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真田十勇士

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巻ノ十九 尾張その五

「殿、そういえば」
「六郎、どうしたのじゃ」
「我等三河にも行くつもりですが」
「徳川殿の家臣の方にもか」
「はい、一向宗の一揆の時にそちらについて今は離れていますが」
 それで今の時点では徳川家にはいないが、というのだ。
「本多正信殿という方がおられるのですが」
「本多というと本多忠勝殿の縁者か」
「その様です」
「本多忠勝殿は四天王の一人で徳川家の中でも特に武辺の方じゃが」
 一本気な武の者が多い徳川家の中でもだ。
「あの方の縁者か」
「しかし本多殿とは全く気質が違い」
「謀を好まれるか」
「そうした方と聞いています」
「ではその本多殿もか」
「何かあればです」
 その時はというのだ。
「気をつけられた方がいいです」
「徳川家はとかく武が強いが」
 それで知られた家だ、その一本気で武辺の者が多く家康の下で忠義一徹でまとまっている家としてである。
「そうした方もおられるか」
「今は離れておられますが」
「そうなのか」
「ですからそのご御仁に会われた時も」
「注意せねばか」
「本多正信、まさか」
 ここでだ、根津も剣呑な顔になり言った。
「本田正純という者の縁者か」
「縁者も何も父君じゃぞ」
 海野は根津にすぐに答えた。
「その正信殿がな」
「正純殿のじゃな」
「そうじゃ、親子じゃ」
 そうだというのだ。
「お二人はな」
「そうか、やはりな」
「その正純殿がどうしたのじゃ」
「一度会ったがあそこまで暗い目をした人相の悪い者はおらんかった」
 根津は剣呑な顔のまま話す。
「岐阜で飯屋で会いたまたま話をしたがな」
「それで知り合ったか」
「あそこまで嫌なものを感じた者はおらぬ」
「そうなのか」
「あれは碌な者ではあるまい」
 こうも言うのだった。
「間違いなくな」
「何じゃ、親子で碌でもない奴等か」 
 由利は二人の話を聞いてこう言った。
「それは難儀じゃな」
「うむ、だからな」
 それで、とだ。また言った望月だった。
「あの御仁には注意せよ」
「間違いなく天下の害になるな」
 根津は本田正純のことを言った。
「危ういわ」
「左様か」
「天下は色々な御仁がおられるがな」 
 幸村はここまで話を聞いて述べた。
「その中には悪い者もおる」
「ですな、何かと」
「ならず者もいますし」
「そしてそうした者もおる」
「それもまた人の世ですな」
「その三人のことは覚えておこう」
 幸村は真剣そのものの顔で家臣達に返した。
「以心崇伝、本多正信正純親子か」
「天下の奸賊ですな」
「そうした輩もいるのですな、天下には」
「実に厄介なことに」
「願わくば天下に出ぬことを願いますが」
「そうじゃな、天下におるのはよき者だけではない」
 幸村はこのことに無念なものを感じつつ言うのだった、そしてだった。
 そうした話をしつつだった、一行はその村も見て清洲の城下町にも入った。清洲の城下町も栄えており人も店も多かった。
 だがその町並みを見てだ、幸村はこう言った。 
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