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物の怪

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4部分:第四章


第四章

 その彼等を見ながらだ。文衛門は言うのである。
「じゃあこのまま使っていいな」
「ああ、僕達をこのまま使うんだ」
「そうするんだ」
「それは嫌か?」  
 あらためて彼等に問うてもみせた、
「使われるのは嫌か?」
「いやいや、僕達は使われる為に生まれたからね」
「そうそう、僕は墨を入れられる為に」 
 硯が言ってきた。
「作られたし」
「僕は爪を切る為」
「僕は毛を抜く為に」
 今度は爪切りと毛抜きだった。彼等も同じく手足と顔がある。
「その為に生まれたんだよ」
「使ってもらう為にね」
「使われない方が困るんだよ」
 傘もそれを言う。
「驚かすのは好きだけれどさ。それ以上に使われないと困るんだよ」
「だからね。それはね」
「使ってもらわないと」
 彼等もそれぞれ言うのであった。
「だから使われないとね」
「困るんだけれど」
「よし、それならだ」
 文衛門は袖の中で腕を組みながら話を聞き続けている。そうしてだった。
「御前等、このまま使わせてもらうぞ」
「それでいいんだね」
「言ったよね」
「このままここにいるよ」
「そして使ってもらうよ」
「よし、決まりだな」
 また言う文衛門だった。
「それでな。決まったな」
「ちょっとあんた」
 横からお桂が言ってきた。困惑した顔である。
「いいの?相手は物の怪だよ」
「そうだな」
「そうだなって」
「しかし使えるからな」
 それを言うのである。
「これまで通りな。それに悪い連中じゃないしな」
「それはね」
 そのことにはお桂も頷くことができた。
「確かにそうね。悪い連中じゃないね」
「僕達だって楽しくやりたいだけだしね」
「そうそう、明るく楽しくね」
「そうしていたいだけだからね」
 物の怪達はここでも言う。そうしてだった。
 文衛門は今度は女房に対して言うのである。
「いいか?これでな」
「そうだね。悪ささえしなかったらいいよ」
 お桂もここで折れた。
「それだったらね」
「よし、いいんだな」
「ええ、いいよ」
 納得した顔だった。ただ諦めも幾分か入っている。
「それならね」
「あとはあいつ等が寺子屋から帰って来たらな」
「また話すんだね」
「ああ。とにかく話は決まった」
 それはだというのだ。また物の怪達に顔を向けてだ。
「よかったな、これでな」
「よし、楽しくやらせてもらうよ」
「これからね」 
 こうして彼等と物の怪達の生活がはじまった。それは。
 お桂がお茶を飲みたいと言うとだ。自然に湯飲みと茶道具が来た。しかもその中にはもう美味いお茶が入っていた。
「はい、くだりもののお茶だよ」
「飲んで下さいね」
「いつも早いね」
 それを聞いて笑顔で話すお桂だった。お茶を飲んでだ。また言うのだった。
「お茶も美味いね」
「有り難う」
「そんなに美味いんだ」
「ああ、年季があるよ」
 飲みながら笑顔での言葉だった。
 
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