第一話 赤い転校生その十三
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「話してくれよ」
「いいのね」
「ああ、それでその吉野の狐ってのは」
「義経千本桜っていう歌舞伎の題目にも出ているの」
裕香は薊にもわかりやすい様にこう話した。
「義経さんが吉野に身を隠していた時の場面でね」
「成程ね、狐ねえ」
「それで義経さんもね」
「あの兄貴から逃れる為に隠れる様な場所だったんだな」
「とにかく凄い山奥だから」
身を隠すにはもってこいだったというのだ、裕香はこの奈良県の南部についてさらに話す。
「あと天武帝や後醍醐帝も」
「ああ、歴史の授業の話だよな」
「身を隠されたり逃れられたりする様な場所だから」
「南朝だよな」
「そう、あの朝廷もあったから」
室町時代初期の南北朝の対立だ、尚この芽は既に鎌倉時代からあり今もその影響が残っている複雑な問題だ。
「物凄い場所なのよ」
「山奥ってことか」
「奈良県ってね、山がもう見渡す限り連なってとか」
「おいおい、そんなにか」
「そうなの。緑の木がね」
「何か秘境みたいだな」
「冗談抜きに山の妖怪とかがいても不思議じゃない場所よ」
それが奈良県、特に南部である。
「北の方も山が多いけれど盆地だから」
「まだましなんだな」
「南は本当に山しかないから」
「それで裕香ちゃんは中学までそこにいたのか」
「そうなの」
そしてそこが嫌になってだったというのだ、神戸にあるこの八条学園に出て来てずっとここで暮らしているというのだ。
「もう戻る気はないわ」
「故郷でもか」
「そう、故郷でもね」
あまりにも不便だからというのだ。
「だってまだ五右衛門風呂とかあるし」
「その風呂まだあったんだな」
「ここのお風呂はすぐに沸くから」
女子寮の風呂、ここはというのだ。
「それもサウナもあってね」
「ああ、あそこな」
二人が今いる浴場からも見えるし入られる、実際に何人かの女子生徒が入っていてそこで気持ちよく汗をかいている。
「酒とか一発で抜けそうだな」
「薊ちゃんお酒飲むのね」
「好きだよ、結構さ」
ここでもにかっと笑って裕香に答えた。
「飲むのは」
「そうなのね、八条町は十五歳以上から飲んでもいいから」
「町の条例でだよな」
「そうよ。だから私達もね」
酒を飲めるというのだ。
「もう皆相当飲むから」
「女子寮でもか」
「寮長先生の許可が出れば飲めるわ」
「そうか、じゃあな」
「うん、お酒も飲んでね」
「楽しくやろうな」
二人で笑顔で話す、薊と裕香の仲は親密になりだしていた。
そしてだ、その中でだった。薊は赤いジャージになって自分の部屋に入る。するとそこに三年生と一年生がそれぞれ一人ずついた。
三年生の先輩がだ、薊にこう言って来た。
「昨日会ったけれど」
「あらためてだよな」
「
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