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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第73話敗北を告げる弾丸の味

GGO、SBCグロッケン総督府

三輪バギーを走らせてから約5分。現在14時55分、エントリー締め切り時間の5分前だ。シノンに手を引っ張られて総督府の中に入り、BoBのエントリーを済ませるべくタッチパネルが設置されている解放スペースに来た。

「よくあるタッチパネル式端末だけど、操作のやり方大丈夫そう?」

「やってみます」

この【第三回バレット・オブ・バレッツ予選エントリー】って表示されてる端末を操作すればいいんだよな。早速エントリーボタンを押してーーーえ?

【ユーザー情報の入力】

現実(リアル)の情報を入れるのか?氏名、住所、電話番号、メールアドレスまで。これ入れなきゃダメなのか?いや、そうでもなさそうだけどーーー

【以下の入力欄には、現実世界におけるプレイヤー本人の氏名や住所を正しく入力してください。空欄や偽造データでもイベントへの参加は可能ですが、上位入賞プライズを受け取ることが出来ません】

なるほど、賞金や入賞商品が貰えないだけか。かなりそそられる要素ではあるが、菊岡に報酬3000万を要求したからな。これ以上望んだらバチが当たりそうだ。という訳で、ユーザー情報は入力しないでおこう。

「終わった?」

「はい、大丈夫です。本当に何から何まで、ありがとうございます」

「いいよ。バギーで走るの、ちょっと楽しかったし。それより予選ブロックはどこだった?」

予選ブロックか、確か予選はトーナメント式なんだよな。エントリーは済ませたから、もうブロックの通知はーーーちゃんと表示されてるな。

「Fー37です」

「ああ、そう。同時に申し込んだからかな?私もFブロックだよ。Fー12だから・・・」

シノンもFブロックなのか。何かトーナメント表を見てどこで対戦出来るか調べてるみたいだけどーーー

「良かった。当たるとしても、決勝だね」

「良かったって・・・?」

「予選トーナメントの決勝まで行けば、勝ち負けに関わらず本選のバトルロイヤルには出られるの。だから私たち二人とも本選に出場出来る可能性は0じゃないの」

そっか、各予選ブロックの決勝進出者全員が本選バトルロイヤルに出れるのか。しかもオレもシノンも決勝まで勝ち進めば本選でも戦えるんだ。これは案内役を引き受けてくれた分、本気で戦わないとな。

「でも、もし決勝で当たったら予選だからって・・・手は抜かないけどね」

「・・・当然そのつもりですよ。当たったら全力で戦いましょう」

オレたちは最後まで勝ち進み、全力で戦うことを誓って大会の待合室に向かうことにした。

「それにしても、海外製にしてはこの端末の日本語はしっかりしてますね。公式サイトは英語オンリーだったのに・・・」

「運営会社の《ザスカー》っていうのがアメリカの企業なんだけど、このJPサーバーには日本人もいるみたい。だけどほら、GGOって日本でもアメリカでも、法律的には結構グレーらしくて・・・」

「通貨還元システムのせいですね」

表向きのホームページでは最低限の情報しかなくて、キャラ管理や通貨還元用の電子マネーアカウント入力などのゲームに関する手続きはほとんどゲームの中でしか出来ないらしい。それを聞いた瞬間、オレが今までGGOに抱いていた印象が甘いと思えてしまった。

「だから、現実世界ともほぼ完全に切り離されているの。でもそのせいで、今の自分と現実の自分がまるで別人みたいに・・・」

「?」

「ううん。何でもない、ごめん」

何でだろうーーー今のシノンの表情に、何か懐かしい物を感じる気がする。いや、懐かしいというよりは何かオレと似ている何かが見えた気がするーーー

「そろそろ予選会場に行かないと。準備は良い?」

「え、ええ・・・」

「こっち。この地下なの」

そうだ。今はBoBに出ることが最優先事項だ。シノンに感じた物は置いておいて、とにかく今は予選会場に行かないと。オレたちはシノンが指を差した方向にあるエレベーターに乗って、地下のBoB予選会場に向かって行ったーーー




******




エレベーターが到着した合図の緑色のランプが点滅し、開いた扉を潜った先にはーーー銃器を手に持ったり、肩に担いだりしているGGOプレイヤーたちがいた。その目はライバル心のような物を伝える程、鋭く強い眼差しだった。この中に死銃(デス・ガン)がーーー

「どうしたの?」

「いえ、何でもないです・・・」

「そう?まず控え室に行こう。あなたもさっき買った《コンバットスーツ》に装備替えないと」

「あ、はい」

確かにそうだな。予選開始まで残り28分、それまでにシノンの言う通り装備を替えよう。今ここで死銃(デス・ガン)を見つけるのは流石に無理だ。オレはシノンに続いて他の大会出場者の間を通って控え室に向かって歩き出したーーー




******




控え室に到着して早々、シノンが床から飛び出した三角形の椅子に足を組んで苛立っているかのように座り出した。

「全く、お調子者ばっかり!」

「え!?お調子者!?さっきの厳つい人たちが?」

「そうよ。試合の30分も前からメインアームを見せびらかすなんて、対策してくださいって言ってるようなモンじゃない」

言われてみれば確かに。GGOのプレイヤーはほぼ全員がガンマニアだって聞いたことがあるし、そんな銃器に詳しい連中に自分の武器を見せてるようなモンだしな。確かにお調子者って言っても納得出来るーーー

「あなたも刀と《FiveSeven》は自分の試合直前に装備した方がいいわよ」

そうした方がいいのは理解出来た。オレはシノンの言葉に頷き、今シノンが行おうとしている行動に嫌な予感を感じた。そのシノンの行動とは、システムウィンドウの装備メニューを操作してーーー全装備を解除して黒い下着姿になったことだった。

「え!?ちょっ、ちょぉっ・・・!!」

「?何してるの?あなたも早く着替えないと・・・はっ!」

オレは当然目を反らすが、シノンはそれに対して疑問符を浮かべるが、どうやらーーー

「そういえば、あんた男だったわね・・・!!」

ようやくオレが性別反転事故によって女になっただけの男だと思い出したようで、オレが目を開いた時にシノンはーーー下着を隠し、羞恥と怒りによって顔を赤く染めていた。そして彼女の右手がーーー

「このっ・・・!!/////」

オレの左頬を捉え、オレに物理的な衝撃と精神的なダメージを与えた。




******




痛い、顔が痛い。心が痛い。女子にビンタされたの初めてだぞーーー女子のビンタってこんなにいたかったんだ。

「誠に申し訳ありませんでした・・・」

「・・・まあ初めに男だって言ってたし、あれは反射的にそうしただけだから特別に許してあげる。次同じことやったら頭ぶち抜くから!!!」

「はい。肝に命じさせていただきます・・・」

とりあえずさっきのシノン下gーーー男子禁制の聖域を見た件はオレが元々男だと言っていたことで一応水に流してもらえることになった。でもそれ以上に悲しい。オレのアバターが女だから見ないようにという理由で、女性プレイヤーのシノンに装備替えを手伝ってもらってしまった。これ以上の屈辱、恥辱が存在するだろうか。羞恥心よりも悲しみが勝って仕方がないーーーこの赤い《コンバットスーツ》もオレみたいな奴に着られて可哀想だな。予選開始まであと10分、頼むから早く始まってくれ。

「最低限のことだけ説明しておく。その後は本当に敵同士だから」

「・・・ありがとう!」

「勘違いしないで」

この『勘違いしないで』もただのツンデレだったらまだ楽な方なんだけどーーー100%ツンなんだよな、コレ。
シノン曰く、カウントダウンが0になったら、ここにいるエントリー者は全員どこかにいる予選一回戦の相手と二人だけのバトルフィールドに自動転送される。フィールドは1kmの四角形(スクエア)、地形のタイプは変更、時間はランダム。最低500m離れた所からスタートして、決着したら勝者はこの待機エリアに、敗者は一階ホールに転送される。負けても武装のランダムドロップはなし。オレたちFブロックは64人だから、5回勝てば決勝進出、本大会への出場権が得られる。

「これ以上は説明しないし、質問も受け付けない」

「・・・大体分かったよ。ありがとう」

「決勝まで来るのにあれだけ色々レクチャーさせたんだから、最後に一つ教えておきたい」

最後、という言葉に相応しいことなのか。それとも勝ち上がって決勝まで来いと言うつもりなのか。その答えはどちらでもなくーーー

「敗北を告げる弾丸の味」

勝つのは私だ、そう言いたいのだろうーーーでも、オレだって負けるつもりはない。オレは強い奴との戦いにはヒートアップするクチなんでね。

「楽しみにしてるよ。でも、シノンの方は大丈夫なのか?」

「あんたにシノンなんて呼ばれる覚えはないわ。予選落ちなんかしたら引退する。今度こそ・・・」

その発言に続く言葉はまるでーーー

「今度こそ・・・























強い奴らを全員殺してやる」

オレが追っている死銃(デス・ガン)のこだわりらしき概念と同じだった。強い奴らを全員殺すーーーそう言い放ち、黒い笑みを浮かべるシノンに対して、オレの背筋が少し凍った。そしてシノンはオレに顔を向け、システムウィンドウのプロフィール画面を可視モードにしてオレに見せてきた。

「こうして話すのは最後だろうから、改めて名乗っておくわ。シノン・・・それが、いつかあなたを倒す女の名よ」

「・・・改めまして、ライリュウだ。よろしく」

オレは自分を奮い起たせ、改めて互いに自己紹介を交わし握手を求める。でもシノンはそっぽ向いてしまったので、オレは思わず苦笑いを浮かべてしまう。

「やあ、遅かったねシノン。遅刻するんじゃないかと思って心配したよ」

「あ・・・こんにちは、シュピーゲル。ちょっと予想外の用事で時間取られちゃって」

突然この場に、シノンの名を呼ぶ人物が現れた。肘より少し長めの迷彩柄の服の上に鉄製の胸当てを装備した、グレーの長髪を後ろで一本に束ねた男性プレイヤー・シュピーゲル。どうやらシノンの友達みたいだな。シノンは席を奥に詰めて、シュピーゲルの座るスペースを空ける。

「あれ、でも・・・あなたは出場しないんじゃなかった?」

「いやー・・・迷惑かもと思ったんだけど、シノンの応援に来たんだ。ここなら試合も大画面で中継されるしさ」

そうか、ここにいる奴みんながBoB出場者って訳じゃないのか。こうして応援に来るプレイヤーもいれば、大画面の試合の中継を見に来るプレイヤーもいる。ここは普段は公共のスペースってことなんだな。

「ところで、予想外の用事って?」

「ああ、ちょっと・・・そこの人をここまで案内したりと」

「う゛っ・・・どうも、そこの人です」

急にオレに振りやがったーーーでも当然っちゃあ当然か?遅刻ギリギリになった原因オレだし。

「ど、どうも、初めまして。えっと・・・シノンの、お友達さんですか?」

「騙されないで。男よ、そいつ」

「え!?」

「ライリュウっていいます。アバターは女なんですけど・・・性別反転事故でこうなっただけなんで、現実のオレはれっきとした男です。シノン・・・さんにはここまで来る途中でお世話になっちゃって」

とりあえず妙な誤解を受ける前に事情を説明しよう。とりあえずシュピーゲルは納得してくれたみたいだな。シノンは怒り心頭寸前だけどーーーなんて考えていたら、この空間に眩しい照明と大音量の音楽が流れた。

【大変長らくお待たせ致しました。只今より、第三回《バレット・オブ・バレッツ》予選トーナメントを開始致します。エントリーされたプレイヤーの皆様は、カウントダウン終了後に、予選第一回戦のフィールドマップに自動転送されます。幸運を、お祈り致します】

この《バレット・オブ・バレッツ》開始のアナウンスが鳴り終わったのを切っ掛けに、この場にいるプレイヤーたちが雄叫びをあげたり、銃器を天井に向けて打ち上げ始めた。肝心の試合ですぐに弾切れしたりしないかなと思ったが、それならそれでいくらか戦闘が楽になるから放っておこう。そしたら突然向かいの席に座っていたシノンが立ち上がり、オレに指を向けてきた。

「決勝まで上がって来るのよ!その頭、すっ飛ばしてやるから!!!」

宣戦布告。そんなことをされたら、応えない訳にはいかない。オレは席を立ち、シノンに対し笑みを向ける。

「お招きとあらば、参上しない訳にはいかないな。決勝で会おう」

「こ、この・・・!!」

右手をあげて席から離れ、自動転送されるのを待つ。後ろを見てみると、完全に多分マジギレ一歩手前の表情を露にしているシノンーーーと、若干オレを睨み付けているシュピーゲルが見えた。あんまり刺激しないように話してたつもりだったけど、思ってたよりやりすぎてたみたいだなーーーその刹那、オレの身体を光が包み込んでいた。
目が覚めれば足下以外は完全に真っ暗な試合前の空間だった。対戦カードはーーー

【RairyuVS餓丸、フィールド:失われた古代寺院】

餓丸って奴がオレの対戦相手かーーー早速武器を装備しようと。オレはアイテムストレージから《光剣》の一種、《FJBXー04A》とハンドガン《FN FiveSeven》をそれぞれ腰に装備する。
それにしても、シノンのあの言葉には本当に驚いた。まさかとは思うけどーーー

『強い奴らを全員殺してやる』

ありえるのかな、あの子が死銃(デス・ガン)なんてことが。出来れば、そんなことがあってほしくない。武器屋やバギーで楽しそうに笑っていたシノンと、さっきの黒い笑みを浮かべていたシノンーーー彼女の本当の顔は、一体どっちが本物のシノンなんだろう。

「・・・あーもう!ここでいくら考えても意味なんてねぇ!!」

剣を交えればーーーいや、銃を撃ち合えばきっと何かが分かる。
予選第一回戦、残り時間ーーー0。

【START!】

オレの身体は再び光に包まれ、対戦の地に送り込まれた。 
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