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トスカ

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18部分:第三幕その四


第三幕その四

スキャルオーネ「はい」
スカルピア   「侯爵を御自宅まで御送りするように。いいな」
スキャルオーネ「わかりました」
 侯爵はスキャルオーネに連れられて退場する。彼等と入れ替わりにスポレッタとコロメッティが戻ってきてスカルピアの前で敬礼する。
スカルピア   「それで何かあったか?」
二人      「(首を横に振って)いえ、何も」
スカルピア   「誰もいないか」
二人      「怪しい者は誰も」
スカルピア   「本当に何もなくて誰もいないのか」
カヴァラドゥッシ「だから言っているではありませんか」
 得意げな顔で言う。
カヴァラドゥッシ「何もないのだと。これでおわかりになられたでしょう」
スカルピア   「いえ、子爵」
 しかしスカルピアはまだ諦めてはいない。それでカヴァラドゥッシに顔を向ける。
スカルピア   「少し御聞きしたいことができまして」
カヴァラドゥッシ「何でしょうか?」
スカルピア   「貴方御自身についてです」
カヴァラドゥッシ「証拠は何もなかったというのに」
スカルピア   「(剣呑な声で)貴方の服といい靴といいお髭といい。実によく似合っていますな」
カヴァラドゥッシ「それはどうも」
 シニカルな笑みで礼を返す。
カヴァラドゥッシ「外見で褒めてくれる方はあまりいないので光栄です」
スカルピア   「確か今アルプスを越えてきてマレンゴで死んだ蛙達もそんな格好でしたな」
カヴァラドゥッシ「奇遇ですね、それは」
 あえてとぼけてみせる。
カヴァラドゥッシ「その蛙達と私が何か関係が?」
スカルピア   「御存知ないですか」
カヴァラドゥッシ「ええ、何も」
スカルピア   「わかりました。それでですね」
カヴァラドゥッシ「はい」
スカルピア   「今日囚人が一人サン=タンジェロ城から脱獄しまして」
カヴァラドゥッシ「そんなことがあったのですか」
スカルピア   「御存知なかったですか?大砲も鳴らしましたが」
カヴァラドゥッシ「絵の方に熱中していまして。それは」
スカルピア   「御存知ないと。ではいいでしょう」
 ここでカヴァラドゥッシを鋭い目で見やる。それからまた言う。
スカルピア   「その囚人はアンジェロッティ侯爵でして。その先程の侯爵様の奥様のお兄様にあたられる方です」
カヴァラドゥッシ「それは存じていますが彼が何か?」
スカルピア   「貴方ちは幼い頃からのお知り合いでしたね」
カヴァラドゥッシ「そうでしたでしょうか。何しろ私の友人は実に多くて」
スカルピア   「何処にいるかはわからないと」
カヴァラドゥッシ「友人が全員常に何処にいるかを把握するのこそ貴方達の役目の筈ですが?違うでしょうか」
 シニカルにそう問うてくる。
カヴァラドゥッシ「如何でしょうか」
スカルピア   「おっと、それは違いますな」
 これには公僕を装って言い返す。
スカルピア   「私は陛下の為、ローマの市民の為に働いているだけです。常に誰かを監視しているわけではありませんぞ」
カヴァラドゥッシ「左様ですか」
スカルピア   「そうです、それは誤解なきよう」
カヴァラドゥッシ「ではあえて言わせて頂きましょう。私の友人には悪意を以って物真似をするような者は誰もいません。志ある者はいますが」
スカルピア   「失礼、それは訂正させて頂きます。言葉が過ぎました」
カヴァラドゥッシ「はい」
スカルピア   「ではあらためて御聞きします。囚人が一人サン=タンジェロ城から脱獄しましたが。それについては御存知ないと」
カヴァラドゥッシ「(平然として)はい」
スカルピア   「貴方が匿ってはいませんね」
カヴァラドゥッシ「(とぼけて)まさか」
スカルピア   「この別邸で匿ってはおられませんか」
カヴァラドゥッシ「どうか捜査して欲しいとは先程申し上げてそうしてもらっていますが」
スカルピア   「では御存知ないと」
カヴァラドゥッシ「その通りです」
 きっぱりとして言う。
 
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