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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
  第一節 離叛 第一話 (通算第41話)

 
前書き
グリプスへの強襲を敢行したシャア。そこに広がるのは建前上民生用コロニーであったにも関わらず軍事工廠となったコロニーの姿だった。ジオン公国がダークコロニーをそうしたように、歴史は繰り返すのか。

君は刻の涙を見る…… 

 
 コロニーの陰に二機のMSが取りついていた。アポリー・ベイとロベルト・フォスの《リックディアス》である。シャアと別れた後、作戦に従って〈グリーンノア〉に取り付いた二人は、ミラーの裏に隠れ、ピーピング・トムと呼ばれる有線式カメラを〈河〉のガラス越しに出し、コロニーを監視していた。《リックディアス》の手甲――マルチプルランチャーに繋がれた光学カメラはミノフスキー粒子撒布下であっても詳細な映像を結ぶ。
「こっちは普通のコロニーだな」
「やはりアチラか」
 二機は接触回線で通信している。コロニーとの相対速度は0。感覚としては静止しているのと変わらない。
 ピーピング・トムが映し出していたのは、何処にでもあるコロニーの情景であった。様々な場所を映像でウィンドウに出していると、ロベルトが空の変化に気付く。
「ん?」
「モビルスーツか?」
 ロベルト機の反応にアポリーがモニターに映る機影を探す。メインベイのメンテナンスハッチ付近に黒い機影が映っていた。
「見たこともないやつだ。新型かっ」
 違う角度からも確認した。最大望遠でも小さく映し出されたのは、肩に《03》と描かれた黒い《ガンダム》である。さらに、地上の倉庫らしき場所にも同型のMSが搬入されていくのが見えた。
 コロニーの空を滑空する《ガンダム》の姿に二人は驚嘆の念を抱く。あまりにも人型を真似しすぎていたからである。MSは人型でありながら兵器としての駆動から人型になりきれない部分がある。しかし、新しい《ガンダム》はその常識を覆していた。初代《ガンダム》のようなセミモノコック成形によるブロック構造とは原理的に異なる技術で造られているとしか考えられなかった。
「……連邦は新しいMS技術を開発したと見える」
 ロベルトが思わず洩らす。元来無口な質である彼が呟くほどの衝撃的であったのだ。ロボット工学を志していた彼には、その技術の凄さと研究者の執念、そして凡そジオンを排斥した連邦の――いやティターンズの硬直した意志が見えてしまったのだ。
 当時、MS開発においてアドバンテージを持っていたのは、やはりジオンである。大戦末期、連邦が《ガンダム》の開発に成功し、特にビームライフルの大量配備を行ったといっても、ジオンとて《ゲルググ》などのMS開発を成功させており、個々の性能を比較すれば、ジオン製のMSの方が上であった。連邦製MSが優っていたのは整備の汎用性だけであり、ソロモン戦、ア・バオア・クー戦に勝てたのは連邦のMSが優れていたからではなかった。
 戦後、連邦においてMS開発は盛んに行われていたが、多くは地上用のMSと《ジム》の発展後継機であった。最近になって新しい設計思想の機体が開発され始めていたが、量産されてはいない。唯一の例外が、『ジオンの宝』とさえ言われたエリオット・レム技術大佐の手による空戦型の可変MSで、既に量産が決定しており、連邦空軍に少数が配備されたという噂をジオン軍人なら知らぬ者はない。
「そうなのか?確かにすばしっこそうではあるが……」
「いや、コイツは今までのMSを一気に旧型化させかねん」
 今度はアポリーが息を飲む番だった。ロベルトと組んで以来、彼が饒舌であったことなどない。その彼がこうまで驚嘆の念を隠さないということは言っていることが事実である証拠である。
 エゥーゴが掴んでいた情報によれば、新型MSは未完成であり、試作機の段階ではなく、実験機の最終段階にあるとのことであった。
「ったく情報部はなにやってんだ!」
 アポリーの不満は至極真当ではあるが、実情は些かことなる。
 エゥーゴは独自組織ではないため、艦隊機能、基地機能しか持たない派遣された寄り合い所帯であり、独自に軍組織を持っていない。後方機能は派遣元の軍において行われていた。特務と情報、軍令、参謀機能の欠如は、深刻である。それを補うためにかなりの民間人を軍協力者として情報ネットワークを有機的に編成してはいた。また、反地球連邦政府運動組織を取り込んでもいる。つまり、特殊訓練された軍人が情報収集している訳ではないため、情報の精度にバラつきがあるのだ。ただし、アナハイムの関与によって軍上層部や政治関係の情報精度は非常に高かった。本来であれば技術関係の情報収集こそ強いはずのアナハイムであるが、ティターンズ台頭以後、地球至上主義者であるバスク・オムによって排斥されてしまい、技術者同士の横の繋がりもアテにはできなくなっていたのである。
「素人だからな」
 ロベルトは素っ気なく応えた。
 アポリーにも解ってはいる。しかし、戦争というものにとって、特に前線の兵士にとって情報というものが如何に大切かということを痛感していた。一年戦争は最終的に情報戦で負けたということなのだ。そしてザビ家内部の権力闘争で自滅した。辛うじて本国とグラナダにあった残存戦力が連邦の遠征艦隊を凌駕する規模であったため、終戦協定に漕ぎ着けたに過ぎない。
 二人とも今でこそジオン共和国に復帰しているがア・バオア・クー陥落後、シャアとはぐれ、グラナダに身を潜めている間、残党狩りの情報を必死に嗅ぎ付け、潜伏先を幾度変えたことか。
「いままではそれでよかったかも知れないがな、これからはそうは行かないぜ?」
「あぁ。その通りだ」
 ロベルトも大きく頷く。
 その時、二人の会話を警告音が遮った。
 光学センサーに同型機の反応がマークされたのだ。識別コードはクワトロ・バジーナとなっていた。その機体は『赤い彗星』らしからぬゆっくりとした――天体か宇宙屑のような移動速度でミノフスキー粒子濃度の高い所を縫いながら近づいてきた。
 作戦はここからが本番であった。 
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