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黒魔術師松本沙耶香 仮面篇

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20部分:第二十章


第二十章

 教会に入るとまずは誰もいなかった。ステンドガラスから黄色や青、緑の光が差し込み十字架にかけられたキリストが礼拝堂を前にしているだけであった。沙耶香はそのキリストを見てまずは顔を顰めさせた。
 だがそれはほんの一瞬のことで左右の木の席の間を通り抜ける。そうしてその礼拝堂の前まで来ると沙耶香が入って来た入り口から一人の若いシスターが入って来たのであった。
「どちら様でしょうか」
「お祈りを捧げに来たのだけれど」
 沙耶香は彼女に顔を向けてこう言うのだった。
「駄目かしら」
「いえ、それは」
 シスターは答える。見れば白い絹の様な肌に森の色の瞳をした可愛らしい顔立ちである背は沙耶香よりやや小さい程度であり服から見えるのは見事な肢体であった。沙耶香はそうしたものも見ながらシスターが自分のところにやって来るのを見ていた。
「構いませんが今は牧師様は」
「いないのね」
「ええ、そうです」
 そう沙耶香に答えてきた。見れば近くに寄ればそれだけその美貌がわかった。顔にはソバカス一つなく若々しさを醸し出していた。沙耶香はその若さが気に入った。
「申し訳ありませんが」
「いいのよ。その方が都合がいいし」
「お祈りにはですか?」
「そうね。後は」
 ここでふっと姿を消してみせた。
「あれ、どちらに」
「ここよ」
 すぐに姿を現わす。そこはシスターの真後ろであった。
「ここにいるわ」
「何時の間に」
「そんなことはどうでもいいのよ」
 目を細めさせ口元に微かな笑みを浮かべての言葉であった。
「大したことはないから。ところで」
「は、はい」
 いきなり後ろに出られて戸惑いを隠せないシスターに声をかける。シスターはその声にさらに戸惑う形となっていた。それが声からわかる。
「この辺りでも奇妙な事件があったわね」
「駅ででしょうか」
「そうよ。話は聞いているわ」
 シスターに対して後ろからそう声をかけ続ける。
「何でも。顔が切り取られていたとか」
「そうです」
 シスターは沙耶香のその問いに答える。
「不思議ですけれど」
「そうね。不思議な事件だわ」
 言葉と共にそっと手を動かす。そうしてまずは彼女の顎を擦るのであった。
「そう思うわよね」
「思います。けれど」
「けれど。何かしら」
 シスターの言葉に問う。
「そこから先の言葉がわからないのだけれど」
「この手は」
「それは気にしなくていいのよ」
 そうシスターに告げるのだった。
「今はね」
「今は、ですか」
「そうよ。それより貴女ともっと話がしたいわ」
 耳元に唇を近寄せて囁く。さながら悪魔が聖女を誘惑するように。
「もっとね。それは犯人はわかっていないのね」
「残念ですが」
 シスターは沙耶香の指を感じながら答えた。
「何も。顔は見つかりませんでした」
「そうらしいわね。頭の前の半分近くだけがなかったのね」
「はい、その部分だけ奇麗に取られて」
「同じね。それじゃあ」
 そこまで聞いてわかった。
「ニューヨークでの他の事件とも」
「それも御存知なんですね」
「当然よ。だって」
 ここで手を胸にやる。そうして後ろから丹念に愛撫をはじめるのだった。
「有名になっているから。犠牲者は美女ばかりね」
「そうです」
 またシスターは答えた。胸を揉まれて息が荒くなりかけているが。
「ただ。その手は」
「思った通りね」
 沙耶香の声が笑っていた。
「大きくて。しかも柔らかい胸だこと」
「止めて下さい」
 遂にたかりかねて言うのだった。
「こんなこと。続けるなんて」
「あら、駄目なのかしら」
 その笑った声で問う。
「それはどうして?」
「お祈りに来られたと聞いたのに」
「それはもう済ませたわ」
 嘘であったがそんなことは沙耶香にとってどうでもいいことであった。
「駅でのお話も」
「それも終わったわね。けれど」
「けれど?」
「まだ一つ終わっていないのよ」
「それは一体」
「貴女よ」
 また耳元で囁くのであった。
「貴女については。まだだから」
「私はそれは」
「そこから先は言う必要はないわ」
「あっ」
 頭の覆いを取り現われた奇麗に切り揃えられた見事な金髪を払いのけてそこの仲にある耳を軽くかじった。そうして言葉を遮ってみせた。
「教えとかそういった詰まらないことはね」
「何て人・・・・・・」
「その何て人にこれから弄ばれるのよ」 
 胸を揉む手を激しくさせる。するとシスターの声がさらに激しくなった。
「くっ、ふうっ・・・・・・」
「罪を犯したくないなんていうのは謝りよ」
 今度は誘惑の言葉を囁いてきた。これもまた計算のうちであった。
「清められるのが人ならば清められるようなことをしなければいけないのだから」
「どういうことですか、それは」
「言った通りよ」
 耳の中に舌を入れる。そうして舐め回しながら言葉を囁く。妖しい、赤い蛇を思わせる舌が穢れを知らぬ聖女の耳を侵していた。
 
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