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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇

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24部分:第二十四章


第二十四章

「とてもね」
「そう、気に入ってもらえたのなら何よりよ」
 沙耶香もその言葉を聞いてまた妖しい笑みを浮かべてみせた。
 しかしであった。死美人はその黒い炎を回りに見てもだ。微動だにしない。そうしてであった。
「炎には水よ」
「水なのね」
「ええ。正確に言うのならね」
 その右手をゆっくりと掲げてみせた。そしてその手の五本の指から何かが滴ってきた。それは。
 鮮血だった。それを出したのである。五本の指から滴り落ち続ける。
「これよ」
「血ね」
「そう、血よ」
 それだというのである。
「私が流すのはね。これよ」
「その血で私の黒い炎を消すというのね」
「私の血はありとあらゆることに仕えるわよ」
 こう言ってであった。
 滴り落ちた地は鏡という鏡を覆っていく。忽ちのうちに全ての鏡を染め上げてしまった。
 その紅になった鏡の中でだ。死美人が言うのであった。
「これでいいわ」
「鏡も何もかもを紅く染めるというのね」
「そうよ、そしてよ」
 そうしてだというのだ。
「御覧になって。貴女の炎はね」
「消えているわね」
「そうよ、全てね」
 こう言ってみせたのである。沙耶香に対してだ。
「私の血に消えてしまったわね」
「封じたのね」
 今の状況をこう表現した沙耶香だった。
「つまりは。そういうことね」
「そうよ、封じたのよ」
 死者の顔に笑みを作ってだ。そのうえでの言葉であった。
 そしてだ。死美人はさらに言ってみせたのである。
「そしてね」
「そして?」
「これだけじゃないわ」
 その言葉と共にであった。鏡を染め上げている血が動いた。
 それが一斉に沙耶香に襲い掛かる。無数の紅い矢となってである。
「矢!?」
「そう、血の矢よ」
 それだというのである。
「血の雨とも言うわね」
「つまり矢の雨ということね」
「しかも四方八方から襲い掛かるね」
 上から降るだけではないというのだ。実際に横からも下からも来ている。ただ降り注ぐだけではない。まさに紅の死の嵐ともなっているものであった。 
 それを浴びせながらだ。沙耶香は言うのであった。
「さて、どうするのかしら」
「私がこれをどうして防ぐのかということね」
「そうよ、それよ」
 まさにそれを問うのであった。
「この状況をどうするのかしら」
「そうね。水で来るのならね」
「ええ、血でならね」
「私もやり方があるわ」
 身動きはしない。だがその顔は悠然として笑っていた。そうしてであった。
 沙耶香はその笑みと共にだ。己の周辺に何かを出してきた。それは。
 青い氷であった。それで自分自身の周りに無数の障壁を作った。それによって血の雨を全て防いだのである。
「氷なのね」
「炎で相殺しようとも思ったけれどね」
「それはしなかったのね」
「そうよ、芸がないと思ってね」
 だからしなかったと。笑みをそのままにしての言葉であった。
「それは止めたのよ」
「それで氷だというのね」
「正確には色ね」
 今度はそれだというのである。
「色を考えてのことになるわね」
「紅に蒼」
「そう、それよ」
 具体的にはそれであるというのである。
 
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