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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十四話 独立混成第十四聯隊の初陣(下)
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率的な運用法に置かれている。そうした観点から見るとこの戦いは騎兵砲を中心とした敵部隊と平射砲を主力とし、擲射砲を一個中隊編成に組み込んでいる自部隊の比較からすれば侮る事はないとしても、最善を尽くせば勝てる相手である――だが、その足の速さと攻撃衝力は、最初の一撃に成功すればこちらの火力を封殺する事も不可能ではない――要するに勝てるかどうかは天主のみぞ知る、か。
と内心で舌打ちをしながらも確認できるだけの敵を観察し、分析を行う。
――報告通り此方よりは数が多そうだな。こうしてみる限りじゃ胸甲騎兵が居ないのが数少ない慰めであるが――まったく、毎度毎度ご苦労な事だ、御丁寧に数を揃えやがって!

小さく呻き声をあげながら望遠鏡を下ろすと豊久は一気に冷えた臓物を無視して無理矢理にでも笑みを浮かべる。
「――やはり数が多いな、この隊形なら随分ともつかな?」
 口を引き結んだ情報幕僚の香川へ問いかける。
「はい――聯隊長殿。」
 張りつめた声で答える幕僚を豊久は監察課員の目で観る。
 ――善き哉 善き哉、足を震えさせていた北領での俺よりはシャンとしている。それにしっかりと敵を見る度胸があるのならば大丈夫さ。視界に入れれば後はその情報を活用する方法は散々叩き込まれているだろ?
自身が望んで呼びつけた幕僚であるからには豊久も相応の信頼を寄せている、問題はもう一人の方である。
「少尉、大丈夫かい?」
注意深く豊久は優しげな口調で問いかけるが――
「はい、聯隊長殿、自分は大丈夫です」
緊急時の為に聯隊長についている新品導術士の声は震え、青白い額に汗を浮かべている。それを蔑む権利は誰にもない、あると考える人間はよほど想像力のない人間か他者を非難する事で自身の優位に酔う愚か者だけだ。
 ――初陣がこれとはね、全く不運な少年だ。それに導術は集中力が大事だと聞いている、このままでは困るし後味も悪い。
「ふむ――そうだな、少尉これを覚えておきたまえ。
指揮官たるもの、危難の中にこそふてぶてしく笑え、駒州公が譜代の重臣たる馬堂家伝統の心得だ――そんな顔だと部下達も不安になるからな。笑うのも軍務の内だ」
 ――なんか俺が年を食ったみたいな言い草だなぁ――俺まだ二十七なのに。
と場違いな考えが浮かび、馬堂中佐は自分に呆れたように笑った。
「はい、聯隊長殿」
 ぎこちなく少年将校が笑う。
「そうそう、それでいい。無理にでも笑っていれば周りも少しは落ち着く。
そうなれば自然と自分も落ち着いてくるものだ。見栄でも笑うのは統率の基礎だよ」
そう云うと軍帽を目深にかぶり、豊久は笑みを深めた。
 ――まぁ新城みたいに捻くれた理由で笑えるほどアレじゃないからな、俺は。だからこそ将校は見栄で笑いましょう、ってね。



同日 午前第十一刻 捜索騎兵聯隊主力
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