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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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第百二七幕 「少女が見た流れ星」

 
前書き
定期更新です。 

 
 
 装甲損傷率、43%。
 アクチュエータ効率、66%に低下。
 バリア出力装置に異常、出力低下中。
 緊急修復が必要な箇所、7か所。
 スラスターに亀裂、4つのスラスタへのエネルギー供給を切断。
 推力70%、戦闘レベル11の機動維持不可能。レベル9に低下。

 次々に視界に投影されるネガティブステータスをどこか遠い世界の事のように見つめたアニマス40は、考えていた。
 自身に命中したのが宇宙塵であることは、理解できた。
 その位置に誘導されていたという事にも気付いた。
 そして事ここに到って、アニマス40はやっと理解する。

(現在のアニマス40に集積されているデータでは、セシリア・オルコットの行動を予測しきれない……システムが追い付いていない!!)

 自分のシステムが人間に通用しないというのが理解できなかったが、例えばアニマスシリーズでもファーストナンバーと自分では搭載したシステムの完成度が違う。そのように考えれば、地球人だと思って下等に見ていたセシリア・オルコットを見る目が変化する。

(C級危険人物は伊達ではなかったということか……!地球に存在する、我々を邪魔する数多の因子!!)

 このうねるような激情を、人間の言葉では怒りや悔恨と呼ぶのだろう。推力が大きく低下した現状のアニマス40はクイーン・メアリ号に対する確実な優位性を失い、任務達成が困難になっていた。武装こそ生きているが、命中させられないのであれば意味はない。

『上位権限による外部コマンド入力を確認……コードATA、カウントダウン――最新型として投入されたというのに、何たる無様か……』

 コードATA――灰を灰に帰する劫火。それは、相手に一切の情報を与えないための自壊機能であり、有事の際には敵を滅するための爆弾ともなる最後の手段。それが外部から入力されたという事は、アニマス40を用いた一連の作戦の成功確率が絶望的になったこと……つまり、役立たずとして切り捨てられたことを意味する。

 もう、何も出来ることはないのだろうか。

 いや――。

『全エネルギーをスラスターに集中……!!フルブーストッ!!』

 一つだけ、やることがあったか。

『セシリア・オルコット………貴様は危険な存在だ。我らが創造主は捕獲を望んだが、貴様は創造主の予想を上回った。主でも予想できない不確定分子なら、再び我らの障害となる前にここで消滅させるッ!!』

 この女は、創造主の理想に不可欠な存在ではない。ならば、命令にはなくとも今後の我らの活動の障害となるリスクは、放置することのメリットを大きく上回る。『そのように自分が思考できるのならば、それもまた主の意志に沿ったものに違いない』。

 機体が限界負荷を突破して加速し、フレームがミシミシと異音を挙げる。網膜に投射されたコンディションが次々に黄色(きけん)赤色(はそん)に塗り潰される中で、しかしアニマス40は躊躇わない。
 何故ならこれが、自分が世界に残す最後の存在意義だから――!!

 セシリア・オルコットがこちらの異変に気付いたが、もう遅い。戦闘続行可能範囲という一種のリミッターを捨てたアニマス40の身体は、瞬時加速の速度さえ上回る超速度の弾丸となって宇宙を貫く。

「まだやるっ!?………違う、これは自分を殺すもの!?」
『貴様らのISがどれほど優秀であろうと――コードATAの衝撃ならば内部の人体は無事ではすまん!灰の代わりに挽肉になってしまえぇぇーーーッ!!』
「そんな……自分を捨てて戦うなど、馬鹿なことはお止しなさいッ!!」

 セシリアにはもちろん、相手を殺す気など毛頭ない。態々捕獲する気もない。アニマス40が退くのならばそれでよかった。しかし、任務に囚われたアニマス40は自らその逃げ場を潰し、進む。それがセシリアとアニマス40の決定的な違い――自分に尽くすか、他人に尽くすかの違い。

 突撃が終了して海賊旗(マスト)を下したクイーン・メアリ号に、アニマス40は特攻した。




 ――そうは問屋がオロシャのイワン♪その子におイタはダメダメよっ!




 その時、一筋の閃光が煌めき、アニマス40の左舷メインスラスターノズルを融解させた。

「なっ――」
『あっ――』

 ――アタリっ!

 限界を超えた速度で突撃したアニマス40の進路が右にずれる。バーニアやAMBACのよる修正も間に合わない。そしてセシリアの向こう側にあるのは、地球と宇宙を隔てる「大気圏」のみ。
 セシリアは咄嗟にレバーを操作してメアリ号下部に搭載された作業用アームを伸ばして彼女を受け止めようとした。彼女が自爆しようとしていることを知っていても、彼女の最後の想いから逃げることは考えていなかった。

 しかし、アームが展開される速度は到底アニマス40の移動――いや、落下速度に間に合うものではなかった。


 アニマス40はそのまま大気圏へと突入し――やがて、見えなくなった。

 あれほどの破損を受けた上に自爆装置を作動させたまま、何の用意もない大気圏突入。

 それが意味するのは――死、あるのみ。

「………………」
『………助かった、みたいだな。お嬢様。こっちからは何があったのか把握できないが、とにかく地球に戻ってくれ。上からの命令で、『宇宙にテロリストがいる現状での宇宙ステーション設置は危険要素が多すぎる』ってことになったらしい。こりゃ連合王国どころか世界規模の大事件になりそうだぜ………』
『それにしても最後の光は何だったんですかね?誰かの援護射撃?でも、そうならもっと早い段階で援護があった筈。なーんか不気味ですねぇ、お姉さま…………お姉さま?』
「………………彼女は」
『え?』
「彼女は、死んでしまったのでしょうか。私のせいで」

 どこか呆然としたように、セシリアは地球を見つめ続ける。
 あちらから仕掛けてきたとはいえ、セシリアは確かに彼女の生の感情を感じた。ぶつかり合って、競り合って、ひたすら目的の為に邁進する彼女の意志を感じた。その意志を摘み取ってしまったのは、果たして自分なのだろうか。

 どこかから飛来したあの閃光のせいだと言うのは簡単だ。だが、そんなありきたりな逃げ道に飛びつくことを自分に許すほどセシリアという女は賢しくなかった。

『彼女?………あのテロリスト、女だったのか?まぁ、アレは自滅みたいなものだろ。お嬢様が悪い訳じゃない……気にするなとは言えないが、割り切れ』
「言葉だけで割りきれるほど、私は大人ではありません……」
『お姉さまはお優しいですね………ですが、つららは敢えて言います』

 通信機越しに、大きく息を吸い込む音が聞こえた。

『あの方が大気圏に突入した時、つららは「あれがお姉さまでなくてよかった」と思いました。お姉さまはそのような、どちらかが消えてしまうような戦いをしていたのです』
「他の命を刈ることで得られる命……理屈は分かります」
『しょうがなかったんです……それに、反応が消えたからって必ず死んだとも限りません。ともかく、今は地上に戻ってこれからの事を考えましょう』

 つららの言葉に、セシリアは頷く他なかった。
 生命体は、多かれ少なかれ他の命を犠牲にして成り立っている。むしろ殺生に優劣をつける人間こそがこの地球では異常なのだろう。だから、セシリアが生き残って『アニマス』が消えるのは、自然の摂理の内に入るのだ。
 分かっている、それは。
 分かっているが――それは重力に縛られた考えだ。

「彼女は、解り合えない存在ではなかった気がする………そんな気が、するのに」

 拳を強く握りしめながら、セシリアは地球を見た。
 あの瞬間に感じた、人の命の重さを考慮しない「殺意のない殺人意識」の在り処を探すことは、出来なかった。




「任務成功~~!!にひひひっ、見てた見てたぁ?今の狙撃!!狙った獲物は例え成層圏を越えたって逃さない!……ね、ね。何か格好良くない?」
『はいはい格好いい格好いい。それは分かったから早く本部に戻りなよ。風邪ひくよ?おフロ沸かして待ってるよ!』
「はぁ~い!あ、それとお風呂は泡風呂を要求しま~っす!!」

 少女は、山頂で構えていた大きなライフルを量子化して仕舞い込み、鼻歌交じりに二歩、三歩と歩いて雪上から跳躍し、やがてその場所から見えなくなった。地面にはまるでビッグフットの足跡のような大きな跡が残り――びゅるり、と吹いた風に乗った雪に埋もれて見えなくなった。

 翌日、グリーンランドの地元紙の隅に「UFO出現か」という記事と共に山の上に立ち上る一筋の光の写真が記載された。あまりにも信憑性の薄い記事に対する反響は小さく、記事の内容は翌日には新聞購読者の記憶から消えて行った。



 = =



 ところ変わって日本――夕暮れが空を染める、とある街の海沿い。

「あれ、流れ星だ!うおー、久しぶりに見た~!!」

 空で光った流れ星を興味津々の鈔果(しょうか)は、ピョンっと飛び跳ねて堤防の高いへりに飛び乗る。学校でメスゴリラだのと呼ばれるのを嫌っている癖に品がないというか、どこまでも行動が伴わないおバカな親友に松乃は呆れた。この調子だと彼女の渾名に「おサルさん」が追加される日も遠くないだろう。

(しょう)ちゃんはしゃぎすぎだよ。ちゃんと足元見てないと落ちちゃうよ?」
「大丈夫大丈夫!体幹には自信あるし!……っとと、せっかくだからお祈りしとこっと!ラクして暮らせますように、イケメンのカレシが出来ますように、ゼーキン減りますように、街の近くにでっかいデパートできますように、えっとそれから……」
「色々望み過ぎだよ……」
「あ、松乃とずっと一緒に過ごせますようにってのも追加しとこ!」

 ナムナムと呟きながら両手をすり合わせる祈り方はいろいろと間違っているし、そもそも流れ星に願いなどという迷信に頼るというのも如何なものかと松乃は思う。それにしても、まだ日の沈みきらない時間にあれほどはっきり流れ星が見えるというのも珍しい話だ。

(宇宙からの落下物か……まさか、ね)

 松乃にある裏の顔――アニマス16としては、連想させられるものがある。今日は確か、アニマスナンバーの最新機であるアニマス40が連合王国のISを捕縛する作戦が決行されるはずだ。これによってアニマスを統率する『上の存在』が制宙権を確保したことを示し、地球への本格的な干渉が開始される。
 彼女は――鈔果はそこまで理解していてこれほど無邪気にはしゃいでいるのだろうか。それとも流石の彼女もそこまでの情報は掴んでいないのか、或いはもっと複雑な誘いをこちらに仕掛けているのか。彼女が裏の人間だと知ってから(※松乃の勝手な勘違いです)ずっと彼女を観察しているが、彼女は全く尻尾を見せない癖に協力はしてくる。

 正体を確かめるまでは多少手の内を明かしても問題ないと思い協力を続けてはいるが、実際の所はどうなのだろう。今の彼女も虎視眈々とこちらの隙を狙っているのか……。一緒に過ごせば過ごすほど、松乃と鈔果の距離は縮まっていく。それは潜入する存在として好ましいことではない筈なのに――。

(一緒にいたい……そう思っているのは、私の疑似人格なの?それとも、私自身が……アニマス16がそれを望んでいるの?)

 松乃とアニマス16の境が曖昧になってゆく。締め付けられるような胸の痛みは消えてくれない。この正体不明の感情を、どうやって処理すればいい――そう考えていた刹那。

「………ん?あれ?あの流れ星、こっちに堕ちてきてね?」
「はい??何言ってんの鈔ちゃん、流れ星っていうのは普通大気圏に突入した時点で燃え尽きるし、突破した隕石なら肉眼で確認できな……」
「いや、でもあれ……」

 鈔果がホラホラと指さした先をよく観察する。


 ――約2mサイズの熱源が、やんごとない速度で接近していた。


「ほ、ほんとにこっち来てるぅぅぅーーーーッ!?!?」

 どうやら自分の身体を保護するためにバリアを展開してるので肉眼で確認できたようだ。しかも、突入角度的に本当にこの堤防の方角に向かっている。あれだけの速度と質量の物質が命中したら――と計算した松乃は、咄嗟に鈔果の手を掴んで引っ張った。

「やばいよ鈔ちゃん!!急いで逃げよう!!」
「えー、でもー……もっと間近で流れ星見てみたいー!」
「何言ってんの鈔ちゃん!!あんなのが近くに墜落したら流れ星を確認する前に私たちの身体がコナゴナになっちゃうよ!!」
「えっマジ?流れ星ってもっと暖かくてファンシーなものだと思ってた……」

 なんとなく肩を落としながらも、鈔果はごく自然な動きで松乃をお姫様抱っこして凄まじい速度で走る。その速度たるや「実は戦闘サイボークなのでは?」と疑うほどの速度だ。ここ最近は自然と鈔果=運動担当という形になっているが、鈔果の身体能力は工作員(※勘違いです)であることを差し引いても常識を逸している。
 これでISでも使おうものならどれほどの……と末恐ろしく思いながらも二人が安全圏に離脱した瞬間、海岸近くの水面に衝突して尚止まらない「流れ星」が轟音を立てて堤防に激突した。

 激突の衝撃で堤防は砕け散り、偶然にも海と住宅街を挟む形で存在した丘を大きく転がって、止まった。

「……………あれ、ちょっとズレてたら誰かの家吹っ飛んでたんじゃね?」
「あ、危なかったね……色々と」
「アタシ、流れ星に願い事するの止めようかな……」
「それは、あれが本当に流れ星だった時だけにしよっか」

 松乃には、あのバリアの色に見覚えがある。あれは確か、アニマスシリーズの防御型が標準的に搭載している防護障壁だ。だとしたら――松乃は走って墜落現場に向かった。鈔果も慌てて「ちょ、待てよー!」と叫び、後から走って来たのに数秒で追い付いて松乃を抱えながら走り出した。………いくら移動速度で上回ってるからといってこんな時まで抱えなくてもいいのだが。

 そして、夜の闇に暗く染まっていく現場には、松乃が予想していた通りの存在が横たわっていた。

「これ……女の子?ちょっと松乃に雰囲気が似てる気がするけど」
「やっぱりこの子……!鈔ちゃん、この子抱えて私のウチに走って!騒ぎで警察が来る前に!!」
「え?い、いいけど……よいしょっと。………あっつぅ!?熱出してるってレベルじゃないくらいあっつぅ!!」



 数分後、轟音と土煙を聞いて何事かと到着した警察が見たのは、抉られた大地と破壊された堤防だった。破壊痕が明らかに通常の器物破損の範囲に収まらなかったため、破壊の原因に関する調査は難航。『目撃者もゼロだったため』原因は分からず仕舞いのままに終わった。
  
 

 
後書き
別シリーズのスパロボネタ入れるのは自分でもどうかなぁと思ったんですが、まぁいいかと思ってATA登場させました。お察しの人もいると思いますが、ATAでDTDな話ですね。
そういえばガンダムシリーズに1話で地球に墜落して海岸で発見された人がいたので、今回のタイトルはそれにちなみました。 
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