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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
  第一節 離叛 第二話 (通算第42話)

 三機の《リックディアス》が車座に並ぶ。『お肌の触れ合い会話』のために三機は互いに接触していた。ロベルト機だけが後ろ向きになり、周囲を警戒している。
 シャアは、〈グリプス〉への強行偵察の首尾を手短に話した後、二人に現状の確認した。
「状況は?」
「新型です」
 ロベルトの返答は短く簡潔であった。
「機影は一機、その他に搬入されている機体が二機、こちらには三機かと。とりあえず、そちらに映像を回します」
「頼む」
 アポリーはロベルトの推測も付け加えて伝えつつ、件の映像を赤外線通信でデータを転送した。受信完了とともにシャアが素早く目を通す。その形状などから性能を推測させるにはデータ不足なのは明らかだ。
「……やはりな。コチラが本命だったか」
 シャアが〈グリプス〉で遭遇した機体にはナンバー表記がなかった。しかし、二人の撮影した映像には《03》の文字がはっきりと見てとれた。つまり、〈グリプス〉にいた機体は調整中の試作機であり、〈グリーンノア〉にいる機体が調整後の試作機ということになる。四機以上の《ガンダム》をティターンズが既に保有しており、実戦投入が可能だと看るべきだ。
 さらに、《ガンダム》の飛行訓練を〈グリーンノア〉でしているということは、シャアが見た〈グリプス〉の半分が開発と生産の拠点であり、隔壁の向こうは軍事演習場ではなかったということになる。まさにシャアの予感通りであった。
 結局、〈グリーンノア〉もティターンズの軍事拠点なのだ。サイド7が連邦政府直轄領であるのをいいことに、ティターンズどもが好き勝手している。スペースノイドからすれば赦されることではない。しかし、その事実をどう明らかにするのか。それが問題である。
「では……?」
「予定通り作戦を続行する。第一目標《ガンダム》の滷獲。滷獲が不可能な場合、第二目標として、できる限りの情報を持ち帰る」
 シャアの指示は明確だ。作戦はそのためのものであったし、ロベルトの意見を鑑みればスポンサーの意向だからということよりも、敵の戦力を分析するためにも必要である。ましてや新技術であるなら、なんとしても手に入れたかった。
(それにしても……)とシャアも思わないでもない。一年戦争でも《ガンダム》を襲い、今また《ガンダム》を襲おうとしている。因縁とはこういうものなのであろうか。これで《ガンダム》にアムロ・レイのようなニュータイプが搭乗していたら、神の悪戯などではなく、シャアにまとわりつく因果律としか思えない。サイド7という場所は、シャアの人生の転機に深く関わっている――いや、シャアからすれば関わり過ぎていた。
 三機の《リックディアス》は背部のマウントラックに吊らしたクレイバズーカ――ツィマッドとアナハイムが共同開発したジャイアント・バズの後継にあたる二○○ミリ無反動砲を構えた。アポリーを先頭に縦列隊形を組む。コロニーへ侵入するのだ。
「孔はギリギリでいい。コロニーにダメージが残らないようにしてくれ」
「敵の本拠地と言っても民間人がいますからね」
 軽口を叩いたアポリーの《リックディアス》から火閃が伸びた。クレイバズーカから発射された実弾がコロニーの外壁に孔を穿つ。爆炎が〈河〉を構成する特殊硬化ガラスの破片を煌めかせ、爆風が外に散っていった。コロニーから空気が噴出し始めたのだ。内部では警報が鳴り響いていることだろう。
 コロニーほどの巨大な構造物にとって、MSが通れるほどの孔が開くというのは、満水になった一・五リットルのペットボトルに針で孔を作ったようなものであり、水が少しずつ絶え間なく漏れるように、瞬時に空気がなくなってしまうというものではない。気圧差から、宇宙空間に様々なものが噴き出されはするが、戦艦でも激突して爆発しない限り、一気に噴出しはしない。タイヤのエアチューブから空気が漏れるのに似ていた。この程度であれば、人が住めない空気濃度になるまでには一週間はかかる。コロニー公社が補修を完了するまで二~三日であり、ウォールフィルムによる応急処置ならば一日も掛からない。
「行くぞ!」
「了解」
「諒解」
 二人の機体が編隊を崩さずに追従し、三機は侵入口からコロニー内部へくぐり抜けた。
 シャアの機体が先行する。アポリーとロベルトは追従しない。広く展開してシャアを囮にする作戦だった。シャアの機体はアポリーやロベルトの機体より目立つ。他の機体に邪魔されさえしなければ、《ガンダム》の滷獲など容易いことだ。アポリーとロベルトは守備隊のMSをシャアに近づけない役割を負っていた。
「機影、三。十二時!」
「続いて目標を確認。ザコは引き受けました」
 アポリーとロベルトが同時に牽制の弾幕を張る。頭部のハッチが開いてガトリング砲が露出し、火線を吐く。コロニー内部ではできるだけビームライフルもクレイバズーカも使いたく無かったのだ。
 メインカメラが火を吹く。《ジムⅡ》がやや後退した。MSにとってメインカメラは大事ではあるが、サブカメラや各種センサーが体の各所にあるため、操縦に支障があるほどではないが、格闘戦では不利になるからだ。 さらにロベルトがダミーを射出する。この近距離では牽制以外のなにものでもない。ダミーへ無造作に突っ込んだ《ジムⅡ》が爆発に巻き込まれる。バックパックを被弾し、失速して墜落していった。
「素人がっ」
 ダミーとはいえ爆薬が仕掛けられている可能性を考えずに飛行するのは愚かである。残るMSは《ジムⅡ》二機と《ガンダム》だけであった。 
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