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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十四話 独立混成第十四聯隊の初陣(下)
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皇紀五百六十八年七月十八日 午前第十刻  集成第三軍反攻前線北部 近衛総軍作戦境界付近 丘陵
独立混成第十四聯隊 聯隊本部


 さて――後世の歴史家・軍事史研究家が龍口湾攻防戦において口を揃えて語るに、“情報”による優位を〈皇国〉軍が活用することに成功した例の一つであった。
 馬堂中佐は貴族将校には珍しく最初期の頃から導術連絡を騎馬伝令と併用して戦況の把握に全力を注ぎ、今回もまた同様に布陣先を選別していた。
 主力を展開するこの丘陵は導術探索に有利であり、また物見遊山の客用に刈り込まれているがそこそこの林がふもとの一部を覆っていることから、騎兵を主力とする敵である事を踏まえると彼にとって最適の場所だったのである。

「ここまで別働隊は、勘づかれてはいないな」
 少々張り詰めた様子で聯隊長である馬堂中佐が尋ねる。
「はい、聯隊長殿。風下から回り込み、導術を使い、その上、例の迷彩を使っております。
これで気づかれたら鍛えた意味がありません。それはもはや剣虎兵ではありません」
剣虎兵幕僚である秋山大尉が唸るように応えた。

「頭数はこちら優勢だが、背面を晒すには多過ぎる敵。守りを固めており総力を挙げて食い破らないと危険――食いついてくれれば良いのだが」
 そう言いながら馬堂聯隊長は目蓋を軽く揉む。こうくればこう動く、そうした常識を一度、天狼で覆された身としては不安があるのだ。

「聯隊長殿、敵が動き出しました!
距離は約九里程です、此方に全隊が向かって居ます!
擲射砲の砲撃可能距離までおおよそ後、小半刻!」
 情報幕僚である香川大尉が導術兵からの報告を告げる。
「首席幕僚」
 ――少なくとも此方の定石に従ってくれている、少なくとも当面は。
その安堵からか、聯隊長はどこか気の抜けた声で問いかける。

「はい、聯隊長殿。すべて所定の計画通りに進行しています。
第一・第二大隊は方陣を完成させております。聯隊鉄虎大隊も敵部隊の捕捉に成功し、攻撃準備も間もなく完了するとのことです」
 大辺少佐が間髪を入れずに報告を行うと、馬堂中佐は頷き、自身と幕僚陣が生み出した策の補強を行うべく指示を飛ばす。
「念の為にもう一度、砲兵隊には砲を優先して叩くように伝達。向こうに撃たせないくらいのつもりでやれ。
導術が疲れているようだったら早めに交代させろ。第一・第二大隊には中隊ごとの連携をしっかりと管制する様に」



同日 午前第十一刻 小半刻前 
作戦境界線独立混成第十四聯隊 聯隊本部
聯隊長 馬堂豊久中佐


 望遠鏡越しに緑色の騎兵達と猟兵の整然とした戦列を睨みつけ、馬堂豊久中佐は鼻を鳴らす。
彼は中尉時代に砲兵専科学校で学んだ砲術屋であり、諸兵科連合部隊を指揮する際にも戦術の基幹は火力優位を得るための能
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