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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇

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23部分:第二十三章


第二十三章

「彼女を救い共に過ごす為にね」
「彼女も私のものになるわ」
「欲張りね」
「欲があるのは否定しないわ」
 彼女もそれは否定しなかった。
「言った筈ね。欲しいものは全て手に入れる」
「それね」
「そうよ。だからね」
 こう言ってであった。今全ての鏡が一変した。上から鮮血が滴り落ちてそれが染め上げてだ。その鮮血の向こうからまた言ってきたのである。
「来るといいわ」
「誘いにしては変わった招待状ね」
「演出よ」
 死美人の顔は鮮血の中で見えなくなっていた。だが声ははっきりと聞こえてきた。鏡の向こうにいるのは間違いなかった。
「これもね」
「演出というのね」
「貴女はそのまま鏡の中に入って来られるわね」
 ここでこう沙耶香に問うてきた。
「そうね」
「ええ、そうよ」
 そして沙耶香もそれを否定しなかった。
「その通りよ」
「これは闘いへの合図よ」
 それだと。また言ってみせたのである。
「それなのよ」
「合図ね」
「そうよ、合図よ」
 素っ気無い返答だった。
「演出、それだから」
「演出としてはいいわね」
 沙耶香もそれは認めたのだった。
「私達の闘いの前には相応しいわ」
「では来て」
 今度の言葉は誘いだった。
「私のところにね」
「ええ、それじゃあね」
 沙耶香はその専決の鏡の一つに入った。鮮血を潜るとその向こうは同じく鏡の迷宮であった。左右逆のその迷宮であった。
 そして彼女の前にだ。死美人がいた。ドレスを着てその青い顔で優雅に笑っていた。
 その笑顔でだ。沙耶香に対して言ってきたのであった。
「ようこそ、私の世界に」
「場所は同じなのね」
「そうよ、鏡の迷宮よ」
 まさにそこだというのである。
「いい場所でしょ」
「元の世界とはまた違った雰囲気でね」
 沙耶香もまんざらではなかった。言葉が笑っていた。悠然としている。
「いい感じね」
「そう思うわね。それではね」
「私を貴女のものとするというのね」
「ええ、その通りよ」
 まさにそうだというのである。言葉もそこにある意志も変わらなかった。
「今からようやくね」
「それでは」
 沙耶香の方が先だった。その右手を胸の高さで少し前に出してだ。そこに黒い炎を宿らせた。
 そのうえでだった。死美人に対して告げた。
「まずは挨拶代わりよ」
「その黒い炎をどうするのかしら」
「私は魔術師」
 目元と口元だけが笑みになった。微かな笑みである。
「そう、普通に闘うよりも趣向を愛するわ」
「趣向をね」
「遊びなさい」
 誰かに告げた。そうした言葉だった。
「今からね」
「遊ぶ?」
「そうよ、遊びなさい」
 また言うのだった。
「この世界で」
 沙耶香の言葉が終わるとだった。左右、そして上下の床と天井まで形作っているその鏡達から黒い炎が湧き起こる。それはまるで太陽のプロミネントの様である。
 若しくは蛇か。黒く燃え上がる蛇だった。それが死美人に襲い掛かるのである。
 死美人は動かない。そのかわりにだった。
 静かに立ったままだ。こう言ったのである。
「貴女も面白い趣向を見せるわね」
「気に入ってもらえたかしら」
「いいと思うわ」
 実際にこう答えたのだった。
 
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