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アルジェのイタリア女
第一幕その三
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第一幕その三

 アルジェの港。活気溢れるこの港で今海賊達が積荷を卸していた。
「キリスト教徒から獲って来たのはどれだ?」
 そこにはハーリーも来ていた。彼は今回の略奪には参加していなかったが頭目としてこの場を仕切っているのである。周りいは荒くれ者達が集まっていた。
「そっちにありますよ」
 船の上から一人が下を指差す。そこにはかなりの積荷があった。
「おお、随分あるな」
「へい、大漁でした」
「そうだな。金もあって」
「奴隷もありますよ」
「よし、上出来だ」
 ハーリーはそれを聞いて会心の笑みを浮かべた。
「何処までもいいな」
「その中でも上玉が一人」
「ほう」
 ハーリーはそれを聞いてさらに機嫌をよくする。
「またそれはいいな」
「ムスタファ様も大喜びですね」
「さてな、いや」
 ここでリンドーロに嫁を探してやるといった話を思い出した。
「別にいいか」
「どうかしたんですかい?」
「いや、こっちの都合だ」
「そうですか」
 そんなやり取りをしながら歩いている。その中には小柄で黒い髪に大きな黒く丸い目、少しふっくらとした頬を持つ若い女がいた。擦れ違ったら振り返るような、そうした美しさと印象を持つ女であった。赤いスカートに緑の上着を着ている。靴は白であった。
「ついてないわね」
 彼女はふう、と溜息を吐き出して言った。
「海賊に捕まってこんなところに連れて来られて」
「危害を加えられないだけましだと思いあ、お嬢さん」
 海賊の一人が彼女にこう言ってきた。
「俺達海賊なんだぜ、わかってんのか」
「わかってるわよ」
 女も負けないと言い返す。
「悲しい運命、そして儚い恋ね」
「キリスト教徒共よりずっと優しいと思うけどな、俺達」
「そうだよな」
 海賊達は女の後ろで言い合う。実際にキリスト教徒の海賊よりもイスラム教徒の海賊の方が穏やかであったりする。それに殺し方も彼等はコーランにのっとる。キリスト教徒のように惨たらしく殺すわけではないのだ。
「どれもこれも全部成り行き任せ。恐ろしさも怖さも悲しみも全部忘れてしまいたいわ」
「だから危害は加えてないのに」
「俺達ってそんなにおっかないかな」
 海賊達の言葉は彼女の耳には入らない。彼女は今他のことをかんがえていたのである。
「リンドーロはどうしているかしら。イタリアで別れてそのまま。探しに来たら私が捕まって」
 ふう、とまた溜息をついた。
「神様の御加護があらんことを。そうすればきっと希望が」
「なあ娘さん」
 海賊達がまた声をかけてきた。
「イザベッラよ」
 彼女は海賊達に自分の名を言った。
「前にも言ったじゃない」
「じゃあイザベッラさんよ」
「何かしら」
「とりあえずあんた奴隷になるから」
「奴隷」

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