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ゲート 代行者かく戦えり

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第一部:ゲート 開けり
  プロローグ 銀座事件

 
前書き
初投稿です。ゲートを舞台にカオスな世界が広がる予定です。 

 
20xx年8月17日
日本国:東京:銀座






 「銀座」。この地名は東京都中央区の日本有数の繁華街であり、下町(江戸時代において低地にある町)の一つでもある地域を指す地名だ。東京屈指の高級な商店街として、日本国外においても戦前より有名な場所である。明治時代に舶来品などが並んだこの場所は高級商店街として発展してきた。


「銀座」の名は一種のブランドになっており、全国各地の商店街には「○○銀座」と呼ばれる所がそこかしこに見受けられる。銀座の地名の由来は、江戸時代に設立された銀貨幣の鋳造所のことで、
慶長6年(1601年)に京都の伏見に創設されたのが始まりだ。
後1800年に東京の蛎殻町に移転して以来、元の「新両替町」の名称に代わり「銀座」として親しまれるようになり、この地名が定着した。


この街は銀座三越や松屋銀座店、リコー本社ビルや紀文食品本社、歌舞伎座や新橋演舞場など、数々の大型商業施設や文化的名所、それに大手企業の本社が置かれている東京を代表する土地であり、
この日も猛暑の中にも係わらず地方や関東近隣、そして海外などから来たサラリーマンや観光客が、
激しい日差しに汗を流しながら銀座の街を出歩いていた。




だが、そんないつも通りの日常を送っていた銀座の街、多くの車が行き交う車道ど真ん中に、空間がしばらくの間揺れ動いたと思うと突如巨大な石造りの(ゲート)が出現した。




それを見た通行人はその余りの異様さに足を止め、たちまち野次馬と化してゲートの周辺に集まり、
写真を携帯やスマフォ等で撮影したり、
車道を通る車は道を塞ぐ様にそびえ立つこの物体に迷惑しながら避けて通り目的地へと向かい、この謎の建造物の事をとりあえず警察に通報する者もいたりと、
場は騒然としていた。彼らは全く気付いていなかった。



これから襲い来る災いのことなど



それを最初に気づいたのは、この場に居た野次馬たちだ。
何故ならゲートがぎぎぎ……と重い音を周囲に響かせながらゆっくり開き始め、
何やら平和ボケしていても分かるヤバい気配が、その開いた向こう側からひしひしと感じ取れたからだ。なので察しの良い野次馬はくるりと向きを変え、ゲートから遠ざかるように逃げ出した。


そしてだんだんと逃げ出す人間が現れる中で、遂に扉が人が通れるほどまで開いた頃、光と共に地獄の尖兵が我先へと呼び出し、銀座の街中で叫び声を上げた。



「GYUGYAAAAOOOOO---!!!」

「HUGYAAAAAAAAAAA!!!」

「HUGOAAAAAAAAAAA!!」

「全軍前へ!この異界の地を帝国の支配下に治めるのだ。
いざ、栄光に向かい進めーーー!!」



こうして、銀座はたちまち賑わう繁華街から一転、戦場と化した。







 最初にゲートから飛び出したのは、
俗にいうワイバーンだ。ドラゴンの頭、
コウモリの翼、一対のワシの脚、ヘビの尾に、尾の先端には矢尻のようなトゲを供えた空を飛ぶ竜の一種で、ドラゴンよりは弱い生物だ。


奴らは背中に騎兵の様に兵士を載せており、謎のファンタジー世界の生物の登場で思考停止状態の野次馬に向かい飛来し、口から射程距離50m程の火炎放射を行って焼き殺したり、
口内にずらりと並んだ牙で噛み砕いたり、空中高く噛み咥えたまま運んで地面に叩き落としたりして、多くの人間を襲い死傷者を続出させた。更に背中に騎乗している兵士たちもワイバーンを巧みに扱いながら、片手に持つ槍で民間人を串刺しにして死傷者を増やした。


次に飛び出してきたのは、ゴブリン、
オーク、トロル、
ジャイアントオーガーといった凶悪な生物だ。知的水準が非常に低い生物として数々のファンタジー作品では有名で、
まるで奴隷の様なぼろ布を腰に身に纏うだけで、手には棍棒や斧などを持ち、
勢いよくそれを振り回しながら突っ込んできた。奴らは走って逃げる人間やショックで腰の抜かした人間の前に追いつくと、手に持つそれらの武器を勢いよく振り落として撲殺&斬殺して次の獲物へと襲い掛かった。


そして最後に出てきたのは、ローマ帝国や中世ヨーロッパの様な武装をした白人の兵士たちだ。彼らは兵種ごとに装備が違うが、共通点としてローマ帝国軍団(通称レギオン)の様に、統一された太腿までの鎧を装備していた。そして大楯と剣で武装した剣兵、
柄の長さが3mほどの槍兵、短めの弓を持った弓兵、馬に騎乗して剣や槍で武装する騎馬兵、これら4種類の兵士で部隊が構成されていた。


彼らは隊列を整えてゆっくりと前進しながら、先に前へ出ていった凶暴な生物たちが取り逃がした人間を始末したり、
周りの店などから物資を略奪してゲートを囲むようにバリケードを形成して拠点構築に取り掛かったり、与えられた任務に沿った行動に取り組んでいた。彼らによって銀座に居る人間は、剣で胴体や首を切られたり貫かれる者。槍で心臓を貫かれる者。弓で首や胴体を矢で射貫かれる者など、色々な手段で殺害された。





無論、銀座に居る人間は逃げるばかりでなく、戦う事を選んだものも少なからず居た。その多くは近くの商業施設の警備員や、通報を受けて駆け付けた警察官であった。彼らは装備する特殊警棒や拳銃を頼りに、民間人を襲うモンスターや兵士に攻撃すると同時に注意を惹きつけたり、逃げる一般人の避難誘導に務めた。


特殊警棒とは、伸縮式の警棒である。
材質は金属製が主だが、まれに強化プラスチック製や硬質ゴム製の物も存在。
収縮時の長さが20cmを下回るなど、通常の警棒と比べて携帯性に優れていることから、世界各国で警察官や法執行機関職員、警備員などによって用いられている。


基本的には殺傷力の低い護身用具・捕具として使われるが、
扱いようによって相手を死傷させかねない、れっきとした武器にもなる。ゆえに基本的に頭部を避けて叩くよう指導されている。これ等を踏まえると分かるように確かに殺傷能力は一応あるのだが、
金属製の鎧を纏う兵士や身体能力に優れる怪物相手にはほぼ無意味で、特殊警棒で殴り掛かった警備員などは運良ければ昏倒出来たが、大抵はほぼ効果無くて逆襲されて死ぬケースが多かった。


しかし、警察官の装備する拳銃は少し効果的であった。ゴブリンや兵士などは拳銃弾でも射殺可能で、鎧を着ていても被弾した際の衝撃で彼らはハンマーで殴られたような感じとなっていた。しかし、
オーク、トロル、
ジャイアントオーガー等の大型生物の前では、暑い皮膚によって弾かれて目などに当てない限り余り効果は無かった。


なので兵士や小型の生物の殺害に警察官たちは専念し、それ以外の大型生物の排除は自衛隊に任せることが暗黙の了解で決まった。下手に撃ったところでほとんど効果が無い上に相手を逆上させるからだ。警察官たちは迫り来るこん棒や刃物、それに弓矢などを必死に避けながら拳銃を撃った。なので少なからず兵士たちやゴブリンたちが次々と体に穴を開け、
死傷者をどんどん生み出していくので奴らの攻撃から逃れ、
そのまま逃亡に何とか成功して助かる民間人が増えていく。


一部の場所では駆けつけた警察の銃器対策部隊のMP5SDやSATの89式小銃の射撃で、兵士たちを次々ばたばたと倒して見事この謎の武装勢力の排除が進んでおり、
更に自衛隊の普通科歩兵部隊も銀座に続々と到着しだし、91式やブローニングM2の射撃でワイバーンやトロールなど大型生物の排除に成功する等、逆に押し返すところも出てきた。


だが、それでもやはり銀座の大部分はゲートから出現した謎の武装勢力に占拠されたままで、この頃から次々と何とか隠れることに成功した人間や、殺されるまで取り続けていた人間によるガラケーやスマフォなどによる撮影動画がツイッターや動画投稿サイトにアップされ、世界中に今銀座で何が起きているのかマスコミや報道陣に代わり報道していた。


槍で胴体を貫かれたまま地面を引きずられる者


刀で首を切断されて掲げられる者


多数の兵士に取り囲まれた状態で滅多刺しにされる者


弓矢が何本も体に突き刺さり、きりきりと舞を踊るように倒れる者


オーガの振るう斧で真っ二つにされて即死する者etc……


とにかく現代の戦争では見られないような死体が銀座のあちこちで量産されていく映像が撮影され、
日本を含め世界中がその惨状を目の当たりにした。そしてこのまま銀座は蹂躙されて被害は拡大し、最悪の場合、救援が間に合わずに東京が奴らの手で陥落する恐れもあった。






 しかし、やがて映像に奇妙な人間が映るようになった。
それは8人ぐらいの男女で、まるでアニメや映画など二次創作作品に出てくるような髪形や髪の色をしていて、着用している衣服もまるでコスプレの様であった。
しかし、彼らはとてつもない存在であり、更にオタクと呼ばれる人間たちにとっては見た覚えのある姿であったので、
密かに掲示板で幾つものスレッドが上がり始め出した。


「fateは実在した話だった?」

「英霊の皆さんが銀座で大暴れしている件」

「銀座が突如映画の舞台と化した件」


一体何が起きているのかというと、時間を少し戻す。




{とある雑居ビルの上で}




「ちっ……どうやら間に合わなかったみたいだな。あのゲートは既に開いて『帝国』の連中が飛び出してきてるぞ。どうするんだマスター?
逃げ回っている民間人の救助を優先するか、それとも先に奴らの排除を優先するか指示をくれ」


「決まっているだろう。救助を優先してくれ。自衛隊が駆けつける前になるべく多くの民間人を救い出す必要がある。
全く黒王め余計な真似をしやがって……、おかけであの馬鹿(『帝国』)共が糞女神の作ったゲートを通じて〝この世界の地球”に避難しようとしているじゃないか……。一体誰がこの後始末をすると思ってんだか、まったく……」

ピクピク

「あ、子供が危ない!先に行くぞマスター。話はあとだ!」


「あ……まぁ、子供好きの彼女なら仕方ない。アタランテに続くぞ皆!」


『「おう/了解/承知致しました/分かりました/やってやろうぜ/」』



高さ15階建てのそこそこ大きなビルの屋上、フェンスで囲まれていておまけにクーラーの室外機が稼働状態なのでガンガン音を立てているその場所に、合計8人の男女の姿があった。
獣耳が生えた女性や朱槍を構えた青鎧の男性、大きな十字架上の杖を持った女性に黒ずくめで骸骨マスクが特徴的な少女、如何にも古代エジプトのファラオと思わしき女性や金髪でヤンキーみたいな青年、そして上半身裸で体格の良い男性と鶏マスクを被ったボディースーツ姿の青年と、見ているだけでコスプレ臭がするというか怪しい恰好をしていた。



彼らはフェンスの上に腰かけたりもたれ掛けたりと自由気ままにしながら、足元で広がる地獄を観察していた。彼らにとってはこの手の口径は実に見慣れたものなので、少し歯がゆそうに落ち着きない状態で見ている十字架の女性と獣耳の女性以外は大人しくしている。しかし、
彼らの視界に一組の親子連れが目に映った途端、空気が少し変わった。獣耳の女性はそれを見ると我慢に耐え切れず、遂に先ほどの鶏マスクの青年に謝りながら地上へと飛び降り、親子の救出に向かった。


そんな彼女の予想通りの行動に少し呆れながらも、良い機会と思いながら彼は引き連れてきた部下たちに声を掛け、彼らの返事をBGMに彼女に続いてビルの屋上から飛び降りて地上に向かった。元々彼らは基本的に善人なので介入する機会を見計らっており、彼女がそれを作ってくれたのでこれ幸いと言わんばかりに彼らは介入した。





「汝ら伏せろ!」

バシュ
バシュ


アタランテと呼ばれた件の獣耳の女性が地上に降り立つと、
ちょうど先ほどの親子連れがオーガー2体に襲われており、
手に持っている斧を振り下ろそうとしていたので、彼らの命の危険を感じた彼女は何時の間にか取り出した長弓から弓矢を4本放つと、その矢が刺さった奴らの両手と頭部が、まるで刃物で切断したかの様にゾブリという鈍い音と共に周囲に吹き飛ばした。


距離300m程離れていて更に走りながら撃ったのにも関わらず、4本の矢は狙い通りの場所へと当たり、
そのまま肉体と骨を切断するなど威力の絶大さを見せつける。手首から先までの両手が握ったままの斧が地面に転がり、
醜い顔も地面に椿の花の様にぽとんと落ちる。同時に頭部を失った首元から血が噴水の様にぴゅーっと噴出したまま、
胴体は膝をがっくんと着いてそのままぐらりと崩れ落ちる。


その光景に親子と同じく逃げていた周りの民間人やそれを追いかけていた兵士達、それにトロルなど凶暴な生物たちは思わず行動を止めて彼女を見入る。とても信じられない光景だからだ。若いまだ大学生くらいの年齢で、更にエメラルド色の髪の毛をした人間とは思えないほど美しく、まるでエルフや妖精の様な神秘的だが何処となく野性味を感じさせる女性が一度に4本もの弓矢を放ち、多くの弓矢を当てることでようやく殺せるオーガーを容易に殺し、更にまるで対物ライフルでも撃たれたかのように被弾箇所が吹き飛んだからだ。


そしてそれがこの場に居る銀座を襲った武装勢力にとって命取りとなった。彼らが唖然としている間に彼女は平然とした様子で手早く次の弓矢を構え、狙いを定めると矢を放ち次々と射殺していく。
それでようやく意識を取り戻した彼らが彼女を危険な敵として認識し、今まで追いかけていた民間人たちを無視して彼女の殺害に取り掛かる。手に握る得物を振りかざして叫び声を上げながら突撃し、
弓兵は新たな標的に照準を向けて射かけようとする。


しかし、そんな鬼気迫って襲い掛かろうとする周囲に一瞥をくれると、彼女は冷静な表情のまま瞬時にまた新たに矢を4本取り出し、手慣れた作業の様に近くに居る者から順番に射っていく。何とか近づくことが出来た兵士やオークが武器を振るっても、彼女はまるで踊るようにひらりひらりと身を翻して避けまくり、逆にどんどん至近距離で撃たれて余りの衝撃の強さに後続ごと吹き飛ばしながら地面を転がっていく。
まるでスタイリッシュアクションを見ているようだ!





こうして僅か5分以内に、この銀座を襲った謎の武装勢力の一部(約120人ほど)は、全員彼女によって殲滅されて地面に死体または肉塊となって転がる破目になった。脳漿を周りにぶちまけて風通しの良さそうな風穴を開けた生首や、頭部が無い胴体。胴体に大きな風穴を開けて中身の臓物をぶちまけている死体や、手足などがすっぽり消え失せた死体。まるでスプラッター映画のような死体があちこちに転がっている。



そんな地獄絵図に思わず幾ら敵とはいえ民間人は少し同情し、湧き上がる吐き気を我慢できずに思いっきり地面にぶちまける者もいた。そしてこの惨状を作り上げた本人は周囲の敵を殲滅したことを確認すると、先ほど助けた親子の下に駆け寄り、子供の体を抱えて何か怪我をしていないかどうかチェックしだした。



「大丈夫か、汝よ。どこか怪我をしているところは無いか?」


「う、うん。ありがとう獣のお姉さん」


「けっ獣?ま、まぁ、確かに獣耳だが……。まぁよい。無事なら良いのだ」



彼女の心配そうな感情が籠るその問いに対し、件の子供は問題無い事を告げるがその際に彼女の事を変な呼称で呼び、
それに彼女は少し目を丸くして戸惑うが直ぐに子供の言う事だと思い、何とか元の平静な状態に表情を戻すと、色々とチェックして何も負傷した箇所が無いのを確信して思わず微笑んだ。彼女にとって15歳以下の子供は宝よりも貴重な存在で、それを穢そうとする者は例え神でも許さないのが信条であるから、そうとは知らずに彼女の怒りを買った武装勢力は全員死体となって転がる破目になったのだ。



「さぁ、そこの汝よ。早くその子を連れて何処か遠くに逃げなさい。ここから一刻でも早く離れることが貴女の使命だ」


「あ、ありがとうございます!おかげでこの子が助かりました。あの、後で恩返しをしたいのでお名前を…」


「そんなものはどうでもよい。私に出会うことはもうないだろうからな。しかし、何れ運命の悪戯で出会うかもしれないから名前だけ告げておこう」



彼女は子供の親に早くここから離れるように促すと、くるりと向きを変えて背中を見せ、次の得物を探しに向かおうとした。だが、彼女の背に親は声を掛け名前を聞こうとしたので、彼女は首だけ振り返ったままで己の名前を告げた。



「私の名前は
『アタランテ』
月と狩猟女神アルテミスの加護を受けて育ち、カリュドーンの猪を射止めた女だ」



そして振り返るのを辞めて元の体勢に戻ると、そのまま足に力を込めて周りのビルの窓枠を利用してビルの谷間と谷間を飛び交い、
どこか別の場所へと消え去っていった。
そして彼女の言葉を聞いて、周りはどうしてギリシャ神話に出て来る英雄が実在し、この銀座の地に居るのか等々、色々な疑問がこみ上げて来て不思議に思っていたが、未だ遠くから聞こえてくる悲鳴や唸り声で考えるのを辞めて、助かった人々は彼女の言う通り急いでここから離れる行動を開始した。






 この光景は銀座だけでなく、ゲートから飛び出した軍勢が周辺地区に拡大して皇居の周囲にまで来ていたので、都内各所でも見受けられた。例えば、



「はっはっはっはっはぁ!」


ザシュザシュザシュ!


「フェルグス!そっちは何人殺ったか?
俺はもう既に100行きそうだぜ!」


ドスドスドス!


「ふっ、甘いなクー・フーリン。俺はもう既に100越したぞ!」


「何!んじゃまぁ、さっさと超えて見せますか」


「なーに、このフェルグスがそう簡単には超えさせないぞ。ぬおあっ!」




クー・フーリンとフェルグスという名前の男たちが、路上で深紅の槍とドリルのような大剣を振り回したり突き刺したりして、路上に奴らの死体の山を形成し、互いに何人殺したか競い合っている。



別の場所では・・・・・




ガス
バキ
ボコ


「――は。百年早いわトカゲども。たかがワイバーン風情で、私とタラスクに敵うつもり?上等じゃない!」


ボカ
ドゴォ


「おーい、マルタ。あんた化けの皮が剥がれてきてんぞー。
しっかしまぁ、このゴールデンの前で虐殺しようとか何てクソッタレな連中だ。
そんな連中は吹き飛べ……必殺!『黄金衝撃』(ゴールデンスパーーク)!」



何やらヤンキーな雰囲気がプンプン漂うマルタと呼ばれる女性が、ドラゴンを巧みに操りながらワイバーンの殴り倒したり大きな十字架の様な杖で叩き伏せたりと大暴れしており、
その近くでは真っ赤な両腕に立派な斧を持った金髪でサングラスを着用したヤンキーが、ゴールデンと叫びながらオーガーやトロルを一刀両断にしたり、右ストレートで決めることで兵士たちを撲殺したりしている。




そして皇居一帯では、


「ごめんなさい。殺します」


「苦しみなさい!」

ヒュン ザシュ
シュビビビビビビビ


スリングショットと俗に呼ばれるエロい水着のような姿をした骸骨マスクの少女が、両手に持った短刀(ダーク)を次々と100mぐらい離れた件の連中に向けて投げ、串刺しにしていく。どうやら毒が塗ってあるらしく、掠っただけでも奴らは口から泡を吹いてビクンビクンと地面に横たわっていく。そして如何にも痴女と言わんばかりに下乳と太ももを曝け出したファラオ風な褐色の少女が何やら杖を向けると、続々と眉毛と目が描かれた頭巾か袋に足が生えたような謎の生物が地面に浮かび上がった召喚陣から出現し、その目からビームを発射して奴らを焼き尽くしていく。



彼女らの働きのおかげで皇居の前の武装勢力は次々と数を減らし、30分後には全滅状態へと追い込まれた、数少ない生き残りは未だ息の根がある友軍を見捨てて逃亡し、息の根がある者は次々と骸骨マスクの少女によって介錯されていく。
その一方でもう一人の彼女は、負傷した民間人や死んだ民間人の死体に向けて謎の呪文を唱えており、怪我を短時間で完治させたり息を吹き返させて蘇生したりと、現代科学と常識に真っ向面から喧嘩を売るようなことをしている。



そんな彼女らの姿を見て、夏の同人誌即売会に向かう途中で今回の事件に巻き込まれ、指揮系統を失った警察官に協力を仰いで一般市民を皇居に誘導して立てこもり、半蔵門から避難させるという作戦を実行しようとしていた所で彼女らが駆けつけ、何とか命の危険が無くなったのでホッとしたオレンジ色のTシャツを着たとある自衛官は、2人の正体について見当が付いていたので、驚きや興奮で心が一杯だった



(何で、何でfateのニトクリスと、静謐のハサンが現実に居るんだよ!!??
オーガーやワイバーンもそうだが、何故仮想の生物が現実世界に現れているんだ!?)



そう、先ほどからマスターと呼ばれた青年以外のコスプレ集団は、fateというとある作品に出て来るサーヴァントと呼ばれる存在で、その正体は過去の英霊たちであった。



最初に出てきたのはアーチャーことギリシャ神話に出て来るアタランテ。次に出てきたのはセイバーとランサーこと、
ケルト神話に出て来るフェルグス・マック・ロイとクー・フーリン、3番目に出てきたのはライダーとバーサーカーこと、
新約聖書と日本昔話に出て来る聖女マルタと坂田金時、そして最後に出てきたのはキャスターとアサシンで、古代エジプトの謎多きファラオことニトクリスと暗殺教団の教主「山の翁」ハサン・サッバーハの一人である静謐のハサンだ。



彼ら英霊たちは先ほど出てきた鶏マスクを被った青年のサーヴァントとして、
この銀座の地で彼の命令に付き従いゲートから飛び出した武装勢力の排除と民間人の救助任務に当たった。そして件の彼はどうしているかというと・・・・・・



ピッ

「もしもし、あぁ、
俺だ。貴方の言った通り〝この世界”の東京・銀座にゲートが開通し、「帝国」の連中が攻め込んできたが無事撃退に成功した。警察と自衛隊の増援も続々と到着しているから、
今日明日には日本政府に確保されるだろう。となると、当然だがあの世界に自衛隊が派遣されるのだが我々はどう動けばよろしいか?」



歌舞伎座の前の路上、ゲートから出てきた兵士たちやオークなどの死体の山が幾つも形成され、血の池が所々に出来上がっている惨状の中で、彼は呑気に路上駐車の車のボンネットに腰かけながら誰かと話し込んでいた。
何か携帯やスマフォを持っていない様なのでどうやら念話で現状を報告しているらしく、次の指示を仰いでいるようだ。



彼は血糊がべっとりと付着した双剣を手元に置き、足を組んだ状態でしばらく相槌を打っていると、
やがて「了解しました。はい、はい、では失礼しますー」と言って頭をぺこりと下げると、腰かけていた車から立ち上がり背筋を後ろに反らして手も後ろに伸ばしだした。どうやら指令が通達されて報告が終了したようだ。やがて一連の動作を終えて双剣を両腰の鞘に納めると、
己のサーヴァントたちに念話で呼びかけて次の指示を出した。



「よーし、このまま「帝国軍」の排除を続行してくれ。そして自衛隊や警察が集まりだしたら直ぐに他の場所へと移行してくれ。絶対に捕まるなよ?そしてゲートが無事に確保されたら撤収してくれ。
良いな?」


了承の返事を得て彼らとの念話を終了させると、彼は新たな獲物を求めてこの場を離れた。……約300にも及ぶ死体の山をそのままにして。



こうして時間が経過するにつれて駆け付けた警察の特殊部隊や自衛隊によってゲートから出てきた総勢6万にも及ぶ軍勢は次第に追い込まれ、
遂には壊滅状態となった。特にそれに貢献したのはヘリコプター部隊と機甲部隊による火力だ。そして彼率いるサーヴァントたちの人並み外れた力によって、這う這うの体で残党はゲートの向こうへと消え去っていった。






 こうして後に「銀座事件」と称される今回の事件は、門から現れた軍勢を自衛隊と警察、そしてサーヴァントによって壊滅し、兵の1割を捕虜とすることで収束を迎えた。そして日本政府は門の向こう(特地)に膨大な資源が存在する可能性を知り、自衛隊を門の向こう(特地)に送る事が決定した。・・・・・ここまでは原作通りの流れである。


しかし、この世界では彼らサーヴァントという異なる要素が加わったので、事態は少し厄介な事になった。元々この世界では数か月前からサーヴァントが世界中で目撃されており、
特にフランスではマリー・アントワネット(fate)がお供にデオン(fate)とモーツァルト(fate)の2人を引き連れてイスラム原理主義によるテロ事件を未遂に防いだりと、ヨーロッパ方面で多く目撃情報がありかなりの功績を残していたので、国際問題に発展していたのだ。


EU諸国ではfateに登場するサーヴァントによってかなりの恩恵を受け、元となった英雄に対する評価が再評価されたりしているのでかなり今回の銀座事件でもかなりの注目を集め、サーヴァントたちの調査を専門とする団体の派遣を日本政府に要請してそれにアメリカや中国なども便乗したりと、
とても強い圧力を加えてきたのだ。


原作を作った同人サークルから会社に昇格したTYPE-MOONには、連日様々なマスコミが訪問して話を聞こうとして大騒ぎとなり、世界各国では自国の英霊に関する道具を集めてサーヴァントとして召喚しようと試みたり、
設定集などがインターネット上の書店やオンラインショップの在庫から全て買い占められたりと、
一種のお祭り騒ぎとなっていた。皮肉な事に、これでfateシリーズを初めとするTYPE-MOONの作品知名度が急上昇して、
会社の売り上げが絶好調になったのはある意味幸いか。





この事態を重く見た日本政府は銀座事件で生存した民間人達から聞き取り調査を行い、彼らの特徴を詳しくまとめるとその対応について議論を交わし、特地に派遣される自衛隊と日本国内で防諜活動に当たる公安に次のような指令を下した。


・もし、仮に特地でサーヴァントと思わしき存在に遭遇した場合、可能な限り彼らと交流して日本と自衛隊に好意を抱かれるよう努力し、
頃合いを見て日本に招待するよう誘う。マスターも同じ手順で行い、なるべく彼らの方から日本に来るように仕向ける。


・日本国内でもしサーヴァントを発見した場合、まずはマスターの下に戻るまで手出しを一切せずに追跡のみに専念し、
マスターと思わしき人間の顔と情報を突き止める。成功したらマスターの居る場所に部隊を派遣し、
逃れられないように周囲を包囲してから確保に移る。その際一般市民は叶う事なら予め不発弾の発見などで誤魔化して非難させておきたいが、それをやると悟られる可能性が高いので実行できない。

なのであえて市民を避難させずに確保に移る。先の銀座事件での行動から敵に対しては残虐だが、
一般人に対しては普通の人間並みの精神の持ち主の様なので、一般人を巻き添えにしても追っ手を攻撃するようなことは可能性的に低い。
逆にパニック状態になった一般市民によって身動きが取れなくなるように仕向け、何としても彼を確保せよ。この2つの任務は特地における天然資源の確保と並んで重要なのを理解してもらいたい。


という、平和ボケしている呑気な日本政府にしてみてはかなり過激な命令が記載されていた。それだけ当時の日本政府が外圧によって追い込まれている証拠でもある。そしてこの命令を受け取った公安と自衛隊上層部は、
政府が糞忙しい時に更なる仕事を寄こしてきたので実に困り、おまけに優先度がかなり高かったのでどう取り掛かればよいのか悩まされた。


そして本来の主人公である伊丹率いる第3偵察隊から緊急の報告として、彼らとの接触に成功したと連絡が伝わると、思わず今までため込んできたストレスや不安がこれが原因で一線を越え、病院に入院する高官が増えたのは仕方の無い事だ。
果たして一行と日本はどう付き合っていくのだろうか?


 
 

 
後書き
かなり長めですが、次回から短くなるよう努力します。 
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