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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターンEX-4 光の結社とアカデミア-??-

 
前書き
グレイドル:新規無し
同期にして天敵(スキドレ使わないと乗っ取れない&そこまでやっても単体のステータスは高くないから乗っ取るうまみもない)のマジェスペクター:新規あり
これどういうことなの……グレイドルは攻守の割り振りのパターンからいって攻撃力2000、守備力0の奴がなんか来ると絶対思ってたのに。そもそもフロッグ、モチーフのカエルなんてグレイドルの方が似合うじゃん。召喚成功時にグレイドルカードサーチできる代わりに戦闘破壊でしか乗っ取りできないグレイドル・フロッグとかさ。いやあ、これだけ驚いたのはファイヤー・ハンドとアイス・ハンドが対のモンスターの癖にステータスは対になってないことを知った時以来です。
前回のあらすじ:ジェムナイト三沢の十代へのリターンマッチ。 

 
 入った時にはあれだけいたメンバーも1人減り、2人減りとどんどん少なくなっていって最終的に隠し扉の奥にたどり着いたのは僕1人。

「いよいよラスボスのお出ましですね、っと」
「いいや、斎王様がわざわざ動くまでもないぜ。少なくともお前相手なら、俺で十分すぎるからな」
「うわ、ユーノ……」

 扉の前で待ち構えていたその男の名前は、ユーノ。僕の……なんだろう。半身?憑依?いまだに立ち位置がよくわからないけど、僕にとってある意味では最も大切な人間だ。チャクチャルさん共々僕の命を救ってくれた、異世界から来た異邦人。
 だけど、これもある程度想定済みだ。少なくとも斎王にたどり着くまでのどこかで出てくるだろうとは思っていた。まさかこんなところにいたとはね。
 前回、本当に一瞬だけ会った時のことを思い出す。あの時は時の魔術師のカードを持っていたから、おそらくそれが洗脳の鍵になっているのだろう。ただ、それだけじゃデッキがまるで読めないのが困る。僕のデッキを僕が持ってる以上、何か新しいデッキを使ってるのは間違いないはずなんだけど。

「ここで迷ってても仕方ないかね。いいよユーノ、斎王の前の前哨戦だ、一丁デュエルと洒落込もう!」
「前哨戦?違うな、これがラストバトルに決まってんだろ!」

 前回は時の魔術師の能力を実体化させて僕の時間を止めるという反則すれすれのチート技をぶちかましてくれたユーノだけど、今回それをする気はないようだ。もっとも今回は僕にも油断はない、もしそんなことをしたらその瞬間ダークシグナーの力を全開にしてでも抵抗しよう。

『うむ。もう前回の轍は踏まない、私に任せてくれマスター』

 チャクチャルさんもやる気十分だ。とはいえ、それはユーノだって承知のはず。前と同じ手を使うような真似はしないだろう。お互いにデュエルディスクを構えて向かい合い、いざデュエルの掛け声を……

「おっと、そいつはさせねえぜ!お前のせいでめんどくせえことになってんだ、落とし前つけてもらうぜ!」

 その瞬間、どこからともなくそんな声がした。そして目の前の空間に割れ目が走り、それをこじ開けるようにして1人の青年が飛び出てくる。彼はユーノの首根っこを引っ掴むと、そのまま煙か幻のように消えさった。本当に一瞬の出来事だったのでその少年の顔もよく見えなかったが、あの顔には見覚えがある。前も同じようにどこからともなくやってきてどこへともなく消えていった、その名は。

「富野……?」

 その言葉には、もう誰も返事をする人はいなかった。





 ここはホワイト寮から離れた地、三幻魔の封印されていた祭壇。その目の前の空間がいきなり歪むと、中から2人の青年が転げ落ちてくる。そのうち1人は近頃珍しくもなくなったホワイトな学生服だが、もう1人はこのデュエルアカデミアではいささか珍しい私服姿である。その2人、ユーノと富野が起き上がり、お互いに相手を睨みつける。
 先に口を開いたのは、ユーノの方だった。怒りを抑えるようにして、むしろ静かなほどの声音でゆっくりと尋ねる。

「なあ富野、今はお前なんぞ相手にしてる暇はないんだが。斎王様が直接動くことになっちまうだろうが」
「アホか。俺もいろんな転生者は見てきたけどよ、完全に別次元から入ってきたパターンのくせに斎王に完っ全に洗脳されましたってのはなかなかないぜ」

 気楽な言葉とは裏腹に、富野の表情は不自然なほど固い。彼だって、自分を倒すほどの腕前を持ったデュエリストがそうあっさりと斎王の洗脳にかかるとは最初から思っていない。これには何か裏がある、そう考えるからこそはるばる次元を越えてこの世界に干渉してきたのだ。だが、いまだに何ひとつ見えてこない。直接会うことで何かしら掴めるかとの淡い希望が潰えたいま、残ったもう1つの手段に頼るべく彼はデュエルディスクを展開する。

「あー?おいおい何の真似だよ、あとで遊んでやるからとっとと失せろっつってんだろ」
「悪いがな、そういう訳にもいかねえんだわこれが。(あそぶ)の奴とお前が手を組んで三幻魔で何がしたいのか、それも突き止めとかないと後々面倒なことになるのは目に見えてるからな。お前だけならまだしも、元転生者狩りもってのが気に食わねえ。これ以上なんかやられる前にここでぶちのめして、全部吐いてもらうぜ」
「………えーい、この屑野郎!時間無えってのによお!」

 どうあってもここを通す気はないらしいと観念し、ならば1分でも早く片付けて斎王のところへ向かおうと気持ちを切り替えるユーノ。斎王から直接受け取ったデッキを同じく斎王から受け取った光の結社特注の白いデュエルディスクに入れ、すぐさま構えた。それを見て、富野がニヤリと笑う。

「わかってくれて嬉しいぜ」
「けっ」

「「デュエル!」」

 先攻を取ったのは、ユーノ。5枚の手札から1枚のカードを選び出し、それをフィールドに置く。

「さあ行くぜ、一撃必殺侍を召喚!」

 デフォルメされた侍装束のモンスターが、手にした薙刀を構える。

 一撃必殺侍 攻1200

「さらにカードを1枚セットして、ターンエンドだ」
「ギャンブルカード……?俺のターン、ドロー!」

 ユーノのデッキから出てくるとは思いもよらなかったモンスターにいささか戸惑いつつも、すぐに気を取り直して自身のモンスターを出す。

「相手フィールドにのみモンスターが存在するならば、このカードはリリースなしで召喚できる!ビッグ・ピース・ゴーレム!」

 岩石に濃い顔が付いたようなモンスターが、地中からゆっくりとせり上がってくる。

 ビッグ・ピース・ゴーレム 攻2100

「バトルだ、一撃必殺侍に攻撃!パワープレッシャー!」
「なめんなよ?永続トラップ、ラッキー・チャンス!を発動!このカードは俺がコイントスをするたびにその裏表を当て、見事ビンゴになったらカードを1枚ドローできる。そして一撃必殺侍はバトルする際にコイントスを行い、当たった場合はその相手モンスターを効果によって破壊するぜ。俺はこの2枚のカード、宣言するのはともに表だ!」
「何!?」

 リスク分散も何もあったものではない、確かに当たった時のリターンこそ大きいものの外れた時のリカバリーが何もない選択。宙にコインが1つ、日光を照り返しながら真上に飛んで行き………そして、ユーノの手の甲にパシリと小気味いい音を立てて落ちる。

「当然表だ。よってラッキー・チャンス!の効果により1枚ドローし、このバトルも一撃必殺侍が制する。切り裂け、必殺の横薙ぎ!」

 侍の目がキュピーンと光り、鎧を着こんでいるとは思えないほどの素早い動きでゴーレムのパンチをかいくぐる。そのまま走り抜けると同時に、がら空きになった足を切り払った。

 ビッグ・ピース・ゴーレム 攻2100(破壊)→一撃必殺侍 攻1200

「さあ、どうするよ?」
「ちっ!カードを2枚セットして、ターン終了だ」

 ユーノ LP4000 手札:4
モンスター:一撃必殺侍(攻)
魔法・罠:ラッキー・チャンス!
 富野 LP4000 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:2(伏せ)

「俺のターン。一気に行くぜ、一撃必殺侍をリリースしてアドバンス召喚、マキシマム・シックス!」

 侍の次に現れたのは、6本腕の紫の巨人。胸にくっきりと描かれた「Ⅺ」のマークが、ギラリと光った。

「こいつは召喚成功時にサイコロを1つ振ることで、その出目×200ポイント攻撃力をアップさせる。いくぜ、怒涛のサイコロ攻撃でダイレクトアタックだ!」

 コイントスに次いで、今度は同じくギャンブルの代表格たるダイスロール。宙を舞うサイコロは地面にぶつかってもまだ勢いを殺しきれずにコロコロと回転し、やがて6の目を上にして静止した。

「当然6。攻撃力3100の一撃を受けてみろ!」

 マキシマム・シックス 攻1900→3100→富野(直接攻撃)
 富野 LP4000→900

「くっそ、卑怯な真似しやがって……」

 ここまで幸運が続けば、いくら洗脳済みでもさすがにそこまで腐ってはいないだろうと楽観的に考えていた富野も考えを改める。要するに、斎王に尻尾を振ることでこの男は絶対外れないギャンブルの力を手に入れたのだ。アルカナフォースを自在に止める斎王の力は、富野もよく知っている。それをそのまま、アルカナ以外のカードに転用したのだろう。

「卑怯?何言ってんだ。斎王様の御力の賜物だぞ」

 しかしユーノは富野の言葉には耳も貸さず、狂信者そのものの目つきで次のカードを選び出す。

「カードを2枚セットして、ターンエンドだ」
「どうやら、デュエリストのプライドも完全に見えなくなっちまったみたいだな……だったらもう遠慮はねえ、俺も本気を出してやるぜ。俺のターン、ドローだ!」

 怒りに燃える富野を、今のユーノは嘲笑う。

「お得意のバイスリゾネーターでもやってくれんのか?で、たかが攻撃力3000ぽっちのドラゴンでどう対応する気なんだ?」
「俺の相棒(レッド・デーモンズ・ドラゴン)を侮辱した罪は重いぜ。だがまずはリビングデッドの呼び声を発動し、ビッグ・ピース・ゴーレムを蘇生させる」

 再び地中から出てくる岩石の巨人。だが、その攻撃力は6本腕の巨人にはまだ敵わない。

 ビッグ・ピース・ゴーレム 攻2100

「さあ来い、レッド・リゾネーター!さらにこのカードは召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる。出て来い、ミッド・ピース・ゴーレム!」

 岩の体に濃い顔と、既に存在するゴーレムに特徴だけ見れば似ていなくもない人型の岩石の戦士が、赤い炎を後に引くリゾネーターの後ろからフィールドに特殊召喚される。

 レッド・リゾネーター 攻600
 ミッド・ピース・ゴーレム 攻1600

「ああ……?」
「ミッド・ピース・ゴーレムは場に出た時ビッグ・ピース・ゴーレムのカードが存在すれば、デッキからさらにこのゴーレムを効果を無効にして特殊召喚できる。出番だ、スモール・ピース・ゴーレム!」

 前2体とはうってかわってコミカルで可愛らしいゴーレムが、短い手足を伸ばして元気よく召喚される。

 スモール・ピース・ゴーレム 攻1100

「はっ、何かと思えばピース・ゴーレムの3連コンボか?」
「まだだ!お前のフィールドに存在する永続トラップ、ラッキー・チャンス!を墓地に送ることで、このカードは特殊召喚できる!チューナーモンスター、トラップ・イーター!」

 ユーノのカードの下から大口が出てきて、ラッキー・チャンス!のカードをぱくりと一口で呑み込む悪魔が現れる。ぺろりと口周りを舐め、膨らんだ腹を小さな腕でポン、と叩いて見せた。

 トラップ・イーター 攻1900

「ダブルシンクロ召喚を見せてやるぜ!レベル4のミッド・ピース・ゴーレムに、レベル4のトラップ・イーターをチューニング!赤き王者が立ち上がる時、熱き鼓動が天地に響く。防御に回る臆病者に、生きる価値など欠片もない!シンクロ召喚!叩き潰せ、レッド・デーモンズ・ドラゴン!そしてレベル5のビッグ・ピース・ゴーレムに、レベル2のレッド・リゾネーターをチューニング!混沌の仮面被りし王者よ、天地を惑わし威光を示せ!シンクロ召喚、誇り高き!デーモン・カオス・キング!」

 トラップ・イーターが4つの輪になり、ミドル・ピース・ゴーレムの全身を取り囲む。瞬間そこに光が走り、満を持して富野の切り札が場に現れた。そしてそれと同時にレット・リゾネーターもまた2つの輪になってビッグ・ピース・ゴーレムを取り囲み、肩と腕に生やした刃から真紅の炎を噴き出す黄色い仮面をかぶった悪魔の姿になる。

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000
 デーモン・カオス・キング 攻2600

「おいおい、なんだかんだ言っといて結局デーモン・カオス・キング頼りかよ」
「これをただのレッド・デーモンズ・ドラゴンと思うなよ?バトルだ、レッド・デーモンズ・ドラゴンでマキシマム・シックスに攻撃………そしてこの攻撃宣言時にトラップカード、スカーレッド・コクーンを発動!」
「そういうことか……!」

 この試合初めて、ユーノの表情が歪む。赤き悪魔の竜が体を丸めたかと思うとその全身が赤く光る繭に包まれ、何度かそれが鼓動したのちに再び繭を突き破って飛び出してくる。

「やっちまえ!灼熱のクリムゾン・ヘルフレア!」
「スカーレッド・コクーンはドラゴン族のシンクロモンスターに装備することで、バトルの間相手の全モンスターの効果を無効にする、か。だったらせめてこれだ、悪魔のサイコロ!サイコロ1つ振って、相手モンスター全ての攻撃力を出た目×100ポイント下げるぜ。そらよっ!」

 デフォルメされた悪魔が真っ赤なサイコロを勢いよく放り投げると、それが地面でコロコロと転がる。最終的に、またも6の目を上にして止まった。

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000→2400
→マキシマム・シックス 攻3100→1900(破壊)
 ユーノ LP4000→3500

「糞が……」
「デーモン・カオス・キング!スモール・ピース・ゴーレム!ダメージが減ってても構わねえ、2体でダイレクトアタックだ!」

 デーモン・カオス・キング 攻2600→2000→ユーノ(直接攻撃)
 ユーノ LP3500→1500
 スモール・ピース・ゴーレム 攻1100→500→ユーノ(直接攻撃)
 ユーノ LP1500→1000

「なんだなんだ、たいしたことないな。お前のことを認めてやるのは癪に障るけどよ、少なくとも昔の方が強かったぜ」

 何かあるかとも思ったが、ただひたすらにダメージを受けるばかりのユーノに対しどこかがっかりしたような声音の富野。まあ楽勝なのはいいことだ、と気を取り直してエンド宣言を行う、その寸前にユーノの声が響いた。

「リバースカードオープン、ダメージ・コンデンサー……!俺が受けた戦闘ダメージをトリガーとして発動し、手札1枚をコストにそのダメージの数値以下のモンスターをデッキから特殊召喚する!今俺が受けたスモール・ピース・ゴーレムの攻撃力は500。よって、このモンスターを特殊召喚!来い、時の魔術師!」

 歪んだ時計に手足が生えたような形の、帽子をかぶった小さな小さな魔法使い。だがその全身は、不気味な光に包まれていた。

 時の魔術師 攻500

「時の魔術師……確かにそのギャンブル構築なら、入ってない方がおかしいか……最後の手札を伏せて、ターン終了だ」

 すでに富野の場に攻撃可能なモンスターは残っておらず、わずか500ポイントの攻撃力に対しても何もすることができない。

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻2400→3000
 デーモン・カオス・キング 攻2000→2600
 スモール・ピース・ゴーレム 攻500→1100

 ユーノ LP500 手札:0
モンスター:時の魔術師(攻)
魔法・罠:なし
 富野 LP900 手札:0
モンスター:レッド・デーモンズ・ドラゴン(攻・コクーン)
      デーモン・カオス・キング(攻)
      スモール・ピース・ゴーレム(攻)
魔法・罠:スカーレッド・コクーン(レッド・デーモンズ)
     リビングデッドの呼び声(対象無し)
     1(伏せ)

「俺のターン、ドロー。このターンで終わらせてやるよ、時の魔術師の効果!コイントスで裏表が当たればお前のフィールドのモンスターを全滅させるぜ。裏だ、やれっ!タイム・ルーレット!」

 どこからともなく表れたルーレット盤の針が回転し、当然のごとく『当』の字のマス目で止まる。

『タイム・マジック!』

 みるみるうちに2体の王者とゴーレムが風化して崩れ去り、風に巻き上げられて消えていく。

「さあバトルだ、さらにここで速攻魔法、天使のサイコロを発動!出た目につき100ポイント、俺のモンスターの攻撃力をアップさせるぜ。これで6を出せば、俺の……」

 しかしその台詞は、最後まで続かなかった。地面からいきなり真紅の火柱が噴き上がり、その中からゆっくりと赤い王者のドラゴンのシルエットが見え始めたのだ。

「バカな、そいつは俺が今倒したはず!」
「確かにな。だが俺は時の魔術師のタイム・マジックが成功した時点でトラップカード、シャドー・インパルスを発動していた。俺のシンクロモンスターが破壊されたのをトリガーとして、エクストラデッキから同じレベルかつ種族のシンクロモンスターを特殊召喚できる」

 心底つまらなそうな、失望したような声音の富野。静かにそういうと同時に、火柱が徐々に収まってゆく。とはいえいまだその全身は炎に包まれているためシルエットしかまだ見えてこないが、翼を広げたその姿は、まるでレッド・デーモンズ・ドラゴンが再び復活したかのようだった。

「待て!シャドー・インパルスは同名モンスターを呼ぶことはできないはずだぜ!」
「……ああ、やっぱり残念だな、これは」
「なに?」
「俺を倒したお前に勝つために、死ぬ気で手に入れた新しい切り札だったんだが。俺とレッド・デーモンズの進化を、まさかこんなつまらん相手に使うことになるなんてな」
「一体、何を呼ぶ気……」

 そう問うユーノの声が途中で止まった。火柱が完全に消えてついにその全貌を露わにしたそのドラゴンは、確かにシルエットだけならば元のレッド・デーモンズ・ドラゴンによく似ていた。だが、その全身はいたるところに古傷を負ったのか、生々しい傷跡のような筋模様だらけになっていて頭の角も1本が途中から無残にもへし折れている。そして何よりも目を引く右腕は肘から先の部分が全体的に骨のようなもので覆われていて、単純に打撃の威力を高めると同時に耐久力を上げる役にも立っているようだ。

「俺の、いや、俺たちの手に入れた新たな力のシンクロモンスター……赤き王者の研磨の果てに、紅蓮の鼓動が天地を焦がす。力持ち得ぬ臆病者に、戦う価値など微塵もない!レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト!」

 レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻3000

「な、このカードは……」
「もうお前にできることはねえよ。スカーレッド・コクーンの効果ももう使わねえ。俺のターン、ドロー………スカーライトは1ターンに1度、コイツ以下の攻撃力を持つ特殊召喚された効果モンスター全てを破壊したうえで1体につき500のダメージを与えることができる。受け取りやがれ、アブソリュート・パワー・フレイム!」

 真っ赤な炎がユーノの視界いっぱいに広がり、ダメージ・コンデンサーの効果で特殊召喚された時の魔術師がドロドロに溶け崩れていく。

 ユーノ LP500→0





「……はーあ、つっまんねーの。んで?とっとと洗いざらい全部吐いてもらおーか」

 地面で伸びているユーノの体を、見かけ以上の怪力を発揮し片腕で首根っこ引っ掴んで無理やり起き上がらせる富野。2、3度ほど揺さぶってみると、ようやく反応があった。

「う……」
「む。おう寝てんじゃねえこの野郎、起きろ起きろ」

 さらに容赦なく揺さぶると、さすがのユーノもどうにか目が覚めたようだ。

「……なんだ、るっせーな。放しやがれ」
「おう。ほらよ」

 宙づりにした状態からいきなり手を放したのだから、必然的にユーノの体は重力の法則に従い地面に叩き付けられる。それでもなんとか最低限の受け身だけは取り、頭の代わりに打ち付けた背中をさすりながら起き上る。

「えー……ちょっと待てよ、えーっと……ああ、色々思い出した。世話かけたな、これは貸しにしておけ」
「んなもんどうだっていい、だから今すぐ答えろ!お前、それに遊は三幻魔をどうしたいんだ?あいつらの力だけじゃ世界はどうにもならんことぐらいはお前らだってわかってるはずだぞ」

 富野の言葉は真実である。彼は転生者狩りであり、それゆえ必然的に世界を揺るがすほどの力を持ったカード、身もふたもない言い方をすれば原作におけるボスカードもあらゆる次元で何度も見てきている。確かに三幻魔はGX世界においてかなりの力を持った世界を揺るがすカードではあるが、原作を知るユーノや元転生者狩りの遊がわざわざ狙おうとするうまみは少ない。どうせ労力をかけるならば、まだ世界に隠されているより見返りの大きいカードがまだまだあるからだ。
 にもかかわらず、この2人は三幻魔に何らかのこだわりを見せている。その理由を知るため、彼はわざわざこの世界に直接問い詰めに来たのだ。
 その質問に対し、しばし何かを思い出そうとするかのように目を閉じて考え込むユーノ。富野がじっと見ていると、みるみるうちにその顔が真っ青になっていった。

「そうだ、こうしちゃいられねえ!急いで再封印しねえと面倒なことになる!」
「はあ?おいおい、俺にわかるように説明……」
「三幻魔の固有能力だよ。思い出せ、影丸理事長はなんで三幻魔を手に入れようとしてた?」
「はぁ?カードの生気を吸い取って……そうか、持ち主に若さと永遠の命!!」

 ようやく何が言いたいのか分かったようで、富野も表情が変わる。なんでこんな簡単なことに気づかなかったのだろう、と自分で自分を呪う。

「ご名算。遊にとって必要なのは、世界を手に入れるほどのスケールを持ったカードじゃねえ。なにしろそれが目的なら、わざわざ封印されたカードに頼らなくてもデュエリストとしての実力と転生者狩りとしての知識だけでおつりがくるレベルだからな。考えてもみろ、確かにこの世界にはヤバいカードが山のように眠ってる。だがな、その中でも『持ってるだけで確実に』不老不死を保証するような代物がいくつあると思う?確かに三幻魔それ自体はそこそこ止まりかもしれねえ。だけど、その副産物が厄介極まりないんだ」
「三幻魔はあくまで目的じゃなくて手段に過ぎない、ってことかよ……!確かに永遠の命なんてものがあれば、いくら俺たちが狩ったとしてもまたどこかの世界で生き返る」
「もっとも、その先どうするかはまだ決めてないらしいがな。俺もついさっきまでは斎王のために三幻魔を集めて持っていこうとしてたから、少なくとも封印の解放までは利害が一致してたってわけだ。胸糞悪い話だけどな。ぐだぐだしてる暇はねえ、行くぜ!」
「けっ、偉っそうに言いやがって、元はといえばてめえも一緒になって撒いた種じゃねえか!」

 ぶつくさ言いながらも、すぐに三幻魔のうち2体が封印された場所にむけて走り出す富野。空間移動は転生者狩りといえどもおいそれとできる技ではない。ついさっき使ってしまった以上、しばらくは自分の足に頼るしかないのだ。
 ユーノも走り出そうとしたが、最後に一度だけ木々の間から見えるデュエルアカデミアホワイト寮に目をやった。おそらくあの中では今清明が斎王と、光の結社との因縁にけりをつけるために戦っているのだろう。

「(俺が言えたことじゃねえのはよーくわかってる。でもよ、必ず勝てよ、清明……!)」

 最後にそれだけ心の中で思い、ユーノもまたそこに背を向けて走り出した。 
 

 
後書き
なんか久々のデュエルはおまけ回。正直なところ書いてる方もちょっと消化不良気味。でも少なくとも遊の目的はここで出せたしスカーライトのお披露目もできたから、後はどう着地させるかのみ。 
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