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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇

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22部分:第二十二章


第二十二章

 見れば相手はまだほう、とした顔をしている。表情はぼんやりとしていて頬を赤らめさせている。その彼女に対して告げたのである。
「どうだったかしら」
「あの、これは」
「女もいいものでしょう?」
 楽しげな笑みでの言葉だった。
「これも」
「はい、こんなにいいものだったのですか」
「そうよ、これが女と女の交わりよ」
 また言う沙耶香だった。
「わかったわね」
「はい、今までは男の人しか知りませんでしたけれど」
「女もまたいいものなのよ」
 沙耶香はまた楽しげに述べた。
「わかったわね」
「はい、それでは」
「また会いましょう」
「はい。それでなのですが」
 美女は今コーヒーを飲んでいた。それとトーストにゆで卵といった組み合わせだ。言うまでもなくモーニングセットである。沙耶香も同じものを前にしている。
「あの」
「何かしら」
「またお店に来てくれますね」
「ええ、勿論よ」
 笑みはそのままの言葉だった。
「そしてその後でね」
「わかりました、ではまた」
「夜の宴は朝には必ず終わるもの」
 沙耶香はコーヒーの香りを楽しみながら述べた。
「けれどまた夜になればはじまるものだから」
 こう言って朝の軽い食事とコーヒーを楽しみ美女と別れた。そうして朝一人である場所に向かった。
 そこはあるテーマパークだった。朝もやの中に浮かぶそこはまだ浮かんではいない。だが沙耶香はその鍵がかけられている門をすっと通り抜けた。身体が霧になったかの様に通り抜けたのである。
 そのうえで中に入り先に進む。メリーゴーランドも観覧車も何もかもがまだ動いていない。呼吸を止めた様にである。コーヒーカップもジェットコースターも沈黙を守っている。
 お化け屋敷も射撃場も気配一つしない。沙耶香はその中を進みやがてある場所の前に来た。そこは。
 ミラーハウスと看板にある。その一階建ての横に広い建物の前に来たのだ。外は赤と白の縦のストライブ模様である。外見からはどういった中なのか全くわからない。
 だが沙耶香はすっとその入り口のところに来た。そしてまた閉じられたその入り口を通り抜けてだ。中に入ってみせたのである。
 暗がりの中に無数の鏡がある。鏡が壁となりそれで迷宮を作っている。鏡の中に向かい側の鏡が映りそれが無数の合わせ鏡となっている。
 その中に入ってだ。沙耶香は一つ一つの鏡に映る無数の自分自身を見ながらだ。そのうえで何者かに問うてみせたのであった。
「いるわね」
「ええ、いるわ」6
 鏡の中に沙耶香とは別に一人出て来た。彼女だった。
「ここにね」
「そうね。鏡の中には何時でもいるのだったわね」
「そうよ。鏡は全てつながっているものよ」
 死美人は鏡の中で笑っていた。そうしてであった。
 沙耶香の顔を見ていた。それぞれの鏡の中に映っている無数の顔でだ。暗闇の中に沙耶香と死美人の顔がそれぞれ映っていた。
 その中でだ。死美人は言うのであった。
「だからなのよ」
「そうね。だからなのね」
「さて、それでだけれど」
 あらためて沙耶香に対して言ってきたのだった。
「いいかしら」
「ええ、闘いね」
 沙耶香もそれに応えて言う。
「貴女とのね」
「闘いではないわ」
 死美人はそれは否定してみせた。
「貴女が私のものになる儀式よ」
「だから闘いではないというのね」
「そういうことよ。わかってくれたわね」
「わかったわ。私はそう思っていないけれどね」
「貴女は闘いだというのね」
「そうよ。そして」
 妖しく笑ってみせた。そのうえでまた言葉を出した。
 
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