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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン36 鉄砲水と破滅の光

 
前書き
2期最終回!そう言えば前回散々グレイドル新規無しについてこき下ろしたけど、ちょっと構築いじって出せるようにしたアイガイオンが意外なほど楽しかったから不問に処します。皆も使おうアイガイオン。
前回のあらすじ:本編はひとまず放っといての洗脳ユーノVSスカーレット取得のネオ富野。なおネオニュー富野になる予定は今のところない模様。ぶっちゃけアニメ次第。 

 
 誰ひとりいないドアの前でしばし息をひそめる。10秒、20秒と数えていってついに1分が経ったが、結局ユーノも富野も消えたっきり帰ってこない。なんとなく嫌な予感もする、けど。

「……行くよ、皆。ここまで来たんだ、最終決戦まで一気に終わらせるんだ!」
『ああ。私達は全てマスターの味方だ、最後まで共に行こう』

 チャクチャルさんの声にも励まされ、一度頷いてから思い切ってドアを蹴破る。ダークシグナーの身体強化をフルに使った一撃の衝撃は重そうなドアの金具をねじ切り、蹴り開けるだけのつもりがドアがまるっときれいに吹き飛ばしてしまった。そしてそのまま勢いを減じずに向かい側の壁にぶつかるまで飛んでゆき、派手な破壊音を立てる。

「あーあ……やっちゃった」
「随分と乱暴な真似をしてくれたものだ。ここにやってくるのは最初からわかっていたが、ユーノがこんなに早く道を通すのはさすがの私も予想外だった。もう少しは粘ってくれると思ったんだがね。まあいい、最低限の時間稼ぎにはなった」

 部屋に響く一見静かな、だけど紙一重の狂気を含ませた声。ついに会えた斎王は、最後に童実野町で見たときとはまるで別人のような態度だった。だけどその時、僕が注目していたのは本性を出した斎王じゃない。その隣、ぐったりしたように椅子に腰かける青年だった。後ろ姿しか見えないが、あの銀髪とスーツは見間違えようがない。

「エド!」

 僕の声にも、しかしエドは答えない。よくよく見ると、座り込んでいるにしては姿勢がおかしい。どうやら、気絶した状態で椅子に腰かけさせられているようだ。

「斎王!お前一体、エドに何を?」
「別に、まだ何も。今は少々眠ってもらっているだけさ。もっとも、お前に彼のことを心配するほど余裕があるのかね?」
「くっ……まあいいさ、斎王、デュエルだ!光の結社とデュエルアカデミアの因縁、ここでまとめて決着つけようじゃないの!」

 ビッと指さして啖呵を切ると、斎王は返事の代わりに口の端を歪めて笑った。

「くだらん。私の力は以前とは比べ物にならないほど高まっている、デュエルを介さずとも人間1人に光の波動を送り込むことぐらい造作もないわ!」

 そう叫び、右手を僕に向けてかざす。その掌が発光したかと思うとみるみるうちに僕の視界全体が白く染まり………そして、また元に戻った。再び色の蘇った世界を見て自分に何も変化がないことを確認すると、斎王も驚きを隠せない表情でこちらを見ていた。

「馬鹿な。運命を受け付けない、だと?」

 しかしその驚きもつかの間、またすぐに狂ったような笑いを取り戻す。

「ははははは!どんな小細工をしたかはわからんが清明よ、エドにすら負けたお前がこの私にデュエルを挑むか。いいだろう、我が運命は不敗!そのことを身をもって知らしめてやろう!そして我が勝利の暁には、お前の小細工も通用しないほどの光の波動を植え付けてやる」

 一体、何が今起きたんだろう。するとそのタイミングで、これまで黙りこくっていたチャクチャルさんがまたテレパシーを送ってきた。

『……ふむ』
「(ん、どったの?)」
『いやマスター、少し聞いてほしい。これまではあの光の波動とやらが邪魔ではっきりわからなかったが、ここにきてようやく確信が持てた。今我々の目の前にいるモノ、どうやら本来の斎王とは別の何かのようだ』
「(別の何か?)」
『ああ、本来の人格は完全に力負けして表に出てこれていないようだな。なかなか興味深いが、5000年前の私の仲間にも似たような術を使う奴がいた。恐らくそれと同じ処置で引きはがせるはずだから、マスターは全力であ奴を倒してくれ。そうすればマスターの中のダークシグナー、つまりは私の闇の力でどうにでもなる』

 なるほど。難しいことは考えなくていいから、目の前のデュエルに勝てと。なんだ、結局はいつも通りじゃないの。それに、この世のあらゆる難しい話は最初っから僕には専門外だしね。改めて斎王とその中の何かを見て、デュエルディスクを構える。

「ようやくその気になった?それじゃあ、デュエルと洒落込もうじゃない!」
「レーザー衛星『ソーラ』はすでに動き始めている。そしてこの世界を、宇宙を光に染め上げる。たとえ道筋こそ変わろうと、この最終結果は既に確定した未来だ。なんならお前を倒し我々の仲間にした以降、そのまま遊城十代にけしかけるのもまた一興か」

 さらりと物騒なことを言った後、自分のアイデアに酔ったかのような顔で斎王もまたデュエルディスクを構える。

「「デュエル!」」

 命どころか魂までかかったこの勝負、先攻は僕だ。しかし、この運命運命ぎゃーぎゃー喚かれるのはいい加減飽き飽きしてきた。そんなこと言ったら、本来死んでなきゃおかしいはずの僕が今こうやって仮にも生きてるのはどう説明つけるんだろう。前にチャクチャルさんに聞いてみたことがあるけど、ダークシグナーとしての復活はこの世の理を超越した行為らしい。つまり、僕の運命は入学テストの日、あの事故で本来とぎれているのだそうだ。

「悪いけど、運命なんてもんは1年以上前にぶち破れることが分かったんでね。鰤っ子姫(ブリンセス)を召喚して、そのままゲームから除外。デッキからレベル4以下の魚族、ハンマー・シャークを特殊召喚して、その効果を発動!自分のレベルを1下げて、手札からレベル3以下の水属性モンスターを特殊召喚する。来て、フィッシュボーグ-アーチャー!」

 ハンマー・シャーク 攻1700 ☆4→3
 フィッシュボーグ-アーチャー 守300

 いつもの布陣を敷けたから、とりあえず立ち上がりは良好とみるべきだろう。次は、斎王がどう動くかだ。

「そして永続魔法、補給部隊を発動。カードをセットして、ターンエンド」
「私のターン。フィールド魔法、光の結界を発動!」
「光の……結界?」

 僕ら2人の周りを、うっすらと光る透明な壁が取り囲む。なんだかわからないけど、この中にいると本能的に嫌な気分になってくる。

「出でよ、戦車のアルカナ……アルカナフォースVII(セブン)THE CHARIOT(ザ・チャリオット)!」

 気味の悪い触手を生やした2段重ねの空飛ぶ円盤のようなモンスターが、こちらに向けて砲塔を向ける。

「アルカナフォースは全て、召喚時にその正位置と逆位置を決めることによって能力が変わる。さあ、回転を止めるのはお前だ!……と言いたいところだが、あいにく運命を選択する自由すらお前に与えられてはいない。光の結界の効果が適用中、私のアルカナは全て任意で効果を選ぶことができる。私が選ぶのは、正位置だ!」

 そう言うと同時に、斎王の頭上でソリッドビジョンのチャリオットのカードが回転を始める。だがその回転は次第にゆっくりになっていき、やがてきちんと上を上に、下を下に下向きで止まった。

「戦車の正位置。よってこのモンスターが相手を戦闘破壊した時、そのモンスターを私のフィールドに特殊召喚することが可能となる!ゆけ、チャリオット!フィーラー・キャノン!」

 こちらを向いた砲台から一斉に白いビームが発射され、アーチャーが焼き尽くされる。

 アルカナフォースVII-THE CHARIOT 攻1700
→フィッシュボーグ-アーチャー 守300(破壊)

「そして、お前のモンスターは私の場に現れる。雑魚モンスターだが、まあ壁ぐらいにはなるだろう。そして光の結界適用中にモンスターを戦闘破壊したことで、その攻撃力の数値分私のライフが回復する」

 フィッシュボーグ-アーチャー 守300
 斎王 LP4000→4300

「アーチャー!……だけど、この瞬間に補給部隊の効果発動!僕のフィールドでモンスターが破壊されたから、カードを1枚ドロー!」

 思わず呼びかけるも、水槽の中にいるいまだになんだかよくわからない2体の生物からは何の反応もない。いつもはアーチャーの精霊が僕に懐いてくれてるから、呼んだら必ず近寄ってくれたのに。カードを引くことはできたけど、チャリオット、厄介な能力だ。早いうちに対処しなくちゃ。

「カードを伏せ、私はこれでターンエンドしよう。聞こえてくるぞ、お前の敗北への足音が」

 清明 LP4000 手札:2
モンスター:ハンマー・シャーク(攻)
魔法・罠:補給部隊
     1(伏せ)
 斎王 LP4300 手札:4
モンスター:アルカナフォースVII-THE CHARIOT(攻)
      フィッシュボーグ-アーチャー(守)
魔法・罠:1(伏せ)
場:光の結界

「僕のターン、ドロー!」
「この瞬間に永続トラップ2枚、死神の巡遊を発動!このカードはアルカナフォースと同じく、選択によって効果が変わる。だが唯一違う点はその選択を毎ターン行うこと。まずはこのターンだ!」
「ス、ストップ!」

 鎌を持った骸骨の姿をする死神のカードが、再びクルクルと回りだす。僕の宣言によってその回転はゆっくりになってゆき、最終的にチャリオットと同じく正しい向きで止まった。

「今度はいったい、何が起きるってのさ?」
「死神の巡遊の正位置。死神が降り立ったお前のフィールドに、新たな命は芽吹かない……これでお前はこのターン、通常召喚及び反転召喚が行えない!」
「なっ!?」
『落ち着け、マスター。まやかしの死神に惑わされるな、所詮あの死神が封じることができるのは伏せモンスターをマスターが出していない今は通常召喚のみだ。ならば、他の方法でモンスターを出せばいい』

 召喚封じという恐ろしい効力に一瞬度肝を抜かれるも、チャクチャルさんの一喝を受けてすぐにそれが見た目だけのこけおどしでしかないことに気づく。

「そ、そうだ、確かに。斎王、お前はひとつミスを犯したね!僕が封じられたのは通常召喚、つまり特殊召喚はできるんだ。ハンマー・シャークの効果をもう一度発動、さらにレベルを下げることで別のモンスターを特殊召喚する!さあ来い、マジック・スライム!」

 ハンマー・シャーク ☆3→2
 マジック・スライム 守1200

「攻撃力が同じチャリオットに攻撃したら、せっかくの貴重な展開要因もやられちゃうし、そもそも自爆特攻は好きじゃないからね。だからこのターンは、アーチャーを返してもらうよ。ハンマー・シャークでフィッシュボーグ-アーチャーに攻撃!」

 ハンマー・シャーク 攻1700→フィッシュボーグ-アーチャー 守300(破壊)

「それがどうした?守備表示だから私にダメージは入らんぞ」
「そう言ってられるのも今のうちさ。その死神はモンスターをセットすることも止められない、モンスターとカードを1つずつセットしてターンエンド」
「私のターン!この瞬間、光の結界を維持するかどうかを決める。このカードの回転を止めてみろ!」

 その言葉とともに、ソリッドビジョンで斎王の頭上に光の結界のカードが浮かび上がる。なるほど、さっきみたいにこれをストップさせればいいのか。これまでのパターンから考えて正しい向き、つまり正位置の時に斎王にとってメリット効果が出てくると思って間違いないだろう。ということは、なんとか逆位置を引き当てればいいわけだ。3、2、1………

「今だ、ストップ!」
「無駄だぁ!」

 その言葉通り、回転スピードを完璧に見極めて止めたはずのカードはなぜか正位置で停止する。

「光の結界の正位置。これにより、このターンもアルカナフォースの効果決定権とライフ回復効果はこのターンも持続する。そして速攻魔法、フォトン・リードを発動!手札からレベル4以下の光属性モンスター1体を特殊召喚する。出でよ、帝王のアルカナ……アルカナフォースIV(フォー)THE EMPEROR(ジ・エンペラー)!」

 アルカナフォースIV-THE EMPEROR 攻1400

 大量の機械の触手を生やした、翼の生えたなんだかよくわからない生物。どこらへんがどう帝王なのかはさっぱりわからないが、それにしてもなんでまた通常召喚もできるモンスターを特殊召喚したんだろう。

「疑問に思っているようだな、今教えてやろう!速攻魔法、地獄の暴走召喚!」

 まるで心を読んだかのような……いや、そこまでできたらいくらなんでもチートなんてレベルじゃない。多分僕の顔に出てたんだろう。そう思いたい。だけど、地獄の暴走召喚か。攻撃力1500以下のモンスターの特殊召喚をトリガーとして発動され、デッキから同名モンスターを2体特殊召喚するカード。その代償に僕もフィールドのモンスターと同名カードを2体特殊召喚できるけど、あいにくとハンマーもスライムもピン刺しだ。

 アルカナフォースIV-THE EMPEROR 攻1400
 アルカナフォースIV-THE EMPEROR 攻1400

「そしてエンペラー3体の効果を光の結界により決定、全て正位置だ!そしてエンペラーは正位置の時、私のフィールドのアルカナフォースの攻撃力を500ポイントアップさせる!」
「エンペラーが3体……1500ポイントのバンプアップ!?」

 全エンペラーの体が光の結界の中で輝きを放ち、その光が斎王の全てのモンスターを覆い尽くしていく。

 アルカナフォースVII-THE CHARIOT 攻1700→3200
 アルカナフォースIV-THE EMPEROR 攻1400→2900
 アルカナフォースIV-THE EMPEROR 攻1400→2900
 アルカナフォースIV-THE EMPEROR 攻1400→2900

「これが、斎王の実力ってわけか……!」

 確かに強い。とてもじゃないけど、あれはレベル4モンスターの攻撃力じゃない。去年命がけで戦った幻魔皇、ラビエルのほうが火力的には上だけど、あっちはラビエルだけが火力要因で他は全てラビエル関連やそれに繋ぐためのカード、そんな印象だった。だけど斎王のデッキはこのエンペラーを大量展開することで攻撃力1500のモンスターでも、アルカナフォースである限りあの青眼(ブルーアイズ)にも匹敵する火力を持つことになる。

「他愛もないな、バトルだ!チャリオットでハンマー・シャークに攻撃、フィーラー・キャノン!」
「させるか!リバースカード、オープン!」

 チャリオットが今度は触手の先から謎の液体を発射する。だがそれはハンマー・シャークにぶつかるより先に、突如発生した大波に飲み込まれた。

「なにぃ、破壊されていないだと?」
「トラップカード、ポセイドン・ウェーブを発動。その攻撃を無効にして、さらに僕の水・魚・海竜族モンスター1体につき800ダメージを与える!ハンマーとスライムの2体で1600ダメージ!」

 斎王 LP4300→2700

「ふん……だが、まだエンペラー3体の攻撃が残っている!まずハンマー・シャーク、そしてマジック・スライム、最後に伏せモンスターへ攻撃だ!」
「おっと、だったらこのカードで!永続トラップ、安全地帯をハンマー・シャークに発動!これでハンマー・シャークは破壊耐性を得る!」
「エンペラー3体でハンマー・シャークに攻撃してもお前のライフは残るか……ならば光の結界の効果を優先しよう、攻撃対象はそのままだ!」

 アルカナフォースIV-THE EMPEROR 攻2900→ハンマー・シャーク 攻1700
 清明 LP4000→2800
 アルカナフォースIV-THE EMPEROR 攻2900→マジック・スライム 守1200(破壊)
 斎王 LP2700→3400
 アルカナフォースIV-THE EMPEROR 攻2900→??? 守500(破壊)
 斎王 LP3400→4900

 光の結界の効果による斎王のライフ回復がみるみる進んでいく。だけど、今の攻撃はこっちの思う壺。ここからは反撃開始だ。
 くいっと指で合図すると、エンペラーの電撃を受けて四散、派手に飛び散った銀色の飛沫が動き出して自分を倒したエンペラーに吸い込まれてゆく。一瞬の後、その額に銀色の紋章が浮かび上がった。

「スライムの破壊をトリガーとして補給部隊のドロー。そしてこの瞬間、戦闘破壊されたグレイドル・イーグルの効果発動!相手モンスター1体の装備カードとなり、そのコントロールを得ることができる!」
「ほう?なるほど、お前も何らかの力を手に入れたわけか。だがこちらにはまだ正位置のエンペラーが2体残っている、一時しのぎの姑息な手にすぎん!」
「くっ……!そんなもん最後までわからないさ。よろしく頼むよ、エンペラー」

 アルカナフォースIV-THE EMPEROR(清明) 攻2900→1900
 アルカナフォースIV-THE EMPEROR(斎王) 攻2900→2400
 アルカナフォースIV-THE EMPEROR(斎王) 攻2900→2400
 アルカナフォースVII-THE CHARIOT 攻3200→2700

 僕の手にコントロールが移ったことで、コントローラーのフィールドにいるアルカナフォースしか強化しないエンペラーの効果は弱まった。だけど、まだハンマーとエンペラーで突破できる数値じゃない。

「私はこれで、ターンエンドだ」

 清明 LP2800 手札:1
モンスター:ハンマー・シャーク(攻・安地)
      アルカナフォースIV-THE EMPEROR(攻・イーグル)
魔法・罠:補給部隊
     安全地帯(ハンマー)
     グレイドル・イーグル(エンペラー)
 斎王 LP4900 手札:1
モンスター:アルカナフォースVII-THE CHARIOT(攻)
      アルカナフォースIV-THE EMPEROR(攻)
      アルカナフォースIV-THE EMPEROR(攻)
魔法・罠:死神の巡遊
場:光の結界

「僕のターン、ドロー!」
「この瞬間、死神の巡遊の効果がふたたび発動!」

 斎王の頭上でまた回り始める死神のカード。あれもそのうち対処するとして、このターンはどう出るか。

「……ストップ」
「当然正位置ぃ!よってお前はこのターンもモンスターの召喚、反転召喚が行えない。そんな攻撃力のモンスターしかいないようでは、大人しく守備表示にして時間を稼ぐ程度のことしかできまい」
「悪いけどね、本気でそんなこと考えてるんなら僕に対する調査不足さ。覚えておくといいよ、僕は逃げない!僕らはこの戦い、真正面から受けて立つ!魔法カード発動、アクア・ジェット!」

 ハンマー・シャークの両脇部分に小型の噴射装置が取り付けられる。魚族モンスターとアクア・ジェットのマジックコンボにより、ハンマー・シャークの攻撃力が1000ポイントアップする。
 ……そういえば、アクア・ジェット使うだけでマジックコンボだのなんだの最初に騒いでたのはユーノだっけか。結局なにがお約束なのかは毎回はぐらかされて教えてもらえなかったけど、また会ったら今度こそ聞いてみよう。

 ハンマー・シャーク 攻1700→2700

「バトル!ハンマーでエンペラー1体に攻撃!」

 ハンマー・シャーク 攻2700→アルカナフォースIV-THE EMPEROR 攻2400(破壊)
 斎王 LP4900→4600
 アルカナフォースVII-THE CHARIOT 攻2700→2200
 アルカナフォースIV-THE EMPEROR 攻2400→1900

「これでエンペラーのバンプアップはさらに効果が薄くなったね。ここは畳みかける、エンペラーで最後のエンペラーに攻撃!」
「小賢しい真似を……だが光の結界の回復は、例えモンスターが相打ちとなっても適用される。私のライフは減るどころかさらに増える!」

 アルカナフォースIV-THE EMPEROR 攻1900(破壊)
→アルカナフォースIV-THE EMPEROR 攻1900(破壊)
 アルカナフォースVII-THE CHARIOT 攻2200→1700
 斎王 LP4600→6000

 本来なら僕のポリシーとして、戦ってくれるモンスターに対して申し訳ないから自爆特攻はしたくない。だけど、デュエルモンスターズは互いに恨みっこなしの真剣勝負だ。自分のモンスターは大切だしできる限り敬意を払うけど、相手のモンスターに対してまでそれを持ち込むのはただの舐めプでしかない……と、少なくとも僕は思ってる。とはいえ、これがかなりいい加減な、都合のいい論理なのは自覚がある。自分のモンスターだけが可愛いのか、なんてもし聞かれたら、正直うまく答えられる自信がない。
 結局、いくら精霊が見えるっていっても僕一人にできることなんて何もないということだ。

「小賢しいのはどっちだってのさ!こっちの僕のフィールドでエンペラーが破壊されたから、補給部隊の効果でまた1枚ドロー。メイン2に永続魔法、グレイドル・インパクト発動!そしてこのエンドフェイズにインパクト第1の効果により、デッキからグレイドルカードを1枚サーチする。おいでアリゲーター、ドール・コール!」

 僕の後ろに現れたUFOのてっぺんがぱかっと開き、そこからグレイドル・アリゲーターのカードが飛び出してくる。うまいこと目の前に落ちてきたそれをキャッチして手札に加え、あまり意味ないとは思いつつも一応軽く順番を入れ替えてどれがアリゲーターかパッと見ではわからなくする。まあ、こんなもんだろう。

「私のターン。この瞬間、光の結界の効果を発動!さあ、回転を止めろ!」
「やってやるさ、ストップだ!」

 いい加減逆位置が出てもおかしくないとは思うけど、それでもやっぱり正位置で止まる光の結界。

「ふん。さらに魔法カード、カップ・オブ・エースを発動!このカードはアルカナではないゆえに光の結界の効果も適用されない。さあ、このカードの回転も止めるがいい」

 水面に置かれて逆さ富士のように自身の影を映す金色のカップのイラストが描かれたカードが、また回りだす。このカードは知っている、確か正位置で相手、逆位置で僕が2枚ドローできるのだ。

「今度こそ……ストップ!」
「無駄無駄無駄ぁ、当然正位置ぃ!よってカードを2枚ドローする。そして魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動!このターン光属性以外のモンスターを場に出せなくなる代わりに、フォトントークンを2体特殊召喚できる!」

 フォトントークン 守0
 フォトントークン 守0

「私はフォトントークン2体をリリースし、アドバンス召喚!出でよ、アルカナフォースのラストナンバー!かつて最強であった者よ!アルカナフォースXXI(トゥエンティーワン)THE WORLD(ザ・ワールド)ッ!」

 3本指の機械めいた腕を伸ばす、オレンジ色の炎を体内に宿した単眼の生命体。13で終わりのアルカナ最大のナンバー……だけど、それが『かつて最強であった』とはどういう意味だろう?

 アルカナフォースXXI-THE WORLD 攻3100

「光の結界の適用により、ザ・ワールドは自動的に正位置の効果を適用される。チャリオットを守備表示とし、ザ・ワールドでハンマー・シャークに攻撃!オーバー・カタストロフ!」

 ゆっくりと伸ばしたザ・ワールドの腕の間にエネルギーが集中し、熱光線となって放たれる。

「ハンマー・シャークは安全地帯の効力で破壊されない!」
「だがダメージは受けてもらおう!」

 アルカナフォースXXI-THE WORLD 攻3100→ハンマー・シャーク 攻2700
 清明 LP2800→2400

「攻撃力3100のパワーはさすがに、効く……!どう?そっちはまだいける、ハンマー?」

 体中火傷だらけでボロボロになりながらも僕の言葉に頷いてみせるハンマーに少し安心しながらも、下手に安全地帯で守ったせいでここまで酷使することになったことを心の中で謝る。言いたいことはきっと、それでわかってくれただろう。

「ふふふ、ずいぶんと美しい友情だな?その精霊と意志を通わせ使役する力、やはりなんとしてでも私の物にしてくれる!カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
「一人でほざいてろ!」

 清明 LP2400 手札:2
モンスター:ハンマー・シャーク(攻・安地)
魔法・罠:補給部隊
     安全地帯(ハンマー)
     グレイドル・インパクト
 斎王 LP6000 手札:0
モンスター:アルカナフォースVII-THE CHARIOT(守)
      アルカナフォースXXI-THE WORLD(攻)
魔法・罠:死神の巡遊
     1(伏せ)
場:光の結界

「僕のターン、ドロー!」
「何を引いたところで、私の優位に変わりはない!死神の巡遊よ、再び奴のフィールドの生の息吹を絶つがいい」
「何度も何度も……外してたまるか、ストップだ!」

 どれほどの気合を込めても、結局死神はまたも正位置で止まってしまう。またこのターンも、僕は召喚及び反転召喚の自由が封じられる。

「だからって、手がないわけじゃない。ハンマー・シャークの効果発動!来い、グレイドル・アリゲーター!」

 再び湧き上がった銀色の水たまりは、今度は緑色のワニの姿を取る。もっとも、その足先まではせっかくの擬態もうまくいっていないようだけど。

 ハンマー・シャーク ☆2→1
 グレイドル・アリゲーター 守1500

「そしてインパクト以外のグレイドルが場にいることで、グレイドル・インパクト第2の効果の発動条件は整った。自分フィールドのグレイドルカードと、相手フィールドのカード1枚を破壊する、グレイ・レクイエム!」

 壊れかけのUFOから今度は先が二又になったアンテナのようなものが伸びてそのうち片方からアリゲーター、もう片方から死神の巡遊めがけて七色の不気味な光線が発射される。2枚のカードは同時にバラバラになったが、唯一違うのは死神の巡遊が破壊されたらそれっきりなのに対しアリゲーターはバラバラになった銀色の水滴が先ほどのイーグルのようにザ・ワールドへと集結し始めたことだ。

「そしてこの瞬間、魔法カードの効果で破壊されたアリゲーターの効果発動。このカードもまた、相手モンスターのコントロールを奪う能力を持つ!やっちゃえ、アリゲーター!」
「甘いわぁ!トラップ発動、亜空間物質転送装置!ザ・ワールドはこのターンの終了時まで、ゲームから除外される!」
「そんなっ!?」

 大量の銀色の飛沫が今まさにザ・ワールドに命中しようとした瞬間に、ザ・ワールドの巨体が夢か幻かのようにかき消える。相手を失った銀色のしぶきが空中でぶつかり合い、地面に落ちて消えていった。

「馬鹿め、私が何の対策もなしにザ・ワールドほどの大型モンスターを出すとでも思ったか?」
「いや、思っちゃいないさ。だけどこれで、少なくとも死神は墓地。もう死神の力で僕の召喚は止められないね。さらに僕のフィールドでアリゲーターが破壊されたことで、また補給部隊の条件が満たされた。このカードは……ありがとう、ここで来てくれて。バトルだ、ハンマー・シャーク!そこで寝てるチャリオットに攻撃!」

 ハンマー・シャーク 攻2700
→アルカナフォースVII-THE CHARIOT 守1700(破壊)

「どんなもんだ!」
「ふん、その程度か?守備表示モンスター1体が倒れたところで痛くも痒くもないわ。そしてこのエンドフェイズに、ザ・ワールドは異次元より帰還する」

 アルカナフォースXXI-THE WORLD 攻3100

 斎王の言葉通り、ザ・ワールドの巨体が消えたときと同じく何の前触れもなくいきなり現れる。エンドフェイズのインパクトによるサーチも、破壊効果を使ったターンには使用できないからこのターンは使えない。だけど、それは今はいい。次だ、次の瞬間こそが勝負の一瞬!

「私のターン、ドロー!光の結界の効果により……」
「今だ!相手フィールドで表側表示となっているカードの効果が発動されたことで、手札から幽鬼(ゆき)うさぎの効果を発動!このカードを捨てることで、その発動されたカードを破壊する!」

 ふたたび不気味に光りだす半透明の結界。そこにどこからともなく飛んできた青白く発光するお札のようなものが張りつくと、その場所から何かが弾けたような音がしたのち、そこに入ったひびがみるみるうちに結界全体に広がっていく。一瞬の間があって、ガラス細工か何かのようにあっけなく光の結界は粉々になって消えていった。キラキラ輝いて辺りに降り注ぐ結界のなれの果ての向こう側に一瞬見覚えのある銀髪が揺れるのが見えた気がしたけれど、もう一度よく見直した時にはそこにはもう誰もいなかった。……なんでバレッバレなのにわざわざ隠れたんだろう、うさぎちゃん。

「馬鹿な、私の、光の結界が……!」
「どう、斎王?さすがにこれは効いたんじゃない?」

 光の結界の破壊はどうやらかなり痛手だったらしく、もともと恐ろしい形相だった顔をさらに歪めて怒りを見せる斎王。だがすぐに邪悪そのものがにじみ出ているような笑いを口元に張り付けると、今引いたカードをデュエルディスクに叩き付けるようにして置いた。

「その程度のことで勝ったつもりかね?いまだライフも私の方が圧倒的に上、そしてお前のモンスターでは私のザ・ワールドを倒すことはできない!カードを1枚伏せ、ザ・ワールドの攻撃!オーバー・カタストロフ!」
「………っ!!」

 アルカナフォースXXI-THE WORLD 攻3100→ハンマー・シャーク 攻2700
 清明 LP2400→2000

 再びザ・ワールドの放つエネルギーの塊が、ハンマー・シャークに激突する。本来ならばとうの昔に倒れるようなダメージをもう3ターンも連続で受けてなお、僕の鮫は倒れずに持ちこたえてくれた。

 清明 LP2000 手札:2
モンスター:ハンマー・シャーク(攻・安地)
魔法・罠:補給部隊
     安全地帯(ハンマー)
     グレイドル・インパクト
 斎王 LP6000 手札:0
モンスター:アルカナフォースXXI-THE WORLD(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

「僕のターン!よし、このカードがあれば。フィールド魔法発動、忘却の都 レミューリア!そしてレミューリアの効果を発動、自分フィールドの水属性モンスターのレベルは、自分フィールドの水属性全ての数の数値だけエンドフェイズまでアップする!」
「なんだと!?」
「ハンマーの効果!今上げたレベルをまた下げて、手札のグレイドル・コブラを特殊召喚」

 ハンマーはもう僕の酷使のせいで、自身の効果を3回使用してレベルを最低ラインの1まで下げてしまった。つまり、これ以上効果を使うことはできないということだ。
 ただし、それはあくまでも通常ならば、の話。レミューリアの隠された効果によってふたたびレベルが2になったハンマーは、このターンも効果を使うことができる。

 ハンマー・シャーク 攻2700→2900 守1500→1700 ☆1→2→1
 グレイドル・コブラ 攻1000→1200 守1000→1200

「また馬鹿の一つ覚えか?そんなことで……」
「ああ、わかってるさそんなこと。だから、ここから先は別の戦術を見せるからね!ハンマー、コブラの2体をリリースし、アドバンス召喚!七つの海の力を纏い、穢れた大地を突き抜けろ!地縛神 Chacu(チャク) Challhua(チャルア)!」

 僕の全身に、紫色の痣がスルスルと走るのがわかる。おそらく、黒目と白目の色も完全に入れ替わっているだろう。それぐらい、僕もチャクチャルさんも本気だということだ。ここでやらなけりゃ僕にあとを任せて光の結社と戦ってくれてる皆にだけでなく、今の今までボロボロになりながらも僕を信じてアルカナフォースの猛攻相手に戦線を維持し続けてくれていたハンマーにも申し訳が立たない。

 地縛神 Chacu Challhua 攻2900

「チャクチャルさん、デュエルの方も頼むけど、それ以外にも1つ頼みたいことがあるんだけど。実は……」
『皆まで言わずとも大丈夫だ、マスター。マスターの考えることだ、ある程度の想像はつく。でなければ、何のために私の力をマスターに乗せたと思っているんだ。本来ならばできる限り人間の出来事に首を突っ込む気はなかったが、さすがに我がナスカの大地すらも射程内というのはあまりいい気分はしないものだしな』
「ありがとう、チャクチャルさん。バトルだ!だけど僕が狙うのは、ザ・ワールドじゃない。地縛神は、相手プレイヤーに直接攻撃ができる!」

 チャクチャルさんの姿が、ふわりと飛んだ。いや違う、チャクチャルさんの体からもう1つ、半透明のチャクチャルさんが分離したのだ。そのまま半透明な方が体を垂直に立て、どこまでもどこまでも上に登っていく。すぐに天井をすり抜け、僕からも見えなくなった。

「待て、一体何をする気だ!?」

 何かに勘付いた斎王が掴みかからんばかりの勢いで怒鳴りつけるけど、今更気づいてももう遅い。チャクチャルさんも言ってたけど、何のためにこのタイミングでダークシグナーの力を全開放したと思ってるんだか。
 なにせ、チャクチャルさんクラスのモンスターを実体化させるのは生半可な精神力じゃこっちが持たないからね。

「全力で頼むよ?ミッドナイト・フラッド!」





 上空……成層圏ギリギリの生物が生存できないほどの高みに、突如紫色の閃光が爆ぜた。いや、それは閃光ではない。超高速で地上から舞い上がったそれは、シャチの姿をした地縛神。清明からの命を受けたチャクチャルアは、レーザー衛星『ソーラ』を破壊せんとこの高さまで上がってきたのだ。

『―――――まったく、無茶をやるものだ。いくらマスターの精神力でも、私をここまで離れた距離で実体化させるとなると並の負担では済まないのはわかっているだろうに。さすがにマスターの体が持つかどうかもわからないし、なるべく早くけりをつけねばな。とは言ったものの、これは少々厄介だな』

 どこか心配げにそうひとりごちるのには訳がある。地縛神信仰が行われていた5000年前ならいざ知らず、今の世は既に科学全盛期である。すでに世界各国があらゆる場所から通信用なり気象用なりの衛星を飛ばしまくったことで、いくら世界を見続けていたとはいえ科学的なことには今一つ知識の浅いチャクチャルアにはどこにソーラがあるのか一目ではわからなくなっていたのだ。
 まさか全部破壊するわけにもいくまいとあちこち見まわしていると、突然たまたま近くを回っていた衛星の1つから声がチャクチャルアの心に響いた。

『こちらです、太古より大地に縛られし神よ。これ以上、破滅の光の好きにはさせない!そのために、私の言葉を信じてください』

 聞き覚えのない女性の声。信用に足る人間かとのチャクチャルアの躊躇を、はるか下から伝わってくる清明の苦しみが後押しした。

『……よかろう。ソーラはどこにある?』
『あちらに。お願いします、斎王を……兄を、救ってください!』
『兄?なるほど、兄妹(きょうだい)の情、という訳か』

 それ以上は何も聞かず、巨体が揺らいだかと思うとすぐに向きを変えて声の示す方向に空中を泳いでゆく。その途中で、地上から近づいてくる茶色の影に気が付いた。まごうことなき肉食恐竜のシルエットに、なぜか見覚えのある黄色い恐竜柄の帽子をかぶったそれはチャクチャルアに気が付くと、その目を丸くした。

『む?』
『あれ、確かアンタは清明先輩のモンスター……そうか、アンタもソーラを破壊しに来たのかドン?』
『アンタ……まあいい、お前は』
『よく聞いてくれたザウルス。男ティラノ剣山、恐竜が鳥に進化したのと同じように俺も進化して、宇宙へ飛び立つスペースザウルスに進化したんだドン!』

 1から10まで訳の分からない目の前の現実に、5000年の長きに渡り世界を観察しつづけていたチャクチャルアですら一瞬言葉を失う。あるいは地縛神がかつて世界を支配できなかった理由は、人類の持つこの無限の可能性を軽視しすぎたことにあるのではないか。そんな考えまで頭をよぎるが、とりあえず昔の反省は後でいくらでもする時間はあると気を取り直す。

『いいだろう。時間はない、私について来い!』
『わ、わかったドン!』





 一方、再び地上に戻って。モンスターとしてのチャクチャルアが口から衝撃波を連続で放ち、それが斎王に迫る。

「ヒヒヒ、貴様ごときに破滅の未来は変えさせん!この瞬間に永続トラップ、ラッキーパンチを発動!1ターンに1度、相手の攻撃宣言時に3度のコイントスを行うことでそれがすべて表ならばカードを3枚ドローする!」

 コイントスと明言したにもかかわらず、なぜか死神の巡遊や光の結界と同じように3枚のラッキーパンチのカードが斎王の頭上で同時に、それぞれ異なるスピードで回転を始める。要はあれだ、あの中で1回でも裏を出せばいいわけだ……と思っていたら、僕がストップ宣言をする前に斎王がすべての回転を停止させた。

「正位置、正位置、そして正位置。これにより、3枚のカードをドローさせてもらおうか!」
「そんなこったろうと思った。だけど、地縛神の攻撃はもう止まらない!」

 地縛神 Chacu Challhua 攻2900→斎王(直接攻撃)
 斎王 LP6000→3100

「へへっ、どんな……うっ!?」

 ここで限界。皆まで言い切ることもできず、立っていられないほどの痛みに膝を折る。一気に襲ってきた吐き気に思わず口を開くと、胃液どころか血の塊が湿った音とともに床に落ちたのがぼやける視界で辛うじて見えた。実を言うとチャクチャルさんが空に飛び立ってから、なんとなく胸が苦しい感じはしていた。だけど、まだいけるだろうとのんきに構えて気づかないふりしてるうちにどんどん苦しさが増し、あっという間にこれまで感じたことのないような痛みが全身を埋め尽くした。

「ふん、つまらんことを考えるからだ。運命に逆らうものの末路はみじめよのう」
「誰、が……がはっ!」

 どうしようもない原因不明のその痛み、全身が消えてなくなりそうな感覚と戦いながら……いや、それは間違いだ。その原因はよくわかっている。あの事故で本来死んだ僕の魂をこの体に繋ぎとめて動かしているのは、ひとえにチャクチャルさんの持つ力だ。常にチャクチャルさんから生きるためのエネルギーを供給してもらっているようなものである。そして今、物理的なチャクチャルさんとの距離が極端に離れたことで、その結びつきもそれだけ小さく弱くなっている。普通に日常生活するだけなら僕の体に普段から溜まってる地縛神の力だけでも問題ないけれど、よりにもよってチャクチャルさんの実体化までやるとなるとそのストックすらゴリゴリ削れていく。
 早い話が、僕の体は今現在ダークシグナーとしても死を迎え、砂に変わろうとしているのだ。その証拠に、たった今吐いたばかりの血の塊はもう風化して消え、床には染み1つ残っていない。並大抵の痛みなら頑張る気だったけど、予想以上に実体化の僕への負担が激しい。

「チャク、チャル、さん」

 声を絞り出してその名を読んでも、まだ帰ってこない。意識も薄れてきたけど、ここで気を失ったらデュエル続行不可能と判断されて自動的に負けが決まってしまう。あと少し、きっとあと少しで帰ってくるはずだ。だからそれまで、石に噛り付いてでも持ちこたえれば……!

「清明っ!」

 辛うじて意識を繋いでいたけど、それすらきつくなってきた瞬間に声がした。無論、僕はその声の主をよく知っている。ああ、まったく。どうしてこうヒーローってやつは、毎度毎度ピンチになんなきゃ来てくれないのかね。
 必ず来るって信じてたよ、親友(十代)

「ええい、今度はなんだ!また余計な邪魔が入りよって!」
「私も来たよ、ってさ。絶対に信じてるからね、清明!」
「清明君、頑張れー!」
「何を無様な真似をしている!立ち上がれ、それでもこの万丈目サンダーを倒した男か!」
「夢想、翔、万丈目……」

 応援するのは結構だけど、ちょっと僕を酷使しすぎじゃないですかね皆さん。でも、皆の声を聞いているうちに不思議と体の奥底からパワーがあふれてきて、それと同時に痛みが急に消えていく。床に両手をつき、息を荒げながらもどうにか体を起こす。次にグレイドル・インパクトを発動した時に出てきたUFOのふちを掴み、体重を預けてよろよろと立ち上がった。視界も元に戻ってきたし、もう大丈夫だ。少なくとも今、戦うことはできる。

「……斎王、デュエルを、続けよう、か……エンドフェイズに、インパクト、の、効果で2枚目のインパクトをサーチして、僕はこれで、ターン、エンド」
「ははははは、なんだぁ、そのざまは?それで続ける?デュエルを?いいだろう、望み通りにしてやろうではないか!私のターンに魔法カード、カップ・オブ・エースを発動。これもまた正位置ぃ!よって、カードを2枚ドローする!」

 これで斎王の手札はラッキーパンチの分も合わせて計5枚。ついさっきまで手札0だったのに、つくづく光の力というのは恐ろしい。

「愚者のアルカナ、アルカナフォース(ゼロ)THE FOOL(ザ・フール)を召喚しよう。さらに永続魔法、コート・オブ・ジャスティスを発動!これにより自分フィールドにレベル1天使族モンスターのフールが存在することで、手札から天使族モンスターを特殊召喚できる。出でよ、恋人のアルカナ!アルカナフォースVI(シックス)THE LOVERS(ザ・ラバーズ)!」

 アルカナフォース0-THE FOOL 攻0
 アルカナフォースVI-THE LOVERS 攻1600

 チャクチャルさんの前には壁モンスターなど何の役にも立たないし、そもそもあの3体は全て攻撃表示だ。だというのになぜだろう、僕の全身には今鳥肌が立っている。あの斎王の手札、あそこに恐ろしいカードがいるのがわかる。なぜか、つい先日死闘を繰り広げたアバターの姿が頭をよぎった。

「斎王、一体何を……」
「教えてやろう、物質(マテリアル)(スピリチアル)神々(ヘブンズ)………全てを統べる光の力、アルカナを越えたアルカナの力を!」

 不気味な一つ目の顔、そのサイズとは不釣り合いなほど大きな体。アルカナフォースにしては珍しく触手が生えていないが、それでも全体の造形はどこかナンバー付きのアルカナに通じるものがある。

 アルカナフォースEX(エクストラ)THE LIGHT RULER(ザ・ライト・ルーラー) 攻4000

「攻撃力4000、ザ・ライト・ルーラー……」
「そして当然、正位置だ!」

 正位置で回転が止まる、アルカナを越えたアルカナ。その巨体に圧倒されていたが、ふと気づくと周りの風景が様変わりしていた。暗い空間の中で無数に煌めく星々の輝き、そして足元に広がる地球。

「ここは……?」
「見よ、あれがソーラだ。お前の神はどうやら破壊に失敗したようだなぁ?」

 斎王が指差した先には、ひときわ目立つ人工衛星。チャクチャルさん、一体どうしたんだろうか。こうしている間にも、僕の体は刻一刻とボロボロになっていくのがわかる。今痛みが引いて落ち着いてデュエルできてるのも、夢想や十代たちのおかげもあるけど単に痛覚が使い物にならなくなって痛みを感じなくなった、というのも大きな要因なんじゃないだろうか。

「あの光こそが世界を、全てを浄化する!その邪魔は絶対にさせん!」
「あー?何か勘違いしてるようだがね、世界は破滅の光なんかの物じゃない。世界はこの僕ら、ダークシグナーが最初に唾付けたものだ!こちとら5000年越しでその時を待ってるんだ、それを急に出てきた奴なんかに渡してたまるか!」

 お互いに一歩も引かず、にらみ合う僕ら。その膠着を打ち破ったのは、斎王だった。

「ならば、力づくで奪い取るのみよ!バトルだ、ライト・ルーラーでその時代遅れの神に攻撃ぃ!」
「悪いけど地縛神は相手の攻撃対象にならない、よってその攻撃は成立しない!」
「ふん、馬鹿め。私は手札から速攻魔法、禁じられた聖杯を発動していた!これにより攻撃力400と引き換えに地縛神の効果は無効となり、ライト・ルーラーの攻撃は直撃する!ジ・エンド・オブ・レイ!」

 アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER 攻4000
→地縛神 Chacu Challhua 攻2900→3300(破壊)
 清明 LP2000→1300

「補給部隊で、1枚ドロー……!」
「だがこの瞬間、ライト・ルーラー正位置の効果発動。相手モンスターを破壊し墓地に送った時、自分の墓地のカード1枚をサルベージできる!私は再びカップ・オブ・エースを手札に加え、発動!正位置を出し、さらに2枚のカードをドローする!カードをセットし、ターンエンドだ」

 清明 LP1300 手札:2
モンスター:なし
魔法・罠:補給部隊
     グレイドル・インパクト
 斎王 LP3100 手札:1
モンスター:アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

「僕のターン、ドロー!」

 カードを引いた瞬間、チャクチャルさんの気配がまたすぐ近くに帰ってきたのが全身でわかった。今こっちのチャクチャルさんが倒されたことで、本人も強制帰還となったのだろう。ボロボロで崩れかけだった体に文字通り生気が蘇り、視界も思考もさらにクリアになる。

「チャクチャルさん!」
『私が遅れたことは確かにすまないと思う、マスター。だが、せっかく場所まで特定できたんだ。もう少し粘ってくれればなんとかできたんだが』
「ごめんごめん。まさかチャクチャルさんが上からぶん殴られるとは思わなかったのよね」
『うむ。ああそうだ、マスターの友人もここにいるぞ』
「え?」

 そう言われてソーラの方を見ると、何やら帽子をかぶった1匹の恐竜の姿が。あの帽子、何か見覚えがあるような。

「……まさか、剣山!?」
『お、清明先輩。見てくれドン、この俺の姿!俺はスペースザウルスに進化したんだドン!』
『マスター、あれはどういうことかわかるか?私にはさっぱりわからなかったが』
「奇遇だねチャクチャルさん、僕にもちょっとよくわかんないや。って剣山、危ない!」
『え?うわっ!?』

 いきなりソーラが動き出し、でたらめな方向を向いてエネルギーをチャージする。たまたま長い尻尾が射程内にあった剣山が慌てて尻尾をひっこめた次の瞬間、その場所を白い光の筋が薙いだ。

「剣山、今チャクチャルさんの代わりを送るから!それまでなんとか耐えてて!」
『わ、わかったザウルス……うおっ、まただドン!?』

 ソーラの光線をまたもギリギリのところでかわす剣山を見て、一刻も早く助けを送らなくてはと今引いたカードを見る。……来た!

「魔法カード、貪欲な壺を発動。墓地のモンスター5体、うさぎちゃん、スライムアリゲーターにハンマー、アーチャーをデッキに戻して2枚ドロー。そして、サルベージを発動!墓地から攻撃力1500以下の水属性モンスター2体、グレイドル・イーグルとコブラを手札に戻す。さらに魔法カード、強欲なウツボを発動!手札の水属性モンスター2体、つまり今サルベージした2体をデッキに戻して、カードを3枚ドロー!」

 貪欲な壺まで絡めて久しぶりに使ったサルベージと強欲なウツボのコンボによって、僕の手札も5枚にまで増える。ここまで引けば十分、後はこのターンでとどめをさすのみだ。

「永続魔法、グレイドル・インパクトを発動。そしてインパクトの第2の効果!グレイ・レクイエムで場のグレイドルカード、今発動した方のインパクトと斎王、お前のライト・ルーラーを破壊する!」

 再びUFOから独特な色合いの光線が放たれ、ライト・ルーラーを抹消せんと迫る。だがその光線がライト・ルーラーに届く前にその体内に収納されていた竜の首のようなものが展開されたかと思うと、そこから目も眩むような光が放たれてインパクトの光線がかき消えてしまった。

「そんな!?」
「ひひひ、惜しかったなぁ!私はトラップカード、逆転する運命を発動していた!これによりライト・ルーラーの効果は正位置から逆位置となり、自身を対象を取る効果を攻撃力1000ポイントと引き換えに無効にして破壊する!」

 ライト・ルーラーの頭上に浮かぶ正位置のカードが手も加えないのにいきなり180度回転して逆位置となる。すると宇宙空間の一部がねじれ、UFOから放たれた光線がそこに吸い込まれていった。

 アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER 攻4000→3000

『わわっ!清明先輩、早く何とかしてくれドン!う、うわーっ!』
「剣山!」

 剣山の注意が一瞬こちらを向いた隙に、ソーラの照準が剣山を捉える。いまさら避けてもとうてい間に合うような位置ではなく、もうだめか、と思った瞬間、また別の声が割り込んだ。

『ならば私が、時間を稼ぎましょう!』

 するとソーラが、まるで何かに縛られているかのように動かなくなった。どうやら剣山は助かったようだけど、この声は一体誰だろう。聞き覚えのない声に誰だったかと頭をひねっていると、ピンときた顔でソーラに向かって十代が喋りかけた。

「その声、美寿知(みづち)だろ!」
『いかにも。そこのあなた、初対面の相手にこのようなことを頼むのも気が引けますが、どうかお願いいたします。地縛神の力を持つ者よ、私の兄に巣食う破滅の光を、消し去ってください!』

 美寿知、その名前だけは知っている。十代から修学旅行で何があったのか聞いた時の話に出てきた、エドと十代の2人がかりでやっと倒したという斎王の妹だったっけか。彼女がソーラを抑えてくているなら、こちらとしても有難い。

「協力感謝するよ。それに、僕にはまだ手が残ってる。このターンで決着をつけよう、斎王!」
「面白い。ライト・ルーラーを倒せるわけがなかろう!」
「それができるんだな!相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、このカードはレベルを4、攻守を0にして特殊召喚できる。来い、カイザー・シースネーク!」

 カイザー・シースネーク 攻2500→0→200 守1000→0→200 ☆8→4

「確かにそれは上級モンスターだが、所詮壁を増やしただけにすぎんではないか?」
「慌てなさんなっての。カイザー・シースネークはこの効果で特殊召喚に成功した時、手札か墓地からレベル8の海竜族モンスターを特殊召喚できるのさ。僕はこの効果で、もう1体のカイザー・シースネークを特殊召喚する!」

 カイザー・シースネーク 攻2500→0→200 守1000→0→200 ☆8→4

「モンスターが2体揃い、召喚権を残している……まさか!」
「もっとしっかり警戒するべきだったんじゃない?2体のシースネークをリリースして、アドバンス召喚!これこそが僕の、不沈の切り札!光を切り裂け、霧の王(キングミスト)!」

 2体の大海蛇が辺りを包み込む霧となり、鎧に身を包む魔法剣士の大剣に吸い込まれてゆく。霧を自在に操る力を持つ魔法使い、それが僕のエースカードである霧の王だ。

「霧の王のカードの攻撃力は、リリースしたモンスターの元々の攻撃力の合計となる。そしてさらに、そこにレミューリアの効果が乗って攻守アップ!」

 霧の王 攻0→5000→5200 守0→200

「わ、私の……光の力が……!だが、例えそのモンスターで私に攻撃しても私のライフは残る!」
「それはどうかな?ってね。魔法カード、パラレル・ツイスターを発動!僕のフィールドの補給部隊を墓地に送ることで、ライト・ルーラーを破壊する!」
「ライト・ルーラーの逆位置の効果は強制効果……そ、そんな、馬鹿な!」

 アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER 攻3000→2000

「1つだけ教えてあげるよ、斎王。受け売りの言葉だけど……明けない夜はないけれど、暮れない昼もまた存在しないのさ。霧の王で最後の攻撃!ミスト・ストラングル!」

 大上段に振りかぶったその剣が、湧き上がる霧をその刀身に纏って伸びる。常人では持ち上げることすらできないであろうサイズになったそれを軽々と構えた霧の王が、勢いよく斬り下ろす。ライト・ルーラーを両断したその一撃は、同時に背後のソーラまでもを深々と切り裂いた。

『これで、とどめだドン!うおおーっ!』

 機能が停止しかかったソーラに、剣山が最後にタックルをぶちかます。それが駄目押しとなり、ソーラが勢いよく爆発した。今度こそ、全ては終わったのだ。

 霧の王 攻5200→アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER 攻2000(破壊)
 斎王 LP3100→0





「申し訳ない。私の弱い心を、心の闇を破滅の光に利用されてしまって……」
「いやいや、いいっていいって。ただまあ、次からは気を付けてよ?」

 文字通り憑き物が落ちたように腰が低くなった斎王相手に少し調子を狂わせながらも、そこにいた全員で外に出る。まるで計ったかのごとくぴったりのタイミングで、日の出の光が鋭く水平線の一番向こう側を切り裂いた。
 何とはなしにしばらくの間ゆっくりと空に朝が広がっていくのを皆が無言で見つめていたが、やがて斎王がまた口を開く。

「私は今日一番に出る船に乗って、美寿知を探しに行きます。見つかるまでにどれぐらいかかるかはわかりませんが、それでもいつか会えると信じていますから」
「あれ、タロットは使わないのか?」

 こう聞く十代に悪気はないのだろう。それがわかっているからこそ、イヤミにも聞こえるようなその言葉にも斎王は静かに微笑んだ。

「ええ。もうこんなものは、私の役には立ちませんから」

 そういって、懐にしまってあった1組のタロットを空にめがけて投げつける。思えば光の結社が来てから、ずっとそれに翻弄されっぱなしの日々だった。これからは久しぶりに、いつもの日常が戻ってくるだろう。

「おーーーい、シニョール清明ー!」
「あれ、クロノス先生?」

 僕の名前を呼ぶ声に、そちらを向く。手に何か紙のようなものを持ったクロノス先生が、ちょうどこっちに来るところだった。そしてその紙を、僕に向けて押し付けてくる。

「どうしたんです、クロノス先生?」
「どうしたもこうしたもないノーネ、それはこっちのセリフですーノ。全然連絡が取れない上ーに、寮に行ってもいないものだから徹夜で探しましたノーネ」
「あー……ごめんなさい」
「よろしい。さて、本日の要件ですーガ、シニョール清明は今年度、まだ学期テストを受けていないノーネ。このままではこの時期にもう留年が確定してしまいますーガ、シニョールについては多少考慮する余地があるので救済措置として特別に明後日……いえ、もう日付が変わったから明日ですね。とにかく、ワタクシクロノス・デ・メディチ監修の特別テストを行いますーノ」
「え……えええええっ!?」

 テスト!?なんで僕が!?と言いたいところだけど、残念ながら心当たりがないわけじゃない。確かあれは十代が行方不明になる直前のことだけど、ユーノの罠にはまって時の魔術師のタイム・マジックをまともに受けた日。そういえば、確かあれはテスト前日のことだったような。そのあと時間停止を喰らってようやく復帰したと思ったら光の結社が攻め込んできてて、それ以降はもうテストどころじゃなかったからきれいさっぱり忘れてた……!

「明日?全教科?」
「その通り。留年しないような点を取ることを期待してますノーネ。では、私はもう布団にくるまって眠りたいのでさよならでスーノ。ふわぁ~」

 最後に大あくびをしながら、今来た道を引き返していくクロノス先生。手書きで『テストのお知らせ』と書かれた手元の紙を見て、思わず頭を抱える。

「勉強手伝おうか、清明?ってさ」
「ありがとうございます夢想様!三沢もできればお願いしたいんだけど……ってあれ、そういえば三沢は?十代、一緒じゃないの?」
「あいつは俺もどこ行ったかわかんないんだよな。お前らはどうだ?」

 十代がその下の階にいた、翔と夢想と万丈目に話を振る。

「僕は階段で見かけたけど、白い制服のままだったからつい隠れちゃって……」
「私はちょうど詰みかかってたところに通りかかって、そこでやってたバトルロイヤルに乱入してハーピィの羽根箒とサイクロンで露払いしてもらったよ、ってさ。正直あれが無かったら私でもひっくり返すのは無理だったかも、だって」
「俺も似たようなものだな。そういえば清明、こんなものを預かったぞ。お前に渡してほしいそうだ」

 そう言って、きれいに折りたたまれた手紙を出す万丈目。とりあえず開いて中に目を通すとそこには自分一人で片を付けるつもりが余計に面倒事を引き起こしてすまなかったという謝罪の言葉とそれでも何とかしてくれた僕たちに対しての感謝、とりあえずウリアのカードはそちらで預かっておいてほしい旨、そしてこんなとんでもないことが書かれていた。

『(中略)さて、俺の今後のことなんだが。実は光の結社にいる最中でデュエル統一理論の第一人者、ツバインシュタイン博士からうちに助手をしに来ないかとの大変名誉な誘いを受けてな。なんでも、俺の思考パターンが気に入ったらしい。そこで君たちに合わせる顔もないことだし、しばらくの間アカデミアを休学して博士のところで働いてみようかと思っている。それに、この分野には俺も以前から興味があった。去年起きた不思議な出来事から考えても、いわゆるデュエルモンスターズの精霊が現実に存在するのは明らかだろう。となれば、それを科学的に解明すること。それが、今の俺にとっての目標なんだ。こんな別れ方になるのは心苦しいが、今の俺にはお前に合わす顔がない。それにもし正式にみんなに別れを切り出したりして、自分の決心が鈍るのが俺には一番怖い。だから、こんな別れ方しかできない俺を許してくれ。いつかまたアカデミアに戻ったら、必ず会おう。しばしの間さらばだ、清明。三沢大地』

 なんかの間違いではないかと1回読んだ後、もう1回丁寧に読み直してみる。まあ生真面目な三沢の性格からいって、これ全部本気の文章なんだろう。まったく、三沢らしい道というかなんというか。
 ちょっとしんみりしていると、今度は上からヘリコプターの音がすぐそばまで近づいてきた。その中を見ていた斎王が、喜びの声を上げる。黒服の男たちと一緒にそこにいて斎王に手を振るその女性は、美寿知だった。
 ま、おおむねハッピーエンドってことでいいのかね。

「……あとは、ユーノが帰ってくれば」

 小さなつぶやきを聞いたのは、チャクチャルさんたち精霊しかいなかっただろう。一体ユーノ、どこに行っちゃったんだろう? 
 

 
後書き
2期の心残り:手札誘発とかいう使いやすい効果なのに三沢戦、清明戦の両方でテンパランス使えてないよ斎王!
あとスペースザウルスはある程度原作準拠とはいえほんとに出しちゃってよかったのかなこれ。絵面が絵面だからどう頑張ってもシリアスにならんぞ。
では、3期でまた会いましょう。 
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