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ウルゼロ魔外伝 超古代戦士の転生者と三国の恋姫たち

作者:???
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少年、荒んだ日常を送るの事

 
前書き
今回の話は恋姫とはほとんど関係ありません。ルークに完全にスポットを当てたエピソードです。
ですが、わずかに今後の展開に関わる複線も伏せてあります。
また、序盤の一部は、誤字修正や展開の追記と修正の後に公開予定の「ウルトラマンアグル 英雄の子と魔導師たち」の一幕と関連させています。 

 
トリステイン王立学院。そこがルークの通う母校だ。ここに通う生徒たちは、かつては校則として寮生活を義務付けられていたが、文明レベルがこの20年で急速に発展したため、自宅通学を用いる生徒も多くなっている。また、この世界における貴族は魔法という特別な力を持っている。その魔法の使い方と貴族としての教養を学ぶための学び舎である…というのは昔の話。現在ここに通う生徒の大半は、下は平民出身の者もいる。そのため、過去のような魔法や貴族としての教訓を学ぶだけの方針ではなく、かつての平民と貴族が共に手を取り合うきっかけを作るため、それが国や世界の発展に繋がるという考えによる方針だった。
しかし元は身分が違う者同士、学院内に限らず国中で、下賎な平民のくせにだの、権力と魔法にすがるだけの豚だの…互いに悪口を言い合って憎みあったり、恨みをきっかけとした事件が起きたりと、当然いさかいが起きた。
だが、この世界の命運をかけた戦いが、ルークが生まれる数年前の時期に起きていた。その脅威は身分や種族という壁を壊さなければ立ち向かえないほどのもので、その戦いをきっかけに平民と貴族、人類やエルフ、翼人をはじめとした亜人たちはわだかまりを超えた絆を結ぶ者が増えていった。だがその身分の壁は6000年という長すぎる時で築かれてしまった負の遺産で、そう簡単にぬぐえるものでなかったのも事実。それでもこの世界の人たちは過去を反省し、世界をよりよいものにするために奮闘し続け、自分たちが6000年という時で溜め込んでしまった様々な問題を解決していった。
その結果として、元は貴族のみが通学を許されたこの学院も、貴族と平民が平等の権限を得たことで共学となった。

とはいえ…やはり問題も発生する。

「うわあ!!」
学院の裏庭、突然校舎の壁に叩きつけられた茶髪の少年がいた。
「痛い…何するんだよぉ…!僕が一体君に何をしたって言うんだ…」
壁に肩をぶつけられ、痛めつけられた体を抑える茶髪の少年は見るから気弱そうな性格だった。
「うるさいな。平民風情が気安く僕に話しかけるな。お前の息は泥臭くて、学院の空気が汚れる」
彼が見上げた相手は、服装はかなり整われた上等な生地で作られた制服を着た長身の青年だった。今の台詞からすると、彼は身分の高い家の出らしい。それも、かなり傲慢なタチの持ち主のようだ。取り巻きの生徒たちも何人か集まっている。
「全く、今のトリステインも落ちたものだ。父上が言っていたとおりだ。こんな平民が、選ばれた貴族だけが通える神聖なこの学院に通っているなんて。馬小屋なみのくさい臭いで充満するじゃないか」
「ホラ豚、僕のすぐ近くで臭い息で学院を汚したことを謝罪しろ。もちろん土下座でね」
「うぅ…」
弱気な少年は相手に逆らう根性を持ち合わせていなかったこともあり、言い返す言葉が見つからなかった。しかしすぐに土下座をしようとすることはなかった。
「なにしてるんだ。早くしろよ」
「が…!」
下衆にも、その貴族生徒は少年の頭を踏みつけ、地面にこすり付けさせたのだ。
「ほらほら」
ぐりぐりと地面に押し付け、靴の裏に付いた土で彼の頭が汚れていく。周りの生徒たちは彼と取り巻きたちが怖いのか近寄ろうとしない。それをいいことにその貴族生徒と
人のことを平民呼ばわりして侮蔑しているが、そこに貴族らしい姿などこれっぽっちもなかったことに、彼らは己の傲慢さゆえに気づきもしなかった。
しかし、それを快く思わないのは誰でも同じだった。それを体現するかのように、一人の少年が貴族生徒たちの前に姿を現した。
「何してやがんだ、あんたら」
自分が呼ばれ、貴族生徒は声の主の方を見る。
「なんだよお前。まさかこの平民を庇いに来たのか?」
「別に…くせぇ臭いがしたから気になってきたってだけだ」
鼻息を飛ばしながら、その貴族生徒に話しかけてきた少年は…ルークだった。短く刈り上げられ先の尖った鳶色の髪をかき上げながら、いじめを働く貴族生徒たちを睨みつけていた。
「くさい臭い?あぁ、この平民のことか?全く愚かな話だよ。この『トリステイン魔法学院』は、本来僕たちのような、始祖ブリミルに選ばれた貴族の血筋のみが通うことが許された神聖なる学び舎…それをこんな貧乏臭くて臭いだけの平民の豚なんかが通うなんて…豚小屋の臭いが充満するじゃないか」
全く詫びれもせずに、自分が踏みつけている平民の少年の生徒を見下しながら、貴族生徒は取り巻きたちと揃ってげらげら笑った。踏みつけられている少年は、体が震えていた。相手に対する恐怖。それ以外にも、その恐怖の対象に対する、怒りをすぐにでも爆発させてやりたい気持ちに駆られていた。
それを見て、ルークは心底軽蔑した眼差しを貴族生徒に向けながら彼に言い返した。
「てめえの目は節穴か?いや、この場合は脳みそがとろけてんのか?って言うべきか」
「…なんだって?」
「頭がパープリンなのか…って聞いてんだよ、この腐れ脳みそ野郎。俺が臭いって言ってんのは、てめえからぷんぷん臭う下衆の臭いのことだ」
明らかに悪辣な悪口を言われ、貴族生徒の下卑た笑みが消える。
「ほ、ほぉ…言うじゃないか。下賎な輩の分際で」
貴族生徒は顔を引きつらせせながら、ルークを見る。見るからにチンピラみたいな態度じゃないか。制服だって前のボタンをしめず、乱れた着方をしている。口調だって不良じみていてみっともない。着込んでいる服はなかなか上等なものを着ていることから、彼も一応貴族の家から出たもののように見える。
「僕はトライアングルクラスのメイジ…マック・ド・フェルナンドなんだぞ?お前みたいな、授業サボっていそうな不良ごときが、僕を侮辱するなんていい度胸だね」
「あ?マク○ナルド?てめえの行き着けか?」
「マック・ド・フェルナンドだ!ふ…どうやら君は僕のことを脳みそがとろけているだのなんだの言ってるけど、君の方こそ耳が腐っちゃってるのかな?」
名前を間違えられて憤るも、すぐに「こんな奴に怒るなんて大人気ない」と考え、落ち着きを無理やり保とうとしたが、すぐにルークの口から油が注がれた。
「平気で悪人でもねえ奴の頭を足蹴にするようなクソッタレ野郎よか二万倍マシ…いや、比べるだけそいつや俺自身に失礼だぜ」
その言葉に、ついに我慢ならなくなったのか、マックと名乗った学生はカチンときた。
「…どうやら君は貴族としての教養を失ったようだね」
「やっちまえマック!あの生意気な奴に、かつてトリステインの頂点にあった貴族の恐ろしさをもう一度思い出させてやれ!」
「あぁ、もちろんだ」
周囲の取り巻きたちもルークの言動が気に障ったらしく、やってしまえとはやしたて、マックもその気に乗せられてしまった。
「ヴェストリの広場にこい!そこでお前に貴族としての教養を」
「…いいぜ」
「へぇ、逃げないんだ」
マックたちは、ルークに対して決闘を申し込みはしたが、その内容はいたって卑劣なものだった。決闘、そして貴族の教養を教えるという名目の…集団リンチだった。自分たちがいっせいにかかってしまえば、この生意気な奴もすぐに黙らせることはできる。
しかし、ルークの返答は彼らにとって意外なものだった。
「なんで逃げる必要があんだよ。てめえ「ら」なんざ俺一人で十分だっての」
なんとルークは、全員まとめて自分の力で倒せることを確信した言葉を返してきた。
「ッ!…着いて来い。後悔するなよ」
マックは露骨な舌打ちを鳴らす。それはてめえだとルークが言い返すと、マックたちは余計にルークに対して睨みを利かせた。
取り巻きたちが、ルークが逃げないように監視しながら、彼をヴェストリの広場と呼ばれた場所へ誘導した。
その広場にルークが連れてこられたときには、マックの取り巻きたちが、ギャラリーたちが決闘の場に入り込まないように、何よりルークが決闘から逃げないように自分たち自身が柵代わりとなって回りを囲っていた。最も、決闘が始まったら、一斉にこの生意気な奴に痛い目を見せるつもりだが。
「おいおい、大丈夫かよあいつ…」
決闘を見に来た野次馬たちは、これから起こることに不安を抱える者もいれば、きっと一網打尽にボコられるルークに同情する者、逆に喧嘩を吹っかけてきたルークが悪いのだと、自業自得とみなす者とさまざまだった。
「や、やめてよ!彼は何も悪くないじゃないか!
君、早く逃げて!そいつはトライアングルクラスで、すごく優秀なメイジを排出してきた家の出なんだよ!」
さっきまでマックたちからいじめを受けていた弱気な少年はマックにやめるようにいうが、取り巻きの一人に肩をぎゅっと掴まれて身動きができなくなった。
「知ってるかい?このヴェストリの広場の言い伝えを」
綺麗に手入れされた芝生の広がる広場を眺めながら、マックはルークに語り始めた。
「知らないなら聞かせてやろう。この広場は、かつて平民の少年と貴族の子息が女子がらみの揉め事で決闘を行ったらしい。その勝負の決着なんだが、どういうわけか平民が逆転勝利を収めたとか言われているけど…ま、平民どもが適当に捏造したに違いないね。もし本当だとしても、平民に負けるようなヘボなんて貴族の名を名乗るに値しない間抜け…」
「さっきからぐだぐだうっせえんだよ。さっさとかかってきやがれ」
いい加減うんざりしきった様子でルークが手招きしてくる。ついにマックはルークのふてぶてしい態度に、堪忍袋の尾を切った。
(その生意気な姿をゲドゲドの恐怖面に変えてやる!)
杖を取り出し、マックは真っ先に魔法を放ってきた。トライアングルクラスのランクまで実力を挙げたメイジが使用できる、火の魔法フレイムボールが襲い掛かってきた。たちまちルークの姿が炎の中に消える。
「今だ!奴は火から必死こいて逃げ出すに違いない!そこを叩いてしまえ!」
マックの悪辣な命令に従い、取り巻きの生徒たちが炎の中にいるであろうルークに、とどい目をさしてやろうと。自分たちの魔法を放ってきた。

それから決着が付くのに、1分も経たなかった。この多勢に無勢という、決闘の名を騙るリンチの結果は…


ルークの圧勝だった。


「が、がふあ…」
「い、痛い…痛いよママぁ…」
ルークの周りには、ぼこぼこに叩きのめされたいじめっ子たちが転がっていた。対して、ルーク自身には傷といえそうな箇所はほとんどない。本の少し顔や服に汚れが付いた程度だった。
「雑魚」
自分の回りで、痛みでうずくまるマックとその取り巻きたちを、たった一言そう吐き捨てた。
「嘘だろ…たった一人を相手にあのマックが…」
「しかもあいつ、魔法を一発も使ってなかったぞ!素手だけで…」
「魔法もぜんぜん効いてなかった…化け物かよ…!」
野次となっていた生徒たちも、圧勝を飾ったルークの力に戦慄する。しかも話によるとルークは、魔法を使ってきたマックたちと違い、己の拳のみで、魔法の威力を一切受け付けていなかったという。
(馬鹿な奴ら…)
ルークは、自分が魔法を使わずに勝利したことについて野次馬たちの一部が驚いていることに呆れた。詠唱の間の隙を突けば問題はないのだ。一流のメイジはその隙さえも相手に許さないのだが、相手はたかが魔法がちょっと使えるだけの素人学生。喧嘩で勝ち星を飾ってきたルークの敵ではなかった。
「ぼ、僕の父上に言いつけるぞ!僕を殴ったことを!そうしたら…」
「ほぉ…どうなるっていうんだ?言ってみろよ?」
「な…!」
顔を上げてきたマックが、芝生にはいつ配ったままルークを睨みつけながら負け惜しみの台詞をぶつけるが、ルークはだからどうした?といった様子で睨み返してきた。
「自分に非があるくせに親に言いつけるとか、情けねぇ野郎だ…すぐにてめえなんぞに意味不明な謝罪をしなかったそこの泣き虫野郎の方が人間できてるぞ」
親の権力にすがって相手を威圧しようとするその貴族生徒の姿が、あまりにも情けなく見えた。
「な、なんだと!僕を誰だと思ってるんだ!僕はトリステインで由緒ある家の出なんだぞ!」
「人の頭を踏みつけて、意味不明な謝罪を要求するような家の息子なんざ、貴族を名乗る資格があるわきゃねぇだろ。この『クソ犬』野郎が」
舌打ちをかますルーク。すると、倒れていたマックの取り巻き立ちの中で数名ほどの学院の生徒が、ルークが視線をはずしている間にそろりと、この場から逃げ出そうとしていた。
「おい、取り巻き連中」
だがそれに気づいていた。呼び止められた生徒たちはビクッと身を震わせる。
「まさかてめえらまで、このクソ犬と同じ寝言ほざくんじゃねぇだろうな?」
「ひ、ひ…!」
「う、うわあああああ!!!」
再びルークから鋭い視線で睨まれ、取り巻きたちはその場ですくみ上がる者、中には逃げ出した者もいた。ルークは追わなかった。連中へのムカつき加減が高く、一秒でも早くやつらの顔を見ずに済ませたかった。
(…そういや、前にもどこかでああいう手の奴、腐るほど見たような…)
ふと、彼は去って行ったマックたちの悪辣な人物像に、奇妙なデジャヴを感じた。弱い立場の人間を蹂躙して、平気な顔でへらへら笑う。そんな下劣な奴を前にも見たことがあるような気がした。
それも…ずっと昔に。…あぁそうだ、確か、夢の中でそんな奴がいたような気がする。なんか、『青かった』ような…。
「ルーク君!!何をしているかね!」
今の騒ぎを聞きつけたのか、一人の教員と思われる壮年の男性が走ってきた。…ちなみに髪の毛は一本もない。
「コルベールの、おっさんか…」
「先生と呼びなさい、先生と!全く君という子は…ちょっとこっちに来なさい」
コルベールと呼ばれた男は、おっさん呼ばわりされて憤慨する。
この男…『ジャン・コルベール』は長年この学院の教員を務めている教師だった。20年ほど前に、この世界を襲った災厄でも、英雄たちの力となって戦い抜いた英傑の一人としても尊敬を集めている。
「…へいへい」
コルベールからの命令で、ルークはそのまま連れて行かれてしまった。
きっとあいつは先生から正統な制裁を受けるのだろう。ルークが先生に連行された姿を見て、マックたちは逆転勝ちした気持ちになって、連れて行かれたルークを冷酷な笑みを浮かべて嘲笑ったが…
その後、ルークの実家が王家と姻戚関係にある名家中の名家『ヴァリエール公爵家』の末裔であることを聞かされ、それ以降の学校生活ではヴァリエール家からの、真の正統なる報復を受けることに怯えるようになり、平民の生徒たちに対する暴力行為等を一切行わなくなったという。


「……」
コルベールに連れてこられるルークの姿を、一人の人物が見かけていた。メガネをかけた、いかにも理系の印象を漂わせる、青みがかった髪の青年だ。
「とりあえず、ターゲットの位置は特定できましたね。あとは、『向こう』の方がうまくやってくれるか…」
すると、そのメガネの男は、頭の中にピン…と、何かが自分に伝わってきたような感覚を感じ取った。
「…そうですか。そちらはうまくいったのですね。では私の方も動くといたしましょう」
はたから見ると、怪しくも見えるその男だが、彼は気にする様子を見せなかった。
そして、再びルークの連れていかれた方角を再確認するように見るのだった。


生徒たちは寮に戻るもの、乗り物に乗って実家へ戻るもの、そのまま徒歩で下校するものと多彩だ。乗り物には種類があり、この世界は元々機械に頼らなかった時代が長かったこともあり、現在でもグリフォンや竜に頼る人もいる。
ルークの場合は、自家用の飛竜を使って実家のヴァリエール家へと帰るのが普通だった。
「いいかねルーク君、君はあのミス・ヴァリエールのご子息なのだぞ!それなのに校内での暴力行為と行うとは、自分の母の顔に泥を塗る気かね?」
あの乱闘の後、ルークはコルベールから長々とした説教を受けた。
ルークにはあまり友人といえる人間はほとんどいない。彼の力は学院の生徒の中でも異質だった。実家が貴族ということもあって魔法はある程度使えるものの、それ以上に本人は己の身体のみで戦うことを理想としている。問題なのはその人間離れしすぎた力である。実はあの乱闘でルークに決闘を吹っかけてきた相手の中には骨折した者が数名出てきたほどで、ルークがその気になれば腕力だけで相手の命さえも奪える危険なものだった。ルークはその力故に、幼い頃から普通の人間らしく生活するのが難しかった。食事のときも、本の少し力を入れただけで食器を割ってしまったりすることが多く、本意でないのに食器を壊すなと上の叔母から叱られた。おかげで叔母に対していい感情をもてずに生きてきた。逆に下の叔母は、いつも優しく気遣ってくれていたが。
コルベールはルークの母の恩師でもあり、その責任感もあって、教え子の子供でもあるルークに対しても教師らしく指導に当たっていたのだが…。
「じゃああんたは、校内で起きた貴族の生徒の、平民に対する暴力行為に目をつぶれってのか?」
ルークもルークで校内の暴力沙汰を見過ごすことは許せず、マックがそうであったように、貴族の子息子女が自分より身分の低い生徒に対するいじめ行為を…また逆に、平民のガキ大将のような生徒が、かつて平民が貴族に虐げられたときの意趣返しといわんばかりに、気弱な貴族の生徒をいじめる場合でも、暴力で事を収めることもたびたびだった。
結果、ルークという抑止力が校内のいじめ問題を日が経つにつれて急激に減らした一方で、彼を恐れる生徒や教師たちからは敬遠されるようになった。
暴力で解決すること、それを振るって孤立する懸念があるため、コルベールは度々注意を入れるのだが、そんな彼を煽るようにまた校内での暴力行為が横行する。ルークからこらしめられても懲りなかったり、中にはルークに対する報復のために蜂起する学生もいる始末だ。そしてまた、ルークが直接出向いていじめを行う生徒を半殺し。良かれと思ってやっていても結局は暴行であることに変わりない…。

「ルーク!あなた自分の立場を分かってるの!?私たちヴァリエール家は古来より由緒あるトリステインの公爵家なのよ。それが校内で野蛮な喧嘩を繰り広げるなんて、何時になったらヴァリエール家の一員だという自覚を持つのかしら!?」
家に帰ったらいつもこうだ。学校からの連絡でまたルークがいじめっ子たちに対する暴力沙汰を起こしたことを知った上の叔母が遣ってきてうるさく叱り飛ばしてくる。
「っるっせえな…」
それに対してルークは怒鳴り散らしてくる叔母の怒声を聞き流そうと、耳をふさぐのに必死だった。
「うるさいですって!?それが問題を起こした者の言う台詞!?」
「あいつらが大人しくしてりゃ俺だってなにもしやしねぇよ。けど、いまだにいちいちいらねぇ騒ぎを起こす馬鹿がいやがる。そいつに気合を入れることの何が悪いってんだ。悪いのはあいつらだろ」
「あなたねぇ…!」
「大体ヴァリエールがどうこう言ってるけどよ。俺だって実家の誇りくらいはあるさ。けど、だからこそ無視できねぇんだ。あのクズ犬共がへらへら笑ってやがるのが」
「だからといってあなたが暴力を振るう理由になると思ってるの!?」
「じゃああんただったらどうするんだよ?大体、お袋に対して暴力じみた教育を施したあんたが、俺に偉そうな口叩いてんじゃねぇよ」
「なんですって!?」
若い頃の汚点をダシにされてルークの叔母は眼鏡の奥の鋭い目をより鋭くさせる。
「んじゃ、そゆことで~」
「こら!待ちなさいルーク!」
軽いノリで去り行くルークを引き止めようとするが、ルークは無視してそのまま二階へ上がっていく。
「まったく…ちびルイズ以上に手間のかかる子ね」
目くじらを立てて、いらいらを募らせていく叔母だが、怒りの表情から打って変わって、ため息混じりに落ち着いた表情に変わる。
「暴力…か」
ルークの言った言葉を気にしたのが影響したようだ。
「エレオノール様、もうお坊ちゃまはお帰りに?」
何か頭を悩ませるルークの叔母の下に、一人のメイドが歩み寄ってきた。
「あら、テラじゃない。ちょうどよかったわ」
やってきたそのメイドは黒く短い髪の、20代半ばの女性だった。
「その様子だと、またお坊ちゃまが問題を起こされてしまわれたようですね」
「…ええ」
この女性メイド、テラはルークが生まれた時にこのヴァリエール家に雇われた。子供の扱いに慣れているというらしいので、多忙さ故に家を空けることばかりだったルークの母に代わって彼の教育係を勤めてくれている。ルークの叔母『エレオノール』は子供の扱いには完全にド素人。しかも自分でもようやく自覚できた難癖のついた性格故に、ルークからの叔母としての威厳も信頼もあまり高くなかった。
「悪いわね、テラ。あの愚甥のおかげであなたにも苦労をかけてるみたいで」
「愚甥だなんてとんでもありません。あの方はとてもお優しい方ですわ。見た目も性格も、母上様にそっくりですから」
「…そうかもしれないわね」
言われてみて、エレオノールは不思議なほどに納得した。
「でも、同時にお父様似でも「テラ」…は、はい?」
微笑ましげに続けようとしたテラだったが、その瞬間エレオノールから強いプレッシャーを孕んだ言葉が、テラの言葉を遮った。
「あの男の話はしないで頂戴」
「…まだ、許してないのですね」
「あたりまえでしょう…。誰が許せるものですか」
エレオノールは憎々しげに呟く。

(妹をたぶらかしておきながら…妹を捨てた男など…)


「ふぅ…」
部屋に戻ったルークは、学ランを脱ぎ散らかして自分の部屋のベッドに寝転がった。
彼の部屋はやはりトリステイン王室と遠い血縁関係にある名家なだけあってかなり立派だ。高級テレビモニター、シャンデリアやふかふかの羽根布団と枕…。立派過ぎて、庶民の家の方が魅力に思えるくらいだった。
なんか…つまらないな。
学園ではむかつく奴らと喧嘩して確実に勝ってしまい、眠くて詰まんないだけど授業を受け続け、家に帰ってもうるさいだけの叔母とおせっかい焼きのメイドがいる。そんな日常と向き合うだけの、なんの変哲もない日常…。
講義中は寝てばかりだがテストはほとんど高得点だし、家の財産も尽きる気配がないから恵まれすぎていた。
頭だけではない。幼い頃から、彼は異常な身体能力を有していた。
とあるアメコミのヒーローのように、高いビルとビルの間を生身で飛び回り、たとえ3階建ての建物並みの高所から落下しても傷一つ着かなかったほどだった。
それだけに、面白みがないのだ。ただ分かるのは、今の生活は自分が求めているものとはどこか大きく異なっている気がした。自分が求めているもの…それが分からずに、退屈な日々をもどかしく思うばかりの生活を送っている。
子供の頃、ずっと思っていた。どうしてこんな力を持っているんだろう。この力のおかげで喧嘩では負けなしだが、それだけにつまらないし、それどころか日常生活でも家具を謝って壊してしまうとか、下手をすれば人を大怪我させてしまうほどの危険な力。
(…普通の人間だったら、俺もなんてことない、毎日が楽しい日々を過ごせたのかな…)
ルークは天井を仰ぎながら、天井にかざした自分の右手のひらを眺める。母も、叔母も、隠居した祖父母も、誰もが自分のこの力には驚かされていた。子は親から特徴を遺伝するといわれるが、彼らには自分が持つこの人間離れした身体能力はない。となると…自分がこの力を得た発端は一人しか思い浮かばない。
(親父…)
そうとしか思えなかった。父方の血が、この異様な力を与えたのだろうか?それに…父が原因なのでは?と思えてならない理由がもう一つある。
先日夢に見た、燃え盛るどこかの街の景色と、そこを舞台に戦う謎の巨人たち。そして最終的に現れた、黒い巨人たち。
(時々夢に見るあの光景も…親父と何か関係があるのか…?)
顔も名前も聞かされず、自分にとって謎のままの存在として認知されている自分の父親。
一体、どんな男だったのだろうか…。
(…いや、どんな男だったとしても、あいつは…)
そのときのルークは拳を握り、表情と悔しさと怒りを滲ませた。
なぜあいつはこの家にいない?どうして誰もあいつのことを語ろうとしてくれない?
…そうだ、きっと叔母がそういっていたように、そうとしか思えない。
すると、コツコツと扉をノックする音が聞こえてきた。
「お坊ちゃま?よろしいですか?」
「ん?テラか」
入れ、とルークが起き上がって部屋の扉に向けて言う。ガチャ、と扉が開かれ、テラが部屋に入ってきた。
「そろそろお夕飯の準備なので降りてきてくださいませ」
「…」
「坊ちゃま?」
沈黙する主にテラが首を傾げた。どこかからだの具合でも悪いのかと思ったが、ルークが彼女に質問してきた。
「テラ、お前も飽きないよな。俺みたいな奴の面倒を今でも見てくる」
自分でも、ルークは問題が多い奴だという自覚はある。短気で喧嘩っ早く、問題行動を次々と起こしている。年齢を重ねる内に説教もロクに聴きたがらなくなった。そんな奴を何時までも世話する気になれる奴の気が知れない。
「これが私の仕事ですから。それに私、世話を焼くことも好きですから」
「世話好き…ねぇ。それにしたってずいぶんな気がするな」
それを聞いて、ルークは変わった奴だと思う。それに、とテラは新たに付け加えてきた。
「あなたのお母様方とのお約束ですから」
「ふーん…」
「そういえば、お母様が明日にお帰りになられるみたいですよ?」
「お袋が?急だな」
ルークの母は、20年前の戦いで世界を救った英雄の一人として讃えられている。それゆえに各国からその力を頼られ、多忙で家には滅多に帰ってこない。だがいつもなら、戻る予定日よりも1週間ほど間を開けてから戻る。それが、明日とは珍しいケースだった。
「ご用事が済まわれたみたいなので、ご実家でご家族のご様子を見に来る予定だと」
「……」
「お坊ちゃま、お母様がお帰りになるのですから、ちゃんとお出迎えして差し上げてくださいね」
「…めんどくせ」
ルークは露骨に面倒くさそうに頭を掻いてため息を漏らすと、テラがジロッとルークを睨みつけ、弟をしつけるお姉さんのようにぴしゃりといった。
「面倒くさがってはいけません。お母様がご多忙になって以来、ロクにお話も成されていないじゃないですか」
「だからだっての…」
いかに親しい間柄でも、肉親同士であっても、長期に渡って会わない時間が続くと、再会した時に妙に気まずい気持ちになる。ルークも例外ではなかった。だったら会わないように、適当に街に繰り出して時間つぶしと行くべきか。
(明日の学校の帰り…シエスタ叔母さんのところで暇を潰そうかな)
ルークは密かに、悪ガキ臭い企みを抱くのだった。後でこのおせっかい焼きのメイドから説教されるのが目に見えているのだが、それでも嫌なものは嫌だった。
「お父様がお会いになられないのが、残念ですわね」
「……テラ」
ルークの父親の事に触れた途端、ルークがテラに向けて鋭い視線を向けた。
「親父の話はすんじゃねぇ」
「そ、そうでしたわ。もうしわけありません」
機嫌悪そうにルークはテラに言った。暗い闇を抱えながら鋭い視線を向けはしたものの、テラの落ち込んだ表情を見たルークは、しまった言いすぎたと悔いた。なんとか彼女を元気づけようと言葉を試行錯誤する。しかしルークはこういったことが苦手。
「あ、その…えっと…俺はただ、親父の話さえしなければいいってだけで…その…あまり落ち込むなって…」
慰めようとしていたのに全くうまく言えずにいる。テラは、さっきまで禁句を言ってしまって後悔した表情から一点、ルークの照れくさがっている顔を見て、ぷっ!と笑い出してしまった。素直に言いすぎた、ごめんと言えばいいのにそれを言えずにいる彼がおかしく感じたのだ。
「な、何笑ってんだよ!」
「ごめんなさい…だって…ふふ…ふふふ」
「だああああ!!その生温かい目で俺を見て笑うのやめろっての!!胸に穴が開く!!」
赤面して頭をかきむしるルーク。この、まるで幼子を見守るような視線などは照れ屋なルークにとって苦痛でもあった。
こんな空気はいやだ。ルークは無理やり話の話題を切り替えることにした。
「そ、そういえばさ…」
「あら、なんでしょう?」
だからその生暖かい目を向けるのを止めろ!といいたくなったが、それを実際に言うと余計にいじられる予感がしたルークは喉の奥で押し込めた。
「今朝の事なんだけどよ…また、例の夢を見たんだ」
「例の夢…燃える奇妙な街の夢ですか?」
「あぁ…」
火の海となった街と、そこで戦う怪獣と巨人たちの夢の話は、テラには聞かせていた。テラは少なからずルークにとって貴重な相談相手でもあったからだ。
「夢にしてはおかしいって思うだろ。テラ、なんか知らねぇか?」
「…いえ。流石に聞いたことがないですわ」
少し間をおいてからの返答だったが、テラは首を横に振った。
「そっか…悪いな。へんなこと聞いて。
あ、早く食堂に行こうぜ。でないとエレオノール叔母上がうるせぇからな」
優先すべきことを思い出し、ルークは先に下の階へと降りていった。
だが、それを見送ったテラは、憂い顔で下に下りて行く彼の背中を見つめていた。
(ルーク様の『力』が、やはり目覚めかけているのね…)

まだ先のことだと思うけど、奴らはきっと彼を狙ってくるはず。

警戒しなくては…
 
 

 
後書き
○辞典

ルーク・ド・ラ・ヴァリエール
(ICV.梶裕貴)

本作の主人公。
『ウルトラマンゼロ 絆と零の使い魔』のヒロインの一人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの息子。
性格、容姿、髪の色は母譲り。伸ばすと女性に見られることもあるので、髪型は短く刈り上げられている。
服装は黒の学ラン(地球製)。
通常の人間を超えた異常な身体能力を生まれたときから保持しているため、普通の人間らしい生活を送ることができずにいる。力を疎んでいる一方で、その力で悪党を懲らしめるなど、乱暴ではあるが正義感が強い。いまだに古い習慣故に悪事を働く貴族を、同じ貴族として、同じ人間として憤りを覚えている。同時に、自分が疎んでいる力を利用していることについて、矛盾を感じつつも使っている自分に苛立ちも抱いている。
同時に、母は自分を引き取っておきながら多忙なせいで会えない日が多い(それでも母に愛情がある)。その影響もあって、叔母をはじめとした肉親とはあまり仲がよくない。唯一、専属メイドの『テラ』は彼の数少ない理解者。
父が一体何者なのかは不明で、ヴァリエール家内ではタブーとされている。顔も知らない父のこともよく思っておらず、一方で何者なのか気になっている。

正義感の強さと不器用ながらも優しさを持つ一面、自分なりに実家の誇りを強く持っている姿は確かに母譲りな面もあるが、同時に『ある男』の特徴も兼ね備えている…。

 
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