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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン52 鉄砲水とゾンビ軍団

 
前書き
お題:いかにして雑魚相手に無双できるか
結論:そもそも戦い方の幅が少ないこの主人公でそんなもんやろうと思った方が馬鹿だった。反省。
前回のあらすじ:映画版カオス・フォームの性能が何かおかしいと思う。なんなのさ「カオス」モンスターをノーコストで手札から特殊召喚するって……。 

 
 十代ラブを唱えて止まないオレンジの人影を追って、校舎に入り込む。違和感は、自動ドアをくぐった最初の一歩の時点ですでに立ち込めていた。

「あれ……?」

 野生のモンスターを警戒するために、この辺りには余裕のある生徒を中心に臨時の警備隊が配置されていたはずだ。なのに、今のロビーには人影どころかファラオ1匹いない。そういえば、ついさっきまでの僕とウラヌスのデュエルにも、あれだけ派手にデカいのとやりあっていたんだから出てきてしかるべきのギャラリーが1人も出てこなかった。
 様子がおかしい。ウラヌスとのデュエルにかかった時間は、せいぜい30分と経っていない……そのタイムラグの間に、ここの警備隊が全員退避せざるを得ないような何かが起きたんだ。まだ手に持っていたトランシーバーに、周囲に気を配りながら声を張り上げる。

「十代!十代!聞こえてんなら返事してくれる!?」

 建物の中に入ったせいもあってか、どうも電波の調子が悪い。一度外に出て、連絡だけ取ってから出直すか……なんて考えたところで、ふらふらとこちらに歩いてくるラーイエロー生徒に気が付いた。

「なんだ、皆いるんじゃん。駄目だよ勝手に持ち場離れちゃー」
『清々しいまでに自分のことは棚に上げたな、マスター』
「(ああしなきゃ校舎は今頃瓦礫の山だったろうしねえ。今回の僕は流石にノーカンでしょ)」

 言い合っている間にもその彼は前かがみな姿勢のまま、特に何か喋るでもなくふらふらと近寄ってくる。一言も喋らないままついに3メートルほどの距離にまで近寄ってきたところでようやく顔を上げるとその目の周りにはこれでもかといわんばかりに隈がかかっており、貼り付けたような不気味な笑顔とのギャップのせいで余計に薄気味悪い表情に見える。

「どったの、何か落ち込むことでもあった?……なーんて、そーいう感じじゃなさそう……だね」
「……エル……」
「あー?エル?」
「デュ……エル……デュエル……!」

 聞き取れないほどの声で喋るので思わず聞き返すと、腕に装着したデュエルディスクを起動させながらもう少し大きな声で言い直された。デュエル?僕と?見たところこの彼にもデスベルトは装着されているし、はっきり言って見た目も言動も正気の沙汰とは思えない。

「売られた喧嘩はなんとやら、だけど悪いけど今回はパスで、ね」
「デュエル……!」

 しかし、なおもしつこく食い下がってくる。まるで話が通じない、というか全然会話にならない。どうやらこれは、腹くくって1戦やるまで放してくれなさそうだ。

「うー……ったく、後悔しても知んないよ?」

 一歩下がってデュエルディスクを起動させると、ニヤニヤと笑いながら向こうも電源付けっ放しのデュエルディスクをそのまま構える。なんだかさっぱりわからないけど、とにかく早く終わらせて皆を探そう。というか、ウラヌスとのデュエルでこっちも割とへとへとだからあまり長引かせることはできない。

「「デュエル!」」

「えへ、えへ……」

 何が嬉しいのか、ニタニタと笑いながら自分のことを指さす。ああ、もしかして先攻が取れたことに対するリアクションなんだろうか。

「俺は、こいつを……召喚」

 異次元への案内人 攻1400

 フードをかぶって顔のよく見えない人型モンスターが召喚され、フィールドに現れた……それはいい。当然のことだ。ただ1点、なぜかそのモンスターが僕のフィールドに現れたということを除けば。

『異次元への案内人は、召喚された時その強制効果によりコントロールを相手に移す……他にも効果はあるが、そもそもこんな序盤に出すのに向いたカードではないはずだが』
「相手フィールドにのみモンスター……俺は、こいつを、特殊召喚」

 チャクチャルさんの疑問の答えは、すぐ明らかになった。僕のカイザー・シースネークやカイザーのサイバー・ドラゴンのような特殊召喚条件を持つモンスターの1体、ギラギランサーだ。

 ギラギランサー 攻2200

「カードを伏せて、たーーーんエンドォォ」

 無駄に伸ばした、妙に腹の立つ発音でエンド宣言を行った瞬間、ギラギランサーの槍が光を放つ。

 イエロー生徒 LP4000→3500

「な、何!?」
『ギラギランサーのプレイヤーは、エンドフェイズごとに500ライフを失う。ただのデメリットだ、無視して構わないぞ』
「あ、そう……んじゃ僕のターン、ドロー!」
「永続トラップはあつどおおう、群雄割拠だぁ」

 伸ばした発音というよりもはや1周回ってタイタンみたいになってきたイエロー生徒の発動したカードは、群雄割拠……互いのフィールドに出せるモンスターの種族を1種類のみに固定するロックカードの1種だ。普段ならそんなものたいした痛手ではないが、今僕のフィールドにはよりによって戦士族の異次元の案内人がいる。正直なところ、邪魔でしょうがない。

「えーっと、えーっと……」

 もう一度状況を整理する。僕のフィールドにはギラギランサーより攻撃力の低い異次元の案内人1体のみで、これか群雄割拠のどちらかを処理しない限り自前のモンスターを場に出すことはできない。
 ……いや、待てよ。確か群雄割拠のロックには、一見完璧に見えても穴があったはずだ。三沢だか稲石さんだったかは覚えてないけど、とにかくどっちかに教えてもらった裏技的豆知識だ。

「僕は、モンスターをセットする!」

 よしよし、やっぱりだ。僕のセットしたモンスターはエラーを起こしてデュエルディスクに弾かれることもなく、無事にフィールドに現れる。群雄割拠はあくまで表側のモンスターのみを単一にするカードで、セットすること自体に制約は一切かからない。となると僕のデッキにとって、とにかくモンスターをフィールドに出すことさえできれば群雄割拠のロックなんていいカモにしかならないわけで。

「魔法カード、シールドクラッシュを発動。このカードの効果で、今セットしたグレイドル・アリゲーターを破壊!」

 怪光線に照らされてアリゲーターのカードが一瞬だけ表を向いた、かと思うとすぐさまどろどろに溶けて銀色の水たまりになってゆく。ここまで来れば流石に次の展開もわかったのだろう、相手の表情が謎のにやつきからほんのわずかに変化した。

「魔法カードの効果で破壊されたアリゲーターは、相手モンスター1体に寄生してそのコントロールを操る。バトル、ギラギランサーと異次元の案内人でダイレクトアタック!」
「うわあああああ……」

 ギラギランサー 攻2200→イエロー生徒(直接攻撃)
 イエロー生徒 LP3500→1300
 異次元の案内人 攻1400→イエロー生徒(直接攻撃)
 イエロー生徒 LP1300→0

「いっちょ上がり、っと。ちっ……」

 わかりきっていたこととはいえデスベルトが起動し、倦怠感がさらに増す。チャクチャルさんが減るデュエルエナジーをある程度肩代わりしてくれているから持ちこたえられてはいるが、逆に言えばその分が無かったらもっと早くに倒れててもおかしくはないほど、ここ最近は馬鹿みたいな頻度でデスデュエルをやりすぎた。これ以上無茶をするのは、ちょっと本気で控えたほうがよさそうだ。さすがにここらで一度休憩を挟まないと、いい加減辛いものがある。
 改めて皆を探そうと背を向けたところで、背後からまたしても声がした。

「デュエル……デュエル……」
「なっ!?」

 たった今倒したはずのイエロー生徒がゆらりとした動きで起き上がり、デュエルディスクを構えたままの姿勢で迫ってくる。

「冗談じゃない、もうやらな……」

 い、と最後まで言い切ることはできなかった。イエローの彼の背後から、いつの間にかほかにも10人以上の生徒がのろのろした動きで起動済みのデュエルディスクを構えたまま僕めがけて歩いてくるのが見えたのだ。

『これ以上続けていると、走って逃げるだけの体力も残らないかもしれんな……』
「僕もそう思うよ。ここはとっとと逃げるに限る!」

 さっと反転し、ふらふらと歩いて追いかけてくるだけの集団から距離を取る。なぜか1人も走ってくる相手はいなかったので、小走り程度のスピードでも楽に引き離すことができた。そのまま階段で2階まで駆け上がり、足音を抑えて手近な教室に逃げ込んだ。ドアをきっちりと閉めて僕が入った痕跡を消し、いざというときすぐ出られるように廊下に近い方の机に適当に腰を下ろす。

「と、とりあえずこれで……」
「デュエル……デュエル……」
「んなわけないかぁ……」

 振り返ると、今まで机の陰に隠れていたのか1人のブルー生徒がのろのろとこちらに向けて歩きだしていた。こいつの顔にも案の定、ひどい隈と貼り付けたような笑い顔がある。出来ればスルーして逃げたいところだけど、あのブルーの顔には見覚えがある。といっても別に直接の知り合いというわけではないが、確かこの学校の陸上部で短距離のエースを張っている奴だ。1階の奴らみたいに歩いてのろのろ来るだけならなんてことはないけど、もし全力ダッシュされたら爆発力じゃ勝てる気がしない。
 となると、やはりこれしかないか。デュエルディスクを構え、せめて早く終わらせてその隙にここを脱出しようと心に決める。

「「デュエル!」」

 今度の先攻は僕。もっともだからといって、特に目立った動きができるわけでもない。

「ハリマンボウを召喚。これでターンエンド」

 ハリマンボウ 攻1500

「うわあ、ははは……」

 喜びの声らしきものを上げながらブルーの彼が発動したのは魔法カード、ソウルテイカー。相手のライフを1000回復させる代わりにモンスター1体を破壊する、割と癖の少ない通常魔法の除去カードだ。当然そのカードから出た光はハリマンボウを直撃し、そのまま後ろにいた僕にも命中する。

 清明 LP4000→5000

「ハリマンボウ!これでがら空きか、クソッ」
「うおお……さらに、これ……」

 空いたフィールドに召喚されたのは、3人1組で申し訳程度の鎧を着て見るからに痛そうな棍棒を担いだ、緑色の戦士。まさしくあれは、ゴブリン突撃部隊だ。そしてその姿が、みるみるうちに教室の天井に届きそうなほど大きくなっていく。あんなエフェクトがカード効果で起きるとしたら、間違いない。装備魔法、巨大化……相手よりライフが下の状態で装備された時、装備モンスターの攻撃力を元々の数値の倍にするという単純明快だがその分強力なカードである。

 ゴブリン突撃部隊 攻2300→4600

「行けぇ!」

 大きくなったゴブリンによる3連撃が、守ってくれるモンスターのいない僕の体を滅多打ちにする。4000以上のダメージを1度に受けて、ライフカウンターの数字もみるみるうちに減っていく。

 ゴブリン突撃部隊 攻4600→清明(直接攻撃)
 清明 LP5000→400

「あ痛つつ……案外やるじゃないの……!」

 さすがはブルー、さっきのイエローとは格が違うという訳か。だけど今のダイレクトアタックのおかげで、巨大化のデメリット効果が発動する。というのも、あのカードはあくまでライフポイントで下回るプレイヤーが馬鹿火力で1発逆転を狙うのがコンセプトのカード。ライフポイントが逆転した瞬間、その強化は弱体化……それも、元々の攻撃力を半分にするという強烈なものへと変貌する。

 ゴブリン突撃部隊 攻4600→1150

「ひひひ……」

 攻撃力がダウンしたためか、どっと疲れた様子でその場に寝転がりすやすやと寝息を立て始めるゴブリンたち。ゴブリン突撃部隊は、そういえば攻撃を終えたバトルフェイズ終了時に守備表示になるデメリット効果がある……なるほど、デメリットとデメリットをうまいことかみ合わせて被害を最小限に抑えたわけか。

 ゴブリン突撃部隊 攻1150→守0

「僕のターン!」

 幸いにも相手フィールドに伏せカードはなく、このまま一気にけりをつけたいところだ。というより、そうしないとこのデュエルの音を聞きつけていつまたこんな奴らが襲ってくるかわかったもんじゃない。戦闘はなるべく回避するに限る。とはいえゴブリン突撃部隊を倒すのにモンスターが1体いるとして、その後さらにあの4000のライフを奪えるほどのモンスターを展開するには……いや、そうか。このカードを使えばいい。

「ウミノタウルスを召喚して、さらに手札からシャーク・サッカーの効果発動。水族モンスターの召喚に成功したことで、このカードは特殊召喚できる!」

 ウミノタウルス 攻1700
 シャーク・サッカー 攻200

「さらに水属性モンスターのシャーク・サッカーをリリースして、手札からシャークラーケンを特殊召喚!」

 シャークラーケン 攻2400

「バトル、ウミノタウルスでゴブリン突撃部隊に攻撃……そしてこの瞬間、ウミノタウルスの効果適用。自分フィールドの水・魚・海竜族すべてに貫通能力を与える!そのままシャークラーケンでダイレクトアタック!」

 ウミノタウルス 攻1700→ゴブリン突撃部隊 守0(破壊)
 ブルー生徒 LP4000→2300
 シャークラーケン 攻2400→ブルー生徒(直接攻撃)
 ブルー生徒 LP2300→0

「はあ、はあ……悪いね、リターンマッチは受け付けないよっ!」

 負けたブルー生徒がその場に倒れこむのを確認し、とっとと背を向けて退散する。背後でまた彼が起き上がる気配がしたが、もうこれ以上は構っていられない。

「一体この学校、どうなっちゃったってのさ……!もしもし、もしもし!こちら遊野清明、こちら遊野清明!誰か聞いてたら返事して!」

 トランシーバーは依然として雑音を流すのみで、まともに人の声が聞こえてこない。期待を込めてシャカシャカと振ってみるも、当然そんなことで電波状況がよくなるなら苦労は……あ、何か聞こえてきた。

『……ザザ……先輩!?清明先輩なのかドン!?』
「剣山!イエスイエス、僕だよ僕!今これ何がどうなってんの、ってか皆どこ行っちゃったの!?」
『まさか先輩、今校舎の中にいるザウルス?そこから体育館までどれくらいかかるドン』

 体育館?よくわからないが、ざっと頭の中に学校の地図を思い浮かべてみる。今いる場所がここで、体育館の位置がこの位置だから?今いる場所を大まかに伝え、だいたい5分とかからないはずだと付け加える。数秒の間の後、すまなさそうな声がトランシーバーから聞こえてきた。

『なら、申し訳ないけど俺たちは迎えに行けそうにないザウルス。十代のアニキたちはともかく、丸藤先輩も行方が分からないし……先輩、その近くにゾンビ生徒はいるかドン?』
「ゾンビ生徒?」

 聞き覚えのない単語ではあるけど、何のことを言いたいのかはよく分かった。ゾンビ、確かに言い得て妙だ。

「あれね。散々相手してへとへとだけど、あれなんなの一体?デスデュエルしかけてくる割に妙に手ごたえ無いし、そのくせ倒してもなんかぴんぴんしてるし」
『詳しいことはわからないけど、安全な場所に着いたらわかってることだけでもまた説明するドン。とにかく先輩、もう体育館に無事な人たちはほとんど避難しているから、先に行って待っててほしいザウルス』
「りょーかーい。どうにかやってみるわ、んじゃまた後で」

 そこで通話をやめ、周りにゾンビ生徒がいないことを確認する。音が小さいせいで結構大きめの声になってたから、見つからなかったのは本当に運がよかった。あとは、この運が続くことを祈るだけだ。用心しいしい歩いていくと、前の方をふらふら歩くゾンビ生徒がいるのが見えた。幸いまだ気づかれてはいないけど、近くに身を隠せそうな遮蔽物はない。かと言ってこのまま後ろをついて歩くのもリスクが高い。ちょうど男子トイレがあったので、少しの間やり過ごすつもりで中に滑り込んだ。一応個室ひとつひとつも見回って、中にゾンビ生徒が潜んでいないかだけ確かめる。一番最後の個室の奥、掃除用具の入ったドアも念のため開けてみる。

「……!!」

 とっさに声が出そうになるのを全力で抑え込むため、口を両手で覆う。個室ならまだしもまさかこんな狭いところには誰もいないだろうと思っていたのに、うずくまって丸まっている人がいたのだ。最初の動転がひとまず落ち着くと、その後ろ姿にはよく見覚えがある。

「翔……?」
「怖かったっス、ずっと隠れてたんスよ~……」

 体育座りのまま、今にも泣きだしそうな声を上げる翔。そういえば剣山も翔は行方不明だって言ってたけど、そらこんなところに隠れてたら見つかるわけもない。でもそのおかげで、外のゾンビたちに捕まることもなかったんだろう。実際捕まったところでどうなるのかは知らないけど。

「まあ、とりあえず無事でよかったよ。さ、体育館まで行こう」
「体育館……?」
「ああ、聞いてないから知らないか。そりゃそうだね、さっき剣山に聞いたんだけど、とりあえず体育館に避難してるんだってさ。ほれ立って、ここだっていつまで無事かは分かんないんだし」
「うん……そうだね」

 なんというか、うかつだったとしか言いようがない。よく知った相手だって先入観があったせいで、うっかり気が緩んでいた。ゆっくりと持ち上がった翔の顔に濃い隈と薄ら笑いが確認できたときには、すでに走って逃げだすには遅すぎた。

「でもその前に、デュエルしようよぉ~……」
「翔、とっくにやられて……!」
「ねえねえ清明君、僕とデュエル~」

 じりじりとにじり寄る翔から、一歩ずつ下がっていく。背中が壁に着いたところで、少なくともここに留まり続けるのは最悪の選択だということに今更ながらに気が付いた。このトイレの入り口は僕の入ってきた1か所しかなく、位置の関係上窓もない。誰も潜んでいないならある程度安全な場所ではあるのだが、反面ここでぐずぐずしてそれを外のゾンビ生徒に聞きつけられると完全に逃げ道がなくなる。

『そりゃあまあ、そうだなあ』
「チャクチャルさん、気づいてたなら一言注意してよ!」
『あんまり堂々と入ってくものだから、てっきり何か策でもあるのかと』
「僕にそんな深いこと考える知能があるように見える!?」
『…………ふむ』

 そこは当然否定するか、せめて即答して茶化してほしかった。そんなたっぷり時間かけて真剣に考え込まれると、その、自分で言い出しといてなんだけどちょっとへこむ。

「おっと、逃がさないよぉ。デュエル、しようよぉ」
「ぐ……」

 これ以上ここに留まっていると、このまま翔が大声でもあげたら終わりだ。元気な時ならいざ知らず、わっと集まってくるであろう10人単位のゾンビ生徒全員を起き上がらなくなるまでデスデュエルで叩きのめすだけの余裕はない。
 これまで戦った2人の例から考えると、ゾンビ生徒たちはデスデュエルに敗れたら確かにその時だけは倒れるものの、またすぐ何事もなかったかのように蘇る。だけど逆に言えば、そのわずかな時間には隙が生まれる。とすればやむを得ない、デュエルして勝って隙を作り、そこでとっとと逃げ出そう。デュエルディスクを構えると、翔もまたにやにや笑いながらデッキをセットする。

「「デュエル!」」

 先攻は……また僕か。まあでも、このカードがあるなら先攻でよかったというべきか。

「ハンマー・シャークを召喚!さらにカードをセットして、ターンエンド」

 ハンマー・シャーク 攻1700

 いつもならここでさらに展開するところだけど、今日は珍しいことにハンマー・シャークの効果で場に出せるレベル3以下の水属性が手札にいない。ま、そんな日もあるさ。

「僕のタ~ン、ドロ~。魔法カード、苦渋の決断を発動。デッキからレベル4以下の通常モンスターを墓地に送って、その同名モンスターをサーチ。サイクロイドを墓地と手札に」

 翔が愛用するのはその全てが機械族で構成された、デフォルメされたイラストが特徴のピークロイドデッキ。癖のなく使いやすい効果を多く持つ下級モンスターで戦線を維持しつつ、整えた手札からパワー・ボンドで高攻撃力の融合ロイドを召喚して勝負を決めるのが基本戦術だ。おまけに機械族の特権、リミッター解除まで当然搭載している。なので下手に動くと、こちらがワンキルされることさえありうるのだ。だから用心を……。

「ダークジェロイドを召喚、効果発動……。このカードが場に出た時、相手モンスター1体の攻撃力を800ポイントダウンさせる」
「へ?」

 そこに出てきたのは、ビークロイドとは似ても似つかぬ8本の手だか足だかわからん部位を持つケンタウロスめいた悪魔。下半身に着いた口から闇の瘴気を吐き出し、ハンマー・シャークを絡め取る。

 ダークジェロイド 攻1200
 ハンマー・シャーク 攻1700→900

「翔?タイムタイム、何それ!?」
「えー、何がだい?」
「ロイドは!?ロイドどこ行ったの!?」
「あはははは、変なこと言うなあ。ロイドなら、ここにいるじゃないか……」

 そう言って指差したのは、ダークジェ『ロイド』。いやまあ、いるけど。確かにロイドだけど。名前さえついてりゃなんでもいいんだろうかコイツは。そしてまた、地味にいくつかのロイドカードに対応してるところがなんかむかつく。

「バトル、ダークジェロイドでハンマー・シャークに攻撃……」

 ダークジェロイド 攻1200→ハンマー・シャーク 攻900(破壊)
 清明 LP4000→3700

「へへへへへ、やったやった~」
「舐めんな!トラップ発動、激流蘇生!このカードは水属性モンスターが破壊された時にそのモンスターを蘇生し、その数1体につき500ダメージを与える!甦れ、ハンマー・シャーク!」

 ハンマー・シャーク 攻1700
 翔 LP4000→3500

「このまま攻撃されると困るなぁ……メイン2、悪夢の鉄檻を発動。互いのプレイヤーは2ターン、このカードが場に残る限り攻撃宣言ができない~。さらにカードをセットして、ターンエンド」

 足元から刺つきの檻が生えてきて、僕の周りを半球のドーム状に囲い込む。なるほど、これでハンマー・シャークからの反撃を止めるつもりか……でもやっぱり、これはビークロイドに入れるカードじゃないと思う。翔め、ゾンビになった時にデッキ改造でもしたのかな。

「僕のターン、ドロー」

 まあ、なんだっていいさ。それよりも、この程度のロックで僕の攻撃を本当に防いだとでも思ってるんだろうか。だとしたらそれは舐められすぎだ、このカードの力を見せてやる。

「ハンマー・シャークの効果発動。自分のレベルを1下げて、手札からレベル3以下の水属性モンスター1体を特殊召喚する!来い、氷弾使いレイス!」

 ハンマー・シャーク ☆4→3
 氷弾使いレイス 攻800

「そんなにモンスターを並べたって……」
「こっからが本番さ!手札から、真竜皇バハルストス(フューラー)の効果を発動!このカードは自分の水属性を含むモンスター2体を破壊して手札から特殊召喚でき、さらに破壊した2体がどちらも水属性だったなら、追加効果としてフィールドか墓地の魔法・罠を2枚まで除外する権利を得る。悪夢の鉄檻とその伏せカードを除外しろ、ハイドロ・ハウリング!」

 強大な水の力を操る真竜の皇、バハルストスが虚空に吠える。その叫びは大気を震わし、エネルギーの暴走により歪んだ時空へと、鉄檻と伏せカードを吹き飛ばしにかかる。除外したカードは……魔法の筒(マジック・シリンダー)か、危ない危ない。

 真竜皇バハルストスF 攻1800

「除外されちゃったよー。でもまだ、その攻撃力じゃライフを削りきれない……」
「いいや、このターンで決めてやるね。魔法カード、埋葬されし生け贄!このカードはアドバンス召喚のリリースを、フィールドじゃなくて互いの墓地からまかなえる。ハンマー・シャークとサイクロイドをリリースして、アドバンス召喚!これが僕の新たな力、絶望の妖星!The despair URANUS!」

 僕がついさっき手に入れたばかりの、新たな仲間。よろしく頼むよ、ウラヌス。

 The despair URANUS 攻2900

「ウラヌスは自分フィールドに魔法・罠カードが存在しない状態でのアドバンス召喚に成功した時のみ発動する効果がある……まず最初に、相手プレイヤーは永続魔法か永続罠、好きな種類を選ぶ」
「選ぶ~?じゃあ、永続魔法でいいや」

 宣言を受けたウラヌスの両目が魔法カードの色、緑色に光を放つ。

「なら僕は、永続魔法を1枚デッキから選んでフィールドにセットすることができる。強者の苦痛をセットして、そのまま発動!この効果で相手モンスターはそのレベル1につき100ポイント攻撃力がダウンして、ウラヌスは自分フィールドで表側の魔法・罠1枚につき攻撃力を300アップさせる!」

 ダークジェロイド 攻1200→800
 The despair URANUS 攻2900→3200

「ひいいぃぃ……」
「悪く思わないでよ、バトル!バハルストス、ウラヌスでそれぞれ攻撃!」

 真竜皇バハルストスF 攻1800→ダークジェロイド 攻800(破壊)
 翔 LP3500→2500
 The despair URANUS 攻3200→翔(直接攻撃)
 翔 LP2500→0

「じゃ、また!」

 走って逃げようとするも、足がうまく動かない。疲労の余り膝が震えてまともに歩くことすらできず、どうにかトイレの外に出たところで派手に転んでしまう。その派手な音が、このあたり一帯のゾンビを全員呼び寄せてしまったらしい。

「う、うわぁ……」

 さっきの翔で確信したけど、このゾンビ生徒1人1人ははっきり言って弱い。複雑な思考に向いていないのか、どいつもこいつも僕にワンキルされるレベルなんだから全っ然たいしたことない。翔だって本当はもっと強いはずなのに、あそこまで実力が落ちてるんだからお里が知れるというもので、ただあの無尽蔵の体力で自分の被害も構わずデスデュエルを仕掛けてくる人海戦術が厄介なだけだ。それだけに、まんまとその戦略に引っかかっている自分が恨めしい。多分まともに戦えば、僕ですらこの連中に負けることはまずないだろう。だというのに、それをやるだけの体力は僕にはもうない。じわじわと包囲網を狭めてくるゾンビ達の中心で、デッキから1枚のカードを抜き取った。

「こうなったらもう、最後の……ごめんね、毎度毎度こんな仕事押し付けて、さ……」
「デュエル~」
「俺と勝負だ~」
「デュエルしようぜぇ~」

 がやがやとうるさい外野を尻目に、そのカードをデュエルディスクにそっと置く。

霧の王(キングミスト)……!よろしくお願い、体育館まで、連れてっ、て……」

 文字通り最後の力で、霧の王の精霊を実体化させる。その召喚に今度こそ体力を使い果たして意識が完全に消える寸前、そっと体を抱きかかえられる感触を感じた……気がした。やっぱり僕は駄目だなあ、こうやって助けを借りないとまともに体育館まで行くことすらできないだなんて。そんなことを思いながらも、不思議と安心感に包まれていて。何日ぶりだろうか、何にも気兼ねなく安らかに意識がフェードアウトしていった。 
 

 
後書き
最初の雑魚2人の出番を削って、その分相手を翔に絞って濃いデュエルにした方がよかったのかな?と書きあがってから思う今日この頃。
それはそうと新規グレイドル、まさか2枚も貰えるとは思いませんでした。ただそのせいで電子光虫……。Jrですが、個人的には赤白黄の3色を合体させてドラゴンが出せるようになったのが嬉し……あれ?なんで、なんでカラーリングが青じゃないんだ……!とか何とか言ってましたが、効果自体はとてもいいものだと思います。コンバットは正直9期にしては無効にできる範囲が狭い気もしますけど、カステル相手に鼻で笑えるようになったのはいい感じですね。最初あのイラストはスライムが額からビーム撃ってんのかと思ってたのは内緒。
あ、それともう1つ。またしても私事ですみませんが、次回更新は1週間遅らせていただきます。 
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