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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第七十六話 誰が邪魔をしやがるのですか?!

この夜、フェザーン各所で発生したのはいくつかの区画における爆発事故であった。水資源が少ないフェザーンの貯水タンクが破損、大量の水があふれ出して市街地を洪水のごとく襲った。そして中心都市であるレオポルト・シティ市外と市内地域を結ぶ公共交通機関レール・ラインの一部区間の送電網のショート。さらにはエネルギー水素備蓄タンクの爆発が続き、市街数か所で交通事故が発生した。さらにはフェザーンの航路局までもが一部データにハッキングを受けてシステムがダウンするなど、各所に置いて混乱が発生した。それを人為的とみるか偶発的とみるか、この時点ではまだ誰もそれを判断できる材料を持ってはいない。

だが、これはまだ序の口で有った。異変を察知したフィオーナとミュラーが外に飛び出すと、物々しいサイレンがあたりに響き渡り、人々のどよめき、いや、騒乱の音が天高く上る炎のごとくフェザーンの市街地を駆け巡っていた。
「フィオーナ。これは・・・・暴動じゃないか。」
ミュラーが呆然とつぶやいたが、すぐに顔色を引き締めた。この瞬間二人のカップルは帝国軍大将と中将の間柄に戻ったのである。
「閣下、すぐに司令部に戻って警戒態勢を構築すべきだと思います。」
それにうなずき返しながら、フィオーナはミュラーに指令した。
「ミュラー提督。あなたは司令部にあって麾下の陸戦隊を指揮して司令部周辺の10ブロックの安全を図り、周辺の警戒態勢に当たってください。また高等弁務官府にも護衛部隊を派遣。帝国及びフェザーンには私から一報を入れます。装甲車をいくら使用しても構いません。帝国遠征軍総司令部はこれより第一級警戒態勢に入ります。」
「わかりました。閣下はどうなさるおつもりですか?」
「私は司令部にいます。こういう時は主将は動かない方が良いと教わりました。あなたに。」
かすかに微笑んだ上官が一瞬だけ年相応の女の子に戻ったのをミュラーは確認し、我知らず頬を上気させていた。だが、それも一瞬だった。二人はすぐに司令部に向けて駆け出したのである。


その司令部では既にルッツが各部隊に連携を取り、周りを固めつつあった。フロアには既に装甲服を着用した陸戦隊が待機し、幕僚たちは情報を収集すべくせわしげに端末を叩きあるいは駆け足でロビーを行きかっている。秩序を持っているが、どことなく騒然とした雰囲気が漂っていたのは、今回の騒動が突発的なものであったからに他ならない。幕僚に囲まれ指示を出していたルッツがロビーに入ってくる二人にいち早く気が付いた。
「おう、二人とも無事だったか。」
年長者らしく声をかけたルッツだったが、すぐに顔色を改めた。
「閣下。フェザーンの各所にて爆破事故が発生し、それが起因する形で各所に暴動が発生しております。既に陸戦隊は周辺警備につき、10ブロックにわたって守りを固めました。高等弁務官府にも護衛部隊を派遣したほうがよろしいかと思い、いつでも派遣できるよう待機させております。」
「ご苦労様です。」
フィオーナはすでにルッツがあらかた手配りを終わったことに驚きもし感謝もしていた。それはミュラーも同じであったらしく、丁寧にルッツに謝した。
「いや、閣下も卿も非番であったからな、詫びる必要などないさ。むしろこれほど早く戻ってきたことに俺の方が驚いているよ。」
フィオーナとミュラーは顔を見合わせて無言のうちにルッツの気づかいに感謝する視線を交わしあった。
「ありがとうございます。ルッツ提督。では、ここから先は私が指揮を引き継いでよろしいですか?」
「御意のままに。」
「ではルッツ提督は司令部の前面にあって陸戦隊を指揮して警戒態勢に当たってください。ミュラー提督は裏口の指揮をお願いします。護衛部隊は高等弁務官府に急行、警備をお願いします。私はここにあってまず帝国に状況を報告し、フェザーン及び自由惑星同盟の使節団と連絡を取り合います。」
「エリーセル大将閣下、暴動の鎮圧はせずによろしいのですか?フェザーンは自治領と言えど形式的には帝国領土ですが。」
ルッツが念を押すように尋ねた。
「確かに提督のおっしゃる通りです。ですがフェザーンの警備についてはフェザーンの責任においてこれを行うことが原則です。向こうも私たちが介入することを喜ばないと思います。ですけれども、これから私はフェザーン自治領主府に了解を取り、暴動鎮圧支援の申し出をするつもりです。暴動によって理不尽に人々が傷つけられるのを見過ごすことはできませんから。」
二人の提督がうなずくと、フィオーナは司令室のある階に行くためにエレヴェーターに歩を向けた。
「・・・あ、それと。」
フィオーナの足が止まり、二人の提督に美貌の顔を向けた。非常時であるからだろうか、普段のほんわりとした美貌が引き締まっていて別の美しさを体現している。
「万が一ですが、自由惑星同盟とわが軍が相対して争うようなことは絶対にあってはならない事です。正当防衛はともかく、こちらからの手出しは一切謹むように全軍に指令してください。」
『はっ!』
ミュラーもルッツも敬礼を施し、フロアに待機していた部下を呼び集めると、それぞれの部署に分かれて走っていった。



ティアナはこの時エア・ポートにあって艦艇を指揮して警戒態勢を構築している。ルグニカ・ウェーゼルもティアナとともに周辺を陸戦隊で固めていた。
「とんでもないことになったわね。」
ティアナは折から吹いてきた夜風にもめげず両腕を抱くようにして市街地をにらんでいた。エア・ポートに吹く夜風にはかすかにキナ臭いにおいが混じっていた。どこかの火災の煙と火が風に乗ってここまでやってきたらしい。
「どうなってるんでしょうか?」
ルグニカ・ウェーゼルが唖然とした様子でつぶやいた。以前イゼルローン要塞でティアナたちにケンカを吹っかけてきたこの若い女性は今や少将としてその喧嘩相手の下についている。

そのことについて以前ティアナが冗談交じりに「不快でないの?」と、尋ねたことがある。
「よしてください。もうあの時の事を思い出すのは恥ずかしいんですから。」
と、ルグニカが言ったのでそれ以上ティアナは言及しなかったのだった。

「偶然ではないでしょ。今回の捕虜交換を良く思わない人間が帝国、フェザーン、反徒共の分断を狙って起こした事件とみていいわ。」
「問題は誰がやったか、ですよ。」
ルグニカの指摘することは、ティアナも考えるところだった。可能性としては誰しもが該当する。自由惑星同盟の反和平派の仕業ならば、昨年の迎賓館襲撃の失敗を取り戻そうとするという動機がある。帝国においても反和平派がそのような事を仕掛ける可能性もある。ただ、これについてはブラウンシュヴァイク公ら貴族主流派も今回の捕虜交換を容認していることから、可能性はやや低いのではないかと思われた。そして、フェザーン。これについては地球教徒が背後についていることを転生者であるティアナは知っている。その地球教徒共が犯人であれば、捕虜交換にあたって一撃を加え、帝国、同盟双方に亀裂を生じさせることを狙いとするだろう。と、不意にティアナの脳裏にある考えが浮かんだ。
「これよ!!」
と、思わず声を上げたティアナにルグニカが「何ですか急に!?」と驚いたように身を引いた。きまり悪そうに咳払いをして謝ったティアナだったが、頭の中にはアレーナ並に今後のビジョンが渦巻いていたのである。
「いずれにしても、こちらも既に敷いた警戒態勢を取り続けるしかないわね。司令部が新たな指示を出すまではここでこうしているほかないわ。下手に動くのは考え物だもの。」
後のことは後の事、今は眼前の事態に集中しなくてはね。そう自分に言い聞かせたティアナがルグニカに話しかけた。既に警戒態勢を構築し陸戦隊を待機させている。司令部に連絡をしたが、フィオーナもミュラーも不在であったため、ティアナはルッツに状況を説明していた。
と、ティアナの端末が震動し司令部からの連絡を知らせてきた。ディスプレイ越しにフィオーナが写っていた。
「フィオ、無事だったわね。何が起こっているのかだいたい想像はつくけれど一応話を聞かせてくれる?」
フィオーナは手短に今掌握している状況を説明した後、
『状況はどう?』
「こちらも似たり寄ったりよ。警備体制は構築しているから心配しないで。宇宙艦隊の方はレイン・フェリルが面倒を見てくれているからそちらの方も心配いらないわ。」
『ありがとう。それで頼みがあるのだけれど。』
「頼み?いいわよ別に。どんなもの?」
すぐ横で「内容も聞かずに引き受けるんですか!?」とルグニカが驚いた顔をしたが「フィオの頼みなんだから断れるわけないでしょうが。」と一言の下に言ってのけた。
『エア・ポート周辺の治安維持に当たってほしいの。既に帝国とフェザーン自治領主府には連絡を取って承諾を得ているわ。あちらも市街地に起こった他の事件、暴動を鎮圧するのに手いっぱいなの。私たちとしてもこれ以上無用の犠牲が出るのは好ましくはないから。』
「了解よ。」
ティアナは通信を切ると、ルグニカを見た。彼女は心得たというようにうなずく。
「陸戦隊を出動させて、エア・ポート周辺の治安維持に当たります。」
敬礼をし、ルグニカは幕僚を呼び集めて装甲車の群れに歩いていった。「グズグズしない!」「部隊を集めて整列させる!」という彼女のにぎやかな叱責に一瞬フッと相好を崩したティアナは艦に戻った。ヘルヴォールを預かって指揮を執っているのだ。彼女としてはエア・ポートに臨時司令部を設け情報収集と衛星軌道付近にいる帝国軍艦隊を預かるレイン・フェリルとの連絡を密にとることが役目だと自覚していた。


他方――。


 自由惑星同盟側はこの突発事件については帝国軍同様警戒態勢を構築したが、あえて協力をしようとはしなかった。一つにはフェザーンが形式的には帝国の領土であるため、そこに介入することはかえって帝国を刺激することになるとの見方があったからである。少なくとも自由惑星同盟の政府首脳陣はそう判断し、国防委員長を通じて軍にそのように指令していた。また、いち早く司令部の守りを固め、艦隊に警戒態勢を呼びかけ、フェザーンの自由惑星同盟側に艦列を集結させて万が一に備えたのである。
 帝国軍の艦隊を預かるレイン・フェリルは早まろうとする部下たちを抑えたが、それから先の彼女がやったことは自由惑星同盟帝国双方で最も大胆な事だったかもしれない。彼女は、全艦隊の最前線に自身の艦を進めてにらみを利かせたのである。のちに、ラインハルトはレイン・フェリルの機転を賞して「卿は参謀としてだけではなく一流の武人としても胆力を備えているな。」と言ったのであった。
 むろん、この行動については、全軍を預かる将官としてやや軽率な面があったという者もいたが、彼女は気にしなかった。重要なのは批判や勝算ではなく、捕虜交換の際に自由惑星同盟との間に砲火を交えることがなかったという結果それのみだからである。



* * * * *
ベーネミュンデ侯爵夫人邸――。

一時、皇帝自らが釘を刺したことによって、またアンネローゼの下に通う頻度が下がったことによって、ベーネミュンデ侯爵夫人の機嫌は直ったのだが、それも長くは続かなかった。皇帝陛下がアンネローゼのもとに通い始めると、ベーネミュンデ侯爵夫人の機嫌は一気に急降下して顔に険が戻り、いつもの取り巻きが侯爵夫人の邸に集まりだしたのである。

ベーネミュンデ侯爵夫人のところに、奇妙な客人が尋ねてきたのは、この事件の直後だった。むろんオーディンにいるベーネミュンデ侯爵夫人らはまだ惑星フェザーンでテロが起こったことを知ってはいない。
ベルバッハ、シュライヤー少将、エルラッハ少将、ゴッドホルン子爵らいつもの取り巻きの前に、現れたフードを被った男はそれを外すと、さる貴族からの紹介状を指示して見せた。
「汝はド・ヴィリエ主教と申すのじゃな。」
蓮の葉ででも磨いたかのようなテカテカの丸坊主の精悍な男を前にして、ベーネミュンデ侯爵夫人は興味なさそうに名刺をテーブルの上に戻した。
「侯爵夫人、その肩書は少々古いものでして、間もなく大主教となります。」
一同はこの男をまるで異物か何かのように固唾をのんで見つめていた。かすかな嫌悪感と共に。宗教というのは冠婚葬祭の際にしか縁がない貴族連中や軍人にすれば、それを表に振りかざして歩く「地球教徒」とやらには何かしら得体の知れないものを感じる人間がいたとしても無理からぬことである。
「そのような事を申しにわざわざ妾の前に参ったのではあるまいな?」
「むろん、そのような事を申し上げに参ったのではありません。」
ド・ヴィリエは薄く笑みを浮かべた。
「侯爵夫人、僭越ながら一つお尋ね申し上げたきことがございます。アンネローゼとかいう皇帝陛下をたぶらかせ奉る女、それとその弟のミューゼル・・・いや、今はローエングラム伯爵という身分でしたかな?」
一瞬間をおいてみせたド・ヴィリエの視界には彼の思惑どおりの顔をしているベーネミュンデ侯爵夫人のすさまじい形相が映し出されていた。ド・ヴィリエはベーネミュンデ侯爵夫人の怒りの視線、居並ぶ者の、嫌悪、好奇、それらの視線を一身に浴びながら居間の中を闊歩しながら話をやめない。一歩ごとに自らの紡ぎだす言葉を、それこそ床にある分厚い絨毯の上に刻み付けようとでもいうように。
「この二人は国政を壟断し、かのリヒテンラーデ侯爵やブラウンシュヴァイク公爵でさえも手を焼いているという評判。」
不意に大主教はベーネミュンデ侯爵夫人に体ごとさっと振り返った。
「そのような二人に天誅を与えたいとはお思いになりませんか?」
「あの女・・・あの弟!!妾はこの世に生を受けてこの方、あのような汚らわしい者どもを見たことがない。あの者たちと同じ国にいるという事さえ屈辱なのじゃ。」
ベーネミュンデ侯爵夫人は拳を震わせていた。今ここにアンネローゼとラインハルトの頭でもあろうものなら、手近にある陶器を持ち上げてためらいなく振り下ろしているだろう。
「ごもっともです。」
ド・ヴィリエが頭を下げた。
「恐れながら我々が及ばずながら微力を捧げ、彼奴等の首を持参してご覧に入れましょう。」
「本当か!?」
ベーネミュンデ侯爵夫人が身を乗り出した。数々の暗殺が失敗して以来、そのような大言壮語を吐く輩は少なくなってしまったのだ。
地球(テラ)に誓いまして、必ず・・・。ですが、その代わりにいささか侯爵夫人にお骨折りいただきたいことがござります。」
「よいぞ。ただし、それはアンネローゼと弟の首をここに持ってきてからの事じゃ。」
「無論の事。」
「待て。シュザンナ。」
ゴッドホルン子爵がベーネミュンデ侯爵夫人を制した。
「要求を呑むのはこの男の求めている者を聞いてからだ。無体な要求をかけるのであれば、いかにグリューネワルト伯爵夫人とローエングラム伯の首を対価にしたところでいささか価値が違いすぎるというものだ。」
「これはこれは、中々手厳しいですな。」
不満そうなベーネミュンデ侯爵夫人とは対照に、ド・ヴィリエは声を上げて笑った。
「ですがそのような心配は無用。私が欲するのはごくささやかな話です。」
固唾をのんで見守る出席者にド・ヴィリエは軽く両手を広げて見せながら、
「わが母なる地球の教えをいささかこの帝都に広めたく思っております。その御許可を正式にいただけるよう皇帝陛下にお話しいただければ、と。」
地球教の布教は非公式ながら帝国においても行われていたが、ド・ヴィリエは公認の宗教として認めてほしい旨を要求してきているのである。
「なんじゃ、そのようなことか、たやすいことじゃ。」
ベーネミュンデ侯爵夫人がすぐにうなずく。
「妾から陛下にお話し申し上げることにする。じゃが、忘れるな。それはアンネローゼとあの弟の首をここに持参してからの事じゃ。」
「承知いたしております。では、これにて・・・・。」
ド・ヴィリエは頭を下げ、室内を退出していった。
「あのような輩に任せておいてよいのですか?」
シュライヤー少将が声を上げた。気圧された様に何も言わなかったというのに、当の本人が退出したとたんにこれだ、とエルラッハ少将らはあきれ顔をしていた。
「手段は多い方がいい。」
エルラッハ少将は言った。
「それに、あの男、あのような大言を吐くからには何かしら策があるのだろう。失敗すれば切り捨てればよいだけの事だ。」
ベーネミュンデ侯爵夫人はそれにうなずきを示した。
「それでよい。たとえどのような輩で有ろうともアンネローゼ、あの弟の首を持ってくればそれでよいのじゃ。」
ベーネミュンデ侯爵夫人が薄く笑ったが、その瞳にはぎらついた狂気のような色が宿っていた。

ベーネミュンデ侯爵夫人の居間を退出したド・ヴィリエはゆったりとしたローブのフードを被りなおすと、人気のない廊下を歩いていく。一度も振り返ろうとしなかった。
「あのような男が邸に来るとは、侯爵夫人は何を考えておられるのだろうか・・・。」
グレーザー医師がそっと物陰から男の後姿を見守りながらと息を吐いた。
「もはや手段を選んでおれなくなった、というところですかしらね。」
ヴァネッサが両腕で体を抱くようにしてやや離れたところからやはり男の後姿を見ている。



邸を後にしたド・ヴィリエは迎えに来ていた信徒と思しきフード姿の人間と共に地上車に乗り込んだ。車は直ぐに発進し、信徒は待ちきれない様子で尋ねた。迎えに来ていた信徒とは別に中にもう一人の信徒が乗り込んでいる。
「首尾は、いかがでございましたか?」
ド・ヴィリエは「フフフ」という含み笑いを漏らした。
「貴族連中というものは自らにとって都合のいいものの見方しかせぬ。その良い例を今しがた見てきたところだ。」
「すると・・・・。」
「我らの目的にあの女が一役買ってくれよう。今回の件はそのことのみを見ても十分に行う価値があるものだ。」
「しかし、本当に約束を守るのでしょうか?」
二人目の信徒が不安そうな声を出した。
「我々の目的は無害なものだからな。それに、古来より聖職者と貴族とは切っても切れない縁にあるというものだ。それを最大限利用させてもらう。」
ド・ヴィリエはそう言った後は口を結んで一言も話そうとしなかった。だが、彼の精悍な顔に浮かんでいる薄笑いは消えずに残ったままだったのである。



ランディール侯爵邸――。
■ アレーナ・フォン・ランディール
地球教が来た!?いきなりどうして!?なんで!?今まで全然こんなことなかったのに?!どうして今頃不意にぽっと出てきたの?


・・・な~んてね、そんないきなりなフラグがあるわけないじゃない。私がたきつけたんだから。ド・ヴィリエとかいう自分は天才児革命児とか思い込んでいるおっさんに裏道からちょちょっと遠回しに耳打ちしたら見事に引っかかってくれたわ。これが成功すれば、ベーネミュンデ侯爵夫人と地球教を一気につぶすことができるって寸法。ラインハルトとイルーナたちは立ち上げたばかりの元帥府の運営で当面忙しいんだもの、この間に帝都組で動ける私が引導を渡しちゃおうかなって思ったわけ。
もうそろそろしつこいのよね。一度皇帝陛下に掛け合って機会を与えたのにそれで満足しようとしないんだから、ホントに始末に負えないわ。皇帝陛下が振り向こうとしないのはもう自分に魅力がないってことなんだから、いい加減そこのところを正直に認めて敗北宣言してくれればいいのに。

・・・・無理か。ま、私が同じ立場でも納得はしないだろうし。それはわかっているけれど、いい加減ラインハルトやアンネローゼを狙うのやめてくんないかなって思うのよね。
「アレーナ・・・・。」
後ろで声がする。ちょっと遠慮気味の声。私がこの間ブチ切れたもんだからまだ爆弾扱うみたいにしている。はいはい、わかったわよ。私も少し悪かったから、いい加減その声はやめていつもの調子に戻ってくれないかな、ヴァリエ。そんなようなことをあっけらかんとしていってみたら、ようやくほっとしたみたいだった。
「ヴァリエ、機会到来よ。ラインハルト、キルヒアイス、そしてイルーナたちが何と言おうと地球教徒とベーネミュンデ侯爵夫人をこの機会に一気に潰すことにするわ。例の情報をリークする準備、できている?」
「できているわ。でもいいの?あまり短慮は禁物だと思うけれど・・・・。」
「構わないわ。ヴァリエ、私だって果断速攻、やるときはやるのよ。ついでに言えば汚れ仕事にドブ掃除も今のゴールデンバウム王朝にやらせることにするわ。」
他人の手を借りて地球教徒を掃除する。これで恨みはその掃除人に向けられることになるわけだものね。綺麗事とか汚い事とか言っていられるのは、あくまでショーを見ているだけしかできない観客だけなんだから。
 実を言うと、ティアナも同じような考えを持っているみたいで、イルーナと私、フィオーナに案を持ってきているの。まぁ悪くないんじゃないの。大筋はおんなじことを私も考えていたもの。

 後はベルンシュタイン、ブラウンシュヴァイク公、か。リッテンハイム侯爵と同じように、いずれは蹴りを付けなくちゃね。特にベルンシュタイン。どうあってもラインハルトを阻むというのなら・・・・私たちもあなたには容赦はしないわよ。
 
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