第一話 赤い転校生その十二
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「仕送りもしてくれるし」
「けれど裕香ちゃんがいなくなったら」
「その後は親戚の人が継いでくれるから」
大丈夫だというのだ、そのことは。
「住んでいる場所は皆親戚みたいなものだし」
「そういう場所もまだあるんだな」
薊は住んでいる場所にいる人間が全員親戚かそれに近い関係にあるという場所がまだ日本にあることにも驚いた。
「そうなんだな」
「そうなの、驚くでしょ」
「ああ、あたし確かに孤児院にいたけれどな」
それでもだった、薊の場合は。
「横須賀だったからな」
「横須賀は都会よね」
「海軍の街だよ」
港が出来てからその発展がはじまった街だ、横浜や川崎、鎌倉にも近く神奈川の中でも栄えている街である。
「自衛官の人もアメちゃんも多いよ」
「アメリカ軍ね」
「ああ、あたしもよくベースに行ってさ」
薊は楽しげな笑みを浮かべてそのうえで裕香に話した。
「日曜とかさ、バイキングもやってるんだよ」
「じゃあバイキングとかで」
「よく飲み食いしたぜ。あたしこう見えても食うからさ」
頭を洗いながらにかりとした笑顔で話す。
「有り難い場所だったよ、とはいっても孤児院も食うものも一杯あって困らなかったけれどな」
「八条グループの孤児院よね」
「そうだよ、学校もさ」
そこもだというのだ。
「地元でさ、勉強よりも拳法だったよ」
「何か楽しそうね」
「楽しかったよ、けれど裕香ちゃんの実家ってな」
「いい生活だったけれどね」
それでもだというのだ。
「やっぱり田舎が嫌になってたのよ」
「田舎がいいっていう人本当に多いけれどな」
「実際住んでみればわかるわ。本当に平家のね」
ここで歴史の話にもなる。
「隠れ里みたいな場所だったから」
「平家の?」
「奈良にもあるのよ」
「あれ西国の方じゃなかったのか」
「奈良に逃げていった平家の人もいたのよ」
このことはあまり知られていない、奈良県即ちかつての大和の国にも逃れていった平家の落ち武者達がいたのだ。
そうして彼等は山の中に隠れ住んだ、裕香はそのことを薊に話すのだ。
「それがね」
「えらく勉強になるわ」
「ううん、本当に知られてないことなのね」
「西の方にあるとばかり思ってたよ」
「奈良も西国になるわよ」
「それもそうか」
「それに山だからね」
隠れる場所も多いというのだ。
「吉野には義経さんが隠れていたこともあったし」
「狐の話だよな」
「そう、それね」
裕香はこう薊に答える。
「歌舞伎にもあるけれど」
「悪い、あたし歌舞伎とかはさ」
「知らないの?」
「ちょっとそういう芸術とかはさ」
困った、そして恥ずかしそうな苦笑いでの言葉だった。
「駄目なんだよ」
「そうなのね」
「ああ、文学とかもさ」
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