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獣皮パーカー

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第四章

「思ってなかったよ」
「そうだろ」
「やっぱりあの人達も現代化してるとは思ってたよ」
「けれどそれでもか」
「こんな北極海が見える場所でもなんだな」
「そうさ、インターネットがつながっていてな」
 それでというのだ。
「あの人達も最新の情報を手に入れてるんだよ」
「昨日のカーディナルスの試合の結果も知ってるんだな」
「カルフォルニアの五つのチームの結果もな」
 アスカイネンは彼の故郷の州のチームを出した。
「全部ダイレクトで知ってるさ」
「そうなんだな」
「ネットがあるからな」
「テレビもあるしか」
「ああ、カーディナルスっていってもな」
 このチームでもというのだ。
「オジー=スミスが引退してるのも知ってるさ」
「俺あの選手好きだったんだよ」
 ミヒャエルの個人的な贔屓の選手だったというのだ。
「守備がよかったな」
「神懸かりだったな」
「あんなショートもう出ないだろうな」
「かもな、オジー=スミスは超人だった」
「最高のショートだったぜ」
「そのスミスの息子が歌ったことも知ってるさ」
 アスカイネンは笑ってこうも言った。
「俺達がこれから行く村の人達はな」
「そうか」
「ああ、まあとにかく行くからな」
「仕事にな」
 仕事といっても村で直接起こった事件ではない、連邦政府指定の指名手配犯がこの辺りに潜伏しているというので二人がじかに行ってその指名手配犯のことを話して情報提供の依頼といった捜査への協力を頼みに行くのだ。
 それで二人は村に来た、すると。
 その村は家々は現代風のもので確かに車等文明の利器もあった、だが。
 着ている服はだ、誰もがだった。
 丈の長い、そして厚い生地の表面は皮で裏は毛の拭くだった。ズボンも靴も同じで手にはそうした手袋がある。
 フードの裏も当然厚い毛に覆われている。ミヒャエル達が着ている服の合成の皮ではなく天然の皮である。
 その服装を見てだ、ミヒャエルはアスカイネンに言った。
「イヌイットの人達の服か」
「ああ、俺達も似た様なデザインだけれどな」
「純粋な生きものの皮だな」
「獣皮パーカーだ」 
 アスカイネンはイヌイットの人達の服の名前も言った。
「それだ」
「そうだよな」
「いい服だな」
「いいっていうかな」
「驚いたか?」
「村の建物や設備は現代化しているのにな」
 それでもというのだ。
「けれど」
「服はか」
「昔のままなんだな」
「そうだな、あれはセイウチやアザラシの皮だな」
「この辺りの生きもののか」
「ああ、天然のな」
 まさにというのだ。
「そうした皮だよ」
「生きものの皮をそのまま使ってるんだな」
「肉は食ってな」
「キビヤとかにしてか」
「そうして食ってるんだよ」
 イヌイット古来の保存食だ、冷たい場所に長い時間置いて凍らせているものだ。そうして肉にいる寄生虫も冷気で殺すのだ。
「ホッキョクグマの肝臓以外はな」
「ああ、それは食えないよな」
 ミヒャエルもホッキョクグマの肉のことは知っていた。
「あの熊とかセイウチは肉に絶対に寄生虫がいてな」
「肝臓はな」
「ビタミンAが多過ぎてな」
「かえって毒になるからな」
「だからこっちの人は食わない」
「ビタミンも多過ぎると毒だからな」
 それ故にだ。 
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