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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン51 冥府の姫と白き魂

 
前書き
前回のあらすじ:本文1行目参照。でもウラヌスさんインパクト守れるのは強いかな?程度で今現在リアルデッキで採用してますが、正直属性種族のシナジーがないのが響いてリストラ第一候補になりそうな気も。ちなみに今は迷走の結果、グレイドル軸なのに同じデッキにトレード・イン2枚と埋葬されし生け贄2枚が入っているという実に味わい深い変態構築になっています。このご時世に創造神をグレイドルにメインで採用する日が来るとは思わなかったです。 

 
 遊野清明が別の次元における天王星でウラヌスと、ひとりぼっちの死闘を繰り広げていた―――――その少し後。かつてデュエルアカデミアが存在していたその場所を前に、静かに立ちすくむ人影があった。

「清明……」

 白を基調としたアカデミア女子特有の制服に、肩までかかる青い髪。校舎という障害物が消えたことで島の向こう側からダイレクトに吹き付ける海風にその髪を揺らされながらも、特に気にした様子もなく立ち続ける。彼女の名は河風夢想……SAL研究所攻略の際には暴走したあげく行方不明となった清明を探すため、単身島中を探し回っていたことでたまたま大規模な校舎の神隠しの難から逃れる格好となった幸運な生徒の1人である。

「……」

 ふと彼女が上を向くと、雲1つ無い青空には何機もの飛行機やヘリコプターが旋回している。それを見ながら、おそらくあれは今回の事態を受けて派遣されたデュエルアカデミア親会社、海馬コーポレーションの物だろう、とぼんやりとあたりを付ける。
 そして、そんな彼女の推測はただの勘ではない。事実、驚異的な情報統制能力によりこの事件からすでに1日が経過している今でさえあらゆる新聞、テレビニュースにおいてこの事実は揉み消され、ひた隠しにされている……1人や2人ならまだしもこれだけの規模を誇る建物と人数に対してそんなことができる権力があるとすれば、それは海馬コーポレーションぐらいのものだ。恐らく裏では、そうして稼いだこの時間のうちになんとかアカデミアと生徒たちを元に戻す方法はないかと会社お抱えの学者たちが頭を捻っていることだろう。

「よう」
「また貴方?だってさ」

 そんな彼女の背後から、気安く気楽な調子で声がかかる。だが彼女はその声の主を一瞥すらせず、まるで最初から彼がここに来るのがわかっていたかのように返答した。先ほどまで誰もいなかったのに、などという当然の疑問すら、その声の調子には含まれていない。
 そのまま、たっぷり数秒が経過した。最初に声をかけた男がわざとらしく咳払いをすると、ようやく彼女もそちらへと振り返る。

「……!」

 どこか心ここにあらず、といった様子だった彼女も、さすがに目を丸くする。その男は、確かに彼女の記憶の中、つまりは1年前の進級前後の時期であり、また修学旅行での童実野町の出来事にあるそれと同一人物だ。だが、彼女の記憶と比べてなんと変わり果ててしまったことだろうか。着ている服がいたるところに焼け焦げがつき穴が開いているならば、それを着ている男自身はさらに消耗している。痩せこけた頬や服に開いた穴から見え隠れする全身には無数の傷や火傷の跡が痛々しく刻まれ、ただ目のみが以前と変わらぬ光を放っている。気力は衰えていないのだろうが、遠目に見ても今にも限界を迎えそうなその体が、ぐらりと揺れた。そのまま倒れそうになるところを、どうにかといった様子で持ちこたえる。

「へへ、ちょっとしくじっちまってな。お前相手に誤魔化したって仕方ねえからはっきり言うが、俺はもう長くないみたいだ」
「長くない、って……どういうこと?早く……医者、に……って……」

 そういう夢想の声が、次第に弱くなっていく。頭上を飛び回っているヘリに助けを求めようとして、あることにようやく気が付いたのだ。つい先ほどまで島全体を包んでいたヘリの飛行音が、いつの間にかぴたりと止んでいる。ヘリだけではなく、そこら辺を飛んでいたはずの海鳥の声さえも聞こえない。咄嗟に上を見ると、確かにそこにヘリはあった……空中に静止して、ピクリとも動かない状態で。

「……これも貴方が?だってさ」

 思いのほか冷静な声が出た、と彼女は思った。そして、そんな冷静な思考をする余裕がある自分にもおや、と思う。明らかに異常な事態に巻き込まれているにもかかわらず、なぜ心の中には驚愕の感情が芽生えないのだろう。
 まるで、この名前も知らない男がこんな状況を作り出すのを前にも見たことがあるかのように。

「いまさらとぼけんなっての、もうこっちだって時間は……無駄口叩く余裕は、さすがに俺にも無えな」

 それはつまり、肯定ということだろう。神出鬼没なところといい、改めて目の前の男の人知を超えた力を思い知る。それでは、それほどの男がこれほどまでに追い込まれるとは、一体何が起きたのだろう。そんな目線に気づいたのか、ひらひらとおどけて手を振ってみせる。

「お前に関係あるこっちゃねえよ。こっちの話だ、仕事のな。それに、もう終わった話だ。転生者の集団は全滅、俺たちの被害は俺1人。結果としちゃあ、悪くねえさ」

 目の前の男が何を言っているのか、夢想にはまるで理解できない。だが彼はそんな夢想の困惑にまるで気づくことない。というよりも、もはやそこまで注意を払うだけの余裕がないのだろう。よろよろと体勢を立て直そうとした結果ギリギリのところで保っていたバランスをかえって崩し、背後の倉庫の壁にもたれかかる形でずるずると座り込む。彼が背をついた箇所には、本人も気づいていないようだがべっとりと血の跡が付いていた。

「悪いな、今日ここに来たのは他でもねえ。さっきも言った通り、俺はもう長くないわけだが……思えば俺も、長いことデュエルばっかりやって来たわけだからなぁ。どうせ死ぬなら最後に1回、全力で悔いのない勝負ってもんがしたくなったのさ。それが、これまで俺と戦ってきたこのデッキに対する最高の供養にもなるだろうしな。となると、俺にとってその相手は1人しかいないって寸法よ。なあ、う……いや、『今は』河風夢想、だったか?せっかく次元を越えて会いに来たんだ、最期の頼みぐらい聞いてくれよ」

 何を馬鹿な、と言うこともできた。それだけ喋る元気があるのなら、それこそ医者に見せればよさそうなものだ。今ならまだ、助かるかもしれない。もちろん他の誰かが同じことを言いだしたのなら、彼女も問答無用で医者に担ぎ込んだだろう。だが、彼女にはそれができなかった。する気にならなかった、と言い換えてもいい。目の前の男は何か医学では計り知れないような部分で終わりを迎えようとしていて、そんな自分の運命を受け止め、今更それに抗うつもりもない。そんな常識で考えてはあり得ないような話が、理屈を超えて納得できたのだ。

「……構えて、ってさ。デュエルと洒落込みましょう、だって」

 だからこそ、彼女はゆっくりとデュエルディスクを構える。消えた校舎と清明たちのことも、目の前の男のひどい怪我も、もはや彼女の眼には入らない。時間の止まったような特殊な世界で、そこにいるのはただ2人のデュエリスト、それだけだった。

「「……デュエル」」

「俺のターン。魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動。手札1枚を捨てて、デッキから攻撃力3000以上かつ守備力2500以下のドラゴン族モンスターを2体までサーチする。俺が引き込むのはブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、そして青眼(ブルーアイズ・)の光龍(シャイニングドラゴン)のカードだ」
「ブルーアイズ……」

 世界にもたった4枚しか存在しない伝説級のレアカード、青眼の白龍。それをためらいもなく使いこなすこの男の正体も、あのカードが本物なのかそれともカラーコピーのような代物なのかも、最後まで彼女には判別できない。ただわかっているのは今引きこんだその亜種ともいえる2枚が、得体のしれない力を持つカードだろうということだけだ。

「今捨てたモンスター、伝説の白石(ホワイト・オブ・レジェンド)の効果発動。青眼の卵たるこのカードが墓地に送られたことで、デッキから青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)を1体サーチする」

 流れるように無駄のない動きでのサーチ連打。3枚もの最上級モンスターを手札に抱え込みながらも、まだ先攻1ターン目ということもあってその全てを展開する気はないらしい。

「青き眼の乙女を攻撃表示で召喚。カードをセットして、ターンエンドだ」

 青き眼の乙女 攻0

 一見すると攻撃力0のか弱い女性型モンスター、青き眼の乙女。しかしその恐るべき効果……いささか受動的な面が目立つとはいえ、緩い条件で除外ゾーン以外のどこからでも青眼の白龍を呼び出す特殊能力をこれまでの対戦で知る夢想の表情は硬い。

「私のターン、だってさ。終末の騎士を召喚して、モンスター効果発動……その発動にチェーンして速攻魔法、手札断札を発動。そしてチェーン3以降にのみ発動できる速攻魔法、サモンチェーンを発動するってさ。これにより私はチェーン3のサモンチェーンの効果でこのターン通常召喚を3回行うことができて、チェーン2の手札断殺でお互いに手札を2枚捨てて2枚ドロー。そしてチェーン1、終末の騎士の効果でデッキから闇属性モンスター1体を墓地へ」

 終末の騎士 攻1400

 サーチの連打に対抗するかのように、チェーンの乱舞を使いこなす夢想。だが、彼女の狙いはむしろここからが本番といえる。

「私が墓地に送ったカードはワイトプリンス、このカードは墓地に送られた時デッキからワイトとワイト夫人を1体ずつ墓地へ送る、ってさ。そしてその効果が、さらに1回……手札断殺で墓地に送った2枚のカードのうち、1枚は龍骨鬼。だけどもう1枚は、2体目のワイトプリンスなんだって」
「そしてワイトプリンスとワイト夫人は墓地でのカード名をワイトとして扱う……おいおい、もうワイトが6枚かよ。前の時よりさらに殺意が上がってんな」
「まずはこの子で……ワイトを召喚、だって」

 ワイト 攻300

 颯爽と地面から骨の腕を突き上げ、墓の下から出てくるかのように召喚されたのは、骸骨たちを束ねる骨の王……ではなく、墓地に送られずにまだ1枚だけ残っていた通常モンスターの方のワイト。守護者の矛が手札にあれば彼女もそれを使いワイト本体をアタッカーにするところだが、あいにくとそのカードはいまだ引き込めていない。

「魔法カード、馬の骨の対価を発動。自分フィールドの通常モンスターを墓地に送って、カードを2枚ドローするってさ」

 カードを2枚引きながら、心の中で7体目、とカウントする。手札断殺と馬の骨の対価……彼女にしては珍しく、2度にわたる手札交換を行った末に満を持して、狙っていたカードが手札に加わった。

「これできっかり3回目の通常召喚。おいで、ワイトキング。だってさ」

 またもや地面を突き破り、地中から骨の腕が虚空に突き出される。先ほど現れてすぐ消えたワイトと動きそのものは同じ……だが、その肉のこそげ落ちた腕に込められた力は、一目見ただけでもそうとわかるほどの違いがある。

「ワイトキングの攻撃力は、墓地のワイトと自分の同名モンスター1体につき1000、だって」

 ワイトキング 攻0→8000

「ははっ、やるじゃねえか。だけど、その打点一本槍のモンスターでどうやって乙女の効果を潜り抜けるんだ?」

 口ではそう言いながらも、その口調に相手を舐めた部分はない。何か手を打ってくるであろうことに気づいたうえで、あえて聞いているのだ。だから彼女も、素直に笑って残りの手札をデュエルディスクに置く。

「このターンで決めるから、って。魔法カード、強制転移を発動!私の終末の騎士と、貴方の選んだモンスター1体のコントロールを入れ替えるんだって」

 そのための切り札こそが、まさにこのカード。どんなモンスターが相手の場に居ようとも、こちらから攻撃目標を送り出してしまえばその守りは一瞬で瓦解する。彼女にとって大切なのは乙女を処理することではなく、終末の騎士を送りつけること。攻撃力1400の終末の騎士では、7000もの一撃には耐えきれない。

「なるほど、そう来たか」
「……?」

 だが、男の表情にいまだ絶望や焦りといった色は浮かんでこない。恐らく、あの1枚だけ存在する伏せカードにその秘密があるのだろう……が、さすがの彼女も伏せカードが怪しいからといって即座にそれを破壊できるカードが引けるわけではない。いつまでも残しておくよりは、いっそ今使わせる方がいいだろう。彼女の決断は早かった。

「バトル、だって。ワイトキングで、終末の騎士に……」
「リバース発動、ホーリージャベリン!相手モンスターの攻撃時、その攻撃力はそのまま俺のライフに加算される!」

 ワイトキング 攻8000→終末の騎士 攻1400(破壊)
 男 LP4000→11000→5400

 ワイトキングの拳は半透明な光の壁によって遮られ威力を減衰し、そこから伝わるエネルギーが生命力となって辺りに満ちていく。一撃でゲームエンドまで持ち込むことも可能な大火力が、むしろ足を引っ張る結果となったかたちである。
 そしてこのターンで決め切れなかった以上、夢想の場には彼女にとってはなんの役に立たない乙女と、一応戦闘破壊時に蘇生できる効果こそあるもののここまで成長した今となってはそんな耐性もないよりはマシ程度の役にしか立たない打点一本のワイトキングしかいない。少しためらった末、ここは安全策を取ることにした。

「魔法カード、一時休戦を発動。デッキからお互いにカードをドローして、次の貴方のエンドフェイズまであらゆるダメージは0だってさ。私はこれでターンエンド、だって」
「おっと、ならエンドフェイズに墓地から太古の白石(ホワイト・オブ・エンシェント)の効果発動だな。もうひとつの青眼の卵たるこのカードは墓地に送られたターンのエンドフェイズに孵化し、デッキからブルーアイズと名のつくモンスター1体を特殊召喚する効果を持つ。俺が呼び出すのは本家本元、青眼の白龍!」

 瞬間、止まった時の中で無音のうちに光が爆発する。その一瞬後、轟く羽音とともに伝説とまで呼ばれる龍……その姿が、アカデミアの空を彩った。

 青眼の白龍 攻3000

 男 LP6400 手札:5
モンスター:青眼の白龍(攻)
魔法・罠:なし
 夢想 LP4000 手札:1
モンスター:ワイトキング(攻)
      青き眼の乙女(攻)
魔法・罠:なし

「さて、俺のターンだな。魔法カード、トレード・インを発動。手札にいるさっきサーチした青眼をコストに、カードを2枚ドローだ。よしよし、デビル・フランケンを召喚するぜ」

 物々しい武装に身を包んだ、でもどこか古風な印象のする重火器満載の人造人間。だがそれも道理、このカードはデュエルモンスターズ黎明期から融合モンスターを時に禁止カードとして、時に制限カードとして眺め続けてきた歴戦の勇者ともいえるモンスターである。

 デビル・フランケン 守500

「そのカードは、まさか……」
「そのまさかだぜ。デビル・フランケンの効果発動、俺のライフポイント5000をコストとしてエクストラから融合モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚できる!青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)!」

 1つの体に3つの頭を持つ、デュエルモンスターズ全てのカードというくくりの中で見てもいまだに効果のないモンスターの中では最大にして最強の固定攻撃力を持つ、世界中にも海馬瀬人の持つただ1枚しか存在しないはずのレアカード……これまでの彼のデュエルにおいては表に出てくることのなかった、進化した青眼の姿がここにあった。

 男 LP6400→1400
 青眼の究極竜 攻4500

「まだだ!魔法カード、滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)を発動!このターン青眼の白龍の攻撃が封じられる代わりに、相手モンスターをすべて破壊する!」
「きゃあっ!」

 フィールドの青眼がその口を開き、全てを消し去る光のブレスが視界を埋め尽くす。ワイトキングが、青き眼の乙女が、まるで最初から存在しなかったかのように消えさった。

「露払いはばっちりだな。儀式魔法、カオス・フォームを発動!俺はフィールドからレベル8の青眼の白龍をリリースし……太古の混沌に湧き上がる力秘めし蒼の瞳よ、根源の雄叫びと共にその翼翻し、深淵の淵より降臨せよ!ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン!」

 青眼の姿が、リリースされたことで一度消える。次の瞬間、大地がその奥深くから砕け吹き飛んだ。地面に開いたその穴から現れたのは、儀式により地中奥深くに眠る混沌の力を取り込み、より攻撃的に爆発的な進化を繰り返した青い眼の龍。瞳の青はさらに深く鋭くなり、触れただけですべての敵を引き裂きそうなその皮膚からはいたるところから湧き上がる混沌の力が発光体となって表面に具現化する。体そのもののサイズも先ほどからは一回りも二回りも巨大化し、並び立つ究極の名を冠した竜に勝るとも劣らないほど巨大なドラゴンへと変貌していた。

 ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン 攻4000

「これだけじゃまだ終われねえ、終わらせられるわけがねえ。究極竜よ、お前の魂は貰ってくぜ。俺は青眼の究極竜をリリースすることで、手札のこのカードを特殊召喚する……さあ、現れるがいい。全てを消し去る光の龍、青眼の光龍!」

 究極の竜が、3つの首で天を見据えてその翼を広げ大空へ飛び立つ。雄大に宙を進む竜は輝きながら天高く昇って行き、天頂に達したところでその動きを止め……そして、またもや光が弾けた。やがて空の色が元に戻った時にはもはや究極竜の姿はどこにもなく、そこにいたのはより高次元の存在となった龍。シルバーメタリックの体は動かない太陽の光を反射して神々しく輝き、胸の部分に新たに加えられた澄んだ青い水晶体はそれ自体が呼吸しているかのようにその蒼の深みが刻一刻と変わっていく。

「このモンスターの攻撃力は、俺の墓地のドラゴン族1体につき300ポイント上昇する」

 青眼の光龍 攻3000→4500

 今この男の墓地に存在するドラゴン族でその存在が確認できているのは伝説の白石と太古の白石、青眼の白龍と青眼の究極竜の4体。恐らく、手札断殺の際手札から太古の白石と同時にもう1体別のドラゴンを墓地に送っていたのだろう、と頭の中で見当をつける夢想。あの新たなるドラゴンには、手札1枚を消費してさらに究極竜を墓地に送るだけの隠された効果があるのだろう……と、そこまで予想する。

「手札から、青眼の(ブルーアイズ・)亜白龍(オルタナティブ・ホワイト・ドラゴン)の効果発動!このカードは通常召喚できず、手札の青眼の白龍を相手に公開することで特殊召喚できる!」

 海を割りその中から水柱と共に舞い上がる、第3の龍。一時休戦の生きているターンだからかろうじてその攻撃は抑えられるが、この先それが続く保証は……ない。

 青眼の亜白龍 攻3000

「ダメージが通らないんじゃな。ターンエンドだ」

 攻撃力4500の光龍に4000のカオス・MAX、そして3000の亜白龍。それぞれいまだその効果を明らかにしてはいないが、そのどれもが一騎当千の圧倒的な力を持つ、いずれ劣らぬ化け物ぞろいであることはこのソリッドビジョンであってもなお衰えない全身から立ち上るプレッシャーからも見て取れる。
 そしてそんな威圧感を前にして、彼女は畏れるのではなく、ただの少しも気負わずに。果たして本人も気づいているのかいないのか、その口元をうっすらと、強者と出会えた喜びに綻ばせすらしながらに。

「私の、ターン。……ドロー!だって」

 何の躊躇いも起こさずに、ただ自らの前に広がる勝利のみへと手を伸ばす。

「魔法カード、龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)を使うよ、ってさ。墓地のモンスターを素材として、ドラゴン族の融合モンスターを呼びだすカード……私はワイトキングと龍骨鬼、この2体のモンスターをゲームから除外。冥府の扉を破りし者よ、其には死すらも生温い……融合召喚、冥界龍 ドラゴネクロ」

 空が割れて、青眼の光龍が舞い降りた。大地が割れ、カオス・MAXがその姿を見せた。海が割れ、亜白龍が現世に現れた。ならば、冥府の龍はどこから現れる?知れたことだ、その名の示す場所はただ1つ。何もない空間にひびが入り、粉々に砕けた世界の向こう側には1つの門。その扉がゆっくりと開くと、向こう側の世界に溢れていた大量の瘴気が現世へと溢れ出る。そして、その向こうに巣食っていた冥府の龍もまた目を覚まし、新たな獲物を求めて冥府の門を超える。

 冥界龍 ドラゴネクロ 攻3000

 ドラゴネクロは戦闘で相手モンスターを破壊せず、代わりにその魂を抜き取って自らの戦力とする特殊能力を備えている。カオス・MAX・ドラゴンにでも自爆特攻を行い、攻撃力4000ものダークソウル・トークンを呼び出せば勝利は確定する……そこまで考えたところで、もう1枚残った手札に目が行った。このまま攻撃すれば勝利は確定している以上、わざわざこのカードを使う意義はどこにもない。ない、はずなのに。

「はあ、はあ……」
「うん?なんだってんだ……?」

 息が荒くなる。頭が、締め付けられるように痛む。自分の中の何かが、このカードを使えと言っている。その衝動は収まるどころかどんどん強くなっていき、それに伴い次第に意識が遠くなっていく。そしてついに、その時が来た。

「お、おい……」

 突然の異常に何かを言おうとした男の目が、驚愕に染まった。一瞬の沈黙ののち、ゆっくりと歓喜の色がその顔に広がっていく。彼が見たものは現実なのか、それとも大量出血による衰弱が見せた死の淵の幻影なのか。

「私は魔法カード、アドバンスドローを発動。レベル8以上のモンスター、ドラゴネクロをリリースすることでカードを2枚ドローする!」

 喋っているのもそこにいるのも、間違いなく河風夢想だ。だが、低レベルが身上のワイト使いである彼女のデッキにレベル8以上のモンスターを要求するアドバンスドローの入る余地などあるのだろうか?少なくとも彼女自身に、そんなカードを採用した覚えはない……では、今デュエルしているのはいったい誰なのか。今使われている手札は、そしてその腕に装着されたデッキは一体誰のものなのか?

「フィールド魔法、ダークゾーンを発動!この効果により闇属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップし、守備力は400ポイントダウンする」

 いまだ開き続けている冥界の門から流れてきた瘴気は世界を埋め尽くし、先ほどまで晴れていた空も凪いでいた海も地獄と見まごうほどに荒れている。そんな中3体の青眼のみが、まるでそれに反抗するかのようにいまだ変わらぬ光を放っていた。

 デビル・フランケン 守500→100 攻700→1200
 ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン 攻4000→4500 守0

「チューナーモンスター、劫火の舟守 ゴースト・カロンを召喚!」

 木製の船に乗った、現世と地獄を隔てる川を繋ぐことのできる力を持った異形の船守。ランタン代わりに鬼火を灯し、冥界の門を抜けてその船が現世へと流れ着く。無論、このカードも夢想自身がデッキに入れた覚えはない。
 そもそも、今デュエルを続けている彼女は何者なのだろうか。かつての事故を機に自分の意思で言葉を発することができなくなったはずの夢想が今や普通に言葉を発していることを、彼女自身は自覚できているのだろうか。

 劫火の舟守 ゴースト・カロン 攻500→1000 守0

「ゴースト・カロンは自分フィールドにこのモンスターしか存在しない時、自身と墓地の融合モンスターを素材としてエクストラデッキからシンクロモンスターを特殊召喚できる。冥府の大河の流れを紡ぐ、永久の嘆きが此岸に響く。ステュクスシンクロ……冥界濁龍 ドラゴキュートス」

 冥府の門を叩き割って現れた荒ぶる白き龍は、その名をドラゴキュートスという。ドラゴネクロが冥界の中でも特に現世に近い場所である河であるステュクス、そしてその最下層を流れる河コキュートスの環境に順応して亡者の嘆きをその身に浴びつつその魂を取り込み、自己強化の果てにたどり着いた嘆きの龍。

 冥界濁龍 ドラゴキュートス 攻4000→4500 守2000→1600

「は……ははっ、こいつは、こいつは凄げぇ!」

 心底おかしそうに、そしてどこか嬉しそうに大笑いする男。その笑い声が響く中、ドラゴキュートスの胸に着いた幽鬼の口がゆっくりと開いた。

「バトル。デビル・フランケンに攻撃、冥界の幽鬼奔流(ゴースト・ストリーム)!」

 最初のターゲットは、ちっぽけな人造人間。そちらに目を向けることすらなく幽鬼の奔流が放たれると、その小さな命は一瞬で握りつぶされた。

 冥界濁龍 ドラゴキュートス 攻4500→デビル・フランケン 守400(破壊)

 攻撃は終了した。しかしドラゴキュートスは、次なる獲物の嘆きを求めてもう1度その首をもたげる。

「この瞬間、ドラゴキュートスの効果発動。戦闘で相手モンスターを破壊し墓地に送ったならば、もう1度の連続攻撃が可能となる。次の獲物はあれ……青眼の光龍に攻撃、冥界の幽鬼奔流(ゴースト・ストリーム)
「はははっ……いいぜ、迎え撃て青眼の光龍!シャイニング・バースト!」

 今度の獲物は、デビル・フランケンほど簡単にやられる気はないらしい。冥界の力を得た幽鬼のブレスと、光り輝く退魔のブレスが正面からぶつかり合った。双方のブレスはどちらもその勢いが衰えないばかりか、次第にその力が増していく。そしてその力の拮抗が限界を迎えた時、中心で爆発が起きた。

 冥界濁龍 ドラゴキュートス 攻4500→青眼の光龍 攻4500(破壊)

「うおおっ!」

 ドラゴキュートス、いまだ健在。では、もう1体のドラゴンは?全身全霊を注ぎ込んだそのブレスは、青眼の光龍からその命すら奪っていた。もはや体を浮かべることすらできず、力なく白き龍が落下する。その全身は次第に黒ずんでゆき、地面に落下する前に灰となって風に消えた。

「ドラゴキュートスは戦闘で破壊されない。ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンに攻撃、冥界の幽鬼奔流(ゴースト・ストリーム)
「けっ……混沌のマキシマム・バースト!」

 通常ならば相打ちとなるほどの戦いを経ても、幽鬼の追撃はいまだ止まらない。混沌の龍が全身から破壊の光を拡散させて迎え撃とうとするも、その一撃はもはや遅い。

 冥界濁龍 ドラゴキュートス 攻4500→ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン 攻4500(破壊)

 あれだけたくさんいた青眼も、残るは亜白龍ただ1体のみ。ドラゴキュートスの破壊の嵐は、フィールド全てを殲滅するまでは終わらない。

「……いいぜ、来いよ」
「青眼の亜白龍に最後の攻撃。冥界の幽鬼奔流(ゴースト・ストリーム)

 冥界濁龍 ドラゴキュートス 攻4500→青眼の亜白龍 攻3000(破壊)
 男 LP400→0





「……ああ、わざわざ手間掛けさせて悪かったな。もうこれで、悔いはねえよ」

 全てのソリッドビジョンが消え、止まった時の中で再び青空が戻ってきた。そんな空を眺めながら、男が体勢を直す。夢想……いや、その彼女もまた、返答代わりに軽く頷いた。もしかしたら何か言おうとしたのかもしれないが、男が先にそれを押しとめた。

「まったくよ、最後の最後まで勝てないんだもんなあ。でもま、最後の最後に最高の思い出ができたぜ。……悪い、消えるトコ見せたくねえんだ。時間が動くまで、あっち向いててくれねえか」

 最後に一度だけ、片手を上げて。彼女が言われたとおりにした瞬間、頭上で再びヘリのプロペラ音が鳴りだした。すぐさま振り返ると、もうそこには誰もいない。それを確認したことでほんの少しだけ表情を沈め……彼女もまた糸が切れた操り人形のように、その場に気を失って倒れた。
 のちに頭上を行き交うヘリのうち1機に救助された時にはすでに、夢想の中からその記憶は抜け落ちていた。彼女が覚えていたのは、ドラゴネクロを融合召喚したら頭痛がしたところまで。まさか青眼を使う男とデュエルしていました、なんて話を正直にするわけにもいかないので適当に誤魔化しはしたが、その間も彼女の心は晴れなかった。救助してくれた人たちの、彼女は学校が消えているのを改めて見たショックで気絶したのだろう、と勝手に解釈したのがいい方に出てあまり深く追求されなかったのは幸いだったろう。
 そんな彼女の一日の裏で、砂の異世界では次なる異変が密かに進行していた。 
 

 
後書き
ついに出ちゃいましたね、ドラゴキュートス。彼女の設定的に遅かれ早かれいつかは出す気でしたが、正直このタイミングで出すつもりはなかったので作者もちょっとだけ焦ってます。書いているうちに興が乗っちゃって、ついやっちゃいました。
まあ、本編では基本しばらくは無いものとして扱いますが。S・X・Pモンスターは本編出演ダメ・ゼッタイが(最後の最後ぐらいまでは)拙作の数少ないモットーの1つです。
あと今回、口上やら描写やらでいつもより中二病があらぶってる気がするのは全部ここ最近の暑さのせいです。わたしわるくないよー。

7月4日補足
ドラゴキュートスの連撃効果、調べたらターン1回しか使えなかったんですね。今回だけ演出優先ということで勘弁してください。一応、亜白龍に攻撃さえすればその時点で終了なことには変わりありませんし……。 
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