


こん棒や斧など近接戦向けの武器しかもっていないので、
攻撃できる距離まで近づくまで長槍に2・3回は突かれてしまうからだ。なのでオーク長槍部隊の無双で戦いは進んでいた。
ゆえに弓兵たちは近づかれる前に生き残っている消耗品ごと射貫こうと、再び攻撃を再開した。


パシュン、パシュンという音と共に、
大量の矢が飛来して消耗品ごとオークの肉体に突き刺さる。
ゴブリンやオークの悲鳴が周囲に響き、
以前より幾分多くのオークが死傷していく。だが、味方ごと攻撃をしたので消耗品は全滅し、弓兵隊は再び丸裸となったので予定通り後方の盾を構えた歩兵部隊の後ろに下がった。





そして、いよいよ軍団の主力である剣兵とホプリテスの出番だ。(スクトゥム)を構えて腰をどっしりと据えた剣兵の後ろから、投槍(ピルム)を構えたホプリテスや長槍を構えたホプリテスがスタンバっている。消耗品を排除したオークたちが前進を再開すると、
2~30m以内に近づいたそれに向けてピルムを投げ、これは弓矢よりも貫通力が大きいので次々と脱落者を増やしていく。


それでもオークたちは前進を止めず、
やがてそれぞれの構える長槍の範囲内に近づいたので穂先と穂先による突き合いが始まった。それぞれが一糸乱れぬ柄を上に上げて下すことで、相手の体勢を崩そうと試みる。少しでも崩れたらたちまち両隣の兵士がすかさずそいつを突き殺そうとするのだ。


そして彼ら歩兵部隊が敵軍を足止めしている間に、左右に展開していた帝国軍の騎兵隊が動き出す。
彼らはオークの左右や後方に回り込んで側面や背後からの奇襲を試み、急いで相手が対応するまでに動こうと展開する。いつもならこれで上手く回り込めれば鉄床戦術が決まり、包囲殲滅が出来る筈だった。




だが・・・・・・・



ウォォーーーーン!
ウォォーーーーン!


「なっ、何だこいつらは!オオカミの化け物か!?」


「いかん!こいつらに馬が喰われるぞ。
気を付けろ!!」



彼らの下に突如オークの部隊の後方から、奴らの頭上を飛び越える形で乱入してくる幾つもの影があった。それに帝国軍の誰もが気づかなかったのは、オークの背丈に隠れていたからだ。外見はオオカミとイノシシが混じった様な奇妙な姿で、遠吠えと口元の牙で一応オオカミだと帝国軍は判断した。
そしてその背中にはオークが騎乗しており、奴らにとって騎兵と同じ存在であるのが分かる。


そんな奇妙な騎馬隊はこちらの騎兵に近寄ると、上のオークが片手に握る大きな鉈や槍で攻撃してきて、下の馬に値する生物が馬の首や足を噛み砕こうと大きな口を開けながら飛びかかって来た。その騎兵に猛威を振るう生物は、とある世界においてはワーグと呼ばれる存在であった。この生物はラクダと同じく馬にとっては天敵で、更に馬とは違い獲物を噛み砕いて殺せるので、
帝国軍の騎兵と歩兵の双方にとって実に脅威である。


たちまちこれらの未知の生物に騎乗したオークの部隊によって、ローハンやゴンドールの兵士とは違い手慣れていない帝国軍騎兵部隊は壊滅状態に追い込まれ、
鉄床戦術は実施できなくなった。それと同時に、壊滅させた奴らが次に狙ったのは、歩兵の後ろで間接射撃に励んでいた弓兵部隊であった。




ガァァァァァア!!

ガブリッ

ガシュッ

ザシュッ


「ぎゃっ……!!」


「た、助け……!!」


「がっ……!!」


「う…、腕が…。
俺の腕がーー!!」



弓兵たちもこの迫り来る脅威には気づいており、騎兵部隊が襲われている時に何人かが矢を撃ちこんでいたのだが、何分左右にちょこまかと動き回り、更に味方の騎兵部隊への誤射の可能性もあるので下手に矢を放てず、
その戸惑っている間に騎兵部隊という生贄が壊滅したので、
その猛威を防ぐ間もなく存分に振るわれる羽目になった。


次々と弓兵たちはオークとワーグの餌食になっていく。ある者はワーグに咥えられてしばらくぶんぶんと振り回されながら牙を体に食い込ませ、やがて遠くの方へと投げ飛ばされて地面に激突する。
ある者はオークの突き出した槍に串刺しにされ、その状態のまま地面をざりざりっと引きずられる。


他にも腕をワーグに噛み千切られながら地面に押し倒されてそのまま食われる者や、マチェット状の刀で首を跳ね飛ばされる者。ワーグに体当たりを喰らって地面に倒れ、その上を味方の兵士や他のワーグなどに何度も踏まれる者。錯乱したほかの弓兵による誤射で死ぬ者etc…、
色々な原因が元で弓兵部隊は次々と死傷し、やがて壊滅状態へと追い込まれた。


無論だが、オークたちと激戦を繰り広げている歩兵部隊も、
騎兵部隊や弓兵部隊を助けようとはした。だが、次々と数が増えていくオークの圧力のせいで救援を出す余裕がなくなり、もたもたしている間にこの2つの部隊が壊滅したので、最悪な事に包囲される事態へと追い込まれていた。前方にはトロルが合流し始めたオークの大軍が存在し、後方や側面などにはワーグに騎乗したオーク部隊が展開している。ロマイヤー将軍の軍団は、「前門の虎後門の狼」という言葉に相応しいピンチとなった。







 「これは……、私はどうすれば……」


「閣下!お気を確かに。今すぐここから離れてください。
皇帝陛下にこのことを何としてもお伝えしてもらわなければなりませぬ。ですから早くお逃げを!」


「君たちは一体どうするのだ?私と一緒に逃げるべきだ」


「いいえ、私たちは閣下が逃げる時間を稼ぐためにここに残ります。帝国軍人として何時でも死ぬ覚悟は出来ていますから、閣下は何も心配する必要はありません。なーに、帝国軍の恐ろしさを見せつけてやりますよ。
さぁ、お逃げを」


「……すまない皆、
すまない……」



この生まれてから一度もない余りにも見事な負け戦っぷりに、ロマイヤー将軍の思考は停止して明確な判断を下せるような余力は一切無かった。呆然としていると副官たちがここから逃げるように理詰めで訴えて来るので、彼は泣く泣く僅かな部下を引き連れてここから退避した。
そして残った幕僚たちは彼が逃げ切る時間を稼ぐために残存部隊の陣頭指揮を執り、全滅する最後まで戦いを繰り広げた。兵士たちも彼らの指示によく従い、
オークを約2500体、
トロルを10体殺すことに成功して全滅した。






この戦いの結果、
帝国第4軍団の死傷率は80%にも達し、
文字通り全滅した。
ロマイヤー将軍は生真面目な性格と事務処理の巧みさ、そして派閥に所属せずに政治的中立を保っていたおかげで皇帝やその側近たちから気に入られていたので、幸いにも降格処分は受けなかったが謹慎処分を受けた。


その一方で「帝国」に侵攻を開始したこの謎の軍勢は、自らをこう宣言した。「救世主たる黒王様率いる黒王軍」と。


そしてこうも告げた。「この不合理だらけの世界を滅ぼし、
全てを無に返し、
0へとリセットする。
その為に神々もろとも全ての生命を殺す。それこそが世界の為である」と。




その宣告通り、黒王軍と思われる多くの怪異たちが大陸各地に展開し、亜人や人類など種族関係なく平等に殺戮を開始した。町や近くに軍の駐屯地がある場所、それに身体能力の優れたエルフなどの亜人が多く暮らす場所などでは、
黒王軍が繰り出す襲撃部隊を何とか撃退する事に成功することが出来たが、それ以外の場所、例えば村落など住民が少ない場所は全滅するケースが多く。大抵の場合そこの住民の生首が串刺し状態で、
地面に槍もろとも掲げられていた。


ゆえに黒王軍の襲撃から逃れるために辺境から多くの村民や亜人達が都市部や軍事拠点へと避難し、
スラム街を形成して治安を悪化させたり、農民が逃げたり殺害されたことで田畑の収穫率が低下する事で食糧事情を悪化させる等、多くの不利益を「帝国」は被る事となった。そしてそれは現在進行形でますます悪化する一方であった。


当然だが上層部はこの問題を重視して幾度も軍を派遣し、
覇権国家のプライドを賭けて黒王軍を大陸から撃退する事を試みたが、余りにも桁違いな戦力に大抵敗北し、逆にどんどん戦力と領土を減らす一方であった。
なので「帝国」の威信と国力はどんどん低下し、服従させた中小国は裏切るべきか服従し続けるべきかと動揺していた。
そして国民にも不安が生じるなど窮地に追い込まれた。


この建国以来初めてとなる危機的状況に際し、現皇帝モルトは「ゲート」の建造をハーディに早めるようお願いし、異世界へと進出する動きをさらに加速させた。彼はこれを使い異世界へと進出し、
資源確保の他にも現地に帝国の民が多く暮らせる避難場所を作ることを目論んでいた。もし万が一、
黒王軍がこのファルマート大陸を征服する事に成功しても、
この「ゲート」を破壊して向こうに避難していれば脅威は無くなり、「帝国」は多少苦労するが再び元の繁栄を戻せると信じているからだ。


その為の第一歩が「銀座事件」、この世界における別名「銀座戦役」であったのだ。「帝国」にとって不運だったのは、以前からちまちまと民間人を誘拐していた「ゲート」の向こうの異世界が自分たちと同じレベルではなく、圧倒的な格上だったのは予測できなかった。そして派遣した約6万にも上る大軍隊が壊滅したという情報は、幾ら情報規制が敷かれたとはいえ瞬く間に各地に漏れた。そしてそれはこの覇権国家(笑)に抗うとある組織にも伝わった。







{某所にて}


コンコンコン


「失礼します、テューレ様。イタリカで密偵としてフォルマル家で働いているデリラ様から連絡がありました。今すぐご覧になられますか?」


「あぁ、直ぐに見るわ。それと念話で先ほど〝マルタ”様から通達されたけど、
どうやらあの人たちがこちらにしばらく滞在するそうよ。
なので歓迎の宴の準備もしないといけないわ。その準備を皆のものに伝えなさい。それと、〝アムドシアス”様、〝酒呑童子”様、〝茨木童子”の様子を〝レンヤ”様から聞かれたけど、予めお三方から言いくるめられていたのもあって無難に問題ないと答えてしまったわ。大丈夫かしら?」


「了解しました。
直ぐに準備へと取り掛かります。それとその件に関しては平気かと思いますよ。
怒られるのはお三方ですから、部族長様には余り責任がございませんので」


「それもそうね。
まっ、そういうわけで準備よろしく頼むわね。我々ヴォーリアバニーを含め亜人の救い主である方々が2カ月ぶりに来るのよ。それはもう盛大にお祝いしないと」



とある洞窟の奥深くで所々の地面に置かれた蛍光灯の光に照らされながら、2人のヴォーリアバニーが岩壁に掲げられた大きな写真の前でこの様な会話を行っていた。その写真の中には、銀座事件で目撃されたサーヴァントを含めた数多くのサーヴァントと、見知らぬ人外たちの姿が映り込んでいた。
そしてその片隅には、マジックペンらしきものでこんなサインが記されていた。





「第六特異点において:戦神館所属:桐生連夜」 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧