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IF―切り開かれる現在、閉ざされる未来―

作者:黒川 優
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序章 May―踊り始める現在
  Collision, Who will dance?





当て拍子

用語としては原作5巻で登場。
律動を合わせることで自在に場を支配する古武術のひとつ。






(セシリアside)


「じゃあ、お願いされたConflictを始めようか」
「はい!」

2人っきりで外れにある第7アリーナでそれぞれ機体を展開する。
箒さんを見ると本当に切に感じるですが他の方がいない、2人きりの状態というのはこの学園で作るのはとても難しいです。
そのチャンスを一週間足らずで得られたのは大きいです。

「っと言ってもConflictって特別教えることないんだよな」
「と申しますと?」
「簡単に言うと慣れから来る技なんだ」

優さんはリブァイブからアサルトライフルを展開し横を向きながら的に放たれる。
得点は10、9、9、8、9、9と高得点。
わたくしも遠距離武器を使っていますがここまではいけないです。

「というわけで最初は山ほど引き金を引くことから始まる。
正直、Conflictだけを習得する為に練習するのは効率が悪いんだ」
「では、他の技を学んだ方がいいのでしょうか?」
「ん~…でも接近戦術に関してはConflictが一番なんだよな…。
それにセシリアはそれを知りたくて来たんだし」

優さんはう~んと唸りながら渋々ながら答えを出してくださった。

「仕方ない。最短で覚えられるようにするか」
「それってスパルタってことですか?」

正直、家を維持する為の勉強並のことを要求されてもわたくしはできません。
あの時期は何かがおかしかった。

「いや。いくつか注意することで習得への道は近いよ。
当然ながら銃身の確認。セシリアのスターライトMk-3は銃身が長いから特にだな」
「そうですね」

詰めすぎると撃てなくなりますしね。

「あとは各撃ち方に対する軌道を覚えること。
スコープを覗かない射撃で独自のサイトを持つこと。
例えば、帽子の鍔をそれ代わりにする、とかな」
「はぁ……」

つまり何千ともあろう射撃体勢の弾道をおおよそ記憶していると言うのですか…?
眩暈がしますわ…。

「優さんは一体どれだけ訓練をしているのですか?」
「まぁ…日によっては一日訓練していた時もあったからな」
「一日中ですか!?」

一般的にISの訓練はどんな内容にしても6時間以上は無理。
それだけ体力があるとは…やはり殿方は違いますね。
まさか……

「流石に一日やれとは言わないよ。俺もされた時は急を要された時だけだったし」
「ですよね」
「ただ、アリーナの開館時間は限られてるからな」
「……………」

(それって)
時間内までは死ぬ気でやれってことじゃないですかヤダー。

「さて始めるか」





(セシリアside)


「はぁ……」

昨日あんなに撃ったせいで右腕の感覚がおかしくなってます。
途中からは片手で持たされての射撃だったので真っすぐ歩いてるつもりでも右に傾いている気がする。
しかも、撃った弾道を逐一覚えないといけないので訓練の光景が脳裏に浮かび上がる。
大体のコツは身につけましたが、もうあんなことしたくない…。
私も近接型のISを使いたいです。

「セシリア」
「優さん。おはようございます」

優さんはふわっと柔らかい笑みを浮かべてくれる。
昨日の訓練を乗り越えられたのは本当に優さんの存在が大きかったです。
これが祖国のお堅い人と一緒だったら死んでました。
でも、これ飴と鞭ってやつですよね?

「おはよう。これを渡そうと思ってたんだ」

小型の銃を渡された。小型と言ってもIS武装。
でも両手なら生身でも使えますね。

「これは?」
「スターライトMk-3の拳銃型だな。昨日山ほど撃ったからな。解析する時間があった」
「ありがとうございます」

よく見ると自動拳銃にリボルバーが付いている謎過ぎる変態構造。
これは銃弾が実弾ではなくエネルギー弾だからできる芸当ですね。

(データ見せたわけでもないのによくできますね…)
操縦技術だけでなく整備技術もあるということ。
優さんの頭はどうなっているのでしょうか?

「で、これが予備の弾倉。
でこれが機体からエネルギー輸送させる装置」

わたくしの手の中にゴロゴロとあまり見覚えのない装置と説明書らしい紙が山のように積み上げられた。
優さんも一緒に持ってくださるこのシチュレーションはとても嬉しいのですが。

「優さん……」
「ん?」
「つまり、これも…覚えないといけないのですよね?」

弾道も含めて。

「そうだな」

爽やかな笑みを浮かべて恐ろしい真実を伝えられた。
あの地獄の訓練をまた……。

「容赦ないんですね…」

きゅーと倒れてしまった。










(一夏side―第三アリーナ)


シャルルが転校、優が学校に戻ってから2週間。
土曜なのになぜかある授業が終え、やっと迎えた自由時間。
と言っても俺は皆より遅れているから訓練の時間になる。

というわけで今はアリーナで優と模擬戦をするところだ。

「白式も雪片だけなのか?」
「あぁ。欠陥機らしいからな」

俺の言葉を聞いた優はおかしそうに笑った。

「雪片があって欠陥機扱いか…贅沢だな」
「零落白夜あっても剣一刀は辛いぞ」

さっきのシャルルとの模擬戦見たよな?遠距離武器で舜殺だっただろ……。

「じゃあこの勝負、俺が一刀で勝ったら、その言葉撤回しろよ?」

優は借りた打鉄の近接ブレードを俺に向けた。

「剣道で俺に勝ったことないだろ、優」
「ISと剣道は一味違うことを教えてやるよ、一夏」


――ガキン!

開始早々、俺は瞬間加速で一気に加速して推進力を付けた一撃を振るう。
それを優は肩部の物理シールドをふたつあわせて防いできた。

「大見得切った割に受け身から入るなんてな」
「別にでかく出たからって攻撃的に戦うわけじゃない」
「あぁ、そうかい!」

1回刀を払い、再び刀を交える。
優はそれも苦しそうに俺の剣を受け流していた。
優はコンフリクトを使ってまで遠距離系を使うことに拘るのは接近戦を苦手にしているからだ。
なら、セシリアと戦った時と同じように近づけばこっちの土俵に持ち込むことができる。

「ちっ……」
「逃がさなねぇ」

距離を取ろうとする優に瞬間加速で再び肉薄する。
その勢いのまま下段から一気に上段に振り上げ、優の手から刀を弾く。
優はこの流れを読んでいたらしく完全に弾かれる前に収納し再展開して上段から降り下ろしてきた。
が、雪片は優の刀と交わることはなく空を切った。

(わざと展開速度を遅くして…!?)
雪片と俺の体の間で刀が完全展開される。そこから一閃を受けた俺はバランスを崩される。
この後、優が言っていたことの意味を身をもって知った。

斬ったら武器を収納、すぐに逆の手に展開、斬る、また収納、展開……

一刀だけで二刀の乱舞のように次から次へと剣撃が放たれる。
瞬く間に白式のシールドエネルギーは無くなり俺は負けた。


「大丈夫か?」
「あぁ。ありがとう優」

結果を見れば惨敗。
きっとポンポン攻撃できたのも、優が受身の体勢で攻撃を受けてたのも当て拍子を使って俺が攻撃しやすいリズムを作ってたからだろう。

けれど、俺は今までISを使った中で一番の確証を得た。
優が見せてくれた連続展開。零落白夜を持つ白式に力は要らない。
相手が防ぎきれない程の手数さえあれば俺は近接戦で最強になれる。

「あとは遠距離に対してだな」
「あぁ、それは……」

優は何かを言っていたが不意に奥の方で皆が騒ぎ始めたために声はかき消された。

「ねぇ、ちょっとアレ……」
「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」
「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」

皆の視線の先にいたのはもう一人の転校生、ドイツの代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

『おい』

ISのオープンチャンネルで声が飛んでくる。
初対面があれだったのだから、その声は忘れもしない。ラウラ本人の声だ。

「……なんだよ」

気が進まないが無視するわけにもいかない。
俺がとりあえずの返事をすると、言葉を続けながらふわりと飛翔してきた。

『貴様も専用機持ちか。なら私と戦え』
「お前と戦う理由はないだろ」

それにここにはたくさんの人がいる。今模擬戦をするのは危険だ。
それに学年別トーナメントも近い。
恐らくそこで戦う可能性は十分あるし、せめて戦うにしてもさっきの連続展開を覚えてからにしたい。

『なら、』

警告――敵IS攻撃体勢へ移行

『戦わざる得えなくしてやる』

言うが早いか、ラウラはその漆黒のISを戦闘状態へとシフトさせる。
刹那、左肩に装備された大型の実弾砲が俺に向けられた。

――ザクッ!

『なに!?』

ラウラのレールガンには近接ブレードが深々と刺さっていた。

『貴様…』
『ようラウラ。ちょっと度が過ぎてるんじゃないか』

ラウラのレールカノンの上に乗り、ラウラに機体の隙間に合わせ部分的に打鉄を展開した優が立っていた。

『邪魔をするなら貴様から蹴散らすぞ』
『おぉ怖いこわい。とても軍人の言葉とは思えないな』

ラウラは殺気放ちつつ優を睨み付ける。
対して優はリラックスした体勢をとっているが瞳の奥ははっきりとラウラを捉えていた。
この一触即発の事態に周りも緊張が走る。

『そこの生徒!何をやっている!』

突然アリーナにスピーカーからの声が響く。
異変を感じてやってきた担当の教師だろう。

『……ふん。今日は引こう』

横やりを入れられて興が削がれたのか、ラウラは機体を収納してアリーナから出ていった。




(シャルルside)



一足早く部屋に戻ったシャルルは優とラウラのやり取りを思い返していた。

まっすぐ閃光のようにアリーナを飛翔し一撃で敵の攻撃を刺す。
その姿は訓練機を纏ったものでも凛々しく頼もしいものだった。

(僕も、あんな風に強くなれるかな……)
あんなに強かったら僕は………。

「……シャルルー、シャルルー」

意識を前に戻すと優が僕の前で手を振っていた。

「優!?いつから」
「いや、最初から?それより顔赤いけど、熱?」

僕の顔が赤いのが気になったのか手を僕のおでこに伸ばす。

「大丈夫だよ!うん大丈夫!」

慌てて優から離れて話題を変える。

「優はボーデヴィッヒさんとも知り合いなの?」
「あぁ。前ドイツ軍にお世話にかったことがあってな。
あの反応を見ると分かるけど仲は良くない」

やっぱり委員会、しかもIS界の警察AIFにいると色んな所を回るせいか
学園みたいに1ヶ所しかない施設に行くと親戚が集まった小さなパーティーみたいなものなのかもしれない。

「ねぇ……優」
「ん?」
「どうしたら優みたいに強くなれるの?」
「シャルルは高速切替があるからコンフリクトは必要ないし俺がどうこう言うものはないと思うが」
「そうじゃなくてね。その、なんて言うんだろう。人間的にって言うのかな?」
「……………」

優は僕の言葉に黙ってしまった。
やっぱりこんなこと聞かれても困るよね…。

「……これはセシリアに言ったんだが良くも悪くも経験が必要なんだよ」
「経験?」
「こうして失敗した成功したっていう過程。
もし、シャルルが俺を強いと見えるならその分俺は苦労してるってわけ」

それは逆に言うと数日では僕はこの状況を打開できないということになる。

「まぁ、なんでもひとりでする必要はないんだ。
助けて欲しがったら言ってくれ。力になる」
「……うん。ありがとね」
「じゃあ、飯でも食うか」

簡単に身仕度をして食堂に向かう。

僕は優の背中を見つめる。
助けてと言えたらどれだけ楽だろうか……。
けれど言えない。言えばきっと僕は優を殺してしまう。

(優、お願い。できたら…僕を助けて)




(優side―寮長室)


珍しく千冬さんに呼ばれた俺は去年とは見違えるほどの部屋の椅子に座って待っていた。
恐らく以前、授業の時に言った仕事のことだろう。

「様子はどうなんだ?」
「普通でしたよ」

俺は当たり障りのない事実を報告する。
と言ってもそれは向こうから見た場合だ。彼女から見た場合は何かをしている。
これは後々楽になるかもしれないので報告しないが。

「……お前、今回の仕事やる気あるのか?」
「どちらかと言えば俺より向こうの方がやる気がないように見えますけど」
「質問に答えろ」

ここには一夏がいるせいかかなりピリピリしたした声で問い詰めてくる。
それだけ余裕がないということだ。

「大丈夫ですよ」

別に一夏に危険が迫るわけじゃない。
向こうからしたら俺の方が希少価値があるからな。

「まぁ俺は向こうが踊らない限り何もしませんが」
「なぜだ?お前は自分でした調査でこの事に対して明確な結果を出している。
状況的な証拠も物質的な証拠もある。なのになぜ踏み込まない?」
「俺には俺のやり方があるってことです」
「……………………」

何か言いたそうに口を開いたが納得してくれたようだ。

「あと、ボーデヴィッヒのことだがまた揉めたらしいな」
「最初に敵意を向けてたのは一夏でしたけどね」

さすが千冬さん大好きっ子。
っというよりその力に惚れていると言った方がいいのか。
だからモンドクロッソ2連覇を逃した原因である一夏が許せないのだろう。
それなら似た理由で俺も殺されそうだが。

「お前が手を抜くなり何なりして負けたらどうだ?」
「嫌いな奴ほど目に付くって言葉があるでしょ。
手を抜いたらすぐ気付きますよ」

俺の場合、瞳持ちだから使わなかった時点で手を抜かれたとバレてしまう。
誰から見ても分かるくらい瞳に変化が表れるからだ。

「それに俺が負けたら助長するだけでしょ」
「まぁな………」

もっと根本的な部分を解決しなければならないのだが、俺も千冬さんも中々出来ていない。
まぁ嫌いな奴に説教されて「はいそうですね」と言える人は大人でも少ない。
俺が率先して解決しようとしても悪化するだけだ。


「まぁこれは一夏にでも任せましょう」
「アイツも嫌われてるだろう」
「大丈夫でしょ。アイツはアイツなりに強いですから」
「まぁ…、そうだな」
「あっ。あっさり認めましたね。やっぱり愛すべき弟に向ける言葉は違いま――」

―ガシッ

アイアンクローを決めようとする右手を両手で何とか押さえた。
そう何度もくらってたら頭がもたない。

「私はからかわれるのは嫌いだ」
「分かりましたんで手を納めてくれませんか?」

空いた左手が俺の頭に置かれる。
何をされるのか検討がついたけど手を掴まれてるせいで逃げれない。

「あともう1つ、お前に説教をできるチャンスは逃さん」

――ギリギリギリギリ

思いっきり指先に力を入れられた。
爪が頭に突き刺さってホントに痛い。

「止めて下さい!暴力反対!」
「ならとっとと仕事して来い」

頭を掴まれたままぽいっと部屋の外に投げ出されドアを閉められた。

「いててて…」

本当に一夏のことになると融通が利かなくなるな。
こういうのを見るたびにやっぱりあの時ああしといて良かったなと思う。

さて言われた通り仕事をしますか。

「シャルルー……はどこだ?」

隣の自分の部屋を覗くが誰もいる気配がしない。
まぁいつも一緒にいたらそれはそれで問題か。(鈴には白い目で見られてるし)
たぶん、一夏の所にでもいるだろう。

俺は足早に寮を出た。








(セシリアside―第3アリーナ)


セシリアは一足早くアリーナで訓練を始めようとしていた。

話によるとこの学年別トーナメントに優勝すると男子と付き合えるとか。
何としてでも優勝したいが専用機持ちの多いこの学年、一筋縄ではいかないのは確か。
せめて、この前優さんに教わったコンフリクトをマスターしたい。

アリーナの設備で的を出現させ、以前の特訓で優さんがくださった散弾タイプのスターライトを構える。
が、突如放たれた砲弾に緊急回避する。

「貴女は……」

砲弾が放たれたと思われる場所へ視線を向ける。
漆黒の機体、先日、一夏に敵対心を向けていたラウラ・ボーデヴィッヒの姿があった。

「一体何の御用でしょうか?」
「簡単なことだ。腕試しに貴様でも倒す、それだけだ。
訓練機に劣る貴様が腕試しになるかは分からんがな」

彼女は卑下するような眼差しで私を見ていた。

「その腕試しの先には優さんがいるのでしょうか?
もしそうなら貴女は優さんに勝つことはありません。
貴女と優さんでは持っている力が違います」
「どうだか。教官の存在を消そうとしたヤツなどクズ以外の何者でもない。
そんなものに力について説かれる筋合いはない」
「……貴女が優さんと何があってそう言うのか分かりません。
ですが、優さんは素敵な方です。
少なくとも、ただ力を振り回すだけの貴女と比べては失礼なくらい」

目の前の彼女の話が本当なら彼は力がどのようなものか知っている。
持ち過ぎること、それが何を及ぼすのか。
だから力を持ったことで傲慢になることはない。
そんな彼を非難することは誰もできないはず。

「どうやら口で言っても分からないようだな」
「えぇ。力が全てだと思う貴女に賛同する気はありません」

お互いに装備の最終安全装置を外す。

警告――エネルギー反応有り

警告とは裏腹に何も見えないが、それらが地面に当たったことで何なのか理解した。
ラウラさんはそれを手を出すことで防ぐがさらに武器が投擲されたために回避行動を取る。

「まったく。見てれば人は叩くし他人をクズ呼ばわり。もう少しまともなことは出来ないのかしら」
「鈴さん」

彼女は投擲していた双天牙月を再展開して肩にかけながらすでに戦闘体勢の龍砲を彼女に向けていた。

「この戦い。混ぜさせてもらうわよ。
良いでしょうジャガイモウサギ?
どうせ私も訓練機に劣る人なんだから」

挑発するような言葉と皮肉が出てくる。
彼女も優さんの1面を知っている。
彼女なりに優さんを認めていることがわかった。

「ふん、好きにするといい。
貴様もあのクズを擁護するというなら叩き潰してくれる」

ボーデヴィッヒさんはわずかに両手を広げ自分に向けて振る。

「気を付けなさいよ。さっき衝撃砲を止めたアレ、AICよ」
「分かってますわ」

―AIC
日本語では慣性停止能力と言う。
恐らく鈴さんの衝撃砲と同じようにエネルギー制御によって対象の動きを止めれるのでしょう。捕まった後にレールカノンで撃たれたら即死でしょうね。
それだけは避けたいところ。

「とっとと来い」
「ええ!」
「上等ですわ!」










(一夏side―校舎内)


ピピィ、ピピィ、ピピィ―――

「おぉなんだ?ISが信号をキャッチ?」
「これはEmergency Callだね。ISがエネルギー的に、またはシステムに問題がある時、他のISにその危険を伝えるシステムなんだけど……」

シャルルの話す声がどんどん小さくなる。
シャルルの説明が正しければ、それは普通学園で発せられるものではない。
そうなると何か問題が起こっているということ。

「そのCallを出してるISってどこか分かるか?」
「こっちの方だよ」
「第3アリーナの方か……。急ごうシャルル」
「うん」








(セシリアside)


「鈴さん!」

インターセプターを投擲しワイヤーブレードを切断した後、ビット2機を鈴さんの脇に挟ませ移動させる。

「1回下がってください」
『バカ、アンタの装備じゃ』
「大丈夫です」

鈴さんと入れ替わるようにボーデゥィッヒさんに接近する。

『ふん。遠距離のブルーティアーズが接近戦など』

勿論、近接武器がインターセプターしかない私が接近戦をするのは無理があるし、したくもない。
彼女のワイヤーブレードを上へ回転しながら回避しつつ散弾型のスターライトで攻撃をする。

『コンフリクトか。だが、このレーゲンには効かん』

ボーデゥィッヒさんは16個もあるワイヤーブレードを12個わたくしに回し捕らえようとしていた。
通常のスターライト、更にビットを展開し彼女に応戦する。
とにかく、負けることだけはできない。
神経を集中させ光弾でワイヤーブレードを撃ち抜き、レールカノンの軌道を自分から逸らす。

駆け引きについに彼女はAICを2面展開してわたくしの光弾とビットの動きを止めた。

「止まりましたわね」
『お前もな』
「えぇ。私だけが」

彼女の言葉に細く微笑む。
確かに、私はビットを操作しながら別の行動することは殆どできない。
けれど、わたくしは一人じゃない。
彼女の後ろには最大出力の龍砲を構えた鈴さんがいた。
2門の龍砲の砲撃により辺り一帯が煙に覆われた。

「鈴さん、大丈夫ですか?」
「何とかね。全く、アンタも無茶するわね」
「苦情は後で。これなら――」

言葉は途中で止まる。
霧が晴れ、そこに佇んでいるのはあれだけの攻撃を受けながらもほぼ無傷の彼女だった。

『終わりか? ならば――私の番だ』







(一夏side)


アリーナにたどり着いた俺達が見たのは模擬戦なんかではなかった。
ワイヤーブレードで拘束するだけならまだいい。
だが、ひたすら殴った後にそのワイヤーブレードで自分の足元に引きずり戻すその様は暴力と言っていい。

「おい!やめろラウラ!」

まずい。ブルーティアーズもEmergency Callを発するようになった。
鈴の甲龍もデッドラインに入っている。
このままISが解ければ二人に命が危ない。

「来い百式!」

零落白夜を発動しアリーナのシールドを破壊しアリーナの中に入る。

「その手を離せ!」

瞬間加速で一気にラウラの懐に入り零落白夜を展開させる。
が、俺の体は何かに押さえつけられたかのように動かせなくなった。

「こんなものか……」
「くっ、この…」
「やはり貴様も教官を汚す存在。失せろ」

腕部からプラズマブレードが展開され俺の首元を狙う。
何か、この状況を方法は―――

―ガキン!

「なに!?」
「……どうやら動きを止めたのは雪片だけだったみたいだな」

そうなら1回収納して再び展開すれば良い。
優との模擬戦での教訓がここで役に立つとは思わなかった。

シャルルが この隙をついて銃弾を撃つ。
体勢を崩したこのタイミングでの攻撃は痛かったらしい。
ラウラは回避行動を取らざる負えなかったようだ。

『一夏!今のうちに二人を助け出して!』
「分かってる!」
「織斑 一夏、貴様だけは逃がしはしない」

劣勢でありながらもラウラは半分の8個のワイヤーブレードを俺に回してきた。

(頼む、出来てくれ…-)

意識を集中させ優が教えてくれた連続展開を行う。
中途半端ながらもワイヤーブレードに拘束されることだけは避けれた。

「二人共、掴まってくれ」
「えぇ……」
「助かりますわ」

一気に離脱を図り二人に負担が重くならない程度に加速する。
瞬間加速特有の発動感覚が広がった矢先、背中から衝撃がきた。
俺の逃げ道を予測してラウラがカノン砲を撃ってきたのだ。

何とか二人を守ったが直撃を受けた百式が強制収納されてしまった。

「一夏!!」
「余所見している暇はないぞ」

俺達が攻撃を受けたことに気がそれてしまったシャルルは一瞬でワイヤーブレードに拘束されてしまった。

「所詮その程度か……。なら貴様に用はない――消えろ」

生身の俺達に容赦無く再度カノン砲が撃たれる。

――バアァァァァン!

俺らに当たる前に何かによって砲弾の軌道が大きく変わりアリーナのシールドに着弾した。

(いったい……何が………)
朦朧とする意識の中、目を開けるとそこには風を纏う淡緑の機体が俺達の前に立っていた。






ワンポイントコーナー

アインス

亡国機業がIS狩りに使った機体(=亡国機業が世に見せた初めてのIF)。
またはアインスの操縦者(未公表)のことを指す。

アインスは総称であり、実際は複数の機体を所持している。



 
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