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夢のような物語に全俺が泣いた

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ケイ・ウタル、一目惚れにつき

さて、ベルとパーティを組んでから4日目。
ベルがエイナさんと約束があると言うことでオフにすることになったその日の昼頃。
特にすることもないのでオラリオの大通をブラブラと歩いている。

「んー…暇だな。
何か面白いことでも落ちてないかなぁ…」

まあそんじょそこらに転がっていようものなら日常に飽きるのも否めない。

「あれ?貴方は確かベルさんの…」

「ん?あぁ、確か酒場の…」

「はい。シルと言います」

何時のまにやら酒場の前まで来ていたようだった。
あの日から一度も来ていなかったが、今日はベルを誘ってここで夕食も良いかもしれない。

「今日ってここは満員だったりするのかな?」

「今日ですか?夜はご来店する冒険者も少なくありませんが、予約していただけるのなら今からでも」

「あ、じゃあ2…3人で御願い出きるかな?」

「はい。承りました」

俺とベルとベルの主神で良いよな。

「じゃあ俺はもう少しブラブラしてくるから」

「ええ?もう行っちゃうんですか?
もう少しお話でもと思ったんですけど…」

そこから立ち去ろうとしたとき、上目遣いで俺を引き留めるシル嬢。
確実に演技入ってるな…。

「この後ご予定でもおありですか?」

「いや、別に無いけど…」

「あ、じゃあお手伝いとかどうですか?
お店の事も知れますし、お給料も期待できますよ?」

何故か話が飛躍した気がする。
しかし手伝いか…酒場だし、料理の錬度も上がるよな。
『英雄の趣味』も今はHだし、それなりに出来るだろ。

「給料は要らないけど、手伝うくらいなら構わないよ」

「本当ですか!?ミアお母さーん!臨時のお手伝いゲットです!」

まて、何だそのしてやったり感バリバリの言い方は!

「おや、誰かと思えばユウジの所の新人じゃないか。
あの男の者なら期待できそうだねぇ。頑張りな」

奥から出てきたいつぞやの女将さんがそう言った。

「そんなに期待されても困るんだけど…「シル、準備がまだ終わってません。
急いで取りかからないと間に合いませんよ」……」

更にそこへ現れたエルフの少女。

「…あ…お手伝いの方ですね。
今日はよろしく御願いします」

彼女は礼儀正しくお辞儀をする。
美しく、清らかに凛としていて…それでいて気品や振る舞いなどが一々眩しい。
金髪に青い瞳…天使を思わせるその表情。これは、これはまるで――――

「精一杯やらせていただきます!」

ぐわしっと効果音がつきそうなほどに彼女の手を握って言い放つ。
見れば驚いた様子で目を見開き、そそくさと店の中へと入っていってしまった。

「あ……しまったぁぁぁ!?俺は何て事を!!!」

「アンタ…見かけによらず(うぶ)なんだねぇ」

「わぁ…これは面白い予感が…!」

三者三様にリアクションがとられたその日の午後だった。









「あんた…やるねぇ…」

作業を初めての1時間程が経過した。
俺がやったことと言えば店内清掃、仕込みや不足した調味料の追加等である。
ミアさんは俺の作業ペースに驚いたのか、そう言ってくれた。

「と、どうも…あははは…」

スキルのお陰ですとは口が避けても言えない。
とは言えどうやら予定よりも早くなってしまったようだ。

「他に何かやることはありますか?」

「そうさね…なら買い出しに行ってきてくれるかい?リューと一緒に」

「ああ、お安いごよ…う?」

ん?今なんて言った?
リューと一緒に…?リューってさっきのビューティフルエルフさんの名前じゃなかっただろうか?

「あの…だ、誰と…?」

「リューだよ。
リュー!買い出しに行ってきてくれるかい!
ケイを連れていくんだよ!」

「あ、いやちょ!」

「……了解しました」

……何だろうか今の間は…もしかして嫌われている?
そうでなくても苦手意識とか?…ははっ…オワタ……。

「よ、よろしく御願いします」

「…はい。行きましょうか」

こ、こうなったらこの買い物で名誉返上(錯乱)するしかない!

こうして俺はリューさんと一緒に買い出しに出掛けるのだった。





「「…」」






「「………」」






「「……………………………」」




き ま ず い!
ヤバイよこれ!!さっきからお互いに黙々と買いものするだけで会話の一つも出やしねぇ!
きまずい何て物じゃねぇ、さっきから心臓がバクバクして可笑しくなりそうだ!

「……これで買い物は終了です。帰りましょう」

「あ、はい」

あ、終わった…。
とうとう信用回復も出来ないままに買い物が終了してしまった…。
な、ならせめてこれだけでも…!

「に、荷物持ちますよ!
着いてきて何も持ってないのは男としてもどうかと思うので!」

「…では、お願いします」

や、やった!会話できたよ!
これでもう思い残すことないかも!

辺りは既に日が傾き、夕日が辺りを照らしている。
近道と言うことで路地裏を通りながら帰宅する。

「…本来」

「…え?」

道中、静かに切り出された言葉に一瞬ドキッとしてしまうが、黙って聞くことを選択。
リューさんは続ける。

「本来、誇り高いエルフは心を許した者以外の、他者との肌の接触を拒みます。
それはずっと昔から続いてきた風習(もの)で、今でもきっと続いているでしょう」

「肌の接触……あ、朝の!
すみません!その…いきなり目の前に可憐な人が現れて…びっくりしたと言うかなんと言うか…」

「…………別に咎める事はしません。
ですから今後、私以外のエルフに会うことがあれば気を付けるように。
最悪その場で激情する者も居るかもしれませんから」

「すみません…気を付けます」

そうか…エルフの人は肌の接触を嫌うのか。
まぁ初対面で手を握られたら誰だって物申したくなるよな…。
でも…どうせなら心許せる間柄になりたいな…。

「待てコラァ!」

「?」「…」

ふと、路地裏の奥から怒鳴り声が聞こえてきた。

「行ってみましょう」

「了解です」

俺とリューさんは声のした方へと向かっていった。
 
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