| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

竜から妖精へ………

作者:じーくw
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第14話 初仕事は人探し


「さっ! ゼクト! これが クエスト・ボードだよ! ここに依頼書が張ってるからここでどんな仕事をするか選ぶんだよー」

 レビィは、クエスト・ボードの前に立って、無数に張り付けられた依頼書そう言う。

「へぇ……、沢山あるねー……」 

 ゼクトは、1つ1つの依頼書を見ていた。その内容も同時に。
 ちなみに、説明をしておくが、ゼクトは字の読み書きは問題なく出来る。それには訳があるのだが……、ここは割愛しよう。

「えーと、なになに~……『探し物探してます。形見の指輪……』『盗賊捕縛依頼……』『呪術陣の解放』『術式の解読』……へぇー、種類も多いなぁ」 

 本当にたくさんある。だから全てを体験するのは、正直一長一短では無理だ。初めての仕事だからこそ、それも レビィが自分の為に一緒に来てくれるから。

「わー……、ほんと いっぱいだね……ん~ 何にしようかな……」 

 ゼクトは、なかなか決められない様子で、考え込んだ。
 その姿を見たレビィはゼクトの隣に立ち。

「あはは………。ゼクト、そんなに考え込まないでいいと思うよ?? ほら、気軽に決めちゃったら? でもまあ、流石に、危なさそうな仕事は、受注する時に、マスターがストップかけると思うけどね。ゼクトなら大丈夫~カモだけど、やっぱり 初めての仕事だからさ?」 

 レビィは笑いながらそう言った。
 ゼクトの実力は、殆ど証明されていて、申し分ないとは思えるが、レビィが言う様に初めての仕事。失敗率が高いのも事実だ。だから、初めは 難易度が低い仕事から徐々にならしていくのが、スタンダードだ。
 ゼクトは、それを訊いたが、まだ考えていた。理由は勿論ある。

「ん〜〜でもさ? もうちょっと考えさせて? だってさ……」
「え??」

 ゼクトは、レビィの顔を見て、にこっ と微笑む。

「だってさ、今回の仕事、……レビィとの初めての仕事だからね? 沢山、沢山 考えたいんだ!」 

 ゼクトは微笑みを浮かべたまま答えた。
 全く予期してなかった答えだ。ただ 純粋に初めての仕事だから、ちょっと慎重になっている? 程度にしか考えてなかったレビィ。

 当然………。

「ッッ///」

 顔を真っ赤にさせる。いや、必然だと言えるだろう。狙った訳でも打算的な訳でもないゼクト。これが彼のスタンダードなのだから。

「う〜ん……どれがいいかな……」

 そして 勿論 そんなレビィの事は知らず、ゼクトは再びクエスト・ボードを見て仕事を選んでいた。

 そんなゼクトの背を見ながらレビィは、頬を何度も抑える。

「(も〜〜……// ゼクトってば、いきなりは、やっぱり ずるいよぉ……)」

 レビィは必死に顔を元にもどそうとしていた。ゼクトが仕事を決めて――もう一度自分の顔を見る前までに必死に――。 




「むむむむむむ!!」
「ぐぐぐぐぐぐ!!」

 それはそうと、レビィとゼクトから少し離れたところで、彼らを見ながら唸っているのは、完全武闘派の2人組。勿論 ミラとエルザである。

「はーいっ! ダメだよ2人ともっ! 今回はレビィの勝ちなんだからね♪ 邪魔しちゃダメだからね~♪」

 あははっ! っと、笑いながら2人を抑えているのはリサーナだ。魔力や力、勢いではエルザは勿論、姉のミラも全然敵わないだろう。 だけど、こう言う恋愛的な話題だったら、マスターからも、『マセている』とまで言わせているリサーナ。つまり、1枚も2枚もリサーナが上なのだ。

 結果的にあの2人を抑えられてる事実もある。

「(でもやっぱし、ゼクト、カッコいいな? なかなか言えないよ? ほんと、自然にああいう風に言うからね……。狙ってないだけ威力抜群だよね〜)」

 リサーナは、ゼクトを見て、そう思い描く。同い歳の男の子とは思えなかったけれど、ゼクトだから、と 何故だか納得は出来る様になった。まだ、知り合って1日程しかたっていない、と言うのに。

「(う~ん……、私もやっぱし狙っちゃおうかなっ??)な〜〜んてねっ! あはっ!」

 リサーナはそのまま、ゼクトとレビィの2人を見て、笑っていた。
 そして、正反対なのは、ミラとエルザだ。

「むむむ〜〜〜……、確かに……、リサーナの言う通りだ。配慮に欠けていた、と言われても当然だ。……だから、今日は仕方ないとはいえ…あの2人を見てるとイライラしてしまうから…」
「奇遇だな、私もそうだ……」

 エルザとミラの2人は互いの顔を見た後、妙な笑顔を見せ合い。

「「さっきの続きだ!!!!」」
“ドッタンバッタン!! ドガガガガガ!!”

 2人の猛者は、再び暴れだしたのだった。
 気を紛らす為、だとは思えるが……安直な気がするのも仕方がない。2人にも単純極まりない部分はあるから。

「はぁ……もー、2人とも! ……って言った所で、これはとめられないけどね……」

 喧嘩を始めた2人を見たリサーナは、肩を落とした。こればかりは、止めるのには力不足だから。……年月が幾らたっても、ちょっと難しい、正直無理、と思うのは気のせいじゃない。

「よーし! ならオレがやってやる〜〜〜!!」

 そんな時、ナツが立候補、と言わんばかりにエルザとミラへと飛びかかった。ついさっきまでは、グレイと喧嘩してたのに。


「エルザ〜〜!! ミラ〜〜!! オレが相手d「「邪魔だっっ!!」」がべぇぇぇ!!!」


 参戦しようとしたナツだったが、2人掛のカウンターパンチ! それも、エルザとミラのダブルパンチが炸裂した。
 その拳は、正確にナツの顔面を捉えて、綺麗にめり込んでいる。そのまま、ナツは吹き飛んで、壁に衝突。……そのまま、目を回していた。

「ははは……やっぱり、バカだなアイツ。なんで懲りねーかなぁ?」

 先ほどまでナツと喧嘩をしていた筈のグレイ。
 なんで喧嘩が終わったのかは判らない。……判るのは、グレイは、離れたところで苦笑いしてる事だけだった。 最初の喧嘩はどうなったの……? とツッコミを入れるのは野暮だと言う物だ。基本的に、皆は、別に大した理由も無く、楽しそうに……喧嘩をしているのだから。

「む〜〜……なんだか、うるさくなったね? 折角の初仕事(ゼクトと一緒の!)だっていうのに〜」

 レビィはそうむくれていた。ギルドの中だから、2人きり……とはならないけれど、ちょっとしたデートの予定、そのつもりだったのだろう。それに茶々を入れられている気分になっている。

「あははっ……、朝なのにやっぱり、いつも賑やかだね? いいんじゃないかな? フェアリーテイルだもんっ」

 ゼクトは見渡しながらそう言う。 今も全く分からない。何故……初めからこんなに好きなのかが。そのフェアリーテイル、と言う名前に、なんで聞き覚えがあるのかもわからない。 だけど、判らないけれど、それでも判る事はある。それは、自分の気持ちだった。

「わからなくたって良い……か。今この瞬間だけで十分……だから」   

好きになるのに時間なんか関係ない。昔の事を思い出す事が出来なくても、今が幸せだから。

「ん?? ゼクト、何か言った?」
「いや……なんでもないよ」

 ゼクトは、そう言ってまた 笑顔を作る。
 こんな風に、自然に笑う事が出来る場所――それがフェアリーテイルだ。
 笑顔のまま、ゼクトは仕事選びを再開したそんな時。 服を、くいっ、くいっ、と引っ張られた。

「ん?」

 何だろうか? と振り返って見ると、そこには小さな女の子がいた。昨日の宴の時には見かけなかった子。自分よりももっと小さな子だった。

「あ……あの……」

 何か怖い事でもあったのだろうか?
 その少女は体を震わせていた。

「あっ! ルンちゃん! どうしたの?」

 レビィも少女に気づいて、しゃがみこんだ。

「ええ……っと…そのっ……」

 怖い事、と言うよりは、緊張をしている様に見えた。だから、落ち着かせようと ゼクトもしゃがみ込む。

「どうしたの…? 大丈夫?」

 少しでも落ち着いてもらえる様に、なるべく笑顔で、そして 目線を合わせて話を聞く事にしたゼクト。

 その時だ。

「っ! あっあのっ! お、おねがいっ 助けてっ!!」

 ルンと呼ばれる少女はゼクトに抱きついた。
 その姿を見て、レビィは ただ事ではない、と言う事が直ぐに判った。

 知る限り、ルンと言う少女は いつも笑顔だった。このギルドにも、歳が近いメンバーが集まっているからか、何度も遊びに来ていたんだ。だけど、今はあの笑顔からはかけ離れている。

「わわっ…! ど…どうしたの?」

 ゼクトも突然の事で驚く。

「何が…あったの? ルンちゃん。落ち着いて」

 レビィも、心配そうに ゼクトにしがみ付き、泣いているルンの頭を撫でながら訊いた。 ルンは、ゼクトの胸からそっと体を離すと、レビィの方を見た。涙を流しながら……。

「じゅ、じゅーどが……うぅ………」

 何度も何度も目を擦り、泣きじゃくりながら答えてくれた。

「じゅーど…、ルンちゃんといつも一緒に遊んでる男の子、だよね? どうしたの?」
「う……う……っ わた…わたしがムリ言ったから……か…かえってこなくなって……」

『帰ってこない――』

 その言葉を訊いて、あまり穏やかじゃない、と思うのは無理はない。ルンの様子と合わせると、何処かで迷子になってしまったのだろうか?

 ルンに話を詳しく聞くと。どうやら、友達のジュードがルンの為に花を森まで採りにいくと言って戻ってこなくなったらしい。迷子、と言う部分は間違っていなかった。
 ルンは、別の女の子が髪飾りとして付けていた《花》を欲しがった。でもそれは街には無く、森に採取りにいかないといけないものだった。その子は親に取ってきて貰ったそうだ。

 ジュードは寂しそうにしているルンを見て、励ましながら自分がとってくると言って森へと向かっていったらしい。

 ルンは自分も行くと言って一緒に入っていったのだが……、途中で2人は逸れてしまって、2人共が迷子になってしまったらしい。 運良く、ルンだけは、街へと何とか帰ってこれたのだが、ジュードは、待っていてもずっと帰ってこなかった。

 帰ってこないジュードの事が不安で、不安で仕方がなかった。
 そこで、ルンは マグノリアには、魔導士ギルド《フェアリーテイル》があることを思い出して、助けを求めてここまで来たらしい。

「うっ……うっ……」

 レビィが慰めているが、泣き止む事はなかった。次々と涙が流れ、枯れることない。ジュードの事が心配で、自分のせいで 帰ってこないから。

「………。ねえ? レビィ」

 ゼクトは、慰めているレビィを見て、訊く。

「……えっ、どうしたの?」

 レビィは、顔だけゼクトに向けて聞き返した。

「ほら、ギルドにある依頼書ってさ? その……困ってる人がギルドに出して……それで ここに、張られるんだよね? 助けてください、って」
「え……? うん。そうだよ」

 レビィは頷いた。
 それを訊いたゼクトは、にこりと笑うと。


「よっし! じゃあ、これを初仕事にしようよ!」


 ゼクトは、ルンの頭を撫でながら、宣言した。

「え?」

 レビィは、きょとん……としながらゼクトを見ていた。

「ほら……この子、困ってるよね? なら……、助けてあげないとさ!」

 ゼクトの言葉を訊いて、最初こそ 戸惑っていたレビィだったが、直ぐに笑顔になった。

「う……うんっ! そうだよね! 私達で、助けてあげよう!」

 ゼクトの申し出を快く受けるレビィ。それを訊いたゼクトは、ルンに話しかけた。

「ルン……ちゃんだね?」
「う……うん……。」

 まだルンは泣いていたが……、話を少し訊いていたのだろう。涙でくしゃくしゃの顔をゼクトに向けた。「ジュード君の事は、オレ達に任せといて! 君の友達は必ず助けてあげる。連れて帰ってくる。……約束するから!」 ゼクトは、笑顔でルンの頭を撫でた。
 そう、先ほど自分自身がギルダーツにしてもらったように。自分は安心……出来たような気がしたから。

 ルンは、『連れて帰ってきてあげる』と言う言葉を訊いて、強く反応した。

「ほ……ほんと……?」

 ルンは……必死に涙を拭いながら聞きかえす。

「勿論! 任せて!」

 ゼクトは胸を叩いた。

「ルンちゃん! 私達が必ずつれて帰るから! ほ〜らっ、もう泣かないのっ 可愛い顔が台無しだよ?」

 レビィは、そう言って涙を拭ってあげた。

「う……うんっ……!」

 ルンは、まだ流れる涙を必死拭い……しっかりと返事を返した。

「よっし……! じゃあ初仕事は人探し……だね?」
「うんっ!」

 レビィは頷いた。
 人探しであれば、レビィも自信があった。自信がある、と言うより、強さとかあまり関係ないから、自分でもゼクトと一緒に仕事ができる。と嬉しかった。 

 今回の一件、依頼書は無いけれど、事情をマスターに報告して、承諾してもらい 2人は、マグノリアの外れにある森へと向かって出発したのだった。

 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧