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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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番外編 「アストレイルーター」

 
前書き
もう一丁、更新! 

 
 
 人間の主義主張というものは、その殆どが家庭によって形成されるという。
 一般教養は勿論、政治に対する知識や意識も自然と類似し、やがて子は親の認識を模倣した知識で社会に出てゆく。その過程で親以外の他人のパーソナリティに影響されることは当然あるが、やはり根底にあるのは過程で得た知識となる。

 では、その知識は本当に正しい物なのか。
 自分では正しいと固く信じていた認識も、友達との会話の中で否定されることがある。多数派(マジョリティ)少数派(マイノリティ)という極めて曖昧な境を彷徨うことへの葛藤は、時に大きく人を苦しめるものだ。

 そしてそれが間違っていると気付いた時、人はそれまでの常識を一歩越えるかどうかの選択を迫られる。



「……これだ、コードDTD。最新型にだけ搭載された新機能なの。本来は万が一ATAのプロトコルを解析された際や敵にコントロールを奪取されたときに発動する機能で、自発的な熱暴走で入力された命令を強制的に解除する為の物なんだけど……大気圏に突入した時に大気の摩擦熱で不完全にDTDが発動させられて機能不全に陥って、アンダーリンクから外れちゃったみたい。一応システムを復旧させて再登録すれば復帰できるけど、熱暴走で回路が焼き切れてたらウチの設備じゃちょっと………って、鈔ちゃん聞いてる?」
「………聞いてるけど内容が専門的すぎて分かんねー」

 松乃の説明を聞いた鈔果はオーバーヒートしてもうもうと煙を吐いていた。

 そう、彼女は今も昔も底抜けに馬鹿なのだ。必然、馬鹿に難しい話は分からない。
 だから松乃がいくら説明してもパソコンでそれを示すデータを見せても、鈔果は全く意味が分からない。彼女の知能で理解できる最も難しい機械知識は『調子の悪い電化製品を叩くと壊れる』くらいのものである。なお、これは子供の頃に調子の悪くなったレンジを殴った結果粉砕してしまった彼女の経験則が元になっている。
 冷却のために頭に保冷剤を乗せた鈔果の目線は、松乃の部屋の布団に横たわるISスーツのようなものを着た少女へと向く。どこか松乃の面影がある濃緑色の髪の少女は、熱を出しているのか体が熱いのに、微動だにせず眠ったままだ。

「結局、この熱出してる子はなんなの?空から降って来たしギャラクシープリンセス?」
「いい年して夢見過ぎだよ鈔ちゃん……」
「はっ!この子を保護しようとしたってことは松乃もギャラクシープリンセス!?」
「想像力が残念過ぎるよ鈔ちゃん……」

 とはいうものの、二人に関連性があるという部分と宇宙から来たという部分だけ抜き出せば存外合っていない訳でもない。その辺りまでは説明しなくとも察しているだろうと松乃は思っているが、当然ながら鈔果は色々と察していない。最上重工襲撃事件のことも未だに察していないのだから、この鈍さはある意味で天然記念物級である。

「いい、鈔ちゃん?今朝のニュースでやってたでしょ?『初のIS宇宙飛行士、襲撃』って!その襲撃事件の犯人は地球に逃亡したんだよ?そして事件の日に堕ちてきたこの子!これはつまり、この子が事件の犯人だってことなんだよ!?」
「何ぃぃぃッ!?ギャラクシープリンセスじゃなくてギャラクシーテロリストなのか!?………そーは見えねーけど。ほら、結構可愛い顔してるし」
「そう言う問題じゃない……んだけど、鈔ちゃんにとってはそういう問題よね……」

 寝込むアニマス40の頬をぷにぷにと突きながらニヤニヤしている鈔果。完全に人を見た目で判断しているのか、それとも戦いになったら抑え込む自信があるのか。アニマス40の外殻は13歳程度の女性の形状であるため、松乃より数歳幼く見える。中身に関してはまだ生後数か月だが、アニマスに年齢の概念はあまり意味がないため任務に支障はないと思っていたのだが……結果はこれだ。

「しっかし熱が下がんないなー……目も冷めねーし。ホントに病院に連れて行かなくてもいいのか?」
「病院連れて行ったら身元が分からないことバレちゃうじゃん。それにもし昨日の事件がこの子の所為だってバレたら………」
「バレたら………?」

 ごくり、と鈔果は生唾を呑み込む。彼女はなんとなく空気に流されて真面目な顔をしているだけで実は何も考えてない。しかし、事態は割と深刻だった。

「この子、政府に捕まって酷い目に遭わされるかも………!」

 今回の破壊事件に対して既に政府のIS対策班や自衛隊、IS学園などは「IS関連事件の可能性大」と判断して密かに調査員を送りこんでいる。そんな監視下で突然身元不明の『少女』が病院に運び込まれたら、疑われるのは必然だ。
 アニマスシリーズの人間への擬態は一般的な病院では見破れない域に達しているが、流石に大きな組織の息のかかった病院で徹底的に調べられれば看破される可能性はある。まして今の彼女は意識不明かつ機能不全気味。委員会からの圧力でもかかろうものなら本気で解剖でもされかねない。

「絶対他の人にこの子の事言っちゃ駄目だよ、鈔ちゃん。この子の身体の事は私が何とかするから」

 肩を掴んでしっかり言い聞かせると、鈔果は顔を引き攣らせながらコクコクと頷く。馬鹿な彼女なりに本能的な真剣味のようなものを感じ取ったらしい。

 それにしても――と、松乃はアニマス40に視線を移す。


 彼女の存在は、既にアニマスシリーズの№から抹消されている。つまり、人間で言えば「既に死んだ存在」として扱われている。なのに、彼女はここにいる。

 彼女は任務の達成が不可能となったことを確認した「上」によって自爆装置を外部から作動させられた。恐らく彼女自身、そこで自分が消滅することを客観的に確認し、受け入れた筈だ。なのに、どうして彼女は大気圏を突破して、しかも都合よくDTDを発動させた状態で、リンクまで切断したスタンドアローン形態でこの日本に墜落してきたのだろうか。

 この任務失敗の影にはどうやら「地球の別アプローチからの妨害」があったらしい。しかし、それを差し引いても彼女の行動には疑問が残る。作戦内容は松乃も知っていたし成功するだろうと思っていたので、このような結果になったからには余程予想外が起こったのだろう。
 問題は、「上」がその余程の事というものをなかったこととして扱っているという事実だ。恐らく数いるアニマスナンバーの中で唯一、アニマス16たる松乃だけが隠匿という事実を知っている。死んだはずのアニマス40を発見したのが松乃だけだからだ。

 何故、何のために隠匿したのか?

 上位の指示だからと言葉で言ってしまえば簡単な事だ。しかし、上は明らかに重要な情報を隠していることにも違いない。アニマスとしては間違っているが、松乃はこの事に「胸騒ぎ」のようなものを感じずにはいられなかった。何か重要な事を知らされないままに動かされているような、論理付けて説明できない漠然とした疑問を。

 さらにもう一つ。アニマス40が何故日本に堕ちて来たのか――これが分からない。アニマス40が任務に当たった時間の座標、緯度、経度をざっと計算してみたが、どうにもこれが日本に墜落するルートに乗るとは思えないのだ。確率的にはユーラシア大陸の中央辺りが最も可能性が高く、突入角を考えてもここに辿り着くのは狙っても難しい筈だ。
 しかも、アニマス40はDTDの不完全な発動で機能不全が起きていた筈なのに、墜落直前までバリアを展開していた。再起動さえ難しい状況になった体の中でバリアだけが正常に作動するなどと、そんな都合のいいことが起きるだろうか。

 まるで『そう定められていたことであるかのように』彼女がここに辿り着いたのは、何者かが彼女が生き残る事を望んだということなのだろうか。

 考えにふけっていると、鈔果がアニマス40を見て呟いた。

「この子、親はいるのかなぁ……」
「いると思うよ。子供って親がいないと生まれないものね」
「じゃあ、何でこんな所に落っこちて、熱を出しながら一人で寝込むことになっちゃったんだろうなぁ……親ってさ、フツー心配するだろ。宇宙にいるんなら娘の居場所ぐらい直ぐに調べて迎えに来たりできるんじゃねーの?」

 思わず松乃の言葉が詰る。彼女はアニマス40の親に当たる「上」に彼女の生存を報告していない。報告した結果、彼女が再度ATAを入力させられ処分されるかもしれないことを考えた時、松乃はそれを躊躇った。

「……捨てられちゃったのかもね。でないとこんな姿で地球まで落っこちてこないよ」

 鈔果はアニマス40の力ない手を持ち上げ、「あちち」と呟きながらも手を優しく握る。
 人間ではないアニマス40は機能不全で熱量をコントロールできておらず、冷却マットの布団で寝かせてもやっと体の温度が摂氏45度近くに下がっている状態だ。そんな熱い手をわざわざ触った鈔果は、驚くほど真剣な表情をしていた。

「アタシ、馬鹿だからわかんねーけど……本当にこの子が捨てられたんなら、その親ムカつくわ」

 ぎゅっと力強く握られ、アニマス40の顔が微かに動いた。大分安定してきたらしい。とにかく手を付けられるところだけ修理して、彼女が目覚めたら――目覚めたら、松乃はどうするべきなのだろうか。

(鈔ちゃんに任せるっていうのもいいかな……こっちはこっちで偽造戸籍とか名前とかも、準備しとかないと)


 少しずつ、少しずつ、アニマス達は、その道から外れていく。
 「選ばれた道」から、「選んだ道」へと――。




 同刻、海岸線。

「え、この先通行止めなんですか?」
「はい、ちょっと大きな事故が起きててね……悪いけど迂回してください」
「……ま、いいか。急いでる旅でもないし……えっと、北はあっちだから隣町に行くには………」

 「嘗てアニマス16を完全敗北に追い込んだ男」は、スマートフォンで地図を確認しながら松乃の家の前を通り過ぎて行った。互いに互いの存在に気付かないまま、その男は町を後にした。
  
 

 
後書き
次はセシリアの帰還後やベル君、ユウ君、鈴辺りを時系列順にやっていこうかなーと思っています。
アニマス40がこれからどうなるかに関しては、行く末を見守っていてください。 
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