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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇

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10部分:第十章


第十章

「宝石、いえ芸術ね」
「そう、美は芸術」
 死美人もその生きている者のものには見えぬ笑みで返した。
「だからこそね。彼女は手に入れるわ」
「そして彼女だけではないわね」
「そうよ」 
 今度は沙耶香を見ていた。そのうえでの言葉であった。
「貴女も。またね」
「手に入れるというのね」
「そうよ、貴女もまた手に入れて」
 沙耶香を見ながら言いだ。そうしてであった。
「鏡の世界で楽しませてもらうわ」
「美に執着し死者となってもなおそれが忘れられず」
 沙耶香は死美人の言葉を聞きながら述べた。
「魂だけが鏡の世界に入り今に至る貴女がなのね」
「そうよ。死しても美は忘れていないわ」
 そうだというのである。鏡の世界の住人となった今でもだ。
「私はね。まだよ」
「そう、まだね」
「さあ、だから今からどうかしら」
 妖しい言葉だった。その言葉を沙耶香にかけたのだった。
「貴女もこちらの世界に」
「折角だけれど」
 沙耶香は窓の中の相手を見てだ。そのうえでの言葉だった。
「今はいいわ」
「いいというのね」
「会ってすぐに行くというのはどうかしら」
「風情がないというのね」
「私の方から貴女のところに行くわ」
 こう言うのである。
「そしてその時に見させてもらうわ」
「その時になのね」
「そう、貴女が私に相応しいかどうか」
 それを見るというのである。窓の中にいる死美人を見ての言葉だ。そのうえで言ってみせているのである。微笑みを浮かべながら。
「確かめさせてもらうわ。それでいいかしら」
「私は欲しいものは何としても手に入れるけれど」
「腕尽くでもなのね」
「ええ。力を使ってもね」
 実際にそうだというのである。
「そうさせてもらうけれど。貴女には」
「私には」
「そうした腕は比べるもののようね」
 沙耶香を見ての言葉である。
「どうやらね」
「そうかもね。それなら決まりね」
「そうね。決まりね」
 沙耶香だけでなく死美人も言ってきた。
「それで。では貴女が決めた時に来て」
「貴女のところで」
「そのうえではじめましょう」
「随分と余裕ね」
「必ず手に入るとわかっているから」
 だからだというのである。
「余裕ではないわ。確信よ」
「確信というのね」
「ええ、そうよ」
 それだと平然と言う死美人なのだった。
「そういうことよ」
「言うわね。つまり私が気が向いてそちらの世界に来た時に」
「その時こそ貴女は私のものになるのよ。永遠にね」
「彼女と共に」
「その通り。ではその時にこそね」
 こう言ってであった。死美人の姿は消えた。沙耶香は窓の中から彼女の姿が消えたのを見届けてからだ。その百貨店のショーウィンドゥの前から姿を消した。そうしてあるレストランに向かった。それはイタリア料理のレストランであった。
 そこに入るとだ。すぐに店の者が来てだ。丁寧な言葉で彼女に問うてきた。
「お待ちしていました」
「ここに来るのは暫く振りね」
「はい、そうですね」
 まずはこうしたやり取りからであった。
「暫く日本を離れておられたのですか」
「そうよ、少しね」
 そうであったというのだ。沙耶香は店の中で悠然と微笑んでいる。そのうえで店の中を少し見回していた。店の中はイタリアの庶民というよりは何か水族館を思わせるものであった。薄暗さがありソファーの席の端には水槽がありそこに熱帯魚達が泳いでいる。飾ってある木々は熱帯のものを思わせる。沙耶香はその店の中に入ったのである。
 
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