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燃えよバレンタイン

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第七章


第七章

 その面は見事に決まった。まるでモノクロの無声映画の如くに。静かに、だが確実に決まった。審判を務めている門下生が言った。
「一本!」
「やった・・・・・・」
 雅と交差してからだ。猛は言った。
「やっと、雅から一本取ったんだ」
 このことが何よりも嬉しかった。腹を括った介があったと思った。そしてここで道場の稽古が終わった。稽古の後の黙想と礼が終わってからだ。
 雅はだ。面と小手を外してまだ胴と垂れは着けているその姿で猛の前に来てだ。こう告げるのだった。
「今夜ね」
「何かあるの?」
「お風呂入って部屋でいて」
 こう彼に告げるのだった。
「猛の部屋に」
「僕の部屋って?」
「話したいことがあるから」
 静かな口調で彼に話してきていた。
「だから。いいわね」
「そりゃ稽古の後だしお風呂に入るし」
 猛は当然といった口調で雅に返した。
「僕の部屋にいるのは当たり前じゃないかな」
「私もお風呂に入ってすぐに行くから」
 実は二人の家は隣同士だ。親同士が兄妹の関係で自然とそうなったのだ。
「いいわね」
「断る選択肢は?」
「絶対に許さないから」
 有無を言わせぬ口調であった。
「それはね」
「駄目なんだ」
「とにかくすぐに行くから」
 表情は冷静だが何処か焦っている感じの雅だった。
「待ってて」
「お風呂に入ってね」
「そう」
 こうしてだった。猛は風呂に入って寝巻きである青いジャージに着替えて自分の部屋で雅を待った。とりあえずテレビゲームをしていた。
「一体何なのかな」
 ゲームのコントローラーをいじりながら考えるのだった。やっているのはPSPのゲームだ。
「雅、かなり強引だったけれど」
 ゲームをしながら呟く。
「何なのかなあ。何するんだろ」
 全く見当がつかずぼんやりとゲームをしていた。するとだった。
 扉からだ。ノックする音が聞こえてきた。
 その音でだ。彼はすぐにわかった。だが扉の方に顔を向けて告げた。これは礼儀であった。
「はい?」
「御免なさい」
 雅の声だった。まずはこう言ってきたのだ。
「入っていいかしら」
「うん、いいよ」 
 自分から言ってきたのにどうも他人行儀だと思いながらもだ。猛は彼女の言葉を受け入れた。そうするとであった。
 扉が開いてだ。廊下の灯りと一緒に雅が入って来た。見ると。
 髪型はいつもの長い黒髪を後ろで束ねたものだ。しかしだった。
 服装はだ。いつもの学校の制服でも剣道着でも雅が普段よく着ているズボンでもロングスカートでもなかった。それは。
「えっ、何でなの!?」
「何でなのって」
「だから何でなんだよその格好」
 こう雅に言うのだった。何と彼女は寝巻きだった。
 淡い水色の日本の着物の寝巻きだ。腰には紺色の帯がある。雅は寝る時はそうした服なのである。これは子供の頃からだ。
 猛は子供の頃よく雅と一緒に同じ布団で寝た。だからこのことは知っていた。しかしなのだった。今は事情が違っていたのだ。
「ええと、その格好で家まで」
「来たわ」
「そりゃ家はお隣同士だけれど」
「まずかったかしら」
「いや、もう夜だし」
 部屋に入って来る雅に戸惑いながら話していく。
「誰もいないし暗がりで見えないし」
「躊躇したけれどそれでも」
「その服でここまで来たんだ」
「そうなの」
「ううん、何か凄いね」
「どうしても来たかったから」
 こんなことも言ってきた雅だった。
「だから」
「どうしてもって?」
「あの」
 雅は既に完全に部屋の中に入っている。そのうえで後ろ手で扉を閉めてだ。猛に対してあらためて言ってきたのだった。
 
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