| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

科学と魔術の輪廻転生

作者:ともとも
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

早速プロブレム。

 翌日。
 俺は七時くらいに起床すると、とてとてとアイリ先生の所へと向かう。
 寝室にはいなかった。
 二階を隈なく探してみるが、いない。
 そして一階を探した。
 影も形もない。
 どうなっているんだ?
 ……もしかして、彼女は俺に愛想を尽かして……?
 いや、この言い方はダメだ。
 まるでカレカノっぽい言い方だしな。
 とにかく、家の中に彼女の姿は無い。

「これは、もしかしなくても外か……」

 俺は額に手を当てて考え、結論を独り言として出した。
 家の中にいないのなら、殆どの確率で外にいるだろう。
 ……そういえば、庭から何か、呟くような声が聞こえる。
 ゴニョゴニョと。
 ……アイリ先生だな。
 少し驚かしてみるか。

 こうして、俺は下心満載で庭に向か……おうとした。
 その瞬間。

 バッガアアアン!!

 聞こえてきたのは鼓膜が破れんばかりの爆発音。
 発生源は、庭だ。
 さっきからゴニョゴニョ聞こえて来た、庭だ。
 アイリ先生。
 俺の脳は暫し思考を停止していたが、数秒で我に帰る。
 ……まさか、魔物が襲って来たとか、無いだろうな……?
 そうだ。
 もし、アイリ先生が襲われていたら、助けなきゃな。
 最も、アイリ先生が苦戦するような相手に、俺が敵うはずも無いか?
 不吉な予感を感じ、俺は走り出した。

「……何ですか……?
 これは……?」

 家のドアを開けた俺が目にしたのは、それはもう凄惨たる有様であった。
 昨日は確かに存在していた倉庫が、粉々に粉砕されていたのだ。
 中に入っていたであろう、武器や日常品の残骸が、所々にある水溜りに浮かんでいる。
 倉庫を破壊した原因であろう水は、庭には殆ど残っていなかった。
 精々水溜りが其処彼処にあるくらいだ。
 そして、突筆すべきは庭の中央付近にいる人物。
 そう、人物。
 明るい茶髪にその雰囲気に合った茶色い瞳。
 幼さを感じさせる顔。
 アイリ先生だった。
 彼女はいつものローブ姿に、杖を持っていた。
 先端に大きな青色の魔石が付いていて、豪華な装飾が彫られている。
 傍目から見ても、高価な杖だということが分かる。
 昨日は使っていなかったはずだ。
 この状況を引き起こしたらしい彼女は、端的に言えばアワアワしていた。

「す、すみません。
 杖を持って魔術を使ったのが久し振り過ぎて、こんなことになってしまいました」

 思わず転けそうになった。
 詳しく話を聞くと、俺に褒められたことで少し調子に乗って、久し振りに愛杖を使って魔術を使ってしまったらしい。
 その時制御を誤り、こんなことになってしまったらしい。
 ……どれだけ強い魔術を使えば、倉庫を木っ端微塵に出来るのだろうか。
 ドロポンでも使ったのか?
 ちなみに使った魔術を聞くと、彼女は一言、『水球(ウォーターボール)』と答えた。
 何だと。
 昨日使ったのと同じ魔術だ。
 じゃあ、昨日と威力が違い過ぎるのは何故だろう。
 最初見た時は茂みを揺らすだけに留まったのに、今回は倉庫を粉々だ。
 どう考えても、同じ魔術には見えない。
 そのことを聞いてみた。
 彼女は顔面蒼白のままこたえた。

「杖の力もありますし、私自身が操作を誤ったのもあります。
 間違えて魔力を少々込め過ぎてしまいました」

 ……何だろう。
 何となく、アイリ先生の態度が、冷たい気がする。
 言葉の端々に、硬い物が混ざっている、みたいな。
 気のせいか?

 いや、それよりも、この状況。
 杖を持って倉庫に向けて『水球(ウォーターボール)』放ち。
 魔力操作をミスって倉庫を破砕。
 これは本当に、ドジで済まされるのだろうか。
 というか、今大切なのは、この惨事を引き起こした彼女を、両親が許してくれるのだろうか。
 そこだ。
 昨日会ったばかりの少女が、家の物をぶっ壊したのだ。
 許されるのだろうか。
 最悪解雇だ。
 俺的に彼女には出来るだけここにいて欲しいが、時間の問題かもしれない。
 多分昼頃には家族会議が開かれることだろう。
 俺は静かに溜息を吐いた。
 でも俺は、どんなことがあっても彼女を弁護すると誓おう。

 ────

 急遽、緊急家族会議が開かれることになった。
 メンバーは四人。
 父さん、母さん、俺、そしてアイリ先生である。
 皆は客間に集められた。
 議題はもちろん、朝の事件について、だ。

「これから、第二回家族会議を開こうと思う。
 司会進行は、このオレ、ラインが務める」

 司会は父さん、らしい。
 というか、二回目なのか。
 第一回は俺が産まれる前にしたんだろうな。
 いや、それはともかく。
 父さんは続ける。

「さて、今朝の出来事についてだが、何が起きたのか具体的に教えてくれないか?」

 彼は柔らかい態度で接してくれている。
 まだ許容範囲なのだろうか。
 いや、油断は禁物だ。
 顔が少し険しい気がした。

 俺とアイリ先生は、代わる代わる朝のことについて話した。
 それを黙ったまま聞く父さん母さん。
 少しは反応してくれよ。
 話し終わった後、彼女は最後にこう付け加えた。

「私は、このことでどんな処遇になったとしても、仕方ないと思っています。
 むしろ、こんなことをしてお咎め無しだと、私が納得出来ません。
 私は、雇われている立場なのに、それをちゃんと弁えずに雇い主の物を破壊したのです。
 もし私が逆の立場なら、許しません。
 ……解雇も、辞さないと思っています」

 そこで、彼女は視線を落とした。
 テーブルの上に一つ、影が出来た。

「……お願いします。
 どうか、私を解雇してください。
 解雇されれば、私は速やかにこの村を去ろうと考えています。
 もちろん、倉庫、そして中にあった日常用品の類も、全て弁償しますので。
 昨日今日で出て行く形にはなってしまいましたが、今まで迷惑をお掛けしました。
 そして、この度は……」

 彼女は顔を上げ、ラインの方に向き直った。

「本当に、申し訳ございませんでした」

 そんな様子を見て、俺の心は疼いた。
 アイリ先生に、出て行って欲しくないのだ。
 だが、その思いはアイリ先生の瞳を見た途端、喉の奥で押し潰された。

 覚悟。
 彼女は、覚悟をしていた。
 どんな判決が下されても、それを文句一つ言わずに受け入れる、その覚悟が。
 その瞳に、俺の安易な思いが立ち入る隙は無かった。
 そう。
 ここで何もお咎めなしで終わったとしても、彼女自身が納得しないのだ。
 彼女は、自分がそれ程までのことを仕出かしたと分かっている。
 罪悪感は、裁かれることでしか解消することは出来ない。
 例え俺が彼女を庇ったとしても、結果は変わらない。
 そんな気がした。

 俺は、迷っていた。
 自分の気持ちを、正直に言うべきか、否かを。
 だがそうした所で、果たしてアイリ先生は納得してくれるのだろうか。

 分からない。

 俺は、迷っていた。

 アイリ先生の言葉の後、客間には静寂が訪れていた。
 父さんも、母さんも、何も言わない。
 何も言わず、ただただそこに鎮座していた。
 その顔色は俺には、ひたすらに重く見えた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧