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101番目の哿物語

作者:コバトン
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第十ニ話。魔女との接触

2010年6月19日3時30分。仁藤家前

キリカの家の前に着いた俺はひとまず彼女に着いたことを知らせる為にメールを打つ。
メールのタイトルは「もしもし、私よ。今、貴女の家の前にいるの」でいいや。
しばらく待っていると、キリカから。
「お帰りなさいませ、ご主人様♡ 今お風呂だから、少し待っててね♡」という返事が返ってきた。
流石はキリカだ。まさかこう返してくるとは予想外だ。
やるな。『魔女』。
しばらくしてやってきたキリカに連れられてキリカの部屋に入ると。

「こんな時間にお見舞いにくるなんてね!」

ベッドの上でにこやかに、パジャマ姿のキリカは笑いかけてくれた。
……が、顔は俺の方を向いているものの、視線は関係ない場所に向いていたのを俺は見逃せなかった。

「まだ悪いのか、視力」

「あは、ほんとはモンジ君に会うのは遠慮したかったんだけどね。ぜーったい、心配かけちゃうから」

「そりゃあ、心配するだろ」

いつもならここで、モンジっていうな、というツッコミを入れるが今はそんなことを言う気力もなかった。
いや、例え気力があろうがとてもではないがそんなことを言う気にはなれなかっただろう。
何故なら……。
キリカの目は開いていたが、その目は俺を見ていないからだ。
そう。キリカは先の事件。
神隠し(チェンジリング)』を解決する為に『魔術』を使った代償により。
視覚を、失っているのだ。

「ちゃんと治るのか?」

「そりゃもちろん。もうちょっとかかるけど、ね。正直な話をすると、鳴央ちゃんをこの世界に人として連れて来るのは大変だった、ってことなの。『入れ替わり』で創られた世界に存在する個体をこちらの世界にも存在として固定するには……とか専門的な話になっちゃうしね」

専門的な用語はよく解らんが……大まかに纏めると。
人の世界と神隠しの世界に存在していた音央や鳴央ちゃんを人間の世界に同時に存在させるにはかなりの力を使う必要があって……結果、キリカが支払う『代償』も大きくなった、ということらしい。

「ま、モンジ君の活躍を見られなかったのはちょっと残念かな?」

「残念?」

「だって……モンジ君。瑞江ちゃんがやられてからは君、一人で戦ったんでしょ?」

なんでもお見通しか。

「ああ……」

「そっか。相手は……その感じだと複数人かな?
メールにはお見舞いに行くとしか書いてなかったから心配してたんだけど……心身共にズタボロにされたみたいだね!」

実はキリカにはまだ『蒼の邪眼(ブルーアイズ)』や『ターボ婆さん』、『首なしライダー』のロアに襲われたことは伝えていない。
余計な心配をかけたくなかったというのもあるが、何よりキリカには自分の口で説明したかったからだ。
前世のことも含めていろいろと。

「目が見えないのに解っちゃうのか……やっぱおっかないな『魔女』は」

「目が見えなくてもメールを書いちゃうくらいの魔女だからね」

そういえば。キリカから普通にメールの返信があったが、視覚が奪われてるのに、キリカはどうやってメールを読んで返信までしたんだ?

「ちなみに疑問の答えはあちらです」

まるで俺の心を読んだかのようなタイミングでキリカは指差した。
キリカが示した先にはノートパソコンが置かれていた。

「文字を読み上げてくれるソフトっていうのもあるんだよ」

「ハイテクな魔女だなあ、キリカは」

「今の時代に生きる魔女ならこれくらい出来ないとねっ」

うん? その言い方だと時代と共に魔女も進歩するみたいだな。
あと百年くらい経ったら魔女もロボットとかを使い魔にするのかもしれないな、などと考えていると。

「モンジ君、というわけで目が見えないから、そばに座ってくれる?」

ポンポン、とベッドを叩かれて。
ヒステリア性の血流が高まる中、俺はキリカが腰かけるベッドの隣に座る。

「ふふっ。ごめんね!」

そしてそのまま手を握られた。
ドキドキと脈は速くなり、ヒステリア性の血流は高まる。

「お、脈も速くなったね。つまり私は脈アリかな?」

「ふっ、キリカみたいな可愛い女の子が近くにいるんだ。ドキドキしないわけないだろ?」

「あはっ、相変わらず嬉しいこと言ってくれるよね、モンジ君ってば」

ぎゅぎゅっと、何度も手を握ってくるたびにドキドキして、血流の流れは速くなる。

「なるほど。いっぱいこの手を握り締めたみたいだね。よっぽど悔しかったのに、周りに八つ当たりしないでここに来れたんだ?」

「……八つ当たりするものがなかったからな。氷澄やジーサードの写真やビラとかが街中に貼られていたらナイフでズタズタに切り裂いていたさ……きっと」

「なるほど。なるほど。冷静に見えて内心はかなり怒ってるんだね。特に……自分自身に対して」

「手を握っただけでそこまで見抜くってどうなんだよ」

呆れたように言うとキリカは「『魔女』だからね!」の一言で済ませた。
魔女だから、で済ませていいのだろうか?
だったら人間離れした技をやっちまった後はこれからは俺も『(エネイブル)』だからで済ませようかな?
とそんなことを思っていると。

「で、悔しかったんでしょ?」

ズバッと本題に入られた。

「……まあ、な」

俺はキリカに相手のロアの特徴を全て話した。
蒼の邪眼(ブルーアイズ)』、『ターボ婆さん』、『首なしライダー』の俺が知る限りの情報を全て。

「あいつら、悔しいけどちゃんと『主人公』と『仲間のロア』してたんだよ。技も連携みたいのしていて」

もっとも俺が解ったのは音速を超えたり、見えないワイヤーを張るくらいとかで、技の詳細とかは全く解らなかったけど。

「それが羨ましかった?」

「……ああ。同じ『主人公』なのに、仲間と一緒に戦えてるのが羨ましくて……悔しかった」

前世でも俺は強敵と死闘を繰り広げてきたが、あれだって周りに仲間がいたから戦えたんだ。自分一人だけでは俺は勝てなかった。多くの人に支えられて、あるいは俺が支えて。
俺達『バスカービル』は強敵との死闘に打ち勝ってきた。
そう。俺は多くの仲間と共に戦ってきたんだ。
『仲間を信じ、仲間を助ける』
武偵憲章にもなってる言葉だが、俺は今までたくさんの仲間に支えられて、助けられて、助けて。あるいは信じて、戦ってきた。
それは一文字疾風として過ごす今でも変わらない。
仲間と共に戦いたい。
そう思っているのに。
一緒に戦いたい……そう思っているから。

「だから、何も出来ずに一之江に庇われた自分に腹が立つ」

ヒステリアモードじゃないから、っていう言い訳はもうしたくない。
ヒステリアモードじゃないから。普通のハーフロアだから、だから……一之江を守れない。
そんなことはもう、言いたくねえ!

「俺は自分のロア。『不可能を可能にする男(エネイブル)』の能力に目覚めてるけど、今回は使う間もなかった。『自由自在に能力が使えない主人公』……そんなことをあいつに、氷澄って奴に言われて悔しかったんだ!」

ヒステリアモードになれなければなにもできない自分に。
ヒステリアモードになってもやられそうになった自分に。
そんな自分に腹がたつ!
なにもできない悔しさ。
あんな想いは二度と経験したくないものだ。

「それに、あっちの『主人公』……氷澄やジーサードも特別な力を持っていた。あのまま戦っていても、今の俺のままじゃ勝てないだろうな、って」

「そうだね。彼らは結構この業界じゃ有名な『主人公狩り』だしね」

「主人公……狩り?」

「うん、モンジ君の前の百物語の主人公のうち、何人かが彼らにやられてるみたいだよ?」

「……先輩の仇だったのか」

「殺してはいないみたいだけど。脱落させられていたのは確かだね」

殺してはいない、か。確かに氷澄と呼ばれた男はスカした奴だったが、悪人には見えなかったな。
キンゾー(うちの弟)は相変わらずのヤンキーだったけど。
ラインとのやり取りも何処か……俺と一之江の関係に似ていたし。

「『ターボ婆さん』のロアが、ロリババアになっていたー、ってのも時代の流れかな?」

「そういう需要があるらしいからな」

しかし包帯ゴスロリ少女の見た目で中身婆さんとはこれ如何に?
でも、まあ。相方の氷澄は『邪眼』という如何にも中学二年生が好きそうな属性を持っているから……ある意味お似合いな二人なのかもな。

「それで、どんな風に二人はやっつけられちゃったの?」

キリカの問いかけに、胸が苦しくなる。
あの時の光景が脳内で再生されるからだ。
だけどキリカに伝えないというのは、それこそ意味がなくなってしまう。

「氷澄。あいつが、えーと……『イーヴルアイ』っていう技を使って、その直後に世界が青と黒のモノトーンカラーみたいになって」

「うんうん。『厄災の眼』だね」

「そういえばそんな技名を叫んでいたな。えーと、それからラインが離れた位置から『ライン・ザ・マッハ』っていう技を使ってきて、ズカガガガッて物凄い音が響いてだな……気が付いた時には一之江が俺の前に立っていて……」

「『音速境界(おんそくきょうかい)』。ターボな老人系が持つ割とベタな技だね」

ベタな技なのか?
ま、俺やキンゾーのように生身で音速を超える人間もいるから……ベタなのかもな。

「物凄いスピードで、動くことで、ソニックブームを巻き起こしていろんなものをズタズタに引き裂いちゃう技なの」

「ソニックブーム?」

「空気がぶわっと動いて、すんごい風が起きるみたいなものかな。でも本来ならそれは辺り一面……それこそ氷澄君ごと吹き飛ばしてしまうはずのもの。だけど彼は、『厄災の眼(イーヴルアイ)』でモンジ君と、瑞江ちゃんだけが受けるように呪いをかけた」

呪い?
……そういえば。

音速境界(ライン・ザ・マッハ)!』

厄災の眼(イーヴルアイ)!』

戦いの最中では気にしなかったが。
ラインが技を放つ時に決まって氷澄は『厄災の眼(イーヴルアイ)』を使っていた。
それだけじゃない。

『ほう。二人にかかるはずの厄災を……一人で肩代わりしたというのか』

そんなことを言っていた。
つまり一之江は、俺が受けるはずだったダメージまでもを一人で受けてしまった、というわけか。

「……く、そぅ……」

悔しさが込み上げてくる。
キリカの手間、抑えておきたかったが抑えられない気持ちが言葉として出てしまう。

「今日はいろいろあったんだね、モンジ君。
身体の方も酷い傷だね。ちょっと待ってね」

俺に優しく告げるとキリカは。
そのおでこを右肩に当てるようにして、もたれかかってきた。
まるで慰めてくれるような仕草だったが……。

「……キリカ」

肩がやたらと熱い。

「うん、結構熱もあるんだよね」

キリカをよくよく見ると、汗がうっすらと浮んでいる。

「悪い、こんな状態の時に」

「ううん、モンジ君。私なら大丈夫だよ。モンジ君にこうしてるだけで落ち着くから平気。ごめんね、普通にお話し聞いたり、治してあげられなくて」

その言葉に胸が締め付けられる。
キリカに相談しに来たが。
そのキリカは、まだ人に会えるような状態ではなかったのだ。

「悪いキリカ」

俺はやっぱり自分の力でなんとかしようと思い、立ち上がろうとして……!
ぎゅっ。
その手をキリカにしっかり握られて、動けなくなった。

「キリカ……?」

「弱ってる時に、人恋しくなるのは、私も一緒だよ」

……人恋しい。そう聞くと。
キリカの側にもっといたくなった。

「すまん。俺で良ければ一緒にいてやるからな」

「あは。うん……本当はこうやって、魔女の私にも優しくしてくれるモンジ君がいる、それだけで君には価値があるのにね」

キリカはそう言いながらも、自分の体を動かして俺を間近で見つめるように至近距離に顔を近づけた。

「そんなの……」

そんなのは何にもならない。
ただそこにいるだけじゃ、誰も救えない。
俺にはキリカが言うような価値があるとは思えない。

「瑞江ちゃんにしてもそう。君は相手がどんなにおっかない存在であろうと、いつも通りモンジ君のまま接してくれる。何があっても、君は君のままだから。だから嬉しいんだよ、私たちは。音央ちゃんも鳴央ちゃんもそうじゃないかな?」

キリカの顔が近づいてくる。

「そんなことはない。俺は器用じゃないから器用に態度を変えて接するのが苦手なだけさ」

おでことおでこがぶつかりそうになるくらいまで近寄り。
離れようとしたが……。

「ふふっ、なるほど。なるほど。確かにあっちの君はそうかもね。でも今の君なら違うでしょ?
ねっ、『(エネイブル)』の遠山金次君?」

しっかり握られた手は離れない。
コツン!
キリカのおでこと俺のおでこがぶつかり。
キリカの体温が伝わってきた。
かなり熱いな、と思ったその時。
俺は頭の中が突然痛くなった。
それと同時に、ポケットに入れていたDフォンが赤く、熱く発光している。
ヤバいと思い身体を動かそうとしたが……動けなかった。

「ふふふっ、油断したね。モンジ君」

キリカはそのまま俺に近づき……。 
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