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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇

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11部分:第十一章


第十一章

 店の中はレストランというよりはバーを思わせる。カウンターまである。その店に入ったうえでのやり取りであった。
 そして店の者に対してさらに問うのであった。
「あの人は」
「まだです」
 彼は静かにこう述べた。
「もう少しお待ち下さい」
「そう、まだなのね」
「申し訳ありませんが」
「貴方は謝らなくていいのよ」 
 沙耶香は店の者に対しては静かに微笑んで述べたのだった。
「それはね。いいわ」
「宜しいのですか」
「貴方が悪いわけではないし。誰も悪いということはないわ」
「誰もですか」
「そう、誰もよ」
「左様ですか」
「そうよ。それなら待たせてもらうわ」
 こう言うのだった。
「今はね」
「わかりました。それでは」
「個室の予約は」
 次にはこのことを問うたのだった。
「それはどうなっているかしら」
「はい、できています」
 店の者は静かに微笑んで答えてきた。
「御安心下さい」
「そう。それは何よりよ」
「ではこちらへ」
 こう話してだった。沙耶香はある部屋に案内された。そこも席がソファーになっていた。赤い証明はあまり明るくはないがそれが独特の雰囲気をかもし出している。部屋にも熱帯のものを思わせる植物がある。灯りはキャンドルを模している。窓はあまり大きくないものが二つある。だがそれは飾りにしかなっておらずそこから入る灯りはどうということのないものであった。そこに入ったうえで座り待つのであった。壁もまた独特のもので何かカタコンベを思わせる模様であった。その模様の部屋であった。
 そこに入り暫くするとだ。黄色いスーツの美女がやって来た。歳は四十を少し越えたところであろうか。黒髪を優雅にウェーブにさせており眉の形は美麗である目は優しげであり切れ長のものだ。それが奇麗に伸びている。
 顔には皺一つなくそれがさらに気品を醸し出している。白い肌もきめ細かい。化粧は薄いが美貌を際立たせるものだ。背は普通程で一六〇位だ。女としては長身である沙耶香が一七〇を優に超えているのとはかなりの違いがある。しかしそのスタイルはかなりよく膝までのタイトスカートのスーツが実によく似合っている。そうした美女であった。
 その美女は個室に案内されてそのうえで沙耶香のところに来た。そして気品のある笑みを浮かべて沙耶香に対して言ってきたのであった。
「こんにちは」
「ええ、こんにちは」
 沙耶香は妖艶な笑みであった。その笑みで言葉を返したのである。
「暫く振りだけれど元気そうね」
「けれど私は」
「私は?」
「寂しい思いをしたわ」
 美女はここで寂しい顔になって言ったのだった。
「貴女と会えなくて」
「あら、社長夫人ともあろう者が」
 沙耶香は彼女が自分の向かい側の席に座るのを見ながら述べた。彼女が座るとそこから本格的な話になった。まずはそれぞれワインが運ばれた。
 どちらもグラスのワインだ。そのワインがグラスに注がれると沙耶香はまずは一杯飲んだ。そのうえでその社長夫人に対して言うのである。
「寂しいということがあるのかしら」
「あるわ。何故なら」
「何故なら?」
「貴女がいないから」
 だからだというのだ。沙耶香を見ながらの言葉であった。
「だから寂しかったのよ」
「私がいないそれだけでなのね」
「ええ」
 こくりと頷いた。そのうえでの言葉だった。
「そうよ。だからよ」
「大袈裟ね。私がいないだけで」
「確かに主人はいるわ」
 夫のことも話した。
「私を愛してくれて尊敬できる主人が。それに可愛い子供達も」
「では何の満足もないのではない筈よ」
「違うわ。私には貴女が必要なのよ」
「私がなのね」
「ええ。女として女の悦びを与えてくれる貴女が」
 必要だというのである。
 
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