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トスカ

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17部分:第三幕その三


第三幕その三

 次はアンジェロッティの方へ向き直る。すぐに友へ言う。
カヴァラドゥッシ「追手だ、もう時間が無い」
アンジェロッティ「どうやらそうみたいだな」
カヴァラドゥッシ「すぐに井戸を使って逃げてくれ、いいね」 
アンジェロッティ「わかった、それじゃあ」
カヴァラドゥッシ「うん」
 アンジェロッティはカヴァラドゥッシのその言葉に頷きすぐに服を手に取り窓へ向かった。
カヴァラドゥッシ「元気でな」
 カヴァラドゥッシは振り返らずに言う。
アンジェロッティ「ああ、また会おう」
 そう言うと窓から消えた。風が入って来た。風に吹かれた窓は大きく開かれたがその反動で音を立てて閉じられた。
トスカ      「そんな、私のせいで」
 トスカは顔を真っ青にしオロオロとしている。窓と扇をきょろきょろと見、手も身体もガタガタと震えている。
カヴァラドゥッシ「心配する必要は無いよ」
 そんなトスカを慰めて言う。
カヴァラドゥッシ「君は悪くない」
トスカ      「けど・・・・・・」 
 恋人の暖かい言葉にも震えている。
 ここで扉が開かれる音がする。廊下をドスドスと大勢の者が大股で歩く音がする。そしてその音は次第に扉へと近付いて来る。
カヴァラドゥッシ「(震えるトスカを抱いて窓の方を見て)来たか」
 扉が開かれてそこから警官達が一斉に入って来る。蝋燭の炎に照らされた黒い制服を見ただけでトスカは気を失いそうに顔を青くさせる。
 警官達はトスカとカヴァラドゥッシを取り囲む様に部屋中に散る。トスカはカヴァラドゥッシの左腕にしがみつき必死に意識を保とうとしている。また廊下を歩く音が近付いて来た。そして岩山の様な男が部屋に入って来る。
スカルピア   「こんばんは、子爵」
 スカルピアだ。アッタヴァンティ侯爵を伴っている。後にスポレッタとコロメッティ、そしてスキャルオーネを引き連れている。蝋燭の炎がその顔を下から不気味に照らし出している。 
カヴァラドゥッシ「こんな夜中に何の用だ?」
 カヴァラドゥッシがスカルピアに問う。冷静かつ毅然とした態度を崩さない。
スカルピア   「失礼」
 ここで一旦恭しく一礼してみせる。
スカルピア   「実は子爵にお聞きしたい事がある方がおられまして」
カヴァラドゥッシ「誰だい?」
スカルピア   「こちらの方です」
 そう言って侯爵を手で指し示してくる。侯爵は戸惑った様子のままである。
カヴァラドゥッシ「あ、これは侯爵」
侯爵       「どうも、子爵」
 二人は礼をし合ってからまた話をする。
カヴァラドゥッシ「この様なところにまでおいで下さるとは。一体どの様なご用件でしょうか?」
 カヴァラドゥッシは堂々としているが侯爵はオドオドとしたままである。。するとスカルピアがまた出て来る。
スカルピア   「実は侯爵がこちらに奥方がおられるのではないかと仰いましたので」
カヴァラドゥッシ「そして訪ねて来られたのですか。残念ですがご夫人はこちらにはおられません。疑われるのならここにいるフローリアに聞いて下さい。彼女もそれを確かめにこの家へ来たのですから」
 トスカもその言葉に頷く。
トスカ      「はい、間違いありません」
侯爵      「(二人の言葉を聞いてスカルピアに顔を向けて言う」でしょう?先程から申し上げているように私はカヴァラドゥッシ子爵を若い頃より存じ上げているのです。この方はそんなことをする筈が無いと申し上げているではないですか」
スカルピア  「ですが子爵」
カヴァラドゥッシ「はい」
スカルピア  「貴方が仕事をしておられる教会に侯爵夫人の扇が落ちていました。これは何故ですかな」
カヴァラドゥッシ「あの方は何回か教会に来ておられました。その時に落としたのでしょう」
 平然とそう述べる。
カヴァラドゥッシ「あの方が教会に来られていたという証拠は私が今あの教会で描いているマグダラのマリアの絵です。僭越ながらモデルに使わせて頂きました」
侯爵      「そうですよね、ほら」
 スカルピアの方に顔を向けて言う。
侯爵      「そうじゃないですか。この方はそのような方ではありません」
スカルピア   「成程。しかしですね」
侯爵      「しかし?」
スカルピア   「子爵、貴方があの教会で仕事をしておられる教会に侯爵夫人の扇が落ちていたのですよ。これは一体どういうことでしょうか」
カヴァラドゥッシ「あの方は何回か教会に来られていたのでその時に落としたのでしょう。あの方がコラレタという証拠もちゃんとありますよ」
スカルピア   「それは一体?」
カヴァラドゥッシ「あのマグダラのマリアの絵です。モデルに使わせて頂きました」
スカルピア   「ふむ、そういうことですか」
侯爵      「ほら、これで話の辻褄が合うではありませんか」
カヴァラドゥッシ「それでも侯爵夫人がここにいると疑われるならば」
 自信に満ち、挑発すらして言う。
カヴァラドゥッシ「好きなだけ探して頂いてもいいですが」
スカルピア   「宜しいのですね」
カヴァラドゥッシ「ええ、どうぞ」
スカルピア   「わかりました。それでは」
 彼は後ろに控えるスポレッタとコロメッティに目配せをする。数人の警官がそれに続いて捜査をはじめる。忽ち屋敷の中が再び騒がしくなる。
 侯爵がその中で言う。
侯爵      「私はもう用がないようですが」
スカルピア   「そうですな。それではお帰りになって下さって結構です」
侯爵      「(スカルピアのその言葉に胸を撫で下ろし)それでは」
スカルピア   「はい。奥様も御自宅でお帰りになっておられるでしょう。それに」
侯爵      「それに?」
スカルピア   「(カヴァラドゥッシの方を見て)奥様がここへ御自身の兄君をわざわざ連れてくるとはあまり思えませんしね。そうですな」
侯爵      「妻の兄がここに!?総監、幾ら何でもそれは」
スカルピア   「(目を笑わせない笑みで)ははは、これは冗談ですのね」
侯爵      「彼とは出来る限り早いうちに縁を切りたいと考えているのです。何かある度に身の回りを探られるのはもう沢山ですから」
スカルピア   「御気持ちは察します。それでは今はこれで、ですな」
侯爵      「はい、これで」
スカルピア   「わかりました。スキャルオーネ」 
 側にいるスキャルオーネに声をかける。
 
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