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黒魔術師松本沙耶香 仮面篇

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21部分:第二十一章


第二十一章

「罪を犯すものが人よ」
「けれど」
「安心なさい」
 彼女を落ち着かせる。
「これは神の御前だから」
「だから余計に」
「余計にいいのよ」
 法衣の中に手を入れ。直接責めながら言葉を囁き続ける。最早逃げることは適わなかった。
「若し神が許さないというのなら」
「許されるわけが」
「何故罪があるのかしら。何度も言っているけれど」
「そうして貴女は」
「ええ、そうよ」
 シスターが何を言いたいのかわかったうえで。言うのだった。
「さあ、清められるには罪を神の前で犯すのよ」
「嫌です、そんな」
 シスターはそれを必死に拒んだ。
「誰がそんなことを」
「嫌なのね」
「絶対に」
 言葉は強かった。だが。
「あら。けれど」
 沙耶香は言葉では強情な相手を陥落させるのにここでも言葉を用いた。
「身体は違うみたいよ」
「えっ・・・・・・」
「まるで私が欲しくてたまらないみたいに」
 囁きはまさに悪魔の言葉であった。それで相手を篭絡するつもりであった。
「その目も潤んで。顔も」
「顔も」
「赤くなっているわよ。だから」
「どうしろと」
「だから。罪を犯すだけよ」
 また囁くのだった。さらに相手を篭絡する為に。
「それだけでいいのよ」
「私に、神にお仕えする私に」
「だから余計に」
 篭絡は続く。沙耶香にとってこれは巣にかかった獲物を手繰り寄せるようなものであった。それを楽しんでもいる目であった。
「罪を知ることも」
「うう・・・・・・」
「さあ、今」
 もう全ては終わっていた。後は最後の一言だけであった。
「罪を」
 シスターは身体中の姿を抜いた。それが終わりであった。
 彼女は沙耶香の前にその身体を差し出すことになった。沙耶香は主の前でその身体を味わう。相手に背徳の罪を教えることの悦びを楽しむのであった。
 それが終わると彼女は。服の乱れたシスターを椅子の上に置いて声をかけた。既に彼女は服を調え身だしなみも奇麗にしていた。その状態で彼女の前に立っていたのだ。
「素敵だったわ」
 恍惚とした顔のシスターに声をかける。
「こんなに楽しんだのははじめてよ」
「これが罪・・・・・・」
 シスターは赤らめさせた顔で言う。その顔にはもう罪への後ろめたさなぞ何処にもなかった。
「そうよ、これが罪よ」
 沙耶香はその彼女に告げる。
「これがね」
「はあ・・・・・・」
「どう?いいものでしょ」
 そうシスターに問う。
「罪を犯すというのは」
「私はこれからどうすれば」
「罪は清めればいいもの」
 その言葉をまた告げるのであった。
「それだけよ」
「それだけ・・・・・・」
「そう、それだけ」
 まるで催眠術の様な言葉であった。実際に彼女は自分の言葉にマインドコントロールを含ませていた。これもまた魔術の一つである。
「それだけでいいのよ」
「そうだったのですか」
「罪は。その都度清めればいいだけなのよ」
 あえて背徳を勧める。それもまた愉しみであるかのように。
「だから何度でも」
「何度でも」
「味わうといいわ。それじゃあ」
「あっ」 
 沙耶香が出ようとすると身体を前にやってその手を掴んできた。手を掴まれた沙耶香は含み笑いを浮かべて彼女に顔を向けて問うた。
「何かしら」
「もう。帰られるのですか?」
「そうよ」
 声にも含み笑いを入れて述べる。
「それが何か?」
「まだ。私はまだ」
 沙耶香の方を見て言う。
「このままでは」
「もう満足した筈だけれど」
「これで終わりなんて」
「終わりじゃないわ」
 引き止めようとするシスターに対して言うのだった。
「終わりじゃないですか」
「今度は貴女の番だから」
「私の?」
「ええ。貴女が罪を教えるの」
 悪徳を唆す。これもまた悪魔めいた笑みで行うのだった。
「貴女がね。今度からは」
「私がですか」
「それはいいわね」
 またそれを勧める。
「貴女がね」
「わかりました」
 とろんとした目のまま答える。
「それじゃあ今度は私が」
「そうよ、貴女が」
 沙耶香は自分の言葉をシスターの心に刻み込む。それは薔薇の様に甘く、蛇の毒を持つ言葉であった。その言葉をシスターの心に含ませたのであった。
「罪を教えていくの。いいわね」
「わかりました」
 うっとりとした声で答える。
「今度からは私が」
「御願いね」
 そこまで言って教会から姿を消した。教会を出るとまた青い渦で場所を移った。向かうのはニューヨークの中だった。そこでまた老婆に会うのであった。
 
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