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101番目の哿物語

作者:コバトン
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第十三話。魔女の誘惑

えっ、と思った時にはすでに遅く。
キリカの唇が俺の唇______の横、頬にあたる。
頬に当たってしまった。
そう。
俺がほんのちょっと、ほんのちょっと動けば唇に当たってしまう。

「______ふふっ、魔女のキスは……とても熱いんだよ……?」

境山の電話ボックスの中でも言われた言葉がキリカの口から囁かれる。
頬から伝わるキリカの体温を感じてドクドクとヒステリア性の血流が高まる。
それと同時に不思議な事に俺の体中にあった傷が消えていく。

「モンジ君を捕まえ______た♡」

にこやかに笑うキリカだが。
その声にはいつもの余裕が感じられない。
キリカから感じる体温が高いせいだろうか。

「本当ならもう少し物語を集めてから聞こうかなー、なーんて思っていたんだけど……うん、これも運命なのかもね。
ふー、なんだか緊張するねぇ」

キリカは溜息を吐く。
溜息を吐き終えるとキリカはそのおでこを俺の右肩にあてるように、もたれかかってきた。
美少女に寄りかかりられる。
側から見たら美少女を誑かしているような姿だが。
そんな雰囲気にはなれなかった。
何故なら……

「モンジ君……君は本当はだあれ?」

キリカは彼女自身のロアでもある『魔女(ロア喰い)』の魔術を使って俺とキリカを囲むように赤い虫を顕現させていたからだ。

「ちょ、キリカお前……その虫達はなんだ?」

「ふふっ、可愛い可愛い用心棒兼浮気男を断罪する処刑人かなー?」

周りを囲む赤い虫達はキリカが呼びかければ何時でも俺を襲える、そう言うことなんだろう。
というか、浮気男って俺のことか?

「もうっ! 私が熱出して休んでいるのに音央ちゃんや鳴央ちゃん、瑞江ちゃんに詩穂先輩ともイチャイチャしてー、ズルい! 私ももっとモンジ君とイチャイチャしたいのにー」

「それは誤解だよ! 俺は誰ともイチャイチャしてない。俺が今気にしてるのはいつだってキリカ、君だけだ!」

頬を膨らませて怒るキリカの姿も可愛い。
一之江や音央、鳴央ちゃんとはまた違った可愛いさがある。
なんというか妖憐な、怪しい雰囲気の中で醸し出す美しさがある。
それがキリカにまたあう。
まあ、そういった雰囲気がキリカにあうのは当然だけどな。
なんたってキリカは『魔女』だからな。一之江曰く、魔女は信用してはいけない。だから誰かが常にその動向に注意しないといけないと言っているが、俺がキリカを気にかけてるのはそれが理由じゃない。
確かにキリカは……魔女の言葉は信用できない。『魔女の口車』に乗れば痛い目に遭う。それは既に俺自身が身を以て経験していることだ。
だけど……魔女だから、とか。ロアだから……とか。そんなことは俺はどうでもいい。
キリカみたいな可愛い女の子が俺を頼ってくれる。笑いかけてくれる、それだけでいい。
少なくとも、こっち(・・)の俺は。

「むぅ〜、なんか誤魔化された気もするけど、まあいいや。
で、君の本当の名前は遠山金次君であってるのかな?」

「その質問に答える前に聞かせてくれ! キリカはいつから解っていたんだ?
俺が……その……ただの一文字じゃないってことに……」

「『神隠し』を調べに音央ちゃんが通っていた小学校に行った時にね。
ある人が教えてくれたんだよ。君がモンジ君じゃなく、『人間を辞めた人間』、俗にいう……『逸般人』って呼ばれていた人だってことを」

「おい、ちょっと待て! 誰だそんなこと言った奴は‼︎ 違うからな! 俺はれっきとしたただの普通の人間だから⁉︎」

「あはは、モンジ君。そんなこと今叫んでも残念ながらもう遅いよー?
君、既にハーフロアになってるし。『主人公』なんていうロアの世界の肩書きを持ってるからね」

キリカの言葉に俺のハートは撃ち抜かれた。
いい意味ではなく。俺の精神をぶち壊すかのような言葉の矢がグサグサっと突き刺さる。
なんというか、先程までのキリカとの甘い時間の幻から急に現実に戻された感じだ。
ズーンと落ち込んだ俺を慰めるかのように、キリカは自分の頭を俺の右肩に載せたまま、垂れかかってきた。

「そのある人が言っていたけどね、君なら大丈夫だって言ってたよ。だから……私も君を信じるよ」

「信用してるんだな、其奴のこと。其奴は俺の知り合いか?」

「うん。彼は信用できるよ。何故なら、彼の推理は外れたことはないからね。それに君と因縁があるって言っていたよ。私達ロアの間でも彼は有名な存在で、彼は『世界最高の主人公』。『千以上の都市伝説を体験したモノ』に送られる『どんな伝説でも消せない者』の称号『FOAF』をこの世界でただ一人持っている存在で、本名はかなり有名なロアそのものだったけど。
彼と出会った人々は私も含めてこう呼んでいたよ。『教授(プロフェシオン)』とね」

教授(プロフェシオン)⁉︎
その名を忘れるはずがない。
教授(プロフェシオン)
それはかつて俺とアリアが乗り込んだ原子力潜水艦。
伊・Uにいた世界最高の名探偵が名乗っていた名と同じものだ。
……彼奴がこの世界にいやがる⁉︎

「何処だ? シャーロック・ホームズ……彼奴は今、何処にいる⁉︎」

この世界で出会ったが100年目だ!
逮捕してやる!
とベルセ気味のヒステリアモード(レガルメンテ)の俺が意気込んだものの。

「わぁ、落ち着いてモンジ君⁉︎ 今この町にいないし、居場所も知らないよ。
彼は神出鬼没だから。突然現れて、突然消える……『魔女』の私でも追跡は困難なんだよ」

キリカにしがみつかれて動けなかった。
まただ。さっきもそうだったが急に体が動けなくなる。
これは……もしかして?
と、そんな俺の肩に頭を載せていたキリカはゆっくり離れると。
動けない俺のおでこにキリカは自身の右手で触れた。
まるで頭をそっと撫でるかのように。
その瞬間。
リィィィィィィンと不思議な音が鳴り響き。
俺は頭の中から何かを抜き取られるかのような不思議な体験をした。

「……やっぱりね」

キリカは呟くと。ゆっくりと俺の頭から手を離した。
キリカが離れた途端、どっと疲れが出てきた。

(なんだ、今……の?)

昔これと似たような場面見たなー、アニメで。
龍が出る球を探すアニメで、とある惑星の最長老様に頭を触られたら、坊主頭の青年の戦闘力が大幅にUPするとかってやつ。

「どう? 少しは落ち着いたかな?」

「あ、すまん。少し興奮し過ぎたな……で、今何をしたんだ?」

「ちょっと見させて貰ったよ。君と彼の間で何があったのかを。
君がどういった人生を歩んできたのかを」

「……それはおっかないな。魔女ってみんなそんなことができるのか?」

「私は特別な魔女だからね。『ロア喰い』だから人の記憶とか、ロアとかの物語に干渉できるんだよ」

そういえばキリカは人やロアの記憶とかに干渉できるんだよな。すっかり忘れたたけどキリカは……トンデモない能力持ってるな。

「あー、なるほどなー。見られちまったのか……悪いな今まで黙っていて。気持ち悪いだろ? 本当の一文字じゃないのに、彼奴のフリをしてた奴が側にいて」

「ううん。さっきも言ったでしょ? 君は何があっても君のままでいてくれる。だから、そんなこと言わないで! 今の君でも……ううん、今の君だからこそ、私たちは救われたんだよ?
驚いたのは確かだけどね。
まさか彼と君との間でそんな因縁があったなんて思わなかったから……でも、そっか。
ようやく解ったよ。教授(プロフェシオン)が君なら大丈夫だって言った意味が」

「うん? シャーロックの奴、キリカに何か言ったのか?」

「ふふっ、それは秘密だよ? 女の子と紳士との二人だけの秘密♡。
あ、でも安心して? わたしはモンジ君一筋だから♡」

秘密か。秘密なら仕方ない……かな。

「話を戻すけど、私は君に変わってほしくない。今以上に強い力を手に入れてしまったら、君が君じゃなくなってしまうかもしれないから。それは嫌だな、って思う」

キリカは笑みを浮かべててそう告げてきたが。
だが、やはり。熱があるせいか、キリカにはいつもの余裕がない気がする。
だけど……だからこそ、本心からそう思っている、という想いが伝わってくる。

「本当は私や瑞江ちゃんが、君が後悔しないくらい上手くやれていれば良かったのにね。きっと瑞江ちゃんも……そこが悔しいんじゃないかな」

「あいつが?」

「ふふっ、きっと、ね」

いつも無表情で毒付いている一之江。
だが、そんな彼女がラインから俺を庇ったのを思い出し。
胸がぎゅううう、と苦しくなった。

「バカだな、君も彼女も」

だから俺はそんなキリカの手を握り返して言ってやった。

「あんなおっかない目に遭いまくって……呪いの人形に追いかけられたり、蟲に食べられそうになったり、村人に殺されかけたり、神隠しで消えそうになったりしたのに。それでも、俺は俺のままだろ?」

口にしてみると、相変わらず俺は濃い日常を送っているなー。
普通の人が体験できない日々を過ごしてるその事実を渋々受けいれようと溜息を吐くと。

「あ……ふふ、そうだね」

俺と過ごした日常を思い出したのかキリカが笑った。

「そうだろ? それで今さら、どう変わるって言うんだ。それに……そうだなあ。仮に俺が強くなったとして『ヒャッハー』とか言って暴れたとしてもさ」

キリカのその細くて熱い指を握りながら、爪を撫でつつ。

「それこそそんな怖い目に遭わせた四人が『調子に乗るな』って嗜めてくれるに違いないからな。それに俺が俺じゃなくなってもみんななら俺を取り戻そうとするだろ?
なんたって俺の仲間たちはさ……」

「そうだね。みんな一級品の都市伝説だもんね」

「そう。だから、約束するよ。今後何があったって俺は変わらない。いつも通り、ネグラで、バカで時たま女の子を口説いたりするかもしれないけど、だけど何があっても俺は……俺達は俺の物語たちを大事にするさ」

「ふふっ……はぁ……」

俺の言葉が伝わったのか、キリカは安心したように溜息を吐いた。
キリカが吐いた溜息が肩にかかって、その熱さを感じる。

「ごめんなキリカ、無理させて。おかげでなんとかやっていけそうな気になったよ」

「なんとかやっていく為の相談だったの?」

俺をキリカは熱っぽい視線で見上げてくる。
その目は見えていないはずなのに、真っ直ぐ俺の目を捉えていた。

「ってきり、モンジ君は……『蒼の邪眼(ブルーアイズ)』や『境山のターボロリババ』。
……それに、『夜霞の首なしライダー(デュラサード)』の倒し方を聞きに来たんだと思っていたのに。モンジ君自身をさらに強くする方法とか」

「キリカ?」

それはどういう意味だ、と聞こうとしたところで。

「出来るよ。さっきから言ってるでしょ? 強くなったとして、君が変わっちゃうのが怖いだけ、って」

キリカは真っ直ぐに俺を見つめて、そう告げた。

「そして、君は変わらないでいてくれるって約束してくれだ。だったら……君がちゃんと百物語の『主人公』になる方法を教えてもいいかもしれないな、って思うけど……」

キリカの目は熱さのせいか、潤んでいた。
そんな熱い視線で見つめられると、ドキドキしてしまう。

「……キスしてくれたら……教えてあげるって言ったら……どうする?」

キリカがそう囁いた瞬間。
もの凄い勢いで血流が速くなる。

「見えないから。もっとモンジ君を感じたいの」

「それが君が望むことなら、喜んで」

「うん、キスされたら……早く良くなるかもしれないから」

俺はキリカの体を強く抱き締めた。
至近距離でキリカの顔を見つめると。
キリカの瞳はじっ、と俺を捉えていた。
口は本当にすぐそこにある。俺少し姿勢を変えるだけで……出来てしまう。
その唇からちらりと見える、赤い舌が妙に艶かしく感じる。
あのふっくらとした唇と唇を重ねて、あの舌に……。
キリカの全てが欲しい。
そんな情欲が膨らむ。

「……初めてだから……優しくね?」

キリカがして欲しいと言ってきた。
今の俺はヒステリアモード。
それも女を奪うベルセと、自分の女としてキリカを見てしまうレガルメンテの状態だ。
普段のヒステリアモードより悪い意味での積極的な状態だ。
それにキリカみたいな美少女からお願いされたら、断るなんてそんなことはキリカの男として出来ない。
覚悟を決めろ、遠山金次!
据え膳食わぬばなんたら……とも言うじゃないか!
というか、今すぐ俺と変われー! リア充爆破しろー!
そんな俺の中のもう一人の俺。一文字疾風の声が聞こえたような気がして。
俺はキリカを元気にする為ならと、目を閉じて、顔を近づけ。





……本当にいいのか?









……キリカの本当の気持ちなのか?














……『彼女』を傷つけてもいいのか?


何故だか、俺の脳内に。
悲しそうな顔をしたアリアと。




よく知る少女の姿が鮮明に映った。
常に俺の背後を守ってくれる存在で。
無表情で毒舌だが、本当は誰よりも優しく、強い少女。
そんな『彼女』の悲しそうな顔を思い浮かべてしまい……。




















『女性を悲しませて……いいわけあるかあああぁぁぁ‼︎』







ハッと、我に返った俺は。

「キリカ、もしキリカとキスをするなら……俺は君とちゃんとした恋人関係になってからしたい」

ギリギリの状態で理性を保って。
そして、キリカのそのおでこにキスをした。

「わっ」

「だから、ごめんよ……」

「モンジ君ってばっ!」

「ん?」

いきなり元気になったキリカの声に俺はきょとんとした顔をしてしまった。

「私を恋人にする可能性もあるんだね!」

「え? あ……」

指摘されて気づいた。
確かに今の発言だとそうなる……のか?

「ひゃー! ビックリした! 体だけの女じゃなくて、そんな大事にされるかもしれないとはー!」

ビックリしたのは俺もだ。

「体だけの女て、お前な」

キリカが俺をどう思っているのか今の返事でよく解ったよ。

「にゃるほどにゃるほど、モンジ君ってばほんっと誘惑に弱いよね! そっかぁ、詩穂先輩以外の子も恋人にするつもりがあったんだぁー。へえー」

キリカは何故だか嬉しそうにニヤニヤしている。
そんなキリカを見ていると、何だか罪悪感が湧いてしまう。
ヒステリアモードだからといって、女の子の唇を奪おうとしたのは事実だからな。
制御出来たのはハッキリいって偶々だ。
一歩間違えばキス以上の行為に及んでいたかもしれない。
女性の大切な唇だ。ノリや勢いだけでしてはいけないよな?

「あ、いや、なんつうか……その」

罪悪感でキリカの顔をまともに見れない。
だけど、自分でした行為だ。責任は取らないといけない。

「誘惑に弱いのは、男の本能だから仕方ないんだよ!
だけど……まあ、その。キリカのおでこにキス出来ただけで俺は嬉しいよ」

「ふふーん、なるほどねぇー。くすくすっ」

キリカはすっかり、さっきまでのしっとりとした雰囲気とはうって変わって。
面白いものを見つけた小悪魔。そんな表現がピッタリな顔をしていた。

「んふふー。もっと誘惑しちゃおうかな?」

今以上の誘惑だと⁉︎
想像しただけでヒステリア性の血流が速くなる。

「うぐっ、か、勘弁してくれ……」

「実は、今、上に下着着けてないんだよ、私」

……………………。

な、なんだって…………⁉︎ 
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